§2 陰謀の裏に隠された陰謀





  ようやく起きた起 1―――木更津
    〜まずは跡部。あの佐伯が仕える主だ。どんな人だろうね? フフ・・・〜


 まずは最初に出た跡部と圭助。
 歩き出すなり、跡部は凝り固まった筋肉を解すように肩を回し首をコキコキ鳴らした。
 「やっぱ青学式ってのは俺にゃ合わねえな」
 「そうでしょうか。とてもご立派ですよ? さすが氷帝次期帝王様。
  堂々とした様がよくお似合いで。虎次郎が貴方を主と選んだだけの事はあります」
 「・・・ああ俺もよくわかるな。あんたがアイツの親父だって事は」
 ため息をつき、
 跡部は足を止めた。
 振り返る圭助に苦笑を浮かべ、言う。
 「普通にしてて構いませんよ圭助さん。
  佐伯があなたの息子なら俺もあなたにとっては似たようなものにしか見えないでしょう? それで敬意を払うのも大変でしょう」
 実のところこれは自分自身にこそあてはまる。大勢人のいる公的な場ならともかく、このような極めて私的な場面で自分の親のような相手に敬われるのはかなり窮屈だ。
 圭助も察したらしい。ぴたりと止まり、手を差し伸べてくる。対等な立場として扱ってもらえるようだ。
 「なら改めて。よろしく、景吾君」
 「ええ。こちらこそ」
 差し出された手を握り、尋ねる。
 「そういえば以前来た時はいらっしゃいませんでしたよね?」
 「ああ。あの時は休暇を取り妻と旅行に出かけていたもので」
 穏やかに笑う圭助。どうやら敬語なのは単にクセらしい。
 「今回は会えて嬉しいですよ。虎次郎も手紙でいつも貴方の事を書いてましたからね」
 「・・・・・・ロクな事書いてなかったでしょう」
 「内容はご想像にお任せします。ちなみに見えないでしょうが僕はこれでも
42歳です」
 今度は1人ダブルパンチ。驚く跡部に、圭助がさらに続けた。
 「僕が自己紹介をすると大抵の相手は驚くもので。虎次郎を知っているならば特に。ダメな親を持つほど子どもはしっかり育ちますから」
 「いえ、そんな事は・・・・・・」
 否定する。世辞ではなく、本気で。
 (さすが佐伯の親ってか・・・)
 先程の由美子と淑子の話ではないが、さすが親は子に―――じゃなかった子は親に似る。頭の回転はやたらといいようだ。こちらは驚きをほとんど表に表さなかったというのに。その上決して悲嘆的にはならず、こちらに対して失礼だと思わせないようにしている。
 否定しかけた跡部を、
 圭助は軽く手を上げ遮った。
 「ああ、今回は屋敷内に妻もいます。よければそちらにもどうぞ。虎次郎は妻に良く似たようで、会ってみるとまた面白いですよ」
 「そうですか。ではそうしますよ」
 「繰り返しになりますが、今後もよろしくお願いします」
 こちらこそ―――と型通り答えかけ、ふと跡部は圭助を見た。不思議な笑みを浮かべている。なんと言うか・・・・・・何か、主に良からぬ事を企んだ時の佐伯と同じ笑みだ。
 (額面通り受け取るな・・・って事か)
 ―――『今後も』
 果たしていつの時点を指してのこの言葉なのだろう。氷帝に帰ってからか、それとも・・・・・・
 考え、にやりと笑う。
 (なるほどねえ。ふるい落とされねえヤツ1人目ゲット、ってか)
 彼は間違いなく‘由美子’の正体に気付いている。だから自分と2人になれる機を窺っていたのだろう。
 そういえば佐伯が言っていたか。魔法にしろ知識にしろ、いわゆるオカルトの才は父親から受け継いだ、と(そして殴る蹴るは母親に鍛えられたと)。実際彼がつけている片眼鏡には、反射しないとよくわからないが細かい陣が刻み込まれている。それが何を意味するのかは・・・・・・残念ながら跡部にはよくわからなかった。いくら視力が良いといっても、こんな遠くから細かいものを全て見取るのは無理だった。
 といった余談はいいとして、魔法使いとしてそれだけの実力があるのなら、‘由美子’に何らかの術が施されている事はわかっただろう。本人は部屋に篭りきって術に集中しているが、それでもさすがに完璧には出来ないようだ。さらに今までの話題と組み合わせれば、中身が誰かは予想がつく。
 そして彼は言った。『息子ともどもよろしく』と。どうやらこちらサイドに立ってくれるようだ。
 (この上なく心強くはあるわな、いろんな意味で)
 あの佐伯を育てた親。味方につけて得するのかはわからないが、敵に回すと絶対損させられる事だけは間違いない。なにせ『礼は半分恨みは
10倍返し。逆らうヤツは完全滅殺』と日々公言する息子を作り出したのだ。
 ため息をつき頭を掻き毟り、
 結局跡部の口から出たのは、型通りの答えだった。
 「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
 「もちろんですよ。
  ちなみに景吾君、その様子ではポーカーでは虎次郎に惨敗気味いえ失礼しました」
 「はっはっは! さってところで俺の部屋まだですかねえ!?」



ようやく起きた起 2と3