§1 『愛情』のカタチ
千石4【2日目・不動峰にて半モノローグ】
「さってそろそろサエくん突入から1時間。2人とも無事脱出出来たかな〜?」
「出来たんじゃないかしら? 何だか騒がしいし、それに―――」
あの2人だもの。
続けようとして、
「―――あら?」
由美子は言葉を切った。
直接爆破だのなんだのされている現地ほどではないが、こちらも火薬を炸裂させて弾を飛ばしている以上わりと暑い。千石が、着ていたツナギの上を脱ぎ腰に巻いていたところでそれ自体は不思議ではない。
不思議なのは―――
「その陣・・・、どうしたの?」
呟き、千石の左肩を指差す。真っ白なランニングシャツの肩から覗く、紅い模様を。
それは袖の中に収まってしまうほどの小さな陣だった。だからこそ今まで気付かなかった。いや―――
(そういえば・・・、清純君が袖のない服着てるのって初めて見たわね・・・・・・)
もしかしたらその理由は―――
―――この陣を隠したかったからなのかもしれない。
一目見て、おおむね全てを悟る。千石が不動峰についてやたらと詳しかった理由。事前に佐伯と何を話していたか。
『狂王』の噂は知っていた由美子。佐伯のようにそれについて徹底的に調べたわけではない。それでも、
(未完成の、傀儡陣・・・。ならば清純君も元々は・・・・・・)
この位はわかる程度には、情報に精通していた。
そして―――
(やっぱり・・・・・・、虎次郎君と跡部君に描かれていたのもほぼ同じ・・・・・・。なら2人も・・・・・・)
先程佐伯の胸元にあった陣、さらに以前跡部と共に寝た(やましい事はさほどなかったが)際、彼の胸から覗いたそれもまた、極めてよく似た造りであった。効果が同じだとすれば・・・・・・
千石がこちらを向く。こちらを見て、戦地へと視線を戻し。
「この陣、俺の誇りなんですよね」
「え・・・・・・?」
「完成してないでしょ? 俺の姉ちゃんは殺されんの覚悟でコレの完成を阻止してくれたんですよ。
今までずっと、俺はコレは恥だって思ってた。こんなものを造る壊れた国の国民だったなんて、絶対に知られたくなかった。
でも―――跡部くんとサエくんに会って、考え方が変わった。
完成してない事に意味があるんだって、初めて知った。それが、完成した陣なんかより遥かに強い繋がりを持つんだって。
俺は―――
――――――この陣を誇りに持って、生きようって決めたんですよ」
眩しい笑顔。言葉に嘘偽りがないからだろう。
「そう・・・・・・」
かける言葉が思いつかずに頷き、
由美子は優しく微笑んだ。
「とても素敵なお姉さんだったんでしょうね」
「由美子さんくらいね」
「まあ。ふふ」