§1 『愛情』のカタチ
跡部・佐伯・千石【2日目・不動峰にて作戦開始】
ドオン―――! ドォーン―――!!
「何だ・・・?」
篭った音と共に細かく振動する地面に、今日もまた跡部の見張り役となっていた神尾が声を上げた。
「―――大変だ! 村のあちこちから火の手が上がってる!!」
『なっ・・・!?』
カーテンを開け入って来た兵士その1の報告。慄く神尾以下やはり兵士数名を見下ろし、
(始まりやがったか・・・・・・)
跡部は口の中で呟き、がちゃがちゃと鎖に吊るされた手を動かし始めた。
ψ ψ ψ ψ ψ
夜の地上に咲き誇る艶やかな華。早い話が爆弾投下の成果として各所から火柱と煙を上げるくぼ地を見下ろし、
「わ〜。すご〜い!」
ぱちぱちぱち。
「じゃあ周ちゃん、次こっち行くよ」
「よ〜しんじゃあ俺も負けないよ〜!」
「ふふ。微笑ましいわねえ」
そんな、学芸会のようなノリで次々と投下されるいろいろ。
「な、何だ!? 何が起こってるんだ!?」
「敵襲だ!! 敵が攻めてきたぞ!?」
「馬鹿な!? こっちには人質が大勢いるんだぞ!?」
「構わず攻めて来たのか山吹の軍は!?」
「狂ってる!! 狂ってるぞこの国は!!」
投下された側はなにやら大変な事になり―――ついでに山吹の評判がガタ落ちになっているが―――それらを気にする精神の持ち主はここにはいなかった。
「ふふ。なら清純君、これ使う?」
笑い、由美子が首から下げていたペンダントを外した。それは―――
「え・・・? これってこの間俺が売ろうとしたやつですよね・・・?」
思い出溢れる運命の出会い。それを導いた幸運のペンダントは・・・
―――今だ買い取り手もなく『商品その1』として千石の荷物の中に入っていた・・・筈だ。
「似てるけど違うわ。これは私が元々持っていたもの。同じタイプだけどね」
はい、と手渡される。一見ただのペンダント。しかし―――
中心についている一番大きな宝石を月明かりに透かし、問う。
「一応訊きますけど・・・コレ、安全ですか?」
「どうかしら?」
「うえぇ!?」
「道具は使い手により変わる。でしょう?」
「そ、それはまあそうですけど〜・・・・・・」
さすがにうろたえる千石。理論には間違いはないが―――異魔具においては使い手と同時に作り手にも左右される。作り手がスカならどんなに上手に使いこなそうとしても無駄だ。この辺りは実のところ魔具のみならず全ての道具にいえるかもしれないが。
たとえ魔法そのものは使えなくとも、魔具の扱いに関しては自ら『魔法使い』と名乗るだけあって、千石は『使い手』として自分に自信は持っている。が、それでもうろたえるのは・・・・・・その魔具の効果にあった。
さすが青学王子(今では氷帝王子だが)である由美子の持つ物件。力の大元は青学に多い『風』だった。暴風と真空をミックスした竜巻を発生させるという極めて凶悪性の高い術。制御をミスって自分達も喰らえばただでは済まない。いや、村に使うにしてもあちこちに火の手が上がる今、ヘタな場所に動かせば火を煽り村丸ごと焼き払う可能性もある。
そんな危険物品を笑顔で差し出す―――というかそんな危険物品を普通に身につけている彼女に底知れぬ恐怖を覚える。ちなみにコレ、どこが『幸運の』ペンダントなのかと言うと・・・・・・『邪魔者を物理的に排除して現実的に幸運を手に入れる』という意味だったりする。
手にしたまま冷や汗を流して固まる千石に、
「使いこなす自信はない?」
くすりと笑い、由美子が言葉による爆弾を投下した。
「そ・・・そ〜んなワケないじゃないですかv
よ〜し頑張るぞ〜!!」
「その調子よ。頑張ってねv」
ペンダントごと握り拳を振り回す千石とにこやかに応援する由美子。
「うーわ遊ばれてるな〜、千石」
「いやサエ・・・。君がそれ言う権利はないと思うよ・・・・・・」
「ああ。だから俺もちゃんと由美子さんを見習おうと―――」
2人のやり取りを見守る佐伯。彼にしては珍しく瞳を輝かせていて。
明らかに本気で言っている彼を遠くから見、
「・・・・・・頑張ってね、跡部」
不二もまた、小さな声でエールを送った。