4."Anniversary"に、本気の君と勝負がしたいな



 「む・・・・・・?」
 「って何拾ってるんだ手塚!!」
 前回の海堂と同じノリでボールを拾った手塚。
 大石の注意も持てる天然さで無視し、ボールに視線を落とす。ボールに、書いてある文章に。
 <
"Anniversary"に、本気の君と勝負がしたいな
 見下ろす。コートに立つはいつも通りの不二。
 (いや・・・・・・)
 僅かに軟らかい笑み。『もしもよろしければ、それにこたえていただけないでしょうか?』の台詞。そしてこのメッセージ。
 (『本気の君』だと・・・・・・?)
 リョーマならば不二と試合する際はいつも本気だ。試合最初と最後でまるでレベルが違うのがその証拠。本気でなければ試合中進化するなどあるわけがない。
 あえてそれを求めるならば・・・・・・
 「ふむ・・・・・・」
 手塚はバッグを抱え上げ、曖昧に頷いた。アメリカ出発直前、同じ台詞を言う不二と夜の学校で試合したのは確か5年前の今日―――正確には昨日だったか。
 存在しない『生まれた日[
Anniversary]』。それそのままに、自分のこの先の人生から彼の存在は消える筈だった。だからこそ、あの時は本気で挑んだ。後悔をしないためにも。
 (まさかついてくるとは思わなかったがな・・・・・・)
 彼と再会したのはアメリカ留学2日後。なぜ他の誰よりも彼と最初に会うのだろう、と世の中の不条理さに首を傾げたが。
 だが、本気で彼と試合するのはあの時ぶりだ。互いにもっと強くなってから試合がしたいと、その願いは自分の事故によりあっさり断ち切られた。
 一度はテニスから手を引いたが、それでも彼と―――そしてもう1人、現在学校単位を通り越し世界の帝王と呼ばれるあの男との再戦を果たしたかった。その一心で、リハビリを続けた。前と同じテニスは出来ないが、それでも前と同じ、いやそれ以上のレベルへと持っては来たつもりだ。恐ろしい勢いで進化していく彼らに、決して恥じる事はないように。
 「大丈夫、なのか・・・? 手塚・・・・・・」
 心配げに見てくる大石の前で、持ち上げた左手を握り締め、腕全体を擦る。リハビリ、練習はしてきたが、試合は今日までまだしていない。
 大石には答えず、手塚は不二に尋ねた。
 「聞くが、何セットだ?」
 「1セットだよ。もちろん」
 もちろん―――部活の一般的な試合ならば1セットマッチか。
 「――――――よかろう」



―――vs手塚戦