3.このボールを取ったリョーマ君以外の人間に不幸が訪れますようにv
「ん?」
海堂の足元に、それが転がってくる。それ―――もちろんボール。
「ああ、越前が投げたやつか・・・」
渦中の2人は今だそれの取り合いをしている。2人の手の中で変形しそうなボールを見やり、海堂はそれを拾い上げた。とりあえず客席にゴミを散らかしてはいけない。そんな心理で。
―――拾ったボールは『当たり』だった。
「な・・・・・・!?」
「へ〜。こっちが当たりだったんだ」
書かれた―――むしろ描かれた意味不明の模様の羅列。なぜか赤インキで、どこをどう考えてもさっきの短時間で描いたのではないだろうそれに目を見開く海堂。その隣からひょいと覗き込んだ男が極めて普通の様子で頷いた。
隣にいた・・・・・・佐伯が。
「・・・ってなんでアンタここにいるんだ!!」
「え? 俺? いや別に。ただ丁度ヒマだったから来ただけだけど?
にしても周ちゃんこれってまた頑張ったなー」
「・・・つーか、コレなんなんスか・・・・・・?」
答えを期待していたわけではない。ただ口から出ただけだった。が、
「これ? 黒魔術の紋様だろ?」
「はあ!?」
あっさりと『答え』てくる佐伯。さらにじ〜っとボールを見て。
「さすがに何の術かはわからないけど〜・・・・・・ってなんだ。下に書いてあんじゃん」
「下・・・? どれが―――」
「ホラこれ」
確かにちょっと上の模様―――佐伯曰くの『黒魔術の紋様』―――とは違う感じのものが書かれていった。一見英語かなんかのようで・・・・・・
「読めないんスけど」
「まあ、ラテン語だしな。普通読めないよな」
「意味ないじゃないっスか」
「ちなみに<このボールを取ったリョーマ君以外の人間に不幸が訪れますようにv>って書いてあるけど?」
「・・・・・・読めるんスか?」
「ラテン語は周ちゃんと一緒にやってるからね。
ついでに黒魔術の出だし程度は一緒にやってた仲間として一応忠告しとくけど、まあ3日生き残ったら大丈夫じゃないかな? 周ちゃんのこの手の術は大抵効果3日だし」
「効果、とか出る時点で実際効くんスか・・・・・・」
これに関しては疑うべくもなさそうだったが。
佐伯は軽く肩を竦めるだけだった。
「効くといえば効く、偶然といえば偶然。まあ捉え方次第だね。
ちなみに越前に手を出しかけ周ちゃんの怒りを煽った千石は、3日間の間に車に5度引かれかけナンパは逆に騙されヤクザに捕まりかけ、逃げてる最中財布は落としかろうじてポケットに残っていた小銭でパチンコに挑んで見事擦ったそうだ」
「・・・・・・」
「まあ捉え方次第だね」
「いやあの他に捉え方ないんじゃ・・・」
あの『ラッキー千石』ですらそこまで不幸に陥れたのか・・・・・・!!!
真っ青になり、嫌な汗を掻く海堂。正面を向き直ると、
「そっか〜v 海堂が取ったんだ〜vv」
なぜだか、やったらと嬉しそうに不二が微笑んでいた。
「・・・・・・・・・・・・」
暫し息を吐き・・・・・・
「越前、コレ落としたぞ」
海堂は、今だにそれに気付かずニセのボールを巡り争う2人のうち、より小さい方の肩へと手をおいた・・・・・・。
―――vsリョーマ戦