周助の担当する(らしい)人の1人、佐伯虎次郎は、“虎鵜[コウ]”という名でファッションモデルをしている。





Fantagic Factor
           
    −幸せの要因−




. 『同居人』  〜周助の 仕事場訪問記〜



おまけ ≪人気ファッションモデル虎鵜脅迫事件!!≫  <最後の警告>

 それから数日後。今日は撮影そのものはないが、雑誌の出来栄えを見るのと次の打ち合わせのため、佐伯は雑誌社へと向かった。
 そうそう大きなものではない。一応5階建てのビルではあるが、最上階のオフィス1つを借りているだけだ。
 扉を開け―――
 「おはようございます」
 「よう早いな虎鵜。完成はもうちっと待ってくれ。今やり直させてるからよ」
 「あれ? 何か問題ありました?」
 「いや? お前にはねえよ。ただ文字がちっとオーバーで服にかかっちまってな。今それ削ってるトコだ。
  お前さんはいつだって完璧だぜ? 何せ作ってる俺らが惚れちまうくらいだからな」
 「ははっ。なら今度デートでもします? 俺フリーですから」
 「止めとくぜ。女房に焼きもちやかれちまう」
 「奥さんに愛されてるんですね」
 「いや。
  ―――なんで天下の虎鵜様がアンタなんぞとデートしてんだ、って怒られるぜ。アイツもお前の大ファンだからな」
 「ははははははははははははは」
 「マジで笑うなよ!!」
 編集長とこんな会話をしているところで、続けて人が入ってきた。同じくモデルの仕事をしている、“快流[カイル]”という少年が。
 「あ、虎鵜さん丁度いいトコに!
  コレ、虎鵜さんにって」
 「え? 俺に?」
 「おーおー今日も熱いねこの色男。今日もお前のために徹夜組参上か〜?」
 (・・・だと、いいけどな)
 ケーキならホールサイズの箱。綺麗にラッピングされたそれを両手で受け取り、佐伯は目を鋭く細めた。それこそ自分の名に相応しいように、虎のように、鵜のように。
 家が遠い人ならともかく、近くに住んでいる人ならぜひ自分と直接会ってみたい。直接プレゼントとかを手渡してみたい! そう思うファンも多いらしく、佐伯が唯一契約しているこの雑誌社へはよく彼女らが張り込みをしている。ただし毎日出勤という存在でもないため、空振りする事も多いのだが。
 これら通称“徹夜組(早朝からかもしれないが)”は確かに今日もいた。ここに上がってくる前に、2・3人に声をかけられた。が、
 (ならコレも、その時渡せばよかっただろ?)
 たまたまタイミングを逃したとも考えにくい。声をかけられ、自分は十分止まっていたのだ。たとえトイレに行っていようがうたた寝していようが間に合っただろうし、逆に間に合わないなら直後に来た彼に預けられたハズもない。なら―――
 (待ち伏せはしてても、直接俺には渡せない、ねえ・・・)
 よっぽどの恥ずかしがりやさんか、さもなければ自分に顔を見られたくないかあるいは・・・
 (―――外では渡せないもの)
 「どうした? 虎鵜」
 「黙り込んでますけど何かありましたか?」
 「え? い、いや・・・」
 顔を上げ答えかけ、
 佐伯は再び黙り込んだ。
 たまたま静かになった一拍。届いてきたのは今まで聞こえなかった音。多分他の人には聞こえていないだろう。
 カチ・・・カチ・・・
 発信源を辿る。手にした包みが、音に合わせ僅かに振動していた。
 (時計・・・? いや・・・)
 絶対にそれはない。確信した上で、佐伯は包みは開けず、リボンに挟まれていたメッセージカードを開いた。





≪最後の警告だ。今すぐ仕事を辞めろ≫






 「おい虎鵜それ・・・!!」
 「まさか・・・!!」
 騒ぐ周りに隠れ、小さく舌打ちをする。
 (カミソリレターの次はプレゼント爆弾か。相変わらず古風な手を・・・!!)
 上で渡すワケだ。外で渡せば周りの人間が被害に遭う。遭うほどに―――威力があるらしい。
 「今屋上って閉まってましたっけ!?」
 「え・・・? ああ、風強くて危ねえからな」
 「どーも!!」
 「あ、おい虎鵜!!」
 言うだけ言って、佐伯はオフィスを飛び出した。
 階段を上り、屋上へ向かう。鉄製の扉には、確かにカギがかかっていた。屋上に人がいる心配はほぼなくなった。
 カギを借りに行く時間はない。そんな余裕など作ってはくれないだろう。
 「ハッ!」
 気合一発。佐伯は扉を蹴り破り、屋上へと出ると―――
 ―――『プレゼント』を上に投げ上げ、扉を再び閉めた。
 ドン―――!!
 間髪入れず、爆発音が響く。閉じた扉からそれが伝わり・・・
 「―――っ!?」
 ・・・やはり蹴破ったのはマズかったらしい。壊れた扉はあっさり開き、爆風に吹き飛ばされた佐伯は後ろの壁に思い切り頭をぶつけた。
 「おい、今凄げえ音したが」
 「虎鵜さんどうしました―――虎鵜さん!?」
 心配して上がってきた彼らの見たものは、
 頭から血を流し、ずるずる倒れこむ佐伯の姿だった。





―――2おまけ編病院にて