4.NonStop Rocket!
〜どこへでも連れて行きたい!〜
そこはかとなく間違った使用人生活4 夜
夜。
青学王家たる不二家には名物がある―――らしい。不二曰く。
「じゃ〜ん! 露天風呂〜♪」
「名物・・・か?」
「名物だよ、ここは。なんと選ばれた人だけが入れる文字通りの裸と裸の付き合い現場。武器・暗器の持ち込みはもちろん不可」
「選ばれた? じゃあ俺が入っちゃマズくないか?」
「大丈夫だよ。来れる人なら誰でも入ってOKだし」
「選ばれてねえ!!」
そんなやり取りを経て、3人は露天風呂へと入った。なお裕太は不二が誘ったところ、「・・・・・・・・・・・・。俺聴きたいラジオあるから後ででいいや」と視線を逸らして断ってきた。絶対他の時間で代用の仕様がない用事に、不二も渋々と諦めこうして3人となった。
「跡部〜。随分遅いじゃん。服脱ぐの手伝おっか?」
「うっせー。先行ってろ」
「そ? じゃあ周ちゃん、こういうのは放って置いて先行こっか」
「そうだね。
跡部−。早く来てね〜」
「ははっ。そりゃ酷だって。ゆっくりでいいよ。お・ぼ・っ・ちゃ・ま」
「さっさと行きやがれ!!」
ははははは〜・・・と遠ざかっていく笑い。完全に消えたところで、
は〜〜〜〜〜・・・と跡部は長い長いため息をついた。
「くそっ・・・。アイツと風呂かよ・・・。まあ不二もいるしさすがに変な事はしてこねえよな・・・・・・」
ため息の理由は安堵かそれとも失望か。どちらとも判断をつけさせないまま、跡部はそれを打ち消すようにため息をさらにつき、服をするすると脱いでいった。
『景吾、服脱ぐの手伝おっか?』
『ああ? ンなの別に1人で出来る―――っててめぇは何してやがる』
『ん? 景吾の服脱がしてるだけだけど?』
『だったら余計なトコ触ってんじゃねえ!』
『余計なトコ? こことか?』
『ん・・・!』
『もしくはこことか?』
『あ・・・・・・』
『じゃああるいは―――』
がしっ!
『さっさと脱がせろ』
『随分大胆な誘いだな。恥じらい0ってとこか』
がん!!
『てめぇだけにゃ言われたくねえ!!!』
『お客さん、痛くないですか〜?』
『・・・・・・何のノリだ次は』
『番頭さん風? もしくは美容院のノリで』
『・・・・・・。狙い丸見えのノリだな』
『いや。番頭さんはともかくとして美容院は意外と穴場だと思わないか?』
『・・・・・・・・・・・・。つまり?』
『だからさ―――
――――――「お客さ〜ん。ここ気持ちいいですか〜?」』
『ゔ・・・! てめ・・・・・・!!』
『「あ、気持ち良さそうですね〜。ではマッサージもしますよ〜」』
『そーいう・・・・・・あからさまなセクハラ止めろ・・・・・・!!』
『「もっとやって欲しい? ではご要望にお応えしまして前だけではなく後ろもお洗い致します」』
『うあっ・・・!! ンな台詞・・・言わねえよ美容院じゃ・・・・・・!!』
『なんだ。本格的にやりたかったんだイメクラ』
『てめぇといっしょにすんじゃねえ! 俺は・・・あ!!』
『「は〜いお客さん暴れないでくださいね〜」
主人のご要望とあれば続けないとな。「暴れると余計痛くなりますよ〜」』
『本格的に・・・何屋だよそりゃ・・・・・・』
『今度は病院ってトコか?』
『うあ。下ネタ丸出しじゃねえか・・・・・・』
『もの凄い病院に対して失礼な言い方だな』
『そりゃてめぇだてめぇ』
『「そういう聞き分けのない子にはぶすっと注射を一発―――」』
『そういうのを下ネタだっつってんだ!!』
『はあ・・・。はあ・・・・・・。やっと終わった・・・・・・』
『ほら拭くから寝るなよ?』
『寝てねえ―――ん・・・。
だから・・・・・・どこ拭いてやがるてめぇは』
『濡れてるトコ』
『うっせえ! ん・・・は・・・・・・』
『あーどんどん濡れてくるな。これじゃ服着せらんないじゃん』
『てめぇが弄って―――んあ・・・!』
『仕方ないなあ。じゃあもう一回風呂に―――』
『入んねえでいい!!』
服を脱ぎ、風呂に入る。確かに少々途中で止まってはいたが―――
(いくらなんで早過ぎねえか・・・? アイツら・・・・・・)
先に入っていた2人―――佐伯と不二は、全身洗い終わりもう風呂に入っていた。こちらに背を向け外を見てのんびりする2人。何を話しているのか、時折声も上げて笑ってみたり。
(・・・・・・・・・・・・いいけどな。別に)
何を思うでもなく―――
(思ってねえからな。ぜってー)
跡部もまた、シャワーに向かって腰を下ろす。シャワーに向かい―――同時に2人に背を向けて。
頭を洗い、体を洗う跡部。その後姿を見て、
2人は忍び笑いを浮かべていた。
「さ〜って、と」
「そろそろ行こうか」
音もなく風呂から出る2人。気配と足音を消して歩く、その先には・・・・・・
「うあっ!?」
「うわっ!!」
「・・・・・・ってお前もそこまで驚くなよ。周ちゃんまでびびってんじゃん」
微妙な警戒心バリバリのところを後ろから両腕拘束されついつい必要以上に声を上げる跡部・・・・・・とその声に驚きこちらも声を上げる不二。佐伯に突っ込まれ、互いに我に返る。
「って何やってんだてめぇらは!!」
「いや別に。やっぱ使用人として主の背中を流すくらい当然の仕事だろ?」
「はい跡部、じっとしててねvv」
「暴れると余計に大変になるからなvv」
怪しい笑顔で2人がタオルの下から手をにぎにぎさせる。ヘタなホラーよりも遥かに恐怖映像と化したそれに、
「誰がてめぇらの好き勝手にさせるか!!」
本能からの恐怖に駆られ、跡部は体を前に倒して腕を引き抜いた。バランス悪くしゃがみ込んでいたところでの突然の動作に、2人の体が前へと泳ぐ。
一瞬の機を見逃さず、引き抜いた両手を後ろに回した跡部が2人の首を押さえつける。そのまま捻りを入れつつ前に倒すと、2人は仰向けで完全に拘束される形となった。
2人の上にのしかかり、跡部が勝者の笑みを浮かべる。
浮かべ―――
「よし、これで―――」
がらっ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
入って来た狂介を前に、その先の言葉も忘れ黙りこくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
恐ろしく気まずい空気が流れる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さらに暫く流れ、
「―――――――――――――――――――――――――景吾君、一応妻のある身でそのような乱交もどうかと思うよ。しかも嫌がってるじゃないか」
狂介のため息に、再びどこかへ行っていた意識を現実に引き戻した跡部が下を見やる。
「跡部ってばそんな、ヒドいよ・・・・・・」
体を縮こまらせ、目元に両の拳を当て泣く不二。
「跡部、お前・・・見損なったぞ・・・・・・」
いっそ堂々とした潔い態度で、しかし視線だけは逸らして哀しげに呟く佐伯。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙は、先程の数倍に及んだ。
「ホラ」
「てめぇらざけんなあああああああああああああ!!!!!!!」