全ての始まりは7年前、青学に入学した不二がテニス部に入ろうとしたことにあった。本人はただ「裕太とテニスがしたい」という至って単純な理由で決めたのだが、当時から何もかもを完璧にこなしては『天才』という賞賛を浴びつづけた彼は、ここでもまた凡人には到底不可能な速度で上達し、僅か半年で名門校の先輩たちをも軽くしのぐ実力となっていた。
だがここで不二は転機を迎える事となる。同じくテニス部に入部した手塚との試合。そして――生まれて初めての、本当の意味での『敗北』。
『青学<No.2>の 天才不二周助』
『No.2』という汚名も、それによって周りから向けられる視線も、どうでもよかった。ただ、自分を倒した手塚に対して持った、異常なまでの執着心だけは否定の仕様がなかった。自分がここまで他人に固執したのは初めてだった。勝利がつかめなかったのも。そして、貪欲なまでに勝ちを得ようとした事も。
不二が手塚だけをただ追い続けて2年。部活動としてのテニスへの関わりは、青学の全国制覇という栄光によって締めくくられた。兼ねてから勧められていたアメリカへの留学を決心した手塚。そして不二もまた、竜崎先生に頼み込み、留学を了承してもらった。
青学卒業と同時にアメリカへと渡った2人。手塚はプロを目指し、そして不二はそんな手塚を目指し日々テニスに明け暮れていた。青学にいた時同様、それは充実した毎日だった―――少なくとも不二にとっては。
だが・・・・・・
キキ―――――!!
「手塚ぁ―――――――!!!」
グシャッ――!!
「女の子の方は極めて軽症です」
「ただ――助けた少年の方は左腕の損傷が激しく・・・・・・神経を切断した可能性も――」
事態が急転したのは僅か半年後の事だった。車に轢かれそうになった少女を助け、手塚は今まで騙し騙し使っていた左腕を完全に壊した。治療とリハビリの甲斐あって、日常生活及び普通のテニスをする上では何の問題もない。しかし、伝家の宝刀ドロップショットや、打球の回転を自在に操っての手塚ゾーンなど、『手塚のテニス』は不可能となった。
「不二・・・・・・、お前には悪いが、俺はテニスを止める」
「そう・・・・・・」
早くも上がり始めていたプロへの話も断り、そう不二に伝えた手塚。予想されていたその答えに、納得しつつも不二の心の中には絶望が沸き立った。
もとより完璧主義者の彼が、この状態になっても妥協してテニスを続けるとはとても思えなかった。もしもそれでも続けると言い出すのならば、その壊れた左手を自分の手で2度と使いものにならなくしようと思ったほどだ。だが、これで自分が今ここにいる理由がなくなったのもまた事実。最大の――最高の目標としていた手塚がいなくなった今、自分がテニスを続ける意味はあるのだろうか。今の手塚の謝罪を含んだ言葉も、それをわかっていたからだ。
かつてそうだったように、また目標も何もなく、『天才』という言葉に甘えて日々を過ごすのだろうか・・・・・・。
悩み、やがて不二は1つの答えを、1つの決意を見つけ出す。
「ねえ手塚、もしも僕が世界の頂点に立てたとしたら・・・・・・、その時僕は君に勝ったっていえるのかなあ」
「・・・・・・。さあな、俺にはわからん」
「・・・・・・・・・・・・ありがとう」
その後間もなくプロとしてデビューした不二。だが世界にその活動範囲を広げてみても、かつて手塚と対戦したときほどの熱情は沸き起こってこない。
怠惰の日々に侵食される中、アメリカのJr.で面白い日本人少年がいると聞いたのは3年目の春だった。スケジュールが丁度あった事もあり、ただの興味本意で観戦に行ったJr.で、確かにそれらしい少年はいた。どう見ても10歳をちょっとしか過ぎていないだろう小柄な体で、大人並に成長した対戦相手たちを軽々と倒す。技術も高いし、才能もある。が、それを勧めてきた人が『面白い』と言うほどの存在であるか、それはよくわからなかった。はっきりいって相手が弱すぎる。少年が手加減していたのは明らかだった。
疑問を解決すべく、あっさり優勝を決めた少年に、不二は非公式の試合を申し込んだ。幸い少年も自分の事を知っていたらしく、訝りながらもOKを出してくれた。
そして――
こんな気持ちは手塚と対戦して以来だった。
心臓が高鳴る。
喉が渇く。
勝ちたい,勝ってみたい――貪欲に、自分の全てを賭け勝利を求める。
ただの試合とは明らかに違う高揚感に、僕は笑いが止まらなかった。
試合は6−0で不二の勝ち。「くそっ・・・」と舌打ちする少年に、不二は1つのキスを送り、そして1つの提案を出した。
「ねえ、僕と付き合ってみない?」
「はあ? それで俺に何のメリットがあるのさ」
「僕に――勝ってみたくない?」
「へえ・・・・・・。
いいよ。付き合ってあげるよ。アンタのその『ゲーム』」
(冗談[ゲーム]じゃ、ないんだけどね・・・・・・)
それから1年が経ち、今日もまた不二と少年・リョーマのラブラブバカップルは我が道を爆走していくのであった!!(結論がコレかい!?)
天才少年たちの祭典
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話一覧説明