§1 『愛情』のカタチ
佐伯・千石【0日目・山吹にて『爆笑作戦会議』】
「サエくん遅〜い!!」
「はあ!? これでも全力で馬車走らせて来たんだぜ!? 途中で速度規制に引っかかって役人に追いかけられたりしたときも逃げ切ったし轢きかけた人とかにはちゃんと慰謝料置いてきたし!」
「・・・・・・ごめん。今すぐ国出ること勧める」
「・・・・・・・・・・・・あくまで本気で取られんのか? お前の中での俺って何なんだよ?」
「ああ何だ。やってないのか」
「何だよその腹の底から残念そうな顔」
「そんな事ないよv 絶対vv」
「うわうさんくさ・・・・・・」
「説得力0って感じだね」
「周くんまで・・・・・・(泣)」
「―――そんな事している場合じゃないんじゃないかしら?」
由美子の静かな突っ込みに、ハッ!と3人で目覚める。
「そ、そういえば跡部くんの一大事じゃん!」
「そうだろうが千石! 何お前勝手に話題逸らしてんだよ!!」
「いや今のサエの方が逸らしたんじゃないかな・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・。
あなたたち、もしかして逆さ吊りにされて下からルーブルでも焚かれないと話先に進められない(にっこり)?」
『すみません今すぐ進めさせていただきます』
由美子の誠意溢れる説得に、馬車から降りた佐伯と不二、さらに出迎えた千石も一斉に頭を下げた。
ルーブル―――正確にはルーブル草。前回出てきたコニの葉と同じく超即効性のある毒物である。ただし、現れる『効能』はコニの葉のような可愛いレベルではない。一応最初は頭クラクラしてちょっと気持ちいいらしいが、即座に咳き込んで涙流して白目剥いて喉掻き毟ってうなされて、涎垂らして悶絶して時々意味不明の雄叫びを上げて・・・などという感じで3日間ひたすら苦しむハメとなる。3日経つとけろりとし、2度目以降は効果がほとんどなくなるのが特徴だが―――当り前の話、1度も試したいとは思わない。ついでにコレをさらに最悪せしめる理由として・・・焚いて出る煙は非常に嫌な色、少しの量から不必要なまでに膨大に出、かつ空気と同比重のため逃げようがない。その上煙は火がついている時より消してからの方がより大量に出るという最悪を通り越して最早天晴れな一品。念のため付け加えておくが別にこれはそうなるよう品種改良されてはいない。天然に生えている状態でコレである。知らずに野宿する際の焚き火として利用し中毒にかかる人も多い。
こんなはた迷惑極まりない草は、主に鎮圧や拷問用に使用される。そう、丁度今のように。
綺麗に微笑む由美子から目を逸らして、互いの情報を交換する。戦争勃発の話。亜久津が言っていた人物像。主を捨て(笑)帰って来た馬と、そのこめかみについた矢か刃物と思しき傷。全てを足せばもちろん得られる結論は1つで。
「景吾・・・・・・」
額に手を当て、呆れ返る佐伯。
「あーもーそこまで来ると充分だね」
千石もまた、推測を確信に変える。
「で、どうするの?」
いっそ無邪気と言えるほどの軽さでなされる不二の質問(事の重大さがわかっていないというよりは、むしろ跡部が絡んだ時点でこの程度は予想済みだったのだろう。あるいは跡部が絡んでこの程度である事に拍子抜けもとい安心しているか)に、
「う〜ん。とりあえずもうすぐサエくん宛てに狂介さんからいろいろ届けられるから、それ持って『戦争』に行こっか」
「は? 俺宛て?」
佐伯が首を傾げると同時―――
どさどさどさっ!
『うわっ!?』
荷物のみ取り残されていた馬車の幌、中から溢れ出たものに思わず全員で声を上げる。さすが工業国の氷帝製というか、無愛想な鋼鉄の拳銃やら大砲やら爆弾やらがごろごろ出てくる。ちなみに『無愛想』というのは厳密には語弊だ。氷帝国民に言わせれば「カーブのシャープさが芸術美」だの「複雑なパーツの組み合わさりはそれだけで美術品だ」などとなる・・・らしい。氷帝国民以外に言わせると「まあ機能美を重視するんなら見た目はさして気にする必要ないんじゃない?」となるが。あくまでそれでも見た目にもこだわりたい人は、それを持って細工業を国業の1つとしている隣国・青学へと行く。
そんな事を呆然と考えてしまったのは―――目の前で起こった事を整理するのにそれだけ時間がいったからだ。
「ど、どうやって・・・!?」
由美子ですら思わず呻く。もちろん魔法の類を使ったのだろうが、ものの転送というのは開始点と終止点、どちらにも干渉―――早い話が用意が必要だ。だからこそ会話1つも互いに同じ物を持った上で行なっているのだし、跡部の胸に描かれている陣もまた同じ理由による。そして、だからこそ千石は『受取人はサエくん』と伝えていたのだ。魔術が使えない千石は『終止点』としての機能を果たせない。
が―――
「今、誰も何もやってない、よな・・・・・・?」
「って事はもしかして・・・・・・」
「伝話機を終止点代わりにして無理矢理送った・・・・・・?」
確かに伝話機の1つは今佐伯が持っている。というかその幌の中に入れていた。声の代わりに物品を送るのもまた―――理論上はありえなくもないかもしれない。
「出来るのかしら・・・? そんな事・・・・・・」
「う〜ん・・・。さすが氷帝随一の魔法使いらはやる事が違う・・・・・・」
「恐るべし跡部夫妻・・・ってこの言い方もなんですけど」
「いえいいわよ。私も跡部君も到底追いつけないから」
後ろ向きに話題が終了。
気を取り直し、
「ん・・・んじゃあさっそくその村行こっか」
―――話の最中出てきた『ルーブル』。これまたどっかで聞いた(読んだ)効能だなあともし気付かれた方がいらっしゃったら凄いです! パラレル『Survive〜』の山吹&六角編にて2人が敵の脅し用に使っていた謎の草がコレだったりします。ちなみにもちろん実在はしません。名前は美術館ですが(笑)。