Who are Star ? Our Star ?
2
〜始める前には準備運動を〜
そして始まる撮影。一応基礎設定は青学のものをそのまま使用。レギュラーはリョーマの代わりに明石が入って総勢9名となった。
―――なんだか人数が多いような気もするが、補欠が2名になったという事で先へ進められる。
進められる・・・・・・のだが。
問題はまたしても発生した。
・ ・ ・ ・ ・
「―――すまないが君たち、少し『練習』の質を落としてくれないか?」
『・・・・・・・・・・・・』
スタッフからの要求に、明石除く『レギュラー』一同が多種多様の反応を見せつつ同じ心境となった。
動作でいえば―――ため息。
言いたい事はわかる。明石がレギュラーの練習について来れないのだ。運動神経抜群で3ヶ月前からテニスを始め、大会で割といい成績が取れるほどの実力らしいとはいえそれはいわゆる佐々部親子のような感じ。普通の相手には通用するだろうが生憎と全員が超中学生レベルである青学レギュラーらにはほとんど通用しない。実際撮影前行なった練習試合では、彼は荒井や池田などの一般部員には勝っているが、レギュラー相手には勝つどころかほとんど点すら取れていない。
撮影であると同時にレギュラーらにとっては全国大会へ向けた練習も兼ねているこれ。ただでさえ時間を削られるのだから少しでも活用したいというのに―――
だがここでゴネれば以下略。そんなこんなで手塚と大石が苦渋の選択を迫られたところで・・・・・・
「お断りします」
脇で聞いていた不二がきっぱりと断った。
「不二!?」
「練習の質を落とせばテニスを齧った事のある者ならすぐに気付きます。この学校をロケ地に選んだ時点で学校側から条件として出されませんでしたか? 『学校のイメージアップに繋げてくれないか?』と。
関東の強豪として全国に名を広める青学テニス部は学校から見れば大きなアピールポイント、いわば学校の『ウリ』の1つです。なのに練習の質を落としたらどうなるでしょう? 誰でも思いません? あの青学テニス部はこの程度の実力しかないのか、と。そう思われるのは大きなマイナスポイントであり、同時に『学校のイメージアップ』を条件とした学校側との規約違反となります」
「てことはそれってヘタするとめちゃめちゃ格下に見られるって事っスか!?」
「うあ、ぜってーヤだ!!」
一気に部員内に広がるブーイングの嵐。レギュラーらにとっては日々のライバルである他のところより下に見られるのが嫌であり、そしてそれ以外にとっても『青学テニス部』というブランドの価値を下げられるこの事態はぜひ避けたいであろう。
「だ、だがそれじゃ―――」
「わかってます。ですからこうしません?」
にっこりと笑う不二。その目が楽しそうに薄く開かれた。
「―――部員の質を下げる事無く、どころか印象を上げた上で明石さんが目立つ練習を」
・ ・ ・ ・ ・
行なわれたのは練習試合だった。
それも不二自らが相手をする。
そして―――
「ゲームセット! ウォンバイ明石!!」
手塚のコールと共に、レギュラーらが大口を開けて唖然とし、さらにギャラリーの中でも青学の制服組から凄まじい歓声が上がった。
「―――ね?」
「ムリだろンなの!!」
「出来んの不二先輩と手塚部長ぐらいっスよ!!」
『きゃああああああ!!! 不二君かっこい〜〜〜〜〜〜〜vvvvvvvvvvvv』
思いっきり突っ込むレギュラー一同。ギャラリーらも割れんばかりの拍手喝采を送る。
―――なぜか『負けた』はずの不二に向かって。
わけのわからないスタッフに明石、また部員らも意味不明といわんばかりに首を傾げている。
「どういうこと?」
尋ねる堀尾の隣で、某“F(不二ブランドにあらず)”のロゴ入りポロシャツに着替えたリョーマが半眼で言った。
「だから、不二先輩はあの相手―――誰だっけ? が打ちやすいように全部の球操ってたんだよ。ホラ、六角中との対戦であったじゃん。相手に絶対コードボール打たせるやつ。そんな感じ」
「一見相手に優勢の試合だったが全てそうなるよう不二が仕組んだからだ。球速やスピン、ラケットに当たる角度など相手がどうするか見越した上で、そうしやすいように補助したんだ。つまり相手は不二の球に対するカウンタ―を常に打っていた、ということだ」
さらに手塚も続ける。
「へえ!? そんな事できるんスか!?」
「出来るから『天才』なんでしょ?」
極めて当り前にして理屈としては全く成り立っていない事を言うリョーマ。そして解説といえばこの人、乾も乱入してきた。
「さすが不二だな。後の先[カウンター]だけではなく先の先[アジデート]まで行なうとは。しかもこれならさっき不二の言っていた事と全く矛盾していない」
「・・・つまりどういうことっスか?」
「レギュラー達が証明しているだろう? ある程度以上テニスを知っている人物ならば今不二のした事が如何に困難かすぐにわかる。それでありながら普通に見ている人には彼、明石が優勢だったとしか映らない。
ちなみにギャラリーたちだが―――恐らく毎日毎日見物に来る中で目が肥えたのだろう。むしろこちらの反応の方が俺には面白い。『観戦も立派な練習だ』。彼女らはそれを完璧に実践している」
つまりギャラリーらの実力―――少なくとも試合に対する客観的評価はテニス部員をも上回る。不二の実力の高さと共に実感させられたそのような事に、堀尾はがっくりと項垂れたのだった。
それはいいとして。
「まあこんなところでどうですか?」
「あ、ああ・・・・・・いいよ」
笑顔で尋ねる不二に、かくかくと頷く現場監督。彼はテニスについてそんなに知っている訳ではない。どころかほとんど知らない。だが回りの驚き様からすると凄い事だったらしい、そう察して。
「だ〜か〜ら〜!!」
「大丈夫だよ。自分の実力を見せ付けるだけ見せ付けてどうでもいいところで落とす。そうすれば誰でも出来るしどこにも問題はない」
「あ、にゃるほど」
それこそ大問題の発言を平然とする不二に何も思わないのか英二もあっさり頷いたのだった。
・ ・ ・ ・ ・
問題も片付きいよいよ撮影本番。明石の相手は―――プレイの派手さから初心者にも『ああ、凄いんだな』と納得させられるからという理由で英二となった。
(見せ付けるだけ見せ付けて・・・・・・どうでもいいところで落とす!!)
ドスッ!!
バン!!
ギュルルルル!!
「――――――ゲームセット。ウォンバイ菊丸」
いつも通りの手塚のコール(ただしため息付き)。明後日の方向を向きながら一仕事終えたといわんばかりの雰囲気で額の汗を拭う英二。
その襟首が―――
がしり
思い切り掴まれた。
コートから英二と―――そして彼を引きずり不二が出て行く。
全員に見送られるままコートの端へ行き、
がしゃん!!
「ぐはっ!?」
襟首を掴んだままフェンスに思い切り叩きつけた。
「な〜にやってるのかなあキミは」
真っ黒笑顔で漆黒のオーラを漂わせ迫る不二に、拘束されたまま英二がぶんぶんと手を振った。
「ふ、不二!! たんまたんま!! 暴力反対!!」
「説明受けたでしょ? 勝ってどうするのさ勝って」
殊更ゆっくり紡がれる一言一句。それが不二の迫力をさらに引き立てていた。
「だ、だってホラ、弱いヤツに負けるとムカツクじゃん。いつもおチビだって言ってるでしょ?」
リョーマの名を出し少しでも不二の怒りを緩和しようと努力する英二。
だが、
「越前の場合はいいんだよ。それが持ち味なんだからv
けどキミは状況が違うでしょう? 負けないと次行けないんだよ。
―――さっさと負けてくれない?」
「ものっそドス入っとります不二さん・・・・・・
じゃなくて! だからど〜〜〜して自分より弱えヤツに負けられんだよ!?」
「だから言ったじゃないか。『見せ付けるだけ見せ付けてどうでもいいところで落とせ』って。
ワザとやるならプライドも傷つかないでしょ? それでいいからさっさと負けようね。英二」
「ゔ・・・。そりゃ頭ではわかってるけど・・・・・・」
「キミがさっさと負けてくれないと撮影が終わらないんだよ。ただでさえ越前が撮影から外されたんだよ? まあ誰の目をも惹き付ける越前の魅力を正しく評価したスタッフ陣はいいんだけどね、だからってそれに喰われる『スター』目立たせるのに越前外すってどう? 所詮その程度の実力しかないんじゃ先は見えてるけどおかげでこっちは不自由極まりない生活を送らさせられてるんだ」
先程の大石以上にボロクソに言い放つ不二の辛口トーク。慣れきった部員らは対象が自分でなくて良かったと互いに目くばせし、そして対象者というか標的となった明石が歯を噛み締めて拳を震わせていた。
「そんなこんなで撮影中越前と一緒に練習が出来なくって僕凄く苛ついてるんだから。それとも何?
キミは本気で僕を怒らせたいのかな? ん?」
「いーえ滅相もありません!!」
笑顔で迫る不二。自然と掴む襟首にも力が篭り、ぶんぶんと首を振る英二の顔色がどんどん蒼白になっていく。
「ああそうだよ。良い事を思いついた。そんなキミにはペナルティーを与えておこう。
―――というわけで次から撮影を延ばした場合それと同じ時間だけキミたちのデートに乱入してあげるよ。
どう? やる気出た?」
「はい! やります! 頑張らせて頂きます!!」
「聞きわけのいい子だね、英二・・・・・・。じゃあよろしくね・・・・・・」
「はい!!」
耳元で囁かれる魔王の呪詛。ある種の官能を帯びたそれと共にようやく解放され、英二は―――
「お〜しやるぞやるぞ!!」
「おお・・・! 気分屋の英二が珍しくノっている・・・!!」
「こうなった菊丸を止める事はもう不可能じゃ・・・!!」
・ ・ ・ ・ ・
さて取り直した結果。
「―――ゲームセット! ウォンバイ明石!」
「カーーーット! OK! 次行こう!!」
「おっしゃー!! 一発オッケー!! 延長0分!!」
「こ・・・怖かった・・・・・・」
ラケットをぶんぶん振って喜ぶ英二。対照的に青い顔でその場に崩れ落ちる明石。
英二の迫力は凄まじいものだった。明石は試合中ずっと小声で脅されていたのだ。「ここでロブ上げやがったらスマッシュてめえの面[ツラ]にぶち当てる」だの「次の球右に打てなきゃてめえの手2度と使いモンになんなくする」だのと。
試合こそ勝ったものの、そのあまりの恐ろしさに明石はひたすら情けなく走り回るだけだった。その上スタッフ陣らも怖くてダメ出しが出来ない。
「不二−!! これでペナルティー無しだからな!! ぜってー邪魔すんじゃねーぞ!?」
「ふふ。やれば出来るじゃないか。英二・・・・・・・・・・・・」
子どものように大喜びする英二と微笑んで頷く不二と。
そんな、いつもの様に―――
部員らは完全無視を決め込み、そしてスタッフらは、
―――ここでの撮影って、やっぱ間違いだったのか・・・?
そんな思いを胸に抱いていたりした。―――3へ
さあ。次はいよいよ女の子の方の登場。今度は英二の毒舌が冴え渡る―――か!?
2003.9.11