俺は、俺とアンタ、2人がよければそれでいいと思ってた。ねえ、それじゃいけないの?
Focus
Act1.勃発
夜。日もすっかり暮れ落ち、蛍光灯の明かりが頼りく足元を照らす中、2つの影がゆっくりと道路を移動していった。
1件の家の前で、ぴたりと歩みを止めるそれら。
「着いたよ」
影の1つ、不二が首だけで後ろを振り向き、裾にしがみついていたものを見下ろした。恥ずかしいからと手を繋ぐのは嫌がっても利き手でこうやってしっかり掴まえててくれる―――そんな可愛らしい恋人に微笑み、もう一度促す。
「家、着いたよ。リョーマ君」
「あ・・・・・・」
その言葉にようやく自分が無意識に何をやっていたか気付いたか、2つ目の影、リョーマが慌てて掴んでいた裾を離した。
にっこりと微笑んでいる不二に、顔を赤くして俯く。
「うん・・・・・・」
それきり、会話が途切れる。
自分の家の門の前で、しかしながら一切中へ入ろうとしないリョーマ。
「明日は部活あるんでしょ?」
「うん・・・・・・」
「じゃあ早く帰って寝なきゃ。体力持たないよ?」
「うん・・・・・・」
頷くだけで、やはりリョーマは動こうとしなかった。
そんな彼にくす、と笑い、
「今日はこれだけだけど―――」
「?」
顔を上げるリョーマの頬に両手を添え、顔を近づけていく。
触れるだけのキス。ゆっくり開いた目で見上げるリョーマをしっかり見据え―――やはり不二は微笑んだ。
「大会までまだあるし、暫く日本にいるつもりだから―――
―――今度はもっとやろうねv」
「〜〜〜////!!」
「おやすみ。リョーマ君」
肩を押して門の前に立たせる。別れの挨拶は言わない。それが2人の間の暗黙の約束事。些細な事だけれど、それが積もり積って今の自分達がいるのだから。
「おやすみ、周助」
振り返りもせずリョーマが言う。赤い顔を隠すように帽子のつばを直す彼に、さらに声がかかった。
「―――また、ね」
なぜそんな事をわざわざ口にするのか、疑問に思わなかったでもないが、特に気にする事無くリョーマは引き戸を開けた・・・・・・。
ζ ζ ζ ζ ζ
次の日。
「ねーねー聞いて! 俺や〜っとあの新作ゲーム買っちゃったよ!!」
「マジっスか、英二先輩!!」
「ホントホント! でさ、明日部活ないっしょ? おチビも混ぜてこれからやんにゃい?」
「お、い〜っスね。
―――オイ越前! てことで今から俺ん家でゲームやろうぜ!」
部活後なにやら盛り上がる英二と桃の会話。ゲーム好きの彼らがこうして盛り上がるのはいつものことだ。そして部員の中ではなぜか―――理由はかなりはっきりしているが―――この『先輩方』に気に入られている自分がそれに誘われる事も。
(これから・・・・・・)
不二は大会に向けて練習がある。いくら日本にいるからといってそう毎日毎日は会えない。
「・・・・・・いいっスよ」
(それやってみたかったし)
こうして今日は3人で桃の家にお泊まりとなった。
ζ ζ ζ ζ ζ
「ふへ〜。終わった〜・・・」
「やった〜vv」
明け方6時頃。ようやく見れたEDテロップに3人が思い思い伸びをした。1人部屋かつテレビもゲーム機もあり騒いでもさしてうるさい事を言われないということで桃の家で一晩徹夜でやりつづけていたのだが、さすがに目がシバシバする。
「じゃあ・・・・・・寝ません・・・?」
特に部活で疲れていたリョーマがゴシゴシと目を擦りながら2人に言った。相当に眠いのだろう。言いながらも頭が右に左に揺れている。
「え!? ちょっと待て越前! お前ここで寝るつもりか!?」
「に゙ゃ〜!! タンマタンマ!!」
それを見てむやみやたらと焦る2人。それもその筈、無防備なリョーマと同じ部屋で寝たなどと不二にばれたら問答無用で瞬殺されかれない、というか瞬殺決定!
「起きろ〜!! おチビ〜〜〜!!!」
「眠い・・・・・・・・・・・・」
襟首を掴んでがくがくと振るも返ってくるのは絶望的な答えで。
「英二先輩! 客間運びましょう!! とりあえずそれで何とか言い訳を―――!!」
「おっしわかった!!」
どたばたと急いでゲーム機を片付ける。そして客間の準備をしようと部屋を出かけ―――
『え・・・・・・?』
ぴたりと2人して止まった。
寝ていた筈の(厳密にはその寸前の)リョーマが前を見ている。その視線を追うように2人が同じ方向に目をやる―――までもなく、声が流れた。
≪本日のスポーツ紙は全てトップが一致しました! なんとあのプロテニスプレイヤーの不二周助選手に熱愛が発覚しました! それも相手は年下、小中学生程度の少年です!! 本日未明各新聞社に匿名で送られてきたこの写真に、どの社も号外を出し、僅か数時間でこのスキャンダルは爆発的な勢いで広がり、不二選手のファンを中心に暴動が起こるほどの騒ぎになっています。現在各社及び各テレビ局ではこの報道が事実か否か、そしてこの少年は誰なのかを探っています。判明し次第、リアルタイムで放送していきます!≫
「嘘、だろ・・・・・・?」
「おチ・・・ビ・・・・・・?」
テレビ画面と、そしてそれを見ているのか目を見開いたまま動かないリョーマを交互に見やる。問題の写真―――それはリョーマの家の門前で、顔を近づける不二とリョーマの姿だった。夜のようだがアップで写された2人の顔は見間違えようもなく、今にも鼻が触れそうなほどに近付いた顔も、リョーマの頬に添えられた不二の細い手も、上を見上げ目元を赤くして瞳を閉じるリョーマも、そして浮かべられた不二の優しい笑みも、2人がこれから何をするのか、見る者に容易に想像させるものだった。
(これ・・・一昨日の・・・・・・)
一昨日の別れ際、駄々をこねる自分に不二がくれたキス。忘れるわけがない。
「周、助・・・・・・」
その名前だけが口から滑り落ち―――そしてリョーマの意識もまた闇へと滑り落ちていった・・・・・・。
ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ ζ
さ〜って久し振りに続き書きました。この後これを巡って一騒動、なワケですが――おかしいなあ、英二と裕太を活躍させるはずが気が付いたら桃ちゃんが一番オイシイところをかっさらっていきそうな予感が・・・・・・。
さて続き、あらすじで書いたとおりシリアス風味ですのでこれからどこどこドロ沼へ落っこちていきます。が、まあシリアス『風味』ですのでもちろん最終的には全て吹っ飛ばしてハッピーエンドになる(筈)ですので、出来れば最後まで見捨てずお付き合いいただけると嬉しいです・・・・・・。
2003.1.11