Who are Star ? Our Star ?
5のもう片割れ
〜英二のドッキリ押し倒し? 大菊前提対舞編〜
そしていよいよ撮影が始まった。
・ ・ ・ ・ ・
「舞!!」
「あ、菊丸先輩」
「今、いいか?」
「大丈夫ですけど・・・。
―――どうしたんですか? そんなに真剣そうに」
「いいから。こっち、来て欲しいんだ」
「え? 先輩・・・・・・?」
台詞通り真剣みを帯びた英二にきょとんとする舞。
有無を言わさず彼が引っ張っていく先には男テニ部室があって・・・・・・。
―――そして部室に消えた2人を見送って・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
「英二ってば・・・・・・
僕にあんな事言ってた割に自分の方がつくづくフザケてるのに真面目に見せるの上手いよね」
しみじみと放たれた不二の一言に、今回もまた練習をぼっぽって野次馬根性丸出しで覗き見るレギュラーらは全員大きく首肯した。
「引き締めたの、顔だけ、っスよね・・・・・・」
「台詞も普段のイントネーションと比較して完全棒読みだな。まあそれでも台本を5回は読んだのだろうけど」
「雰囲気的にもそれこそ『か〜。タリ〜。さっさと終わらせて部活やりて〜』だよね」
「先輩・・・。さりげにさっき言われた事根に持ってます・・・・・・?」
好き放題に感想を飛ばす桃・乾・不二、ついでにリョーマ。
ははは、と乾いた笑いを浮かべつつ、河村が首を傾げた。
「でも、英二これから何やるんだろう?」
「それは、その・・・・・・//」
「押し倒すんでしょ?」
真っ赤になり先を続けられない海堂に、爽やかに不二が断言し―――
「―――不二。お前はもう少し『デリカシー』『気遣い』といった言葉を覚えたほうがいい」
「随分君には似合わない台詞だね。言ってて自分でもそう思ったでしょ」
横手から入ったクレームを一笑した。
無言のまま視線を下へと下げる手塚。さらにその向こうでは大石が地面に両手両膝を突いてへたり込んでいる。自らそう促した事とはいえ恋人が他の馬の骨にたとえ演技とはいえ言い寄り、仲間からは無責任な批評、挙句トドメまで刺されて頼りの友人は瞬殺され
(英二・・・・・・!!)
最早彼に出来る事は回り無視でひたすら恋人が無事に帰ってくることを祈るしかない。
―――と思う通り。
ここから先は部室内での撮影となる。部室がそう広くないことは普段使っている彼らが一番よく知っている。そして窓から覗き込むこと不可のため(カメラの角度によってはもちろん窓も映る)中での様子は全く見ることが出来なかった。
そんな状況が、より彼らの妄想もとい想像を煽り立てる。
「でも英二先輩っスよ? しかも回り公認で押し倒し」
「止めに入ることまでわかってるなら―――」
「間違いなく本気でいくでしょうね」
桃・乾・リョーマがそれこそ先程の英二並に真剣な目つきでそんな事を口走った。
(な・・・・・・!!)
それに声も立てられずに驚く大石の隣の隣で、
「それに問題はあの役者―――舞、だっけ?―――。『真剣』な英二を見て―――」
「―――って不二、さっき演技とはいえ自分だって誘ったのに名前も覚えてないのかい?」
「当り前でしょ?」
「・・・・・・。だと思ってたけどね」
「『真剣』な英二を見て―――
―――墜ちない、とも限らない」
「てゆーか墜ちるでしょ」
「『墜ちる』可能性97%だな。先程の様子もまんざらではないことを示していた」
一見真剣に―――しかし言ってるメンバーが不二・リョーマ・乾の時点で間違いなく面白がって―――続けられる会話。ふと近くで聞くとも無しに聞いていた明石が首を傾げた。
(『墜ちる』・・・・・・?)
が、それを聞くよりも早く。
「ぐ・・・・・・!!」
どの辺りが致命傷だったか、大石が胃を押さえて昏倒した。
パニくる一同(の何割か)は、まあさておいて。
―――話は部室へと移る。
・ ・ ・ ・ ・
ほとんど抱き込まれる勢いで部室に押し込まれた舞。自分も体を滑り込ませ、英二が部室のカギを閉めた。
「あ、あの・・・・・・菊丸、先輩・・・・・・」
意図的に作られた密閉空間にて、知っている相手とはいえ男と2人きり。上目遣いで見上げる舞の声は、怯え、震えている。
逆にその姿を捉える英二のこげ茶色の瞳には一切の震えもなく―――
「せん、ぱ・・・・・・
―――!!」
ゆっくり繰り返された舞の言葉が途中で途切れる。見開かれた瞳。最接近した2人の顔。言葉は全て英二に飲み込まれた。
「ふ・・・ん・・・・・・」
きつく抱き締められて、無理矢理キスされて。でもその唇は凄く柔らかくて、開いた目に映る彼の顔は本当に真剣そうで。
「――――――――――――せん、ぱい・・・・・・」
どのくらいそうしていたのか。一瞬かもしれない。永遠に近いかもしれない。
顔が離れ、拘束も解かれ、舞は力の抜けた体をかろうじて机で支えた。
「せんぱい・・・。なん、で・・・・・・?」
驚き、疑問を口にする舞に、
英二の顔が僅かに歪む。
逸らした視線。口の奥に篭る力。浮かべた優しい自嘲。
「舞のこと、どうしよもないくらい好きなんだ」
「え・・・・・・・・・・・・?」
「いきなり、ンな事言われても迷惑だって、そうお前が思うのわかってる。
でも、でも・・・・・・
この気持ち、どうしても伝えたかった。これ以上、隠しておきたくなかった」
「先輩・・・・・・」
その顔が、余りに悲しそうだったから。
その顔が、余りに寂しそうだったから。
舞は自分でも知らぬ間に英二の頬へと手を伸ばしていた。
まるで涙を拭うように頬を撫でる彼女の手に、英二の手がそっと重ねられる。
「だから、今すぐじゃなくていいんだ・・・。少しずつでいいから。ずっとずっと待ってるから。
だから・・・・・・
――――――俺のこと、好きになって」
今までは自分の役割だったのに。なのに怯えた瞳で見つめられて、
―――舞は暫くその瞳を見つめた後、軽く頭を振った。
「―――ごめんなさい・・・。私は、菊丸先輩の気持ちには永遠に応えられない・・・。
私は・・・私は明石先輩が―――」
目線を逸らし、最高にして最低な懺悔をする舞はもちろん気付いていない。英二の瞳から『怯え』が消えていた事も。彼女の口から他の男の名前を訊き、細められた目に浮かべられた刃のように細く鋭い感情も。
気付かないまま―――気付かないからこそ、無自覚にも舞は決定的な一言を言ってしまった。
「私は、明石先輩が好きだか―――
―――っ!!」
再び途切れる台詞。今度は飲み込まれたのではない。一瞬で吸気に変わったのだ。
「痛・・・!!」
英二の頬にあてていた手から激烈な痛みが走る。見ると、手が痙攣していた―――それを掴む英二の手ごと。
「せんぱ・・・!! 痛い・・・・・・!!」
骨が折れそうな力で握り込まれ、舞の甲高い悲鳴が部室中に響き渡る。だが、
「―――そりゃそーだろーな。痛くしてんだから」
答える英二の声に一切動揺はなかった。底冷えするほど、楽しそうな声色。
「せん・・・ぱい・・・・・・?」
舞の声が再び怯え、震える。だが先程の比ではない。完全なる恐怖。
見上げる英二の顔は笑っていた。自嘲ではなく―――笑み。それ以上でもそれ以下でもなく、何の混じりけも無い本当の『笑み』。
そしてその瞳に浮かぶは、明確なる殺意。いや・・・・・・
殺すのではない。壊そうとしているのだ。全てを。
「お前の気持ちよ〜くわかったよ。うん。やっぱ伝えてよかったな。おかげではっきりした」
「先輩・・・?」
「最初っからこうすりゃよかったんだよな。我慢とか、待つとか。やっぱ俺には合わないわ」
「何、言って・・・・・・」
「『何』? もちろんこうする事」
片手を拘束したまま、英二のもう片方の手が舞のポロシャツを掴み、体が動かないように固定して思いっきり引っ張る。
「や―――!!」
ボタンの弾き飛ばされる音。生地の裂ける音。
「何するんですか!?」
舞が真っ赤な顔で露になった前を隠そうとする。その手をもまた拘束し、
「消極的ってのは俺の性に合わねーんだよ。欲しいものは自分で勝ち取る。それが俺のやり方だ」
「そんな・・・・・・。
こんな事やって、本当に手に入ると思ってるんですか!?」
「入るって思わないんならやんねーよ。俺は勝つか負けるかわからねえ賭けは嫌いなんだ」
「入りません!! こんな事されれば私は先輩のこと本当に嫌いになります!!」
「『本当に』? もう嫌いなんだろ? じゃあいいじゃねーか」
「そんな事言ってません!!」
「でも一番は明石なんだろ? なら同じだろーが」
「そんなの屁理屈―――!!」
「ああうるせえな」
英二の笑みが、消える。
大きく口を開き、叫んでいた舞の口に今まで首へとかけていたタオルを押し込んだ。
「ンなに叫ばれると萎えちまう。どうせいくら話そうが平行線なんだからもう何にも話さなくていい」
「ふむ・・・!!」
なおも何か言おうと無駄な努力を重ねる舞を壁に押し付け、英二が腰を屈めて顔を首元へと近づけ―――
バン!!
「ま―――!!」
「英二ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
スパ――――――ン!!!
「ったああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
『止めに入った』明石を押しのけ、いつの間に復活したか大石が入ってくるなり部員ツッコミ専用ハリセンを違う事無く英二の頭頂へと振り下ろした。
頭を押さえて蹲る英二。呆気に取られる一同。
その中で、さまざまな意味を込めて顔を真っ赤にした大石が怒鳴りつける。
「お前は何をやってるんだ何を!!」
「って撮影に決まってんだろ!? じゃなかったら何で俺がンな知らねえガキにキスした挙句強姦まがいのことやんなきゃなんねーんだよ!?」
「限度があるだろそれにしたって!! 今本気でやったんじゃないのか!?」
「ったり前だろ!? NG喰らったらまたやんなきゃなんねーだろーが!!」
言って、
2人で気付く。
この撮影、明石が入って英二を止めるまでが1シーンじゃなかったか・・・・・・?
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
何も言えない2人の耳に、
もちろんOKサインは届かなかった。
「カーット!! やり直しだ!!」
『ぅえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!??』
監督の言葉に2人は喉の奥を駆使したダミ声で、しかしやはりぴたりとハモって叫びを上げた。
「大石!! お前やっぱ実は俺の事キライなんだろ!! さっきの聞いてもう俺のこと嫌になったんだろ!!」
「違・・・!! 英二・・・・・・!!」
「だからこんな事やって俺に嫌がらせしてるんだろ!? まともに止めた振りして心の中じゃ『あーよかったな〜英二。これでまたその娘にキスしたりいろいろしたり出来るぞ? そういうの好きだもんな』とか思ってやがるんだろ!? 俺がどんっっっっだけ嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌でたまらないか知らないクセに!!!」
「違う英二!! 俺は純粋にお前がそんな事をやるのが嫌で―――!!」
「違わない!!
大石なんかもう大っっっっっっっっっっ嫌いだあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「待ってくれ英二!!!」
ずだだだだだだだだだだだだだだだだだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ ・ ・ ・ ・
「―――ねえ、これどこの昼メロ?(Byリョーマ)」
「う〜ん・・・。確か初期の頃は『学園爽やかスポーツもの』とかそんなテーマだったような・・・・・・(By不二)」
「というか、英二のあのノリだともうすぐ『学園サスペンスホラー』になるんじゃないのか?(By乾)」
「確かに。英二先輩のあのノリじゃ絶対乱入してきた明石さん殺しますよね(By桃)」
「はは・・・。まあなんにしろ、『スポーツ』忘れられてるんじゃないかな・・・・・・(By河村)」
「だったら青学[ウチ]でやる意味ないんじゃ・・・・・・(By海堂)」
「全くだ。全国大会も迫っているというのに・・・・・・!!(By手塚)」
英二と大石が去っていった方向を見やって好き勝手に言い放つレギュラー改め野次馬一同。
「でも大石先輩、中で何やってたかよくわかってましたね」
「気絶してる間幽体離脱でもしてたんじゃないかな? それなら納得だよ?」
「いや最初の時点で無理だろその『理論』は・・・・・・」
などなどと続く一方、部室に残されたこちらは・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
「舞?
おい、舞・・・!?」
英二(ら)が去るなりその場にへたり込んでしまった舞。前を隠すことも忘れて床に座り込む彼女を心配し明石が駆け寄るが・・・・・・
「カッコイイ・・・・・・」
「え・・・・・・?」
その口から飛び出す謎の一言。発した主は呟くなり頬を赤く染めている。
「だって、あの多面性・・・。いつも笑ってばっかだったのに、あんなふうに迫られちゃって・・・・・・。
ああ、どうしようお兄ちゃん・・・。私今すっごく心臓ドキドキしてる・・・・・・////」
「舞・・・・・・」
この瞬間、明石は悟ってしまった。あの部員らの言っていた『墜ちる』の意味を。そして―――
―――可愛い妹がひたすらに間違った方向へと踏み込もうとしていることに。
真っ青に、蒼白に、いやそれすらも通り越して土気色になる明石を他所に、
「不二先輩にしろ菊丸先輩にしろ、ここの部活っていいわね・・・・・・vvvvvvvvvvv」
(舞・・・・・・!!)―――6へ
よし。これでようやく舞が2人に絡む理由が出てきました。以降、2人に絡んでは冷たく足蹴にされ挙句冷笑までされそうな彼女がある意味主役になります。そういう姿に嫌悪感を覚える方はこの先読まれないことをお勧めいたします。まあここまで読んでいる時点で大丈夫でしょうが。むしろ「そんなの全然おっけー!! ってかこの4人に絡んでんじゃねーよクソ女[アマ]!!」とか拳握り締めちゃう方大歓迎。そもそもこの話はそういうノリ前提でといいますかそれがテーマで進んでいます。う〜む。レツゴはオリキャラとくっつけようが平気なのに(それはそれでどうかと・・・)CPの固定されてるテニスは妙に他の人とくっついてるのを見るとムカつく・・・・・・。
―――そんな自己満足の話です。
2003.10.19
あ、ちなみにこの大菊編に裏はありません。不二もリョーマも混じらない裏って書きにくいなあ・・・・・・。