3.D.D.
            〜深遠より出ずるもの〜






  過去と現在 佐伯編


 「やあ周ちゃん、お茶持って来たよ」
 「あ、ありがとう。サエ」
 柔らかい光の降り注ぐフロアにて、ティーカップとポット、その他いろいろを盆に載せた佐伯に不二は振り向き礼を言った。
 「勉強中?」
 「まあね。僕ももう成人だし、そろそろ直接は無理でも国の事に口挟めるようにならなきゃね」
 「なら間接的にでも挟んでみる? 『一国民の意見』として届けてあげるよ」
 「あはは。いいね。じゃあ何かあったときはサエにお願いしよ」
 「『周助王子の頼みとあればいくらでも承ります』」
 「何それ。嫌味?」
 「『ただし順番が回ってきましたら』」
 「うわ。それいつになるのさ?」
 「今ならまだ早いよ。元々青学は国の方針に異を唱える国民は少ないしね」
 「氷帝は多かった?」
 「まあね。とはいってもあそこはそれこそが国の方針だから。
100人いれば100通りの意見がある。今採用されてるのはその中の1つ・・・ああ3つか」
 「3つ?」
 「跡部親子の分。由美子さんもいれると4つになるかな? 由美子さんならそれこそ何か不満があれば即座に言うだろうし」
 「う〜ん確かに。姉さんは個人的によく父さんにも母さんにもいろいろ言ってたしね」
 「ホント、不二姉兄弟は青学には珍しい性格だよ」
 「誉めてる? それともけなしてる?」
 「どっちも。意見があるんなら言えるのはいいと思うよ。もしそれで真っ向から対立して追い出されたとしたら笑ってあげるけど」
 「やっぱりけなしてるじゃないか」
 「そんな事ないさ。周ちゃんのそういう気持ちは大事だと思うよ。別に俺は青学の―――というかおじさんおばさんの方針に反対してるワケじゃないけどね、それでももし周ちゃんが何か思ってるとする。青学の一国民たる周ちゃんがそう思うんだったら他の人だってそう思ってるかもしれない。その可能性は十分ある。
  で、国っていうのはそういうのを全部ひっくるめたものを指す。王はそれらの代表ではあっても、決して国は王の私物じゃない。全部は無理でも、少しでも多くみんながいいと思える国である事、それが俺なりのひとつの理想だと思うよ。アバウトだけど」
 「つまり―――サエの理想を実現したのが氷帝だったワケ?」
 「氷帝もそうだし、青学も実のところそうなんだろうね。だから氷帝では自分が上に上ろうとして、青学では自分を上に託す。
  ―――ああ、長々と邪魔しちゃ悪いね。そろそろ行くよ。勉強、頑張ってね」
 「ん・・・。サエもね」
 軽く手を上げ踵を返す佐伯を見送り、不二は置かれたカップを手にとった。
 一口飲み、
 「サエ」
 「何?」
 「ありがとう。凄く、おいしいよ」
 「そう? そりゃよかった。仕入れてきた奴が喜ぶよ」
 上げた手同様、佐伯は軽く微笑みフロアを出ていった。





 『景吾、周。お茶持って来たよ』
 『あ、ありがとうございます』
 『ありがとよ』
 『いえいえ。
  ああ、ところで周』
 『え? 何ですか?』
 『そのお茶、すぐ飲まない方がいい―――』
 『熱っちぃ!!!!』
 がしゃん!!
 『―――というワケだから』
 『てめぇ佐伯、一体何度で入れて来やがった!!』
 『えっと、今ここで入れたんだからそれ言えばいいんだよな。
  ・・・・・・最近のポットって便利だよな。温度計までついてるよ。後でどこで買ってきたのか聞いとこ。
  で、温度が・・・・・・
98度』
 『「茶」じゃねえ! そりゃ「熱湯」って言うんだ!!』
 『あ、それでさっきから下がゴボゴボ・・・・・・』
 『てめぇも気付いたんなら先言いやがれ!!』
 ゴン!
 『〜〜〜〜〜〜!!!』
 『はい。メイドに乱暴は働くなよ。そういう事するから人員不足になるんだからな』
 『てめぇだ原因は!! 何エラそうに説教こいてやがる!!
  大体なんだこの茶!! 色しかついてねえじゃねーか!!』
 『うわ。よくそんな所まで味わえる余裕あったなあの状況で。
  ちなみにまあ7番茶くらいだから。むしろ色つけるのだけでも
10分くらい沸かしながら浸した』
 『本気でただの熱湯じゃねえか!! 俺様に二番煎じ以降出すんじゃねえ!!』
 『失礼だな。どっかの国じゃ、杯を重ねる度に少しずつ変わる味を楽しむなんていう飲み方だってあるんだぜ?』
 『この茶はそういう飲み方はしねえ!! しかもやるとしても7杯目は行き過ぎだ!! エグ味と苦味しか出てねえじゃねえか!! いらねえ成分抽出してんじゃねえ!!』
 『そこまで出た時点で「ただの熱湯」じゃあないんじゃ・・・・・・』
 『は〜。お前もワガママだなあ。
  自分の雇ってる使用人たちがどんな思いでこんなお茶飲んでるか少しは知れよ』
 『あん? そこまで不自由させちゃいねえだろーが。茶っぱ位新しいの使えよ。禁止しちゃいねえだろ?』
 『だって色出るのに勿体ないじゃん』
 『そりゃてめぇらの勝手だろーが!!』
 『ちなみにそれはそんなのの出がらしだけどさ。さすがにもうこれ以上は無理だろってみんな言うからまだ大丈夫だって証明を』
 『それならてめぇがまず飲め!!』
 『ああ、長々と邪魔しちゃ悪いな。そろそろ行くよ。勉強頑張れよ』
 『おい待て!!』
 『あ、周おいで。向こうで口直しに1番茶用意されてるよ』
 『ありがとうございます』
 『待てっつってんだろ!!』
 『じゃ、景吾様お邪魔いたしました』
 『何1人爽やかに出ようとかしてやがる!! 待ちやがれ!!』
 がちゃん。
 『・・・・・・・・・・・・。
  ああ、本気で邪魔だったな・・・・・・』



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