Who are Star ? Our Star ?
8の片割れ
〜イケメン対決第2弾! 勝者は『腹黒万歳s』に〜
前回―――昨日の練習試合はとりあえず『明石もまだまだ勝てない相手が他校に(も)いる』という事で片付けたらしい。そんなどうでもいい事はさておいて。
この日もまた、青学には客人が現れた。
・ ・ ・ ・ ・
「よっ。青学一同」
丁度撮影の行われていないとき、部外者立ち入り禁止のはずの青学テニスコートにふらりと入り込んでくる制服姿の男。一見青学の制服によく似た―――つまりは何の変哲もない学ラン(もちろん黒)―――姿の彼、学校が違うどころかそもそも住む都道府県からして異なっている筈だ。
「サエ?」
「あっれ〜佐伯じゃん。どーしたの?」
メイツの声に、部活中の者及び撮影スタッフが一斉に彼の方を見やる。
明るい髪色を風に流し、切れ長の瞳を細め爽やかな笑顔で現れた彼、佐伯。知った者同士で軽く挨拶する青学陣、その周りではギャラリーらがいつも通りの黄色い悲鳴を上げ、さらに―――
「あ、あの人誰ですか・・・?」
「ああ、彼かい? 千葉の古豪・六角中の副部長佐伯だよ」
「そう、何ですか・・・・・・」
「ん? どうしたんだい?」
「かっこいいですね・・・・・・////」
「・・・・・・・・・・・・」
頬を赤らめうっとりとする舞に、大石は笑顔のままひとつ頷いた。現在2枚目俳優の代表格ともいえる明石の妹・舞。彼女について、頷いたのと同じ数だけわかった事がある。
(面食いなんだ、彼女・・・・・・)
それ自体は別にいいと思う。周りで黄色い悲鳴を上げている女性らも同じなわけだし。
言いたいのは―――
(だからって、英二に手を出そうとするのは止めて欲しいなあ・・・・・・)
―――口に出して言えないのが『いい人』大石の弱点である。
・ ・ ・ ・ ・
「全国大会の前に練習試合しようって事で話進めてたんだけどさ、昨日いきなり断られちゃって。こっちはこっちでいきなり来たのは失礼だと思うけど、一応理由を聞いておこうかな、って」
「やはりその件か・・・・・・」
肩を竦める佐伯に手塚がため息をついた。断った理由―――前回の氷帝との事を考えれば当然だ。もちろん撮影のない日を選ぶつもりではあるが、どこがどう変えられるかわからない以上それも危うい。
「すまないが―――」
「映画の撮影があるから無理って言うんだろ? 跡部に聞いたよ。随分怒ってたな。まあ、そりゃアイツなら怒るだろうけどね」
「・・・・・・情報が早いな」
「『青学がダメになったから氷帝代理で相手してくれ』って言ったら余計に怒られた。完全に八つ当たり。ああいうヤツが部長の部活ってのも大変そうだ」
「八つ当たりか・・・?」
「しっかりお前じゃん。原因・・・・・・」
しれっと言ってのける佐伯に誰もが突っ込む。まあ不二の幼馴染だという彼の、性格と毒舌についてはよくわかっているので今更なんとも言わないが。ついでに跡部・佐伯・不二が絡んだ際の跡部の被害者振りについてもよく知るものなので、これに関してもコメントは避ける。佐伯は完全に『わかった』上で跡部にも言ったし今の台詞も出した。だからこそこのような事を言いつつ彼の笑みは崩れない。
「わかっているのなら―――」
「六角[ウチ]は別にそれでいいよ? 撮影以外は普通に試合してくれるんだろ?」
「いいのか? わざととはいえ負け試合をさせられるんだぞ?」
跡部はもちろん氷帝は全員反対。間違いなく青学も全員反対するだろうに。
「別にいんじゃん? 確かに俺達にもテニスプレイヤーとしてのプライドってあるけどさ、それっていくらなんでも跡部みたいに『自分に対する絶対的自信』―――っていうか『絶対誰にも負けない』って部類のものでもないし。子ども相手にする時とかわざとレベル落とすこともあるしね。ああ、別に相手舐めてるって意味じゃなくて、向こうに合わせる事で実力を引き出しやすくするとか勝たせて自信を持たせるとかそういった意味でな。一応弁明しとくけど」
「なるほど・・・・・・」
確かにそういった『負け方』もあるだろう。そして、こうして『負けた』者を決して『弱い』とは言わない。
だが・・・
「だが今回に関しては少し違うだろう? 相手は子どもではない。しかも映画として事情を知らない者の目にも止まるのだぞ?」
最初に練習の質を落としてくれと頼まれ断った通り、映画ともなれば様々な者の目に止まる。ヘタに負ければ六角の名を地に落とす事になるのではないか・・・・・・?
そんな、手塚の懸念に―――
「俺達は俺達が戦いたいから戦うんだし勝ちたいから勝つ。六角の看板なんてどうでもいいんだよ」
眩しいほどの笑みで佐伯が答えた。そういえばかつて竜崎や山吹の顧問の伴爺が言っていたか。『六角はテニスが楽しくて仕方ない者たちの集まりだ』と。
自分が、そして恐らく跡部もまた忘れていた事。関東の強豪としての名をただ守ろうとしていないか? 自分達が全国を目指し、そしてここまで上り詰めてきたのは何のためだ?
――――――自分が、自分達がそうしたいと思ったからだろう?
わかった。
そう答えようと口を開く手塚。が、
佐伯の台詞はそこで終わりではなかった。
「それに―――
あからさまに手加減して負けてやった、ってわからないヤツに用はない」
『――――――!!??』
不二の開眼モードに匹敵する冷たさで言い放つ佐伯。篭められた2重の嫌味に周りの者が大口を開けて愕然とする中、幼馴染にして黒同盟の男がこれまた黒さ全快で同意した。
「あはは。確かにその通りだったね」
「だろ? ンなのわかんない馬鹿ほっとけばいいのに跡部もまた無駄な努力したよなー」
「どうしようもないよ。あの俺様No.1は」
はははははは・・・と朗らかに続く笑いの2重奏をかろうじて耳の端に聞きつつ、青学一同が虚ろな笑いを浮かべつつ呟く。
「跡部ってもしかして・・・、めちゃくちゃ普通のヤツだった・・・・・・?」
「ていうか、跡部さんって・・・・・・『いい人』、っスね・・・・・・」
「こうなるとむしろ謎だな・・・。いくら幼馴染とはいえ跡部がこの2人と付き合える理由が・・・・・・」
ちなみに、『あからさまに手加減して負けてやる(予定)』と宣告された明石と、佐伯のなんちゃって好青年ぶりに頬を赤らめていた舞は・・・・・・
「舞・・・。俺・・・、今の中学生ってついて行けないや・・・・・・」
「大丈夫よお兄ちゃん・・・・・・。私もついて行けないから・・・・・・・・・・・・」
「そっか・・・、よかった・・・・・・。17歳でもう年感じるハメになんのかと思った・・・・・・・・・・・・」
「年齢とか・・・場所柄とか・・・性別とかの問題じゃないと思うの・・・・・・。希望的観測だけど・・・・・・・・・・・・」
「ああ・・・。俺もそれを望むよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」―――8のもう片割れへ
はい。短いです。短いですが、不二・英二・跡部メインの話を今まで2話にしてきたので当然彼メインの話も2話せねばなあ、という間違った愛情により切られました。ついでに後半は長くなりそうです。
そしてなぜかさりげにアニプリ調になってます。竜崎と伴爺の会話は実際あったものですな。台詞うろ覚えですけど(ダメじゃん)。
2004.2.19