0.悩み多き少年たち
〜Time will heal the...〜
真実と現実 真実の捻じ曲げ方前編
首を絞められ、気を失った跡部を見下ろす。
ぷちぷちとパジャマのボタンを外していき、
佐伯ははだけられた跡部の胸元から現れたものに苦笑した。
「こんなもの、使う日が永遠に来ない事を祈ってたよ」
彼の、自分の、胸元に描かれた、小さな陣。互いの血で作られた未完成の契約陣。完成した時それは―――
自分の指先を噛み切る。ゆっくり滴る血を、跡部の肌に落としていく。陶器のような肌にある、陣という傷の上に。
同じように跡部の指も噛み切り、自分の肌の上を滑らせる。
互いの胸に、同じ形を描き込み。
『完成』したそれは、血よりも赫い光を放って2人を包み込んだ。
光の中で、躰を落としていく。
「ひとつになろう、景吾」
小さな呟きと、小さなキス。それらを全て飲み込んで。
部屋を、2人を、
輝きが、制していった・・・・・・。
ψ ψ ψ ψ ψ
暫しして、“それ”が目覚めた。
ベッドの上で、ゆっくりと身を起こす。そこには他の存在はいない。
ぺたぺたと、顔を体を触る。それで何かがわかるほど2人に大きな違いはなかったが。すぐ見えるところに、鏡あるいはその類似品はない。
「まあ、見たところで見た目と中身が一緒かもわかんねーんだから意味ねえか」
“それ”が呟き、苦笑する。
灰白色の髪を掻き上げる。自然、視線は下に下がった。
はだけた胸元を撫でる。意識の失くなる前までは確かにあったものは、完全になくなっていた。
再び傷1つない陶器に戻った肌。見て何か思うわけでもないが。
“それ”は自分の体をぎゅっと抱きしめた。
僅かもない違和感。完全に『ひとつ』になった証拠。ひとつに―――独りに。
「何を選んだところでどうせこうなるんだ。なら上出来ってトコか」
過去を変えられない以上、離れるかひとつになるか、2択しかなかった。
どちらにしても同じ。だが違う。
抱き締めたまま、“それ”が言葉を紡ぐ。
ずっと言いたくて、それでもずっと言えなかった言葉を。
「愛してるぜ、永遠に・・・・・・」
ψ ψ ψ ψ ψ ψ ψ ψ
はい。『前編』なのになぜか後書き・・・ではなく、§1の内容(というか設定)を受けてのAnotherVerでした。ただしこの話だと問答無用でここで終了しますが。契約陣について気になる方は§1をどうぞ。アレの最終形というか完成形がこんな感じです。ただしこの話では『ひとつになる』わりに佐伯のみ一方的に消滅しています話の都合上。なにせ完全別人になると結婚出来ないし。実際どうなるかは・・・・・・どうなるんでしょうねえ(訊いてどうする)?
しっかしこれ、端から見ると完璧ナルシーですねえ“それ”というか跡部(笑)。
2004.8.26