ごめんね。けどこのままじゃ嫌だったんだ。たとえそれで何が起ころうと・・・・・・
Focus
Act0.奸計
「またか・・・・・・」
自室にて、自分にと届けられた手紙を読みながら不二はそう呟いていた。所属する事務所ではなく、自宅にわざわざ届けられたそれの内容は、極めて簡潔であり―――そして陳腐なものであった。
<不二周助。『これ』をマスコミに渡して欲しくなければ次の大会出場を辞退する事>
別に珍しいことではない。実際この手のものは今まで何度か来た事がある。
今までは相手にしなかった―――だが今回は?
不二は手紙に同封された『これ』を見た。小さくため息が洩れる。
そのため息をかけるように、部屋にある子機を持ちなじみの番号を押した。
真夜中なのに、なぜか相手が出たのはコール音が始まってすぐだった。
『あ、不二〜。おっひさ〜♪』
「久し振りだね、英二。単刀直入で悪いんだけど、少し頼みたい事があるんだ」
『んにゃ? 不二が頼み事? 珍しいね。
―――さてはおチビに関してだな?』
あっさり自分の考えを見抜いてくる親友に、不二は苦笑した。
「さすがに鋭いね。実はちょっと英二にやってもらいたいことがあってね―――」
―――と、事情と計画を話してやる。面白いものには目がない彼だ。間違いなく『計画』に乗ってくるだろう。
案の定
『へえ〜! 面白そーじゃん。
―――あ、けどおチビには? おチビにはそれ教えるの?』
「リョーマ君に? ううん。教えないよ。英二以外には誰にも、ね」
『俺だけ?』
「そうしないとどこから情報が洩れるかわからないでしょ?」
『どこから・・・・・・って、マジでそんなにヤバイの?』
「さあ。まあとりあえずこの電話は大丈夫だと思うよ。乾に頼んでいろいろやってもらってるからね」
『う〜ん・・・。けどおチビには教えるべきじゃない? 怒るよ?』
「けど今言ったらそれこそ猛反対するでしょ?」
『まあ確かに・・・・・・。
―――けど後で何があっても知らにゃいよ、俺』
「そのくらいのデメリットは覚悟の上で、だよ。とりあえずこのまま放置しておくのは絶対嫌だからね」
『とか言って「周助とはもういたくない!」なんて言われたらどうするわけ?』
「英二・・・・・・」
不二の声色が変わる。
本気で怒っている合図。
『―――ゴメン』
「別にいいよ。それに『周助なんて大っ嫌い!!』ならいいかなvv?」
『にゃんで・・・・・・?』
「『嫌い』と『好き』って実は同じなんだよ。それだけ相手の事をよく見てるって意味ではね」
『そうかにゃ〜? 俺としては大石に「嫌い」なんて言われたらもう立ち直れないけどなぁ』
「まあ人それぞれだしね。
―――で、いいかな?」
「俺はいーけど・・・・・・どっちかって言うとその計画、乾向きじゃにゃい?」
「乾に頼もうかとも思ったんだけど・・・英二のほうが何かと便利そうだしね」
『にゃにそれ?』
「何でもないよ。それに―――乾じゃ見返りに何求められるかわからないし」
『俺には? 見返りナシ?』
「僕の試合のチケットあげるよ。それでデートでもして来なよ。いい口実でしょ?」
『そりゃ不二の試合ならね。けど不二の試合って、チケット手に入れんのメチャメチャ難しんじゃなかった?』
「日本の試合に関しては元から何枚かキープしてあるしね。
―――今回はちょっと来てくれそうに無いだろうし・・・」
(どう頑張っても試合までの仲直りは無理そうだしね)
苦笑が洩れる。今からやろうとしていることはつまりはそういう事だ。最悪―――先程の英二の『冗談』も的外れではなくなる。
『―――ねえ不二・・・』
「ん? 何?」
しんみりした英二の声に、笑顔のまま不二は眉をピクリと上げた。英二が不二の親友であるのと同じく、自分もまた英二の親友である。これから彼が話すことはいつもの冗談ではなく真剣な話なのだろうと、声の調子からすぐにわかった。
『見返りとかそういうの抜きでさ・・・・・・、
俺は―――俺たちはみんな不二とおチビに幸せになってもらいたいって思ってるよ。2人とも友達だから』
「うん・・・・・・。
ありがとう、英二」
『にゃv
じゃ、計画実行はいつから?』
「明日からかな? まあ正確にはこれからすぐ、だけど」
『おっけ〜♪
んじゃ、健闘を祈ってるよんv』
「その点はご心配なく」
『じゃ〜ね〜』
最後まで明るく切られた電話を机に置いて、今度は携帯を手に取った。
ただ1つの目的のためだけに存在するそれで、もしかしたら最後になるかもしれない番号を押す。
こちらも待つ事無く出てきた相手と短い会話をし、電話を切る。
もう一度、送られて来たものに視線を飛ばした。
手紙を片手で握り潰す。夜の闇に隠れてその顔はわからない。だが、声は酷く乾いたものだった。
「そろそろ・・・潮時、かな?」
呟き、ゴミとなった手紙を投げ捨て部屋を出る不二。
手紙が当たって机から落ちたもの。それは―――
―――夜の公園で、ベンチに座って抱き合う不二とリョーマの写真だった・・・。
ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ
あは。またやっちゃいました。連載モノ。いろいろ詰まってるのに・・・・・・。
というわけでこの話は2人の関係が世間一般にばれるまでの経緯です。まあその後の話がしっかりある以上結末は見え見えですが、とりあえずこんな事があって2人の絆は―――というかリョーマの不二不信はより深く・・・・・・ダメじゃん。それでも付き合ってるリョーマはいろんな意味で凄いなあ・・・・・・。
とりあえずこの話は全5編くらいを目標に・・・・・・すみません.実はまだ全然わかりません。最初と最後が決まってる割には途中が空白で。
なんか暗いですがこのシリーズは不二とリョーマのラブラブバカップル軌跡。なので最終的にはどう転んでもそうなります。では、できれば早めにあげられるように祈って・・・・・・(やっぱダメじゃん。祈る前にやれよ自分・・・)。
2002.12.14