§2 陰謀の裏に隠された陰謀
ようやく起きた起 2と3―――木更津
〜次に真斗。佐伯とは似てないようで似てる双子の姉。遊ばれる柳沢も可哀想に。〜
次いで真斗―――の後をつけた柳沢。
「全く、メイドの後つけろだなんて、観月は一体何考えてるだーねか・・・!!」
ぶつくさボヤきながら、それでもちゃんとやらないと後で何を言われるかわからないので頑張ってみる。尾行などあまりやった事はないので(当たり前だ)これで大丈夫なのかわからないが、スキップとランニングの中間という相当な速度で回廊を進む真斗は、通常のお約束どおりこそこそつけていたのでは置いていかれるだろう。
柳沢も、こちらは全力ダッシュでついていった。
「にしても・・・・・・早いだーねあのメイド・・・。やっぱ、毎日家事してると体力が違うだーね・・・・・・ひい、はあ・・・」
まだまだボヤきながらも、角を曲がり―――
「な!?」
―――そこで真斗を見失った。
慌ててきょろきょろ見回す。通路は長く続いている。いくらペースが速かろうが、真斗が曲がってから自分が到達するまでの短時間で次まで到達したとはとても思えない。大体ここは中庭を巡る通路。一定間隔で柱こそ立っているものの、曲がった先の通路も前の通路からよく見える。真斗が何も警戒せず進んでいたならば、こちらが曲がる前からずっと姿は見えていた筈だ。
「別の方向に曲がった? ワケないだーね。他は壁か中庭だーね。
近くに部屋とかもないし、魔法でも使っただーねか?」
「ハズレ。死角に回っただけよ」
「うおわ!?」
声は、上から降ってきた。
上を見上げかけ・・・
「ハイ、下着見えるから下から覗き込まない」
「ぐぎゃ!」
こちらも上から降ってきた真斗当人に、ぐしゃりと踏み潰された。
「ど・・・どんな手品だーねか・・・」
「大した事じゃないわよ。つけてきてるのわかってたから、走る勢い利用して壁蹴り上げて柱に飛びついただけ。三角跳びってヤツね。
そっちからは柱の影になって見えなかったでしょ? それに人探すのに上なんてまず見上げないし」
「・・・むしろ手品であって欲しかっただーね・・・。可愛い顔してサルだーねか・・・・・・?」
「アヒルに何か言われる筋合いはない!!」
よろよろ起き上がろうとしていた柳沢の頭に踵を落とし、
襟首を掴み上げる。
「で?」
「な、なんだーねか?」
「ずっとこそこそつけ回して。何やってるワケ?」
「・・・っ!
ス・・・ストーカーだーね。アンタちょっと可愛かったんで、ついてってただーね!」
理由は聞かされなかったが、観月が何の考えもなくこの少女をつけ回せなどとは言わないだろう。
己が汚れ役を務めたとしても任務を遂行しようとする。実に立派な心意気の柳沢。その前に・・・
―――ナイフが突きつけられた。
柱の割れ目に突き立て体を支えていたナイフ。強度と切れ味は保証されたそれを、今度は柳沢の喉元に軽く当て、
真斗はにっこりと笑った。
「あらそうなの? それは嬉しいわねv
けどアタシ、旦那と3歳の娘がいるの。今とっても幸せよ。
―――この幸せを守るためなら、禍根は根こそぎ絶ぁーつ!!」
「ちょっと待つだーね!! 絶対幸せの守り方間違ってるだーね!! そうやって守り通して、本当に幸せだーねか!?」
「もちろん」
「・・・。
人の屍の上に成り立つ幸せ・・・。あんま欲しくないだーね」
「アタシは欲しいわ。じゃあバイバイv」
逆手に持つナイフが柳沢の頚動脈をズバァッ!!と―――
――――――切り裂く前に、さすがに柳沢も降参した。
「み・・・・・・観月に頼まれただーね!! あんたつけ回して何か探れって命令されただーね!!」
「観月? 誰?」
「さっきいただーね! 紹介聞かなかっただーねか!?
ルドルフ国王の右腕だーね!! 実際観月がルドルフを国にしたようなモンだーね!!」
「そんな人が・・・・・・!!
・・・・・・アタシのストーカー?」
頬に手を当て息を呑む真斗。その前で柳沢は盛大にずるコケた。
「神妙な顔してどこまでボケるだーねか・・・」
「しっつれいねえ!! コジコジよりはマシなレベルよ!!」
「コジコジ? 誰だーね」
「アタシの双子の弟よ」
「ああ・・・。そういえばさっきも何か言われてただーね。跡部に仕えてるとか」
「そうそう! そーなんだけど聞いてよ〜〜〜!!!」
―――以下何時間か真斗の長話に付き合わされた柳沢。へろへろになり戻ると、観月にこんな質問をされた。
「んふっ。どうでした柳沢。彼女に何か怪しい点はありました?」
「怪しい? あったといえばあったような、なかったといえばやっぱあったような〜・・・・・・」
「どっちですかはっきりしなさい!」
「凄くはっきりして聞こえたけどね」
「具体的にどんな感じの『怪しさ』だーねか?」
口を普段以上に尖らせる柳沢へ、観月が目を細めた。不満があるのではないらしい。薄く笑ったところからすると。
「例えば―――誰かの変装、とか。
―――そう、例えば彼女の弟の虎次郎君とやらが成りすましている、とか」
「弟があ?」
思い出す。彼女のグチを。
『コジコジってば自分がおかしいクセにいっつもアタシの事馬鹿にするのよ!? しかも今日なんて自業自得で風邪引いたのにちょ〜っと笑っただけで殴られたわよ!? それも長箒で!! 見てよ!! 頭にたんこぶ出来たわよ!! 「お嫁に行けなくなったらどうするのよ!?」って冗談で文句言ったら本気で真に受けられて心配されたし!! 離婚したんじゃないって言ったでしょーがなんっでアタシが嫁に行けたのがそこまで不思議なのよウチのみんなは!!!
何かアタシの事目の敵にしてるみたいだけど!! どーせただのヒガミでしょ!? 今だ独り身、仕事じゃへこへこ頭下げてばっか! しかも逆玉も狙えない男が相手!!
そりゃ〜こうして幸せなアタシ妬むのも仕方ないでしょうけど!? 人恨む前に我が身振り返りなさいっての!! 一応顔はいいんだから、もーちょっと性格人並みにしたら!? そしたらアンタもこのお姉様のように幸せになれるわよ!? ハッ!!』
・・・これが彼女当人だとしても相当なナルシスト振りだが、もし問題の弟の方なら、自分をここまで扱き下ろせる、恐ろしいまでの悲観主義者かマゾかだろう。
(余計イヤだーね・・・)
「絶対ないだーね」
「・・・・・・随分はっきり言い切りますね。確証は?」
「そこまで出来上がっちゃってるヤツは嫌だーね。しかも天然ボケでトリ頭のサルだっただーね。結局自分で訊きながら目的忘れてわめいてただーね」
「? ? ?」
お互いに顔を見合わせ、
「ん?」
―――赤澤がふと後ろを向いた。壁に埋め込まれた鏡。綺麗な細工の中では、振り向く自分が映っていて・・・
「どうしました赤澤?」
「いや・・・。何でもねえ」
(気のせいか)
首を振り、赤澤は前へと視線を戻した。風が当たったように感じた首筋を押さえ。
ψ ψ ψ ψ ψ
(へえ・・・)
上の灯り下げ用穴から見下ろし、不二は口の中で小さく笑った。紐を使った簡単な仕掛けで鏡を少し開けたのだ。誰か気付くか試したのだが・・・・・・。
(まさか王自身が気付くとはね。となると注意からは外せないか)
今までの会話を聞いても首謀者は観月のようだが、彼も決してただのお飾りではないようだ。
何にしても・・・
(まさかサエの過保護がこんなところで役に立つなんてね)
彼に護身術という名目で体の動かし方を教わっておいてよかった。魔法に頼り危うく失念するところだった。人間が元々持つ感覚というものを。
(となると結構厄介かな・・・)
ここに来るまでに自分の部屋を見てきたが、扉にかけられた魔法は・・・・・・まあお世辞を言えば割と良いんじゃないかといった程度だった。とりあえず扉以外にかけていない時点で、頭の回転の良さも要求される魔法使いとしては二流以下である事が証明された。
だがどうやらそれだけでもないようだ。今の赤澤然り、さらに・・・
(サエ、大丈夫だったかな?)
とりあえず予想通り真斗が怪しまれているが(そして即座にシロになったようだが)、油断は禁物だ。
部屋から出る彼についていった男。今はもう戻ってきているが、能面のような顔に笑みを浮かべた少年が、突如虚空へ霞むように消えたメカニズムはまるでわからなかった。
多分魔法の一種ではあろうが、少なくとも自分の知るものではない。多分六角式だろう。あそこはかなり特殊なもののはずだ。そして3国の中継都市たるルドルフならば、元六角国民がいても不思議ではない。
何の報告もしていないところからすると多分大丈夫―――いきなり殺したりとかはしていないだろうが。
(どちらかというと脇に要注意、か・・・)
考えつつ中心人物を見る。ルドルフの参謀にして裕太にも手を出した男、観月を。
込み上げる怒り・・・は一息で納める。それが、今ここにいるための条件。
『連れて行く代わりに、ぜってー俺か佐伯の言う事に従う事。勝手に暴走しない事。
破ったら即座に氷帝送り返す。いいな?』
肩を掴み言い聞かせる跡部・・・・・・の後ろで笑顔でひも付き鉄アレイを片手でぐるぐる振り回す佐伯に大きく頷いた。これ以上迫られたら跡部の命が危ない。
(さって、じゃあまずはサエに合流かな)