4.NonStop Rocket!
〜どこへでも連れて行きたい!〜
敵に回して怖い人1と2
「あ、姉さんから返事だ」
「へえ、どれどれ」
「あ、サエ! 国間で送られる重要書類を見ちゃ駄目だよ」
「そりゃ失礼。じゃあ聞いてるから読み上げてくれよ」
「それじゃ意味ないじゃないか・・・・・・と思ったらサエ宛だった」
「え? 俺宛?」
「はい。こっちの1枚」
渡された1枚―――文字通り本当にただの1枚。メモ1枚しか入れなかったこちらに対抗したのだろうかと思わせるほどに、それは封筒にも入れられずそこらにあったいらない紙を使いました的簡素さだった―――を手に取り、
「・・・・・・・・・・・・やられたね」
佐伯は、素直にそう感想を洩らしていた。
「何が?」
「この間の返事」
問う不二に、紙を差し出す。外見どおり簡素にまとめられた中身は・・・・・・
「<私に後始末を押し付けた借りは高くつくわよ。覚悟しておきなさい>?」
「う〜ん。さすが由美子さん。タダでは使われてくれないか」
「可哀想にサエ。姉さんなら3倍どころか10倍返しは固いよ」
「はあ。何をどう覚悟しておけばいいんだか・・・・・・」
「あ、ちょっと待って。僕の方―――」
ため息をついて去ろうとした佐伯を引き止め、不二が自分宛に来ていた方の手紙をぱらぱらとめくった。内容は差し障りのない近況報告がメイン。そしてラストに―――
「<結婚生活も落ち着いてきたので、近いうちに一度里帰りなんかしてみようかと思います>。
―――何が来るか大体の想像はつくね」
佐伯のため息がさらに重くなる。
「はあ・・・・・・。
国際問題とかに発展したらどうしてくれるんだよ」
「とりあえず責任とってサエはクビ?」
「入ったばっかだってのに・・・・・・」
ψ ψ ψ ψ ψ
「やあ景吾君。新婚生活はどうかな?」
「親父・・・。何しに来やがった・・・・・・?」
「それは酷い言い方だなあ。僕はただアツアツ新婚生活を営む君の見物に来ただけだよ。ついでにもちろんそんな君たちに僕の自慢の妻を見せびらかすために」
「来んな! 帰れ!!」
なぜかいきなり息子のマイホーム訪問に来た跡部父と母。年齢不詳の彼ら2人は、一切アポなし警護なし(どころか本人等が馬車を操って来た)の姿と合わせると、まるでふらりと訪れた跡部の友人のようだ。知らない限り、彼らが現帝王だなどとわかる者はいまい。そんな雰囲気も見事なまでに皆無だ。
「あら、お義父様、お義母様、ようこそいらっしゃいました」
「由美子さん、勝手にあがってしまってごめんなさいね」
「やあ由美子君、結婚式以来だね。どうだい? 新婚生活の方は」
「ええ。楽しくやらせて頂いてますわ」
「それはよかった」
「ちっともよくねえよ。だから何しに来やがった・・・・・・!」
「だから言ったじゃないか。僕はただアツアツ新婚生活を営む君の、目も背けたくなるいちゃいちゃバカップルっぷりを見物に来ただけだよ。ついでにもちろんそんな君たちに僕の最愛の妻・琴美を見せびらかすために。意外と君は物覚えが悪いな」
「まあ、狂介さんったら」
「ふふ。それは楽しみですわ。ぜひ参考にしないと」
「言ってねえ! 台詞増えてんだろーが!! それに母さんもあんたも真に受けんな!!」
「そんな話はさておいて。
ところで景吾君、由美子君。暫くヒマかい?」
「あん?」
「また、なぜですか?」
「君たちの結婚式は氷帝[こちら]で挙げただろう? そしてそれ以来ずっとこちらにいる。おかげで青学の方にはロクな挨拶もしていない。
由美子君は王位こそ継承していないとはいえ青学では立派な現王の娘だ。その彼女が如何なる者のところへと行くのか、国民ならば気になるだろうに我々はその辺りに対する配慮が足りなかった。これは由々しき問題だ――――――と昨日ふと思い出した」
「ラスト10文字で説得力は皆無になったな」
「まあそんなボケぶりを遺憾なく発揮するのもまた狂介さんの良いところですもの。でしょう?」
「俺はこんな奴の息子なのか・・・・・・」
「この事実は重いよ。なにせ結婚前の両親への挨拶といえば花嫁側から行うのが一般常識[セオリー]」
「どこの世界での常識だ!」
「どこの世界でも常識だ。
というわけで青学の方へ訪問しようかと思う。そして君たちを連れ込む事で『こんな風に生活してますよ』と実際を見せて来ようかと。百聞は一見にしかずという言葉もあるし、何よりそれだと手間が省ける。どうだい?」
「とことん行く気の無くす説明だった―――」
「それはいいですね。ぜひともご同伴させて頂きますわ」
「ああ?」
胸の前で両手を合わせ、あっさり同意する由美子にもの凄く不審げな視線を送る跡部。が、
「行きましょうね、跡部君」
「そうよ景吾。由美子ちゃんにとっては久々の里帰りだもの。ぜひとも叶えてあげてこその頼れる夫よ?」
「だったら由美子だけ行きゃい―――」
「行きましょうね、跡部君」
「そうよ景吾」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
――――――何で俺は逆らえねえんだ?」
「人はそれを『恋』と―――」
「言わねえよ」