4.NonStop Rocket!
               〜どこへでも連れて行きたい!〜






  そこはかとなく間違った使用人生活番外編 1日中


 暫く経つまでもなかったが不二家にて、またも客人が現れた。
 「すみませ〜ん。青学の王様に会いたいんですけど・・・」
 「何者だ!? 貴様は!!」
 「ここは王の住まう城だぞ!? 一般人の立ち入りは認めん!!」
 「え〜っと・・・。じゃあ物売りって事で〜・・・・・・ダメ?」
 「駄目に決まってるだろ!? あからさまな嘘つきやがって!!」
 「え〜!? ホントだって!」
 「どこがだ!! 『え〜っと』とか悩んだ挙句今思いつきました的『じゃあ』とか言ってただろーが!!」
 「ならば緊急手段の第2弾! 今ここに跡部くんとか来てるでしょ!? 実は俺ってば知り合いでさ〜。今日呼ばれて―――」
 『嘘つけええええええ!!!!!
 「えええええええ!!!????」
 「何だその『緊急手段の第2弾』とか言うのは!? しかもまた『ならば』だの『実は』だの怪しさ大爆発の台詞ぶっこきやがって!!!」
 「貴様何が狙いだ!! 氷帝帝王が来てるのも知っているようだが、まさかこの機に乗じて何かやる気か!?」
 「そんなんじゃないって! 俺は跡部くんと由美子さんの結婚生活がどうなってるかな〜って―――」
 『問答無用!!』
 「うわああああああああ!!!!!!」
 己の職務の手は抜かない兵士たち。今日も1人でのこのこやってきて、ワケのわからない事をホザく男へ一斉に槍を向け―――
 「―――あん? 千石じゃねえか」
 「あれ? 久しぶりだね、千石君」
 「というか、何やってんだ? お前」
 丁度通りかかった跡部・不二・佐伯の言葉に一斉に固まった。
 「跡部くん、周くん、サエくん!!」
 その脇をすり抜け、涙目の男―――千石が3人へと走り寄った。
 3人まとめて抱きつこうとして・・・
 がんどすずびしっ!!
 跡部と佐伯の見事なコンビネーションの前に、せっかくくぐりぬけた死線へもう一度逆送りされた。
 「あ、あの・・・、この、方、は・・・・・・?」
 この場にいた兵士の中でも最も位が高いらしい男が、かなり引きつつもやはり職務を優先させ尋ねてきた。青学と氷帝、2国の王子と(一応)直接知り合い(らしい)という事で、微妙に言い方がランクアップされている。
 一方質問された側は―――
 「ああ、彼は―――」
 「コイツか? 知らねえヤツだ」
 「え・・・? あの・・・・・・」
 「危ないなあいきなりつっかかってきて。もしかして暗殺―――じゃあないけど―――が目的だったりしたんじゃないか?」
 「ねえ、2人ともさあ・・・・・・」
 「簀巻きにしてそこらのドブ川にでも放り込んでおけ」
 「ああ、だったら城の前に逆さ吊りにして見せ物代わりにしておくとかは? それだけの恥をさらしておけばさすがに2度と青学へは足を踏み入れないだろ」
 「・・・・・・」
 本人が反論しようのない状況に置かれているのをいい事に、かなりの暴言を吐きまくる跡部と佐伯。不二が諦めて黙り込んだところで、
 「―――ってちょっと2人とも!! いくらなんでもっていうかいつもどおりだけど! 酷すぎじゃない!?」
 本人自らがばりと起き上がり反論してきた。
 「ああ千石、生きてたんだ」
 「よかったなそりゃ」
 「うっわ〜。すっごい棒読みありがとう。
  でもってありがとついでに出来れば俺の身分証明してくれないかなあ?」
 「何で?」
 「だから跡部くんと由美子さんのお祝いをしたくて・・・・・・っていうかさ、実は3人とも最初っから聞いてたっしょ」
 半眼で問う千石に、跡部と佐伯が朗らかに笑ってみせた。
 「クックックックック。随分な扱い受けてたなあ、千石」
 「ははっ。お前には随分お似合いだったなあ。いろいろと笑わせてもらったよ」
 「・・・・・・・・・・・・朗らか?」
 それはともかくとして。
 結局門前でこれ以上騒ぎ続けていても邪魔なだけなので、一応請求された通り知り合いの物売りである事は証明しておき、千石交え4人は改めて中へと入った。
 「そういやお前、室町と壇は?」
 「今日は俺1人。室町くんは祝い事とかあんま好きじゃないって言うし、壇くんはほとんど会った事もないのに自分がお祝い言いに来るのはむしろ失礼だって断ってきちゃって」
 「てめぇ1人で来させんのが1番失礼だろ」
 「ま〜そ〜言わずにさあ―――」
 「―――何やってるの?」
 さらに加わる、第5の声。表での騒ぎを聞きつけたのだろうか、別段急ぐでもなく歩いてきた由美子が、こちらを見つけきょとんと首を傾げていた。
 「ああ姉さん、何でもないんだけど・・・」
 「あら、その子―――」
 何をどう説明すればいいのか悩む不二を半ば遮る形で呟く。馴染みの3人と共にいる、見覚えのある4人目を細い指で軽く指差し―――
 が、
 「由美子さんvv お久ぶりですvvv」
 殊可愛い子と美人さんには敏感な―――むしろ過敏すぎる傾向にある―――千石の方が、もちろん反応は早かった。
 いつの間にそこまで近寄ったのか、瞬間移動並みの速度で玄関から正面階段までの
15mほどを移動し、指そうとした指ごと由美子の手を両手で握り締めた。
 「あの時は由美子さんが青学の王子だったなどと知らずいろいろ失礼を致しました。あ〜でもすっごいぴったりですね。由美子さんみたいな人が王になる国なら俺すぐにそっち移りますよ。そんな由美子さんに覚えてもらっていて俺ってばホンットラッキ―――」
 ここで、千石の台詞は突如途切れた。後ろからずがずが歩いてきた跡部と佐伯にダブルかかと落としを喰らい。
 「だからそういう事やんなっつってんだろ」
 「大体由美子さんは跡部の奥さんだろうが。人妻に手は出すなよ」
 没した千石を見下ろし深いため息をつく2人。由美子もまた千石を見下ろし、
 顔を上げて、くすりと笑った。
 2人に向け、告げる。
 「優しいのね」
 意味がわからず2人が顔を上げてくる。彼らの方が
10cm前後背は高いのだが(まあ自分がハイヒールを履いている分差は5cm程度に収まっているが)、偶然ながらも可愛らしく上目遣いで見上げてくる2人に由美子は思わず吹き出した。
 「・・・・・・何だよ」
 可愛らしさから一転、憮然とした表情で呻く跡部に両手を合わせ素直に謝る。
 「ごめんなさい。何でもないわ」
 「そこはもういい。その前のは?」
 「跡部くんのような人が夫になってくれて嬉しいわ」
 「嘘つけ」
 「あら、本心なのに」
 たとえ好きではなくとも庇おうとして。
 むしろ嫌いだろうに放ってはおけなくて。
 不器用で、自分の思い通りになかなか事が進められなくて、でも優しくて。
 そんな彼らだから、応援したくなる。支えたくなる。
 「そういえば千石君ってお祝いに来たんじゃなかったっけ?」
 「祝い、っつーか結婚生活見に来たとか言ってやがったよな?」
 「いきなりそれで奥さんナンパする辺りさすがだよな」
 「やっぱ捨てとけ」
 「単純に捨てたって戻ってくるだろ。もっと効果的な手段考えないと・・・・・・」
 まだ倒れっ放しの千石を囲んでそんな事を言い合う2人に向け、
 由美子はもう一度、同じ笑みを向けた。





 その後、千石は不二家で1泊して帰っていった。
 「じゃ〜ね〜。ばいば〜い♪」
 去り行く彼を見送り、思う。
 「結局アイツは何しにきたんだ?」
 『さあ・・・・・・?』



再び過去と現在と  跡部編