3.D.D.
            〜深遠より出ずるもの〜






  夢とうつつ 溺れる妄想










 部屋は命令どおり片付けられ、今は物置に使っているという。

 繋がりは完全に切れた。今や佐伯という存在があったことを証明するものは何も無い。

 ―――ただ俺の記憶の奥にしか。

 だから、俺は夢に溺れる。

 いいだろ? 他のどこにもいやしないんだから。










 「あら?」
 その日の真夜中、目が覚めたのは由美子の方だった。いや、彼女はいつも跡部と同じタイミングで起きていた。彼女が神経質だというより―――跡部と一緒に寝て熟睡出来る者は少ないだろう。跡部自身気付いているのかいないのかはともかくとして、
24時間フルに働く警戒心が最も強まるのが寝ている間だ。少しでも周りの空気に敏感な者は、この張り詰めた空気を前に気疲れを起こし、一週間と彼と睡眠を共にするのは無理だろう。
 周りの空気には敏感だが―――同時にいかなる状況下においても自分を見失わない精神的な強さを持つことに対して、今は感謝するべきか。
 今日彼女が起きたのは、逆を向いていた跡部が寝返りを打ったためだった。こちらを向く彼の前に置かれた手。それがこちらも頭脇に出していた手に重なったのだ。
 だが、跡部は目覚めなかった。それどころか―――
 「珍しい事が起こるものね」
 重なった手を、握り締められる。まるで乳児が反射的に差し出された指を握り締めるように。
 さらに両手で握り、顔を寄せてくる。導かれるまま頬を撫でてやると、寝顔が優しく緩まった。
 「ん・・・・・・」
 甘えるような、寝言。これまた珍しい。寝言・イビキ・歯軋りの類は一切なかった。
 「あ・・・・・・」
 2度目の寝言。薄く開かれた口元から、見せられた相手を煽るように小さく舌が出された。
 「ふは・・・・・・」
 白い―――間違いなく自分より白い肌が、紅く染まっていく。
 「ん・・・!」
 ピクリと跳ね上がる躰。静かに、しかしながら着実に荒くなっていく呼吸。
 乱れた髪が、噴き出し始めた汗により顔へと張り付く。跳ねた拍子で擦られ、ずれたパジャマから細いが筋肉のある、骨格のはっきりした肩が現れた。
 「う・・・あ・・・・・・」
 跡部の頭の下にある手はそのままに、由美子は布団をどけ体を起こした。自分と共に、跡部の全身もまた露になる。擦り合わせる脚の間でパジャマを持ち上げる彼の欲望もまた。
 「うん・・・・・・」
 自分の手に伝わる感触が変わる。いつの間にか頭の下から出された手。跡部は平を舐め、指をしゃぶっていた。
 「さって、どうしたものかしらね」
 口調だけは跡部が今夢の中で時を共にしている者と同じにし、しかしその実質全く悩むことはせず由美子はやんわりと手をどけた。自分は彼の求める存在ではない。
 なくなった手を惜しげに捜すこと2度3度。諦めたか跡部は代わりに自分の指を咥えた。さらに逆の手でパジャマのボタンを外していく。
 「ふ、う・・・・・・く・・・・・・!」
 胸の飾りをいじって下へ。口に入れていた手もまた、下へと送った。
 「うあ・・・。ん・・・!」
 パジャマの中で蠢く両手。直に見るより艶かしいそれ。喉を反り返らせ、よりいっそう激しく、しかしながら声は押し殺して。
 「あ・・・・・・!!」
 殺せなかったラストの一声でぱたりと力尽きる。また、深い眠りに入るのだろう。ゆっくりなる呼吸のストロークの中で、
 「佐伯・・・・・・・・・・・・」
 その呟きだけは、よく聞き取れた。
 乱れた彼の姿。ボタンは留め直し、濡れた手と欲望は舐めて汚れを落としてやる。その最中にちらりと跡部の方を見上げても、今度は全く何の反応も見せなかった。
 全てを支配する彼は夢によって支配されている。では自分は今何によって支配されているのだろう。思い、苦笑する。自分の下もまた、濡れていた。
 「おやすみなさい、跡部君」
 由美子は先ほどあんな事をしていたとは到底信じられないあどけない寝顔で眠る跡部に触れるだけのキスをし、ベッドから立ち上がった。
 机に向かう彼女が実に楽しげに笑っていたことを知るのは、もちろん彼女ただ1人・・・・・・。



4.NonStop Rocket! へ












ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ


 ―――暗いです。歌に合わせて? ひたすら暗いです。というわけで3のタイトル元ネタは、ラブプリ今度は
Sweetより、跡部の『Dig Deep』でした。ただしこの歌だと跡部の立場が逆転していきそうな気もしますが。この話ではどちらかというと迎えを待つ側か。しかし待ちきれずに自ら飛び出していきそうだ。跡部というとおとぎ話で塔の上のお姫様役をやり、王子が迎えに来る前に自力脱出ついでに悪役成敗してくれそうだ、というのがイメージだという自分もどうかと思います。
 ではいよいよラスト。タイトル連想、ご存知の方にとっては1番簡単だと思います。『ロケット』なんてまんまなモン出した挙句サブタイなんて歌詞の順番入れ替えた程度。はい、いよいよというか全編に渡り当然の如くでばりまくっていますが、そんな彼の活躍―――が見られるのか!?
 そういえばの話。この歌を元にした上話の内容からすると、むしろカラーは白にして雪のイメージを出すのが普通でしょうが―――『
Deep』と聞くとどうも『樹海』という固定観念があったためやったら暗い深緑になりました。まあ余談ですが。

2004.3.194.12