知らなかった。自分がこんなに他の人に想われていた事・・・・・・。






Focus


Act4.仲間




〜不二家の場合〜

 元レギュラー陣が、そしてリョーマが不二の居場所をつかめないのと同じ頃、ここ不二家でもまた不二の居場所がつかめずイライラする者がいた。
 「兄貴のヤロー、まったくどこいやがる・・・・・・!!」
 がしゃがしゃと乱雑に食器を洗いつつ、ぼやく裕太。現在彼がいるのは喫茶店の方ではなく、自宅の方である。この騒ぎのせいでとても店は開けそうにないと母・淑子と姉の由美子がそう判断したためだ。
 毎日押し寄せてくる報道陣にファン、そして野次馬。人が訪れる事は珍しくない。むしろ店を開いている以上普通なら逆にこの騒ぎを利用してお客を呼び込むべきなのだろう。が、
 (それとこれというのも兄貴が兄貴が兄貴が〜〜〜!!!)
 『すみません! 一言!!』
 『あなたはお兄さんの今回の騒動、どう思われましたか!?』
 『相手はまだ幼い少年と言うじゃありませんか!! ご家族の方は何も思わないんですか!?』
 『不二選手には元々そういった傾向があったんですか!?』
 手の平をひっくり返すようなその態度。まるで汚らわしいかのような言い草はなんだ?
 思わず怒鳴り散らし暴れ倒した結果、母と姉にこのまま店を開いてはその内怪我人が出かねないと判断された。
 (けど何だよあの言い方! そりゃ俺だって兄貴に越前紹介された時はビビったけど! てかどっちかって言うと笑顔で『恋人出来ちゃったv』なんて言ってくる兄貴の方にビビったけど!!)
 論点は思い切りずれているが、そんな事を含め2人のことをよく知っているからこそ何も知らないくせにぐちゃぐちゃ横槍を入れてくる奴らにむかっ腹が立つのだ。
 (何だよ! 男同士が付き合うのはそんなに悪りーことかよ! 人類の
1/2は同性だろが! 年齢!? たかが7歳、ンなもん6070のじじいになれば気になんねーだろーが!!)
 支離滅裂な論争でだんだん腹が立ってくる。裕太はスポンジを握る手に力を込め―――
 がしゃん。
 「あ・・・・・・」
 力を込めすぎた手からすっぽ抜けた皿が、シンクの中で砕け散った。そして
 スパァ―――ン!!
 「で!?」
 「あんたはこれで幾つ食器割ってんのよ!! あんたのおかげでもう食器足りなくなり始めてるんだからね!?」
 後ろから即座に由美子に突っ込まれる。ここ数日で恒例行事と化したこれに、淑子もあらあらと微笑む程度で片付けている。
 「あんたねえ。そんなにイライラしてるんだったら家に引っ込んでばっかいないで外にでも出てみたら?」
 「外・・・って、どこにだよ・・・・・・?」
 言うまでもないが家の周りは昼夜問わずマスコミなどがいる。家から直接車で出て行ける由美子ならともかく普通に出て行こうとすれば門を出た瞬間にマスコミに捕まる。
 「場所はどこでもいいけど・・・とりあえず誰かに情報もらったら?」
 「情報・・・・・・」
 「そう。周助がどこにいるのかももちろんだけど。あと越前君の事とかも気になるし」
 言われてふと気付く。あそこなら欲しい情報がごろごろ転がっているんじゃないだろうか。
 リョーマの在籍校にして兄・周助の母校。一番の親友の英二がいて情報集めのプロ(というかなんというか)の乾がいて更に関係としてはある意味家族よりも深い手塚がいて。
 あそこ―――青学ならば。
 「姉貴! 仕事行くんだろ? だったら俺も乗せてってくれ!」
 「良いけど―――どこに?」
 「青学!」
 短く答え、支度をしようとエプロンを毟り取る裕太に由美子が声をかけた。
 「けど珍しいわよね。周助がこんなに問題大きくするなんて」
 「・・・・・・あ?」
 世間話のようなノリに、裕太の反応が遅れた。
 その間にも由美子の話は続き―――
 「周助って小さい頃から要領のいい子だったでしょ? 問題は極力起こさないようにしてた」
 「・・・? 何が言いたいんだよ?」
 振り向き尋ねる裕太の前で、由美子は軽く肩を竦めるだけだった。細い肩の上で兄と同じく色素の薄い栗色の髪が揺れる。
 「さあ。ただの世間話よ」
 「何だよソレ?」
 「だからただの話。ただの――今回はいつもと違うんだなってだけの話よ」
 「・・・・・・・・・・・・」







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