そして行われた青学対六角の練習試合。六角中へ青学が赴きなされたそれにて。
 ばらばらとコートに広がり準備をしている最中、英二はさりげなく(?)問題の人物へと近寄り、話し掛けていた。
 「なあ佐伯」
 「ん? どうした菊丸」
 「訊きたいんだけどさ・・・・・・」
 「? ああ」
 「不二の妹、って、お前知ってる?」
 『えええええええええええええ!!!!!!?????』











The Secret makes Woman Woman ?

〜4〜









 余程問う本人は思い詰めていたのか、必要以上のむしろ不必要なまでの大声での質問に、コート内に散らばっていた青学メンバーほぼ全員が大声を上げて振り向いた。
 「ホントっスか不二先輩妹いるって!!」
 「初めて聞いたんスけど!!」
 むやみに驚き問い詰める周りに、さすがに不二も引く。そしてそんな周りをどう思っているのか、佐伯はごく普通に首を傾げつつ答えた。
 「不二の妹・・・って、周ちゃんの事か? 裕太君は弟だし・・・・・・」
 『ええ!?』
 幼馴染あっさり肯定。
 余計ざわめく周りを指差し、今度は佐伯が不二に尋ねた。
 「どうしたんだ? コレ」
 「ああ、英二とかがこの間周に会ったらしくて、訊いてきたから妹だって言ったんだけどなかなか信じてもらえなくて」
 「・・・っていうか、初めて聞いたってヤツ多すぎないか?」
 「まあ言ってなかったからね。実際会わない以上紹介しても意味ないかなって」
 「お前かよ原因は・・・・・・。
  そりゃ確かに意味ないかもな。まず会わないだろうし。―――そういや菊丸とかってよく会ったな」
 「何でも跡部とデート中に見かけたらしいよ。ああ、あと手塚と越前が話したって。途中で跡部に妨害されたそうだけど」
 「うっわ〜。相変わらず過保護だな、跡部。というかそれじゃ周りも騒ぐか」
 いろいろと納得する佐伯を他所に、まだまだ混乱中の青学一同。余計な―――もとい新たなキーワードまで出てきたおかげで混乱は酷くなりこそすれ収まりそうにもない。
 そんな彼らを代表して、質問者当人がまとめる。
 「つまり、やっぱ不二には双子の妹がいてそれがあの跡部の彼女だ、と?」
 「ああ」
 幼馴染これまたあっさり肯定。
 結局収まらない騒ぎの中で、佐伯がぽつりと補足説明を加えた。
 「ついでに言うとその跡部に盗られた俺の初恋の子」
 「え? ホント?」
 唯一とりたてて騒ぐこともないため黙っていた当事者が尋ね返す。きょとんとこちらを見る碧い瞳を目を細めて見やり、
 「ああ」
 「でも、そんな話聞いた事なかったよ?」
 「まあそうはっきりしたのは引っ越す寸前だったし、結局言わずに跡部に渡しちゃったけどね。
  ―――ああ、ただし引っ越す前にアイツには念押しといたよ。『何かやりやがったらすぐに取り返しに行く』ってね。
  でも・・・・・・別れてないところからすると結構上手くやってるみたいだな。ま、アイツはアイツで外は切り離すけど内はとことん大切にする奴だしな。別れるとしたらその重さに耐えられなくなった時位かな?」
 『不二』を前にそんな事を言う。全て、正真正銘自分の気持ち。周を愛しているのは本当。跡部に任せたのも後悔はしていない。幸せそうな2人を見守るのは好きだ。これが自分たちに一番あったポジションだと思う。
 「・・・・・・・・・・・・そんな事、ないよ? 絶対」
 ぽそりと囁かれた一言。俯いて、唇を尖らせそう言う『彼』の顔はほんのり赤い。
 嬉しそうに頬を緩めて微笑み、佐伯は不二の頭をぽんぽんと叩いた。
 「さ、て、と。準備しよっか。みんななんか騒ぎ立てるばっかで全然進まないし」
 「・・・サエのせいだと思うけどな」







・     ・     ・     ・     ・








 倉庫へとボールを取りに行く。コートからは死角になる、その道すがら・・・・・・。
 「ん・・・・・・」
 周の甘い声が広がる。佐伯に優しく抱きしめられた腕の中で、さらに優しくキスされて。
 まったりと行われるキス。恋人同士の激しいものではなく、親愛なる者へと送る愛しさを込めたそれ。
 唇が離れ、顔が離れ、体が離れる。
 周の後ろで両手を組み、ゆるく拘束する。
 「ちょっと・・・、みんないるんだよ?」
 曖昧な束縛の中で、曖昧に拒絶してくる周。睨みつけつつ決して中から出ようとしない彼女の頬に軽く唇をつけ、耳元に囁きかける。
 「だから? いいじゃん別に」
 浮かべるは、剣呑な笑み。周の顔が本格的に険しくなってきたところで。
 「ははっ。冗談冗談。
  大丈夫だよ。みんなコートいるし、休日だから他の人来ないし」
 「なら、いいけど・・・・・・」
 言い、周が首に絡み付いてくる。久しぶりに会った甘え。特に最近は互いに全国を控え猛練習の最中。あっさり負けて暇などこぞの帝王と違い、自分たちはロクに会える時間も取れやしない。前回会った時は試合を控え、ほとんど話すら出来なかった。
 (後は、安心か・・・・・・)
 『周助[おとこ]』である事を選んだのは自分自身なのだし、それでもどちらかというと中性に近い立場を取ってきたおかげで別にそれ自体が辛いという事もないであろうが、少なくともこうして人に密着するのは『知らない相手』には出来ないことだ。英二本人は知らないだろうが、彼が抱きつく際、周が微妙に体をずらし勢いを逸らし、体型がバレないようにしているなどという、トリプルカウンター顔負けの神業的行為をさりげなくやっているからこそ2年強ずっとバレずに済んだのだ。他の相手もまた然り。
 と・・・
 「・・・・・・ん?」
 抱きついてくる彼女の体に違和感を覚え、佐伯は抱き返す手を止めた。
 肩にうずめていた顔を上げ首を傾げる周に、
 「前の試合のときも思ったんだけどさ、
  ―――周ちゃん、胸何かで押さえつけてる?」
 極めて平らな胸。中3にして身長
167cmという男子並みの伸びを見せる以上発育不良ともあまり思えない。
 (っていうか、これじゃ退化だろ・・・・・・?)
 以前このような事をやった時は、僅かだが確かに女性的な膨らみがあった。・・・・・・別にヤラシイ目で見ているのではなく、これだけべったり抱き付かれれば必然的にその感触も伝わるというだけだ。
 問う佐伯を暫し見、
 周は彼の首から手を離した。
 2・3歩後退り、自分の体を抱くように腕を組み。恥ずかしげにチラチラとこちらを窺い、
 言う。
 「サエってばやっらし〜♪」
 「違うから!」
 「この間景にもセクハラ発言されたし、この位の年齢の男子ってやっぱそういうことに興味あり?」
 「だから違うって言ってんだろ!?」
 自分の中で何か酷く大切なものを汚されていくような気がして、佐伯が全力で否定する。
 「じゃなくて! ただ・・・・・・!」
 弁論しかけ、
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もういい」
 「え〜」
 ・・・・・・どう言ったところで汚名が払拭されるどころかますますドロ沼にはまりそうな気がして、意見を取り下げた。
 「うん。してるよ、コレ」
 不満声から一転、周はにっこりと笑顔で―――ポロシャツを捲り上げた。
 普通ならそれこそ真っ赤になって視線を逸らす場面だろう。不二を本物の男だと思っている青学部員や生徒らですら『彼』の着替えシーンは直視できない。それを、しかも『女』だと知った上で佐伯は・・・・・・
 「へ〜、サラシかあ。随分古典的な手に走ったな」
 「意外と便利だよ? 途中で緩んだりもしないし」
 平然と頷いた上、あまつさえサラシに覆われた胸元を遠慮なく触る。
 「あ、ホントだ。全然緩まないや」
 「でしょ?」
 2人の間・・・・・・というか周にとってこの程度はただのスキンシップその1だ。以前リョーマに胸を触られ、極めてわざとらしい驚きしかしなかったのもそのため。ただし常日頃彼女を監視している跡部の恐ろしさを知った上でなおもこのように接するのは佐伯のみだが。
 ・・・・・・ちなみに千石が周『くん』と呼んだ本当の理由。周『ちゃん』と呼ぶと即座に佐伯の鉄拳(どちらかというと鉄脚か)が飛んでくるからだ。なお他の者はそもそもこの過保護2人の攻撃を避けるため、みんな素直に『不二』と呼ぶ。
 「でも、勿体無くないか?」
 「え? 何が?」
 「せっかくの体なんだし、ずっと押さえつけてたら本当に平らになりそうじゃん」
 言いながら再び周の腰を抱き、サラシに無理やりつくった隙間から先っぽのみを出させる。それに口を近づけようとして―――
 がし。
 「―――あ、やっぱいたんだ」
 「悪かったなあ、俺様がいて」
 「あれ? 景?」
 突如後ろ首を引かれ、振り返ることなく平然と言ってのける佐伯。そこには伸ばした手でジャージとポロシャツをまとめて掴み、引き攣り笑いを浮かべる跡部がいた。
 解放され、周が後ろを向く事もなくサラシを直し始める。さすがにこちらが代わりに視線を逸らし、佐伯は振り向きつつ跡部の手を振り払った。
 「わざわざ周ちゃんの見張りか? 本気で暇そうだなあ、氷帝は」
 「てめぇみてえなのがいつ手ぇ出すかわかんねーからなあ。しかも周は周でぼけぼけ警戒心0だしよ」
 「ええ〜。だって相手サエだよ? 別に警戒する必要なんてないじゃない」
 「そうだぞ。それに一番警戒すべき相手がいつもそばにいるんだから、周ちゃんの警戒心が落ちたところで文句は言えないだろ? なあ跡部
 「ああ? そりゃ俺のせいだとか言いてえのか?」
 「わざわざ確認されるまでもなくはっきりきっぱりそうだな。お前が周ちゃんに日怪しい教育を施すから周ちゃんがますますインランに―――」
 「なってねえよ!!」
 「―――あれ? 跡部」
 「よお跡部、珍しいじゃねえか」
 恐らくなかなか戻ってこないこちらを探しに来たのだろう。大石と黒羽が、跡部の怒声に反応して駆け寄ってくる。
 「どうしたんだ?」
 悪意なく尋ねられ、
 「ああ、別に大した事じゃねえよ。今度の氷帝[ウチ]との練習試合前にどこまで腕上げた見に来てやっただけだ。青学もいんなら丁度いいしな」
 淀みなく、ためらいもなく跡部が即答する。
 「敵情視察かよ。わざわざ氷帝の、しかも部長自ら?」
 「驕りを持たずそれだけの事をやるからきっと氷帝は強いんだろうなあ・・・」
 「なるほどな。それもそっか」
 そう、あっさり納得しコートへと引き返す2人。
 爽やかな後姿を見送り―――
 「跡部・・・・・・、お前も穢れたな」
 「うっせえ」







・     ・     ・     ・     ・








 というわけで跡部見学の元行われた練習試合。2人にしたのと同じ建前を全員の前でしたところ、さらにあっさりと納得されたのだ。バカばっかりの一同がちょっぴり眩しい。・・・・・・それはいいとして。
 そんな跡部の発言通り、実際にこの後氷帝は全国へ勝ち残った青学・六角、そして山吹の3校と練習試合を行う予定がある。氷帝の関東落ちが決定した途端、それら3校の奴ら(あえて名前は挙げないが)に『氷帝負けてヒマだから今が練習試合のチャンスだよ!』と拳を握り力説されたためであるのだが。
 なので跡部のこの言葉は実態さえ知らなければ受け入れられやすいだろう。しかも氷帝関東落ちのきっかけが不動峰に対する情報不足であった以上、このイイワケはむしろ美談(?)として哀れまれた。どこまで計算した上でのこの展開だか、哀れむ一同の後ろで笑いを噛み殺している首謀者2名を歪な笑顔で全身震わせ睨み付けてみたり。
 オープニングはそんな感じでごたごたがあったが、始まってしまえばごく普通の練習試合だ。しかも互いに何度も対戦した相手同士、何の問題もなく―――
 ―――終わらなかった。







・     ・     ・     ・     ・








 「ゲームセット! ウォンバイ青学不二! 7−6!」
 「ありがとうございましたv」
 「・・・・・・・・・・・・嫌味か?」
 「やだなあ、そんな事ないよv ねv」
 「説得力ないって。
  は〜。にしても不二にリベンジ出来る日はいつになるんだか・・・・・・」
 「全国では頑張ってv」
 「・・・・・・・・・・・・。そうだな」
 握手をし、コートを去る不二と佐伯。ネット越しに横並びになる2人の前にというか不二の前に、
 「にゃ〜不二〜〜v おめでと〜vv」
 ダッシュで英二が飛び込んできた。抱きつく英二を笑顔であしらう。これまた慣れた仕草。が、
 「痛・・・・・・」
 首に抱きつく英二の手。爪が少し伸びていたのか、さらさらの髪に引っかかった。
 そして―――
 ふぁさっ―――。
 「え・・・・・・?」
 「あ・・・・・・」
 止めていた、かつらが取れる。腰までばさりと髪が落ちてくる。
 「え・・・? ふ、不二・・・。あの、これとそれ・・・・・・」
 英二が自分の手に絡んだままのかつらといきなりロングヘアになった不二を目で指す。
 周りにもまた、沈黙が落ちる。
 しかしながら、不二が驚いたのは一瞬のことで。
 すぐにいつも通りの、そして若干テレ気味の笑みを浮かべる。
 「ああ、これ?
  ほら、さっき周の話したでしょ? 周、ずっと氷帝の寮にいるから帰ってこなくってさ、姉さんが遊び足りないからって無理矢理僕に髪伸ばせって言ってきたんだよね。
  さすがにこのまま外に出るのも恥ずかしいからかつら被ってたんだけど」
 にっこりしれっと並べる嘘八百。しかし中学生になって2年ちょい。伸ばそうと思えば(いや気力で伸びるものでもないが)それだけあれば肩から腰までは充分伸びる。しかも不二の姉:由美子といえば誰もが会ったのはごく少々でありながら、全員一致で『逆らえない人』と認識されていたりする。
 そんなこんなで・・・・・・
 「ああにゃるほど〜。不二大変だね〜」
 「じゃあ次から抱きつく時は気をつけないとな、英二」
 「む〜。わかってるって」
 こちらもまた、あっさり納得される。
 英二からかつらを返してもらい、端に行き手早くピンで留めていく。途中で近寄ってきた佐伯に、小声で告げる。
 「―――ピン、返してくれない?」
 「あら。こっちはあっさりバレた?」
 「そりゃ、この程度で取れる留め方はしてないからね」
 「なるほど」
 頷き、佐伯がハーフパンツのポケットからアメリカンピン数本を抜き出す。先ほど抱きつかれている間に、スリ並みの手際のよさで引き抜いたそれ。
 はい、と差し出す手にさらに一度外したピンを置き、
 「何やるつもりだったか知らないけど、景に怒られるのボクなんですけど」
 「悪い悪い。ちょっとは動揺しないかな〜って思って」
 主語を抜かした文章。だが正確に理解した周が、不満顔から一転、明るくなった。
 「で?」
 「気になる?」
 「そりゃもちろん」
 「なら残念。極めて普通だったね」
 「な〜んだ〜」
 「まあ、周ちゃんがちゃんとイイワケするってわかってたからじゃん? 信頼されてるね」
 「自分で『男になれ』とか言った以上、景が責任持ってアフターサービスもするべきじゃない? なんでボクばっか」
 「ははっ。それがイヤならさっさと戻って来いって意味じゃないのか?」
 「サエまでそういう事言うの?」
 本日一番の不満顔になる。丁度付け終わったかつらの上から頭をぽんぽんと叩き、
 「俺は特に言わないよ?
  引き戻すのがアイツの役割。前に押し出すのが俺の役割。周ちゃんはその間の好きなところを歩いてればいいんだよ」
 「ん・・・・・・」
 こくり、と頷く周。確認し、佐伯がさらに優しげな笑みを浮かべる。
 「―――不二〜! 終わった〜?」
 向こうからの呼びかけに、
 「ああ、終わったよ」
 不二は顔を上げ、佐伯の下をするりと抜けていった。
 遠ざかる不二を見送り、そしてフェンスの外でそんな自分達をずっと見ていた男へと、佐伯が呟いた。
 「ホラ」
 「あん?」
 「どんなに心配しても、飛び立っていっちゃうモンだよ」
 「・・・・・・だったら飛び立てねえように縛り付けるだけだ」
 「でもお前はしないだろ? しないから周ちゃんは飛び立っていけて、しないから周ちゃんは飛び立っていけない
 「・・・・・・・・・・・・。ワケわかんねえ」
 「ならいいよ」
 「なんだそりゃ?」
 「別に? お前に全部教える義理はない」
 「てめぇ・・・・・・!」
 「さって俺もみんなの応援いかないとな」
 「おいコラ!!」



―――












・     ・     ・     ・     ・


 4は予定通りサエの登場。そして『周』の存在がみんなに明らかになりました。では5はいよいよラスト。ついに不二の正体がバレる―――のか!?

2004.4.2526


 ―――そして地の文における不二の表記法。『不二周助』時が『不二』、『不二周』時が『周』となっています。今までは別々の場面でそうだったためまだマシだったのですが、今回同じ場面で使い分けているため恐ろしく読みづらいです。すみません。統一するとどうしても紛らわしいもので。