「絶対不二は俺達の手で元に戻す!!」
「そうっスね! やりましょう!!」
「そうだな。このままじゃ不二も可哀相だもんな・・・」
「おっし! じゃあ決定!!」
「でもまずどうするんスか? 俺達専門家じゃないし、どうやって戻すかわからないっスよ?」
「まずは不二の中での認識を6歳からずらすことだろう。
一気に14歳まで戻さなくてもいい。だが『6歳の自分』に疑問を―――矛盾を覚えるようになったなら、自然と戻る可能性が高い」
「ならまずは俺達が接してみることだな」
「そうだな。話したり、テニスをしたり。その間に何か感じるかもしれない」
「よ〜し行くぞ!!」
『おー!!』
「随分都合のいい展開になってきたじゃねーか」
「ホント。神様が本当にいるのかなって信じたくなってきちゃったよ」
「信じてなかったのかよ? あれだけ占いとか見てんのに」
「信じてるワケないじゃん。どんなに祈ったって願いは叶わないんだから」
「そりゃまあ確かに」
「だが、そのチャンスは巡ってきたってわけだ」
「今は6歳。手塚くんの事は知ってるわけがない。その上裕太君もわからず終い」
「邪魔者はいなくなった、か」
「利用しねー手はねえだろ?」
「けど思い出してきたら?
―――じゃないか。年齢上がってきたら?」
「また下げればいいんだよ。今から変えなければ、ずっとこのままさ」
「さあ・・・・・・」
そろそろアイツを返してもらおうか
2.平衡
そんな3人の願いをそれこそ神様が聞き入れたか、不二の『退行』は極めて彼らにとって都合のいいものだった。
必死に何かを引き出そうと英二が様々な会話を持ち出してきた。
「―――ってゆー感じでさあ」
「あはは。面白いね。英二お兄ちゃん」
「だから不二〜・・・・・・」
「英二、お兄ちゃん・・・・・・?」
「まあまあ菊丸。そんな顔したら周ちゃんだって困るよ。
ねえ周ちゃん」
言いながら佐伯が頭を撫でる。それは不二にとっての安心材料。困り顔がすぐ笑顔に変わった。
何か思い出すきっかけをとテニスをさせてみる。たとえ頭の中は退行していようと体が覚えた技術はそのまま。トリプルカウンターなども出てみたり。
中学に入ってから編み出した技に、見ていた者の目が期待に染まる。
が、技として成立していなくともさすが『天才』。不二が『偶然』こんな神業を見せることは別に珍しくも何ともない。
「うっわ〜。不二くん。またすっごい事やったね〜」
「あはは。ありがとう」
千石の拍手に笑顔で答え、それだけで終わった。
ならば、と手塚と戦わせてみる。手塚との一戦は不二にとって特別のものだった筈だ。
筈なのだが、
「ゲームセット! ウォンバイ不二!!」
「って何やってんだよ手塚!!」
「いや、俺は普通にやった・・・・・・」
「クッ。ざまあねえな、手塚。
―――周、次俺とやろうぜ」
「あ、やるやる!!」
不二が手塚に負けていたのは、最初こそ実力差だったがそれ以降は気持ちの問題―――負けるという先入観があったからだ。
何もなければ跡部とも互角に戦えるだけの力量を持つ不二。手塚に勝てることもあって不思議ではない。
手塚を振り返ることもせず跡部に懐く不二。跡部はそんな不二に勝つだけで充分だった。
さらに裕太とも戦わせてみる。が、これに関してはわざわざ彼らが何かする必要はなかった。
「へえ、お兄さん左利きなんだ。裕太やサエと同じだね」
「わあ! すごい! ライジングだ!
裕太も得意なんだよそれ!!」
「お兄さん強いね。裕太もそんな風になるのかなあ。すっごく楽しみだよ」
記憶が戻るわけがない。むしろ今の裕太と接すれば接するほど、不二の中で6歳としての記憶が強固になっていく。
少し新しい風を、と今年入ってきた期待のルーキー・越前リョーマとも戦わせようとする。彼はもちろんずっと休部していた不二を噂程度でしか知らなかった。が、
「ふ〜ん。やるじゃんアンタ」
手塚に勝ったのを見れば、挑まない理由はない。
実際に戦わせてみて・・・
「へえ・・・。面白い・・・・・・・・・・・・」
変わる、不二の目つき。それを見て、
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
3人の瞳に冷たいものが一筋、混じった。
その夜。
「うあああああああああああああ―――――――――――――!!!!!!!!!」
次の日、ニュースで少年が夜道で襲われ両手首足首の骨を砕かれたという事件が報道された。果たして通り魔による仕業かそれとも少年に恨みのある者の犯行か、事件の焦点はそことなった。
が、
―――被害者の少年は恐怖によるショックから失語症にかかり、犯人に対する手がかりは0らしい。
―――3.崩壊