3.D.D.
〜深遠より出ずるもの〜
真実と現実 現実について
「跡部」
「ああ?」
「『今まで、お世話になりました』。
―――というわけで菓子折りと辞表」
「・・・せめて辞表を先に出せ」
「ちなみに菓子は氷帝と青学を足して2で割った辺りで山吹名物ラッキートリック饅頭」
「氷帝と青学の何をどう足して2で割りゃ山吹になんだ・・・・・・?」
「外れがわさびあんとからしあん、当たりがその他あん各種だそうだ。あんこ嫌いにとっては全部外れだな。逆に激辛通にとっては全部当たりかもな」
「聞けよてめぇは人の話」
「お前がやると確実に外す。由美子さんがやると確実に当てる。足して2で割れば当たり外れ両方ありだろ? ま、結婚祝いも兼ねて。
――――――結婚おめでとう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。ありがとよ」
ψ ψ ψ ψ ψ
式は、氷帝帝国で行われた。姉の結婚式とあって、この日ばかりは不二家の子どもも式に参加した。他にも各国から人が招かれ、華やかなパーティーは1日中続いた。
由美子はこれから跡部の住む家で共に暮らすことになるらしい。今まで人のことなど全く気にしていなかった跡部も結婚間近にようやくその気になりだしたか、2人で一緒にいられるようにと部屋から内装から全て新たにしたとかなんとか。
その辺りの事は、
「さって、見たいトコは大体見たかな? じゃあそろそろさすがに国出ようか。あんまり遅すぎるとせっかくのバイト口がなくなるかもしれないし」
帰る前の記念にと氷帝ぶらり見物記をしていた佐伯には、全く関係の無いことだった。
ψ ψ ψ ψ ψ
夜になると、主役2人はパーティーから強制的に抜けさせられる。2人でこれから共同作業の第一歩―――初夜を営むために。
『2人部屋』で、なったばかりの妻と向き合い。
跡部はためらいの無い口調で言い放った。
「あんたはあんたの好きなようにやっていい。恋人がいるんなら連れてきて構わないしちゃんと部屋も用意する。一切不自由にはさせない」
「あなたに愛されること以外は?」
にっこりと、それこそつい最近までメイドのバイトとして雇っていた周―――弟そっくりの笑みで間髪入れず訊いてくる由美子に、
「・・・・・・ああ」
僅かな間を置いて頷く。僅かな間で、推し量る。彼女の事。そして・・・・・・自分の事。
彼女は決して失望を込めては聞いていない。ただの確認だ。
そして自分は―――最低の夫だとわかっていながらも、これ以上の最良の案は出てこなかった。彼女を愛することは出来ない。たとえ愛情と憎しみが表裏一体のものだとしても。
「そう。わかったわ。
でも―――」
「ん?」
にっこりと、本当に楽しそうに読めない笑みを浮かべ、由美子は逆に言い放った。
「私結婚するからって恋人に別れ告げちゃったの。おかげで今連れてこれる相手がいないのよね。
―――『ここ』にいる事程度ならば構わないでしょう?」
そんな提案をしてくる彼女を半ば驚きの、半ば呆れの目で見やり、
「――――――好きにしろ」
「ありがとう」
ため息と共に了承する跡部。しゃあしゃあと礼を言う彼女に、さらにため息を深くしたのだった。
ψ ψ ψ ψ ψ
青学に戻った佐伯はここでもまた執事として王家に仕え、その一方で氷帝で学んできた事を青学用にと噛み砕き、少しずつながら国民と中心との掛け橋として国の政治にも参加するようになってきた。今までそういった立場の者がほとんどいなかった青学にとって、彼の存在は国側と国民、どちらにも快く受け入れられた。
一方氷帝。跡部夫妻は順調に夫婦生活を営んでいるという。妻をめとった跡部はますます仕事に励むようになり、最早王子どころか親と共に国の経営の中心を担っているらしい。由美子も青学に戻って来ないところからすると、幸せに暮らしているのだろう。
全てが順風満帆に過ぎていっていた。ほんの小さな、ほころびさえ無視してしまえば。