現実からズレていく不二の心。ズレに引っかかれたのは由美子と淑子、そして――――――跡部、佐伯、千石。
4.現実
今日も不二を元に戻そうと病院に訪れた英二。
「さ〜今日こそ頑張るぞ〜!!」
意気込みそのままに勢いよく病室のドアを開けようとして―――
「――――――っ!!!」
中から響く笑い声に、その手を止めた。
「はい周ちゃん。ウサギのりんご」
「わ〜すご〜いv ありがとうサエv」
「あ、見て見て不二くん! 俺も俺も!!」
「うわっ! 千石、それどこの中華料理だよ・・・・・・」
「つーかまず切れ。丸ごと渡してどーすんだよ。食えねえじゃねーか」
「そこはもちろん丸かじりで」
「う〜ん。嬉しいけどやっぱみんなで食べたいな・・・・・・」
「んじゃいーな。切って」
ずしゃ!!
「ってああ!! 俺の芸術作品が〜!!!」
「うっせーな。どーせ食うんだからいいだろーが」
「普段見た目から拘るお前の台詞だとはとても思えないな。執事と給仕係が聞いたら泣くぞ?」
「でも今の見た目本当に綺麗だったよ。すっごいな〜。今度やり方教えてよ」
「お安い御用♪」
「立ち直り早すぎねーか・・・?」
「さすが『クセ者』・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
薄く開けた扉から見える光景。やったら皮に細かい細工をされながら適当に切り分けられた哀れなりんごは放って置くとして、
英二は、そのまま静かに扉を閉めた。
入り込めない。あの空気の中には。
ふいに悟る。以前3人が話していた事。
不二が周りに敬遠された理由。確かに『天才』だからもあるのかもしれない。
だがそれ以上に―――
―――あの4人の中に入ってはいけないからではないだろうか。
完成されてしまった空間。それはとても強固で、
そしてとても美しい。
自分なんかが入って、それを壊してしまっていいものか。
多分、不二と表面的な関係しか築けなかった者たちも今の自分と同じ考えを持ったのだろう。
だからこそ、敬遠した。
自分が芸術の冒涜者となる事を恐れて。
思う。もしも不二が『今』に戻ったならば・・・・・・
―――――――――それでもまだ、彼と『親友』で在り続ける事が出来るだろうか・・・・・・。
「ねえ、不二、戻すの・・・止めよっか・・・・・・?」
「何言ってるんだよ英二」
「そうっスよ英二先輩! そんな弱気なの英二先輩らしくないっスよ!?」
「だ・・・って・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・そうだよね。そう。
戻して、あげなきゃね・・・・・・」
「そうそう。今のまんまじゃ不二先輩可哀相っスよ」
「可哀相・・・・・・・・・・・・、
だ・・・・・・ね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
―――5.逆襲