She's Star ! Our Star !
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〜この撮影、得したのは誰だ!?〜
さてそんなこんなで決まった青学ロケ。主に来たのはスタッフ一同と―――
主役の男女2人だった。
2人とも若手の俳優として現在人気急上昇中。男のほうは明石[あかいし]信也といい、茶色い髪を左右に分けたいわゆる『イケメン(死語)』。運動神経抜群と言われるように細いながらなかなか均整が取れている。今回はなんでもこの撮影のため3ヶ月前からテニスを始め、大会で割といい成績が取れるほどの実力らしい。なお現在17歳。
一方女の方は明石舞といい、こちらは黒髪を肩まで垂らし、同色の大きな瞳が特徴の子。見る人皆に『守ってあげたい』というイメージを持たせ、はっきりと運動は苦手そうだ。一応明石同様練習してきたそうだが、まあ設定が素人なので特に問題はないのだろう。ちなみにこちらは13歳。名字でわかるとおり明石の本当の妹である。
こんな2人がミクスドを組むのだが、
問題はいきなり発生した。
・ ・ ・ ・ ・
スタッフ陣と、大まかな紹介及び説明を交わしたところで手塚が僅かに反応した。それは女テニ部長も同じく。
「つまり、途中からはミクスド中心の練習になる、というわけですか?」
「? そうだけど」
「では、そちらの俳優のお二方にお訪ねしますが、ミクスドの経験は?」
「・・・・・・いや。ねーけど」
「はい。私も」
手塚に押される形で返事が遅れる。だがそれを補う形でスタッフが早口でこんな事を言って来た。
「というわけでミクスドについてコーチしてくれるかい?」
その、予想通りの返事に―――
部長2人はそろってため息を付いた。
むっとするスタッフ一同。それを無視して今度はこちらに尋ねる。
「部員に尋ねるが、ミクスドの経験のある者はいるか?」
手塚の言葉に部員一同が目を交わし―――
全員が首を横に振った。
「う? ミクスドって普通のダブルスとにゃんか違うの?」
聞き返すは黄金ペアの片割れ、英二。ダブルス専門の彼ではあるがさすがにミクスドの経験はない。ミクスド自体がそこまでメジャーではないのだ。男女テニス部が分かれているのも原因の一つ。大会にミクスドの部門が少ないのもまた一つ。
青学は今までミクスドについてやって来なかった。誰かもしかしたら個人的にやった事があるかもしれない、と儚く抱いた希望はあっさり打ち砕かれた。
やはり黄金ペアの大石も、また女テニでダブルス専門の要員らも首を傾げる。
「毎年Jr.で選抜合宿を行なっているのは知っているだろう?」
そんな彼らを前に、手塚が突如違う事を話し出した。
「去年それに跡部が参加した。これはみんな知っていると思う。そこで聞いたのだが―――
その選抜合宿で全員ミクスドをやったらしい。そしてそれに対する跡部の反応は、
『最悪だった』
―――この一言に尽きるそうだ」
「え・・・・・・?」
「跡部の言い分では、相手の女子生徒が全く自分の意図した通りに動かなかったというのだ。
だが跡部は文句なく全国区のレベルだ。その上跡部はそもそもダブルスの経験がないに等しい。動けなかった相手が全面的に悪いというわけではないが―――」
「ってかあの跡部についてくのって普通無理っしょ。いろんな意味で」
「その様にも片付けられるのだが―――それを差し引いても、男女の差と言うものがどこまであるのかわからない。その状態でミクスドを教えるというのは無謀に近い」
「あ、じゃあ千石に訊いたらどうかな? 彼も参加しただろ? 選抜合宿」
「既に聞いている。そしてその意見が全く役にたたない事もわかっている」
「というと?」
「千石は女子と組んだ時点で『可愛い子にボールが当たったら大変だ』、とそれこそ相手に大変失礼な事を考え全ての球を取り、結果相手の女子を怒らせたそうだ」
「それは・・・・・・」
「怒るでしょう、ね・・・・・・」
仮にもJr.選抜に選ばれる程だ。実力は全国区と考えられる。それが『ボールが当たったら大変』などド素人並みの心配をされ1球たりとも打たせてもらえなかったとなれば・・・・・・。
「後は立海大付属の真田か柳か・・・・・・」
「すまない。俺が参加できていればこのような懸念はせずにすんだのだが・・・・・・」
「いや。手塚のせいじゃないさ。しょうがないだろう? 腕を痛めていたんだから」
と、何やらそこだけで爽やかスポーツドラマの兆しを見せる大石と手塚。
暫しそれを眺める一同。それをぶち壊して、2人が動いた。
『はい!!』
「・・・・・・何だ? 菊丸、不二」
突如上がった声。見ると英二と不二が大きく手を上げていた。
なぜか―――2人の目が常に無いほど輝いている。
「提案提案!!」
「今までミクスドをやった事がないからやり方が分からないんでしょう!?」
「んじゃあ今からやればいいじゃん!!」
「というわけで僕たちは―――」
『おチビ/越前君と組んでミクスドやります!!!』
「はあ!? 俺!?」
女テニ部員の塊から声が上がった。上げたのはもちろんこの人、越前リョーマ。男っぽい名前だがこれは彼―――もとい彼女の父親が『俺は男が欲しかったんだ!!』と役所にて勝手に自分の決め(てい)た名前を申請してしまったため。その父親の育てるままに、というかその父親と互角に張り合ううち、本人も名に相応しく極めて男らしくなった。
・・・・・・内面は。
自分を指差しぎょっとする少女。小さい顔に不釣合いとも取れるほどの大きな瞳。驚いたおかげで全開に開かれたそれがますます彼女の可愛らしさを彩っていた。
「というわけでいいよね手塚v」
「手塚ありがと〜v」
既に2人の中では決定事項と化したそれ。しかしノり気の2人に逆らう事は青学部員(顧問含む)誰もが不可能であった。
そして一方こちらでは―――
「よし。アタシが許可する。行ってきな、越前」
「ってなんでっスか!?」
女テニ部長の長瀬がリョーマの背中を押し、無理矢理2人に押し付けた。メイツ2人の友人たる彼女は、リョーマと2人の関係を知っていると同時に―――2人に逆らう事の恐ろしさを嫌と言うほど知っていた。
そして暴れるリョーマの肩を掴み拘束するなどという、普通の人間がすれば2人に瞬殺―――すらも許されず永遠に苦しめられる事確定なのだが、彼女が徹底して2人の味方をしており、尚且つリョーマとは世話焼きの姉とわがままな弟(実際はもちろん妹)といった恋人的雰囲気をかけ離れた様相に、特に滅殺対象にはされずむしろ微笑ましく見られていた。
「いっや〜v 映画の撮影なんて最初聞いた時めんどくせーって思ってたけど」
―――『やりたいやりたい!! 俺も出てみたい!!』とめちゃくちゃノり気だった男がしみじみ言う。
「ホント。練習時間削られるしギャラリーもうるさくなるし、何もいい事ないなんて思ってたけど」
―――『へえ。映画なんて面白そうじゃない』と最初に賛成していた男があっさり同意してきた。
「けどこんなイイコトあるなんてね」
「映画万歳。映画様様、って感じ?」
「あはは。言えてる」
どう考えても映画撮影に賛成した時点で考えていたであろうにしゃあしゃあと言い切る2人に、
「サイアク・・・・・・・・・・・・」
リョーマもまた、かつてミクスドを行なったという跡部と同じ意見に達していた。―――2へ
というワケでミクスドを組むことになりました3人。ん? 1人多いぞ?
さあ次は壮絶な蹴落とし合いか?
2003.9.10