Who are Star ? Our Star ?


7の片割れ
〜『ライバル』は自校のみにあらず しかしながら自校にもあり〜





 
 今日は久しぶりに撮影がオフの日。それこそ練習不足を補うためか、それともたるみきった部員の心を引き締めるためか、この日は他校との練習試合が計画されていた。
 が・・・・・・



 「すまないんだけど、明日の分の撮影今日に繰り上げさせてもらえないかな?」
 「は・・・・・・?」
 スタッフの言葉に、手塚が、竜崎が、大石が固まる。
 「明石君の都合があってね。ホラ、彼忙しいだろ? 明日どうしても別の仕事が入っちゃってね」
 何も言えないうちに・・・
 「じゃあそういう事だから」
 どういう事なのか、今日の撮影は決定されてしまった。
 「―――別にいいんじゃないっスか? いつだって邪魔な事には変わりないじゃないっスか」
 「にゃはは。言えてる」
 毎度恒例リョーマの毒舌に英二が応じる。ぶっちゃけ今呆然としているメンツも同じ事を考えてはいたのだ。いつだって邪魔だ。ならいっそオフなどいらないから1日でも早く終わりにしてくれ、と。
 だが、
 「いや・・・、今日は日が悪いんだ・・・・・・」
 「『日』?」
 「って大石先輩、占いじゃないんスから」
 他の部員らも会話に参加してくる。彼らにとってももちろん無関係な事ではない。
 賛成大多数の中、暫し悩みこんだ後不二が顔を上げた。彼らがここまで渋る理由はもしや―――
 「ねえ、訊くけどさ・・・。
  ―――今日の練習試合の相手って、どこ?」
 不二が悩みこんだ3倍以上の時間沈黙が流れ・・・・・・・・・・・・
 「・・・・・・・・・・・・。
  ――――――――――――氷帝学園だ」
 「やっぱり・・・・・・」
 それ以上何のコメントのし様もない返答に静まり返る一同。奥でひっそりと胃を押さえた大石がしゃがみ込んでいた。





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 練習試合の旨を話して今日の撮影を止めてもらうよう頼みに行った手塚と大石。しかしこれが逆効果であろう事は誰でも想像がつく通り。
 「何!? 他校との練習試合!? それは絶好の撮影機会じゃないか!!」
 「いえ、あの・・・・・・」
 「よし明石君! ぜひ君も参加するんだ!!」
 「はい!!」
 「だから・・・・・・」
 坂道を転がるどころか崖を垂直落下するかの如く悪化していく事態に、最早無力な2人はため息をつく事しか出来ずに。
 「でもまあいいんじゃない?」
 「どこがだ?」
 「多分5分で彼らも今日の撮影の意味のなさを悟るよ」
 「多分どころか
100%確実に。それに5分はかからない。普段周りの雰囲気作りを重視する撮影スタッフならば跡部が一言口を開けば即座に悟る」
 「それでも頑張るようだったら無視しといたら? 別に撮影が上手くいかなくても僕等の責任じゃない」
 不二と乾の心温まる説得に―――
 「――――――それもそうだな」
 ちょっぴりお疲れ気味でブラックが入り始めていた手塚は存外あっさりと頷いた。なおとっくに2人の意見の賛成派に回っていた大石は、手塚の後ろで何度も大きく頷いていた・・・・・・。





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 氷帝学園、到着。
 ―――最初にしたのは応援団だった。
 撮影見物者と、元からの青学部員の
Fanらで混み合っていたテニスコートの周り。200人の応援団によって完全に混雑地帯と化した。
 「な、何だ・・・・・・?」
 知らない者が驚くのも無理はない。なまじ撮影見物者がバラバラの格好となる私服であるために、女子は制服男子はジャージで統一された応援団は非常に目立つ。しかも試合前の独特の緊張と興奮はさらに周りを引かせるに充分だった。
 「うっわ〜。今日も熱入ってるね〜」
 「それに隔てるものがフェンス1枚というのも大きいな」
 「そうだね。氷帝のテニスコートとか関東大会とかだったら応援席って完全に分かれてたものね」
 「別にこんなんどーって事ないでしょ」
 完全に取り囲まれていつも以上の圧迫感に、早くも圧されているのが気分屋英二。逆に全く気にしないのがアメリカでこの程度の白熱した応援は当り前だったリョーマ。ついでに不二が気にしないのは・・・・・・彼は元々周りを見る傾向にないのに加え、青学中等部に入る前は氷帝の幼稚舎にいたため(まあテニスクラブには入っていなかったが)『これ』に完全に慣れていたからだ。
 さて、いよいよ彼らが―――というか、『彼』がやってくる。





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 きゃ〜〜〜〜〜〜vvvvvv
 周りの悲鳴を手の振りひとつで消し(ちなみに余談だが、声も出さずたった1動作でそれだけの事をやってのけた様にスタッフ陣らはひそかに拍手喝采を送っていた)、氷帝のジャージを肩に羽織った彼が部員を引き連れ青学コートへと入って来た。
 「よお手塚、来てやったぜ」
 「すまないな跡部。恩に着る」
 「そう思うんだったら不抜けた試合すんじゃねーぞ」
 「あ・・・ああ。努力する」
 「ああ? 何だその歯切れの悪りい返事は。まさか関東ん時より落ちたとか言うワケじゃあねえだろうな? てめぇら全国行く気あんのか?」
 「断言するがそれはある。日々の鍛錬により青学部員の質は確実に上がっている」
 「だったら何だよ今の返事は。つーか何ヘンなところ強調してんだ?」
 「実は―――」
 と、若干生気のない顔色で氷帝正レギュラーらに解説をする手塚。顧問同士では竜崎もまた榊に頭を下げている。
 そんな彼らを一通り見て―――
 「訊きたいんだけど、今日の対戦相手って彼らかな?」
 「そうですよ?」
 「それで・・・・・・今手塚君と話してる、跡部君って・・・・・・
  ―――もしかして部長?」
 「そうですよ?」
 スタッフの質問にひたすら笑顔で不二が頷く。片や今時どの年齢でも言わないだろ的古風な言い回しをする男。片やエラそうな態度で普通の会話のはずなのにどう聞いても脅迫にしか聞こえない男。これが中学運動部の部長同士の会話だというのだから世の中不思議がいっぱいだ。
 スタッフが首を傾げる間に、どうやら向こうの説明は終わったらしい。
 「撮影だあ?」
 「ああ、そういえば今度の映画は中学を舞台にしたテニスに関連するものだって話題になってますよね」
 「お? 長太郎、なんでお前ンなに詳しいんだ?」
 「母が話していたんですよ。氷帝じゃないのが残念だって。
  でも青学だったんですね。てっきり立海大付属中かと」
 「いや、恐らく立海では初日で追い出されていただろう・・・・・・」
 『?』
 手塚の沈痛なため息に首を傾げる氷帝メンバー。
 「で、俺たちはその撮影の手伝いに呼び出されたってワケか?」
 跡部の声に怒気が混ざる。怒って当然だろう。全国大会への道は関東で断たれたとはいえ、新人戦に向け調整―――というか引継ぎがある。なまじ今まで跡部の完全独裁でやっていた事がここで裏目に出ている。次期部長ほぼ決定である鳳に部員
200名(まあ3年は抜けるが)を預けなければならない。新人戦までに手綱が取れないようでは氷帝の栄光はこの先どん底まで落とされるだろう。しかも今回は忍足のようなサポート役に適した者がいない。鳳にかかる負担は相当なものになる。
 今回の練習試合も鳳の育成を兼ねている。もちろん関東の時同様宍戸と組んではいるが、宍戸にべったり指示待ち状態では話にならない。自分の足でしっかり立ってもらわねば。
 そしてこれは予めお互い了承している事だ。というか青学が練習試合の話を持ち出した際の氷帝側の条件がこれだった。青学としても全国が終われば同じ状況が待っている。手塚の絶対権力を離れた青学は桃の、あるいは海堂の元どのようになるか。これの試しに青学もまた氷帝を使うだろう。この辺りの馴れ合いは関東強豪校同士としてお互いよくある事。が、
 ―――一方的に利用されるとくれば話は別だ。
 「ざけんな。ンな『お遊び』に付き合う気はさらさらねえ」
 『お遊び』発言にスタッフがムッとはなるが、青学メインのこの映画撮影、当然相手校として出される以上氷帝は負け役となる。端から結果が決まっているのなら練習試合の意味がない。
 「すまない。予定が狂ったんだ」
 「てめぇのイイワケなんて聞く気はねえよ。どんだけ御託ホザこうが結局はそういう事だろ? なら帰るぜ。
  ―――おらてめぇら帰んぞ!」
 「ウス」
 「えぇ〜!? 不二と試合出来るって言ってたじゃんか跡部〜! 何のために起きたんだよ!」
 「ていうか芥川さん、とりあえず歩くために起きません?」
 「ま、久しぶりの試合っつーからけっこー楽しみにしてたんだけどな。これじゃ仕方ねーか」
 「命拾いしたな菊丸。次は潰すぜ?」
 各々好きな事を言いつつ背を向ける氷帝レギュラー。一切振り向かない帝王に代わり、忍足が曖昧な、読めない笑みで詫びた。
 「すまんなあ誘われたんに勝手な事言うて。せやけど―――
  ―――跡部だけやのうて俺らにもテニスプレイヤーとしていっぱしのプライドはあるんよ。譲れない線っちゅーんがな。
  ホンマ、『遊び』は堪忍して。青学とやるんやったら今度こそ勝ちたいんや。俺らお前ら3年がおるうちにな」
 「こちらこそ、本当にすまない。跡部にも伝えておいてくれないか? 『今度、落ち着いたら今度こそ本気で試合をしよう』と」
 「了解。楽しみにしてるわ。俺だけやのうて全員―――もちろん跡部もな」
 深く頭を下げ、そして力強い眼差しでそう言う手塚に、忍足も軽く手を振りつつも同様の眼差しで応えた。それこそ跡部だったとしてもそうしていただろう挑発的な笑みを浮かべ。
 樺地にフェンスを開けさせ出て行こうとする跡部。その背中に向かって。
 「跡部ストップ!」
 「ああ?」
 突如放たれた声。不機嫌絶好調でそれでも律儀に跡部が肩越しに振り向いたのは彼の呼びかけだからか。放った主―――不二が適当に手を上げた状態で氷帝メンバーの間をすり抜け跡部の元へと駆け寄っていった。
 隣に並び、肩に手をかけ背伸びして、耳元へと囁きかける。まるで愛の睦言でも紡ぐかのような様に、リョーマが思い切り顔をしかめた。
 確かに内容はそんな感じだったのかもしれない。囁く不二の口が軽く吊り上がり、瞳も開かれ妖艶な笑みが浮かべられている。さらには聞く跡部の目にも鋭いものが浮かべられる。
 むやみに艶かしい光景に赤くなる者続出。若干違う意味で赤くなったリョーマが怒鳴ろうと―――
 ―――するより早く。
 『ええ!?』
 そばで話を聞いていた氷帝メンバーが驚きの声を上げた。その中心では何の会話が行われたのか今までの不機嫌さはどこへやら、跡部が「ほお・・・」と楽しそうに笑っていた。
 なぜか跡部が開けさせていたフェンスを閉め、振り向く。
 「いいぜ。練習試合受けてやるよ。感謝しな。
  ―――だったらさっさと始めんぞ!」
 『な・・・・・・?』
 
180度ころりと変わった意見に驚く周り。その中で、間違いなく意見を変えさせた張本人が元通りの笑みで口を開いた。
 「スタッフの皆さん、提案があります。どの部分を実際使用されても構いませんので一度普通に練習試合をさせていただけないでしょうか? その後明石さんを参加させ、彼の分だけ別撮りという事で。氷帝側にも了解は得ました。誰でも相手になるそうです」
 「おい待て不二。『誰でも』なんつー許可は出してねーだろ?」
 「大丈夫だよ。間違いなく君になるから」
 「だから嫌だっつってんだろーが。俺が戦いてーのは手塚だけだ」
 「いいじゃない。目立つの好きでしょ? 映画出られるよ? よかったね」
 「よくねーよ。なんで俺様が噛ませ犬扱いされなきゃなんねーんだよ」
 「もちろん人生には時として苦汁を舐めなきゃいけない時もあるから」
 「てめぇといるだけで苦汁なんて舐めるどころかガブ飲みしまくってんだよこっちは」
 「ああそう? じゃあ仕方ないね。約束は破棄っていう事で―――」
 「待て。やんねーとは言ってねーよ」
 「じゃあいいよね?」
 「・・・・・・。くそっ・・・!」
 「―――跡部、めっちゃ不二に遊ばれてんやん」
 「うっせーよ」
 忍足の指摘にそれこそ苦汁を舐めたように顔を引きつらせる跡部。
 満足げに頷き戻ってくる不二へと、誰もが疑問に思った事を代表してリョーマが尋ねた。
 めちゃくちゃに暗い声で。
 「先輩・・・。さっき、あのサル山の大将に何言ってたワケ・・・・・・?」
 「ああ、跡部に?」
 くす、と不二が笑う。リョーマのヤキモチが嬉しいのも一つ。また―――
 「手塚がさ―――」
 「俺が、だと?」
 「
期間無制限でいつでも好きなときに跡部の練習に付き合ってくれるらしいよ?」
 「待て。俺はそんな約束は一言足りとも―――」
 「よかったね手塚。氷帝が練習試合してくれるってv
 「ぐ・・・・・・!!」
 不二の言葉に、手塚もまた顔を引きつらせた。
 不二に遊ばれる不幸な男達を遠巻きに見守り、青学レギュラーらがぼそぼそと呟く。
 「うわ・・・。不二最強・・・・・・」
 「てゆーかつまりあの人、自分のために氷帝売った・・・・・・?」
 「そりゃ、みんな驚くか・・・・・・」
 「さすがだな跡部」
 「逆らえないんだね、やっぱり・・・・・・」
 果てさて、こんなんで練習試合はまともに進むのか?

―――7のもう片割れ

 




 さ〜て出す予定0だった他校(といいつつよくよく考えると既に単独で千石さん出てましたね)、それもよりによって氷帝が出てます。撮影の行方は最早決まりきってますね。
 はい。そして計画も0で進めた結果なぜかむやみに長いです。突発のためオチも出来ず。なかなかに難しいなあ・・・・・・。

2004.2.1819