§1 『愛情』のカタチ





  跡部・佐伯7【3日目・不動峰と山吹の中間で告白タイム】

 「なあ佐伯・・・」
 「ん?」
 疲れた目で、問う。どうしても聞きたかった事。
 「昨日、てめぇ千石の話してたよな?」
 「? ああ」
 「千石の姉貴・・・
  ――――――本当は最期に何て言ったんだ?」
 「だから・・・」
 「てめぇが昨日言ってたのは『死の間際』だろ? まだその後にあったんじゃねえのか?」


『悲しみの連鎖をこれ以上増やさないで』



 果たしてこれだけだったのか? 千石の姉の想いというのは。
 悲しみを増やしたくないから、だから命を賭けて千石を逃がしたのか?
 そして―――
 (それだけの理由で動くのか? 千石も―――佐伯も)
 佐伯は確かに空砲を撃った。自分には裁く権利はないから、と。
 しかしながら拳銃は受け取った。少なくとも千石の訴えに同意する―――同意するに値する部分があったからだろう。同情や妥協での約束はしない。佐伯はそこまで冷たい人間ではない。気分によりあっさり裏切るような安い心の持ち主では。
 だからこそ、それを貫いた。決して陣を完成させようとはしなかった。
 問う、跡部に。
 佐伯は薄く笑った。
 今にも泣きそうな、苦笑。己の罪を告白した時と同じ笑み。
 自分を嘲いつつ、言う。



 「『ありのままのあなたを愛してる』だって」



 「なるほど、な・・・」
 ありのまま・・・・・・決して操られたりはしていない、そのままの自分を。
 かける言葉が思いつかないのは、跡部もまた由美子と同じだった。だが理由は逆だろう。由美子は千石の姉と同じ視点で見たに違いない。一方跡部は・・・


 『コイツ言ってたぜ!? 「これは俺達が自ら望んで作った陣だ。誰かに強制されたワケじゃねえ。支配されるモンでもするモンでもなくって―――繋がりを強めるために結んだ契約だ」って!! 「そういやンなモン作ろうとかした時点でもう繋がってるようなモンだったんだよな。こういう事でもしねーと繋がれねえと思ったからやったんだが、よくよく考えりゃ最初っから繋がってたんだよな、俺たちは」って!!』



 自分で最初に言ったはずの言葉が、神尾の繰り返しとして蘇る。その時には思ってもみなかったが、客観的に聞けば明らかだ。
 ―――たとえ『ありのまま』でなかったとしても、繋がれればそれでよかった、と・・・・・・。
 (俺もコイツの事は言えねえ、か)
 考えてみる。『ありのまま』でなくなった―――傀儡になった自分を。佐伯を。
 もしかしたら、今なら狂王の気持ちがわかるかもしれない。
 考え―――
 (やっぱわかんねーな)
 佐伯の思い通り動く自分。自分の思い通り動く佐伯。とても想像がつかない。その状態を喜ぶ自分など。
 自分勝手と言われるかもしれない。それでも―――



 ――――――今自分達が自分達である事を嬉しく感じる。



 「佐伯・・・」
 「ん?」
 「好きだぜ。『ありのままの』てめぇがな」
 さらっと言う。言ってやる。
 佐伯が目と口を目いっぱい開き、驚きを露にする。そういえばこんな事を直接口にするのは初めてか。
 暫し驚きのまま固まり・・・
 「どうした景吾!? 熱でもあんのか体調悪いのか久しぶりで疲れてんのか舞い上がってんのかそれとも間違って陣作動しちまったのか!?」
 「どれも違げえよ!!!」
 今度こそツッコミとして思いっきり殴り倒す。
 倒れた佐伯を見下ろしフンと鼻息をひとつついて―――
 ―――跡部はその場に留まった。いつもならここで立ち去るのだが。
 (間違って陣が作動したのか・・・ねえ)
 面白げに笑う。つまり陣が作動し自分が佐伯の思い通り動いたならば、自分はそう言うらしい。
 逆に考えれば・・・
 (そう言って欲しいんならてめぇからまず言えよ、佐伯)
 そこで復活した佐伯。頭をさすりつつ起き上がり、
 嬉しそうに笑い、跡部を抱き締めた。
 囁く。最高の告白を。
 「俺も大好きだよ。お前自身を」
 「ったりめーだ」
 「ってそれだけかよ。せっかく言ったってのに」
 「俺の方が先言っただろーが。それでようやっと貸し借り0だ」
 「つまりいっぱい言えばその分返してくれると?
  愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛して―――」
 「うっせえ!」
 どごすっ!!
 再び殴り倒し、
 ―――今度こそ跡部は鼻のみならず腹筋を駆使してハンッ!と吐き捨て、その場を立ち去った。



 

跡部・佐伯・千石3【4日目・山吹にて結果報告】








 ―――おかしい。前話(§0)といい今回といい、なんでまともな告白シーンで結局跡部が佐伯を殴り倒すんだ・・・? やはり私にらぶらぶいちゃいちゃは無理なのか(当り前)・・・?