3.D.D.
〜深遠より出ずるもの〜
過去と現在 跡部編
『お帰りなさいませ、跡部様、由美子様』
「ああ、帰ったぜ」
「ただいま」
入ってすぐのホールにて、主人たちを迎える使用人たちの作る列を通りつつ、跡部と由美子は途中にいた適当な人に荷物やコートを預けた。
「お帰りなさいませ。お疲れ様でした」
「ああ」
「ありがとう」
そんな言葉をかけてくる者に、跡部は視線をやることもなくとりあえず頷き、由美子は笑顔で礼を言い、
特にそれ以上は何をするでもなく、歩調も緩めず2人は列を抜けていった。
『お帰りなさいませ、跡部様』
『ああ・・・・・・・・・・・・。
―――おい! 下僕2号! てめぇもちゃんと俺様を迎えろ!!』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、景吾。お帰り』
『なんだそのおざなりな態度は。とりあえず階段下りてから言え! 俺様見下ろしてんじゃねえ!!』
『なんだよ。これでもお前が呼ぶからわざわざ来てやったんだぜ? 雑巾洗い途中だったってのに』
『俺様は雑巾以下か・・・・・・?』
『大体なんでいちいち帰ってくるたんびに迎えなきゃいけないんだよ。別にそういう事するために俺たちは働きに来てる訳じゃないだろ?』
『主人の出迎えは使用人としての立派な仕事の1つだ!!』
『そうだったのか・・・・・・!?』
『アーン? 何だその驚きっぷりは。てめぇ何しにウチ働きに来やがった?』
『お前に拉致られるまま』
『人聞きの悪りい事言ってんじゃねえ! てめぇだって普通について来ただろーが!!』
『「拉致」は否定せんのかいな』
『あーあ。今この瞬間を持ってお前の信用ガタ落ちだな』
『うっせえ!
何だろうがここで働くんだったらそれ相応の事はしろ。誰が金払ってやってると思ってんだ』
『人事課?』
『ンなモンねえよ! 俺様だ俺様!!』
『まあ働く者に対する相応の報酬だな。なかったら働いてるワケがない』
『ほおおおお・・・・・・。つまりてめぇは給料欲しさに俺様に尽くしてるってか? ああ?』
『そう思ってる人がこの中に何人も―――』
『思ってません!! 滅相もございません!!』
『―――と、即座に否定した人程怪しい』
『そりゃ確かに一般論だな』
『違います!!』
『ちっ・・・・・・』
『ハッ! 残念だったなあ佐伯。味方0じゃねえか。てめぇの負けだぜ』
『世間って冷たいなあ・・・・・・』
『てめぇにだけは言われたかねえってここにいる全員が思ってるぜ・・・・・・?』
『仕方ないなあ。
―――おーよしよし。景吾ぼっちゃま、ご苦労様でした―――』
ごすっ!!
『頭撫でんな目ぇ細めんな気味悪りい笑み浮かべんなぼっちゃまとか付けんなそもそも「ご苦労」は目上の奴に言う言葉じゃねえ!!!』
『・・・・・・・・・・・・。
目上だったんだ、お前』
『ああ!? てめぇいい度胸じゃねえか!! 表出ろ!!』
『ちょい待ちい跡部』
『忍足、まさかてめぇまでコイツの味方しようなんたあ思ってねえだろうな・・・・・・?』
『そらどっちの味方しようとも微塵も思とらんけどな。
とりあえず表出て決闘しようがそんでダブルノックアウトしようがその後何が起こったんか友情築こうがええけどな―――』
『どこのスポ根マンガだよそりゃ・・・・・・』
『というかその台詞はどっちも失礼だろ・・・・・・?』
『このままやと終わりそうにあらへんからな、俺ら戻るわ。出迎えもうええやろ?』
『ほら2人目』
『てめぇも出迎え反対派か!? 表出やがれ!!』
『俺だけかいな!?』