人間と天仕。同じようで違う2つの存在は、こんなところでもその違いを発揮する。





Fantagic Factor
           
    −幸せの要因−




1. 栄養摂取に関する諸問題とその解決法についての考案(長ッ!) <前>



 さて同居人が1人増えた跡部家。別にタダ飯喰らい1人住みついたところで食いぶちに困るほど侘しい稼ぎを送っているわけではないが、だからこそ逆に1人これから住み着くようになったなどというイベントが発生しようが仕事にはいかなければならない。
 「じゃあ行ってくるからな」
 「千石、俺たちがいないからって勝手に周ちゃんに手出すなよ?」
 「出さないって」
 ドアを開けつついつもどおりの軽い挨拶。佐伯の
99%以上本気を含めた据わった目による釘刺しを笑ってかわし、千石はいってらっしゃ〜いと手を振った。
 「さ〜ってと、んじゃ俺は一眠りしよっかな〜・・・・・・と?」
 部屋に戻ろうと振り向いたところで、
 ひょいと顔を覗かせた周助と目が合った。
 「あれ? 周くん起きちゃった?」
 眠そうに目をこしこしと擦る周助。時刻は現在午後8時。眠らない街・東京の住人として生活する自分たちには奇異に映るが、日の出とともに起きそして日の沈みとともに寝る(厳密には日の出日の入り前後2時間程度のズレあり)天仕にとって、日の短くなった晩秋の夜8時は真夜中である。
 「景とサエ、どこ行ったの? 仕事?」
 「う〜ん・・・・・・。まあ、仕事っていったら仕事、かな?」
 「?」
 首を傾げる周助に苦笑する千石。
 (さ〜てどうやって説明しよ・・・・・・)
 「周くん、2人の仕事って何か知ってる?」
 「景は跡部財閥の総帥跡取り息子で会社社長、サエはファッション雑誌のモデル。じゃないの?」
 「・・・・・・・・・・・・やっぱりちゃんと説明するね」
 きっちりわかっているらしい。適当にごまかすという手は削除された。
 「それは昼の顔。2人にはさらに夜の顔があったりするんだよ」
 「夜の顔?」
 「そう。それはね―――」
 「――――――って勝手に人を怪しい役職につけんなよな」
 がこん
 内緒話をするかのように人差し指を口に当て顔を寄せていた千石が、いきなり後ろから蹴り倒された。
 「痛あ!!」
 「サエ・・・?」
 倒れた千石の後ろから現れた人物―――出かけた筈の佐伯を見て、さらに周助の首が傾く。
 「全く、油断も隙もないなお前は・・・・・・」
 「・・・てゆーかむしろその台詞はいつでもどこでも現れるサエくんに向かって言いたいよ」
 慣れによりダメージ軽微で立ち上がる千石。それを横目で見やって制し―――
 「俺たち3人は今周ちゃんが言った仕事と他にホストもやってるんだよ。まあ付き合いというかアルバイト、かな?」
 「ホストってあの・・・・・・女性相手にお酒勧めたりする?」
 「そーそれ! 最初は俺が姉ちゃんに誘われたんだけどさ、だったらサエくんと跡部くんも誘っちゃえ〜って」
 「で、まあ最初は俺も仕事始めたばっかりで全然金なかったからさ、本当にアルバイトっていう感じで」
 「あれ? でも今は? みんな仕事しっかりしてるしかなり稼いでるよね?」
 「・・・・・・そこまで知ってるワケ?」
 「凄いね、天仕って・・・・・・」
 「あ・・・、ごめん。プライバシーの侵害だよね・・・・・・」
 「うわすっごいリアルな言葉」
 「別にいいんじゃないかな? 人幸せにするってからには、その相手のことよく調べておくのは当たり前だろうし。
  ―――ああ、さっき言ったのは単純に驚いただけだよ」
 「・・・・・・そうなの?」
 「別に稼ぎがバレて困ることもないからね。まあ跡部あたりがそれで笑い出したらさすがに温厚な俺も切れたくなるかな?」
 「・・・・・・・・・・・・そうなの」
 「いや周くん・・・、『そうなの』って、そんな爽やか仮定殺人予告あっさり肯定しちゃダメだよ・・・・・・」
 「そんな冗談はさておいて―――」
 「サエく〜ん。今すっごい本気で言ってたでしょ」
 「今はそれこそ付き合いとかあるし、それにやってみて面白いから続けてるってトコかな。千石とか跡部とかならまだしも、モデルって仕事中に接する相手ほとんど決まってるしさ。なにせ一番の相手は自分だからね。
  いろんな人に触れ合えるっていうのはホストならではだね」
 「へ〜・・・・・・」
 そう言い笑う佐伯から伝わるのは、やはりその通りの感情。多分彼は本当にこの仕事を楽しんでいるのだろう。
 その様はとても幸せそうで・・・・・・・・・・・・
 (・・・・・・・・・・・・って、僕何考えてるんだろ。幸せなのはいいことじゃないか)
 人を幸せにするのが自分の役目なのに。
 ――――――今凄く嫌な事を考えたような気がする。
 切り替えたくて頭をぶんぶん振る。そんな気持ちが伝わったわけもないだろうに。
 切り替えてくれたのは千石だった。
 「でもそういえばサエくん。何で今ここにいんの? 今日仕事でしょ?」
 「ああ。
  千石が何かやるといけないから休みもらってきた」
 「・・・・・・。よく許してもらえたね」
 「ホラ。俺上からのウケいいから」
 「まあ、売り上げ
No.2ならウケはいいだろうね」
 ちなみにもちろん
No.1は跡部。そして千石は2人の下。客数ならトップなのだが見た目なのかノリなのか、高級品をあまり贈られないためである。
 「で・・・ちなみに跡部くんは?」
 「置いてきた」
 「・・・・・・・・・・・・。ご愁傷様、跡部くん・・・・・・」
 それ自体はいつものこと。だが今回の事態は、これが原因となって起こった。







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 ごほっ! げほっ!
 「
38度7分。完全に風邪だな」
 「あの、ヤロ・・・・・・。俺にうつしやがっ・・・ごほっ!!」
 「はいはい悪態はいいからさっさと寝ろよ」
 「そもそもてめぇが・・・勝手に休むから俺があんなヤツの相手・・・・・・げほっ!」
 「うっわ〜跡部くん、今すっごい同情したい感じ」
 「すんなバカ・・・えほっ!」
 「大丈夫? 景・・・・・・」
 「お前も・・・寄んじゃねえ・・・・・・。風邪うつるだろーが・・・・・・」
 「でも・・・・・・」
 「いーから・・・・・・。てめぇは・・・治るまで部屋入んじゃねーぞ・・・・・・」
 「ゔ〜・・・・・・」







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 次の日。
 ごほっ!! げほっ!!
 けほっ。えほっ。
 「跡部ぇ!! お前周ちゃんに何やったあ!!」
 「何で周くんまで風邪ひいてるのさ跡部くん!!」
 「うっせえ! 入ってくんなっつったのに何回追い出しても入ってきたそいつのせい―――がほがほがほ!!!
  ―――あ゙〜、あったま痛てえ・・・・・・」
 「自業自得だな」
 「周くん、大丈夫?」
 「うん・・・。大丈―――けほっ・・・」
 「無理しないで寝てないとダメだよ?」
 「後であったかいもの持っていくからね」
 「・・・・・・・・・・・・何なんだよてめぇら。その俺との扱いの差は・・・・・・」







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 1週間後。
 けほっ! えほえほ!
 「何で全然治んねーんだ・・・・・・?」
 「てゆーか、むしろ悪くなってない・・・・・・?」
 「跡部・・・。お前どれだけタチの悪い菌もらってきたんだよ・・・・・・」
 「普通の菌に決まってんだろ? 俺は治ってんだろーが」
 「いやでも跡部くんは跡部くんで凄いよ。
39度まで上がったのに2日で治っちゃうなんて・・・・・・」
 「よっぽど菌も跡部と一緒にいたくなかったんだろうな」
 「どういう意味だ・・・・・・?」
 「いや別に? そのまんまの意味だけど」
 「佐伯・・・。てめぇ・・・・・・」
 「―――ごめんね。幸せにするとか大見得きっといて迷惑ばっかりかけて・・・・・・」
 咳の合間に弱々しく言う周助。本当に申し訳なさそうにただでさえ小さい体をさらに縮こまらせて謝る様は、むしろこちらにこそ罪悪感を覚えさせるほどに痛々しい。
 「ああごめんね周くん。俺達全然迷惑とかしてないよ?」
 「そうだよ周ちゃん。でもこれ以上苦しんでる周ちゃんが見たくないから、早く元気になってね」
 「うん!」
 千石に抱き起こされ、佐伯お手製おかゆをはふはふと2人で冷まして食べさせてもらい―――
 「・・・・・・だからなんでここまで俺との扱いが違う・・・!?」
 ただ部屋に放り込まれ食事の差し入れもなしにひたすら2日寝かされ続けた跡部は、和気藹々とした3人の後ろでひっそりと拳を震わせていた・・・・・・。





―――1後