周助の担当する(らしい)人の1人、佐伯虎次郎は、“虎鵜[コウ]”という名でファッションモデルをしている。





Fantagic Factor
           
    −幸せの要因−




. 『同居人』  〜周助の 仕事場訪問記〜



おまけ ≪人気ファッションモデル虎鵜脅迫事件!!≫  <2度目の警告>

 2度目の警告は実に早かった。いや・・・
 「『1度目』の方が遅すぎた、のか?」
 苦笑する。警告者は自分についてどこまで知っている? このタイミングの良さは偶然かそれとも必然か。
 有名人のお約束に則ってとでもいうのか、佐伯もご多分に漏れず自分の
HPなど持っている。自己紹介と仕事状況、それに日記とあと趣味の物書きに面白くて作ったアイコンやら何やら・・・・・・と意外と豪勢な内容なのだが、問題はその中の1つ、掲示板だった。
 「どーしたよ佐伯? てめぇが人に嫌われるなんぞ珍しいじゃねえか」
 後ろから覗き込んでいた跡部がくつくつ笑う。
 「いや全く、人気者は辛いよ」
 茶化し、佐伯も今日の夕暮れあった事を説明した。
 「んで、コレが『2度目』ってか」
 2人で見るのは、先程書き込まれたばかりのもの。





≪虎鵜に告ぐ。今すぐ仕事を辞めろ。残りは1回だ≫






 「・・・ちゃんと漢字なんだな」
 「さすがにパソコンなら出るからな。ついでに間違ってないんだ」
 「・・・・・・間違えんのかよ?」
 「『虎次郎』よりは間違えられる率は少ないな。あからさまに当て字なら1つ1つ調べるしかないからな。でもさ―――」
 「―――あん?」
 「どちらかというとその後の方が凄くないか? 俺はこっちに感動したいんだけど」
 マウスを動かし、さらに下へとスクロールさせる。最初の文が来てまだ数時間しか経っていないのに、レスは
100件を越えていた。それも・・・
 「≪この記事消して下さい!!≫≪私たちは虎鵜さんを応援しています≫≪絶対辞めないで下さい≫。
  ―――人気者だろ? 俺」
 「まあ、な」
 先程にかけた茶化しながら、細めた目は本当に嬉しそうだった。心が詠めずともわかるほど。珍しいものだ。
 「んで―――今回の『警告』は何だったんだ?」
 1度目がカッター同封、しかも3度とはっきり言い切り、これは2度目だと言う。ならばこのメッセージだけではあるまい。
 とても理論的な考えをした跡部に、
 佐伯は軽く肩を竦めた。
 「何も?」
 「・・・・・・ああ?」
 「なにせこの
HP、掲示板を除きこのパソコン以外で乱入してきた場合漏れなくウイルスプレゼントだからな」
 「・・・・・・。そーいやそーだったよな。ンな仕組みにしやがったおかげで危うく俺は会社のパソコン丸ごと買い換えるハメになるところだったんだよな」
 「まああれはちょっとした偶然がもたらした事故という事で」
 「出来るか!!」
 以前の事。撮影で暫く家を離れていた佐伯は、跡部に日記の更新を頼んだ事があった(もちろん内容は佐伯が考えて)。急ぐものでもないし家でのんびりやってくれるだろうと思い頼んだのだが、生真面目な跡部は日付が変わる前に書かなければ、と残業していた会社で書いてくれた。幸い発見が早かったため大事には至らなかったが、一歩間違えれば会社に大ダメージを与えるところだった。それ以来跡部は二度とこの
HPに関わらなくなったというのは・・・言うまでもないだろう。
 「―――だから代わりにこういう事が起こる」
 別のページが開かれる。佐伯のファンサイト―――の筈だったページが。
 ≪虎鵜はモデル失格!!≫
 そんな見出しが躍る
Top。雑誌から引っ張ってきたのだろう写真には、ご丁寧に赤で×印がされていた。
 「乗っ取り、ねえ」
 「趣旨変えたんじゃねえの?」
 「まさか。
  ここのサイトは俺公認だ。初めて見つけた時から随分真面目に頑張ってたし、感謝と応援っていう事で書き込みなんかしてみたら一切語りだとは思われなかった。よっぽど俺について分析したらしい。俺のやつも逐一チェックしてるみたいだ。そういう情熱溢れる努力家が―――
  ―――こういうお間抜けはやらない」
 細長い指で差したのは写真。
 「立派に規則違反だ。俺は『ファッションモデル』だからな。極論としては素っ裸ででもない限り、何を着ていようがそれの宣伝になっちまう。俺の写真を使うのは俺でも難しい。この旨はしっかり伝えてるし、ここの管理者もそれは理解してる。
  ここのサイトは実によく考えた。写真は使わずイラストでアピールした。『自分のイラストの方がいい』っていうの含めて会員増加に成功したワケだ」
 「趣旨変更なら同じ形式守る、ってか」
 「守らないと削除の対象になるからな。他者の誹謗中傷はそれだけでアウトだけど。けど、
  なるほどね。こっち見てみんな書き込みしてきたか。あの1文だけにしちゃやけに過剰反応してると思ったら」
 「んで? どうするよ?」
 「これは放っておくしかないだろ。俺が作ったモンじゃないんだから勝手に直すワケにもいかないしな。もちろん直ったら謝りにとか行くけど」
 「じゃねえよ。てめぇはどうすんだ?」
 問う跡部の呼気が首筋にかかる。別にやらしい意味ではない。ただ後ろでため息をつかれただけだ。
 (答えは問うまでもなくわかってます、か)
 ならば隠す必要はないようだ。佐伯は笑いながら返した。
 「『仏の顔も3度まで』とは言うけど、
  ―――楽しみじゃないか? 『4度目』」
 「そりゃどっちが『仏』扱いなんだ?
  別にいいけどよ、あんま周には心配かけさせんなよ? お前にとっちゃ慣れてるだろうが、アイツにとっちゃ初だろ?」
 「俺の心配はしてくれないワケ? 冷たいなあ」
 最後まで茶化す佐伯。とっくに興味を無くし背中を向けていた跡部が、厄払いをするようぱたぱた手を振ってきた。
 「『虎』に『鵜』だろ? 『攻撃一辺倒[しかしない]』ってハナっから宣言してるヤツの何を心配しろってんだ?」
 「ははっ。確かにな」





―――2おまけ編3度目の警告