§1 『愛情』のカタチ
橘【2日目・不動峰にて気持ちよく敗北宣言】
倒れる不動峰兵の中、かろうじて気絶は免れた橘が出て行こうとする2人へと手を伸ばした。
「ま、待て・・・!!」
「あん?」
「俺達の負けだ・・・。今すぐ兵を止める・・・。だからそれまで待ってくれ・・・」
跡部が、橘をじっと見やる。佐伯は特に何も言わない。跡部の命に従うつもりだろう。もう彼に反抗する理由はなくなった。
じっと見て―――
へっと笑う。
「断る」
「・・・・・・何?」
「ンなモン待ってやってるほど暇じゃねえ」
「正気か!? 今出て行けばお前たちは兵全員の攻撃対象になるんだぞ!? しかもこれだけ騒ぎを起こしたんだ。もう兵たちも手加減しねえぞ!!」
「だから?」
橘の制止を、3文字で断ち切る跡部。佐伯もまた、とても好青年には見えない面白そうな笑みを浮べている。
「それがどうしたよ? ンなの端から承知してるに決まってんだろ?」
「殺されるぞ本気で!!」
「いいじゃねえの。どうせ『祭り』だ。裏細工なんぞしちまったら興ざめじゃねえか。
今までの事で、俺らに一泡吹かせてえヤツなんてわんさといんだろ? せいぜい頑張んな。前回みたいにタダじゃあ捕まんねえぜ、俺らは」
「景吾。無駄話はそこらへんにしてそろそろ行くぞ。結構集まってきた」
「んじゃな橘。運が良きゃまた会おうぜ」
「ははっ。じゃあお前は絶対ムリだな」
「うっせーよ」
いつもの掛け合い漫才。もうそこには何のわだかまりもなく。
出て行く2人を見送り、
力尽き、橘は床へと倒れこんだ。
周りでは同じく倒れる仲間たち。だが気絶させられただけだ。致命傷どころか怪我一つ負っていない。上手い手を考えるものだ。一定空間の空気を閉じ込め、熱で膨張させ一気に弾けさせるなど。熱風で息は詰まったが、それも一瞬だ。火傷すらしていない。
衝撃波で脳を揺さぶられくらくらする頭を休めるように瞳を閉じ、はははははと大きな声で笑う。
「なるほどな。氷帝に―――山吹もか。あんなヤツらがいる国なら、そりゃ『間違った方向』には進みそうもないな」
今回の不動峰による侵略戦争。元を正せば皆同じ思いだった。自分の国を守りたい。争いもなく、差別もない平和な国へ。
もしかしたら、不動峰王国の『狂王』もまた同じ思いだったのかもしれない。やり方がマズかっただけで。
「だとしたら、ちったあ悪りい事しちまったかもな」
囁き、さらに笑う。思い浮かべるは、もちろんかの男ら。
「跡部景吾―――氷帝の、次期帝王最有力候補、か・・・。あんなヤツらが治める国なら、さぞかし変わった国になんだろーな」
あるいはこんな『狂王』よりも遥かに。
だがわかる。あの男なら大丈夫だと。ちゃんと止める存在である。ちゃんと正しい道に導く存在である。
『王』の役割はただ先端に立つだけではない。時に手を引き、時に後ろから押し、時に並んで歩く。全てをこなせ、初めて民は王を王として認める。王の元へと集まる。
きっとそう遠くない未来、名目上彼が、実質みんなが治める、破天荒だが素晴らしい国が出来上がるのだろう。
「俺らも、負けない国創んねえとな。そうだろ? なあ、お前ら・・・・・・」