§2 陰謀の裏に隠された陰謀





  だらだら続く承 まずいち―――リョーマ
    〜今日は周助んトコに遊びに来た。・・・って周助いないし。〜

 由美子以下ご一行が不二家に来てから、何日か経った。
 表面上は何も変わりない穏やかな日々。取り立てて誰も何もしない。ルドルフと青学はその間親交をさらに深め、氷帝代表も務める客人らもそれを温かく見守った。
 だが水面下にて迸る火花は、一番の当事者以外にはそれはそれは綺麗に映っていた。





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 「んふふふふ・・・。どうやら相手も警戒しているようで、なかなか素性を見せてはくれませんねえ」
 「つーか・・・。実は本気で遊びにきただけじゃねえのか?」
 「甘すぎますよ赤澤!! 何を楽天的な!!」
 「そーか? いっそ無視して進めてよくねえか?」
 「駄目です。不確定要素は潰すに限ります。
  ―――本人を知っており公平な判断を下せる者・・・そう。友人などが来てくれるといいのですが・・・」
 「ンな都合良く・・・」
 いった。





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 この日、不二家には新たな客があった。客人共々お茶会を開いている最中、窓から飛び込んでくる不躾な客が。
 「はいどうぞ。今日はベリータルトよ」
 「ありがとうございます」
 一切れずつ切り分け生クリームを乗せていく‘由美子’―――相も変わらず中身は佐伯―――に、赤澤・観月とその他使者、不二夫妻、最後に跡部が礼を言う。残念ながら一番好きそうな裕太は自立中、『不二』は引きこもり中につきこの場にはいない。
 当人含め全員分配り終え、‘由美子’が片付けに退室したところで、
 ―――それが乱入してきた。
 ずだん!
 「うわっ」
 「何だ?」
 開いた窓から勢いよく入り、しゃがみ込んで衝撃を殺す物体。突然の事に観月が驚き、飛び込んでくる間に正体を見極めた跡部も眉を顰める。
 ひらひら揺れていた長い裾が納まる。立ち上がったそれは、少年だった。帽子を被った小柄な少年。
 少年が、体以上に小さく目線と頭を上下させ尋ねる。
 「こんちはー。周助いる?」
 「あらあらリョーマ君こんにちは。よく来てくれたわね」
 「ようこそリョーマ君。ところで君は、玄関から入る気はないのかい?」
 「めんどくさいからヤダ。この家無駄に広いじゃん」
 「無駄・・・・・・かね?」
 「無駄。
  それにちゃんとこないだ言われた挨拶はしたでしょ?」
 「そうねえ。偉いわリョーマ君」
 「・・・・・・バカにされた?」
 客人とは対照的に、全く驚く事なく返す不二夫妻。そしてもちろんこの人も。
 「―――あらリョーマ君いらっしゃい」
 戻ってきた‘由美子’に、リョーマとやらは思い切りたじろいだ。
 「ゔ・・・。由美子さん・・・」
 「うふふv 何かしら? まるで私がいない方が良かったと言いたげなその反応は」
 「いや、別に・・・。
  っていうかアンタ結婚して出てったんじゃないの? もう戻ってきた?」
 「半分当たりで半分外れね。夫婦揃って今日は遊びに来ただけよ。
  紹介するわね。彼が私の夫の跡部景吾君。そして景吾君、この子は周助の友達の越前リョーマ君。
  きっと仲良くなれるわよ? 2人とも似ているもの」
 「どういう意味でだ・・・?」
 「へ〜。アンタが物好きの」
 「どういう意味だ!?」
 「別に?」
 「ほら、さっそく仲良くなれたでしょう?」
 『なってねえ/ない!』
 「という事でリョーマ君。今丁度お茶会の最中なの。リョーマ君も一緒にどう?」
 差し出されたのは件のタルト。彼女はいつどうやってリョーマが来た事を察したのだろう? 綺麗に1人分盛られた皿では、添え物生クリームの上に細長く剥かれたオレンジの皮が飾り付けられていた。
 差し出された途端、大人しくなったリョーマが皿を奪った。
 「もらう。ありがと」





 「・・・・・・・・・・・・で?」
 食後。残ったのは片付けをする‘由美子’と、良き夫として手伝う跡部(本人はそう見せたいらしいが、周り全員に『やっぱり尻に敷かれた』と理解された)と、
 ―――そして、最後まで居座ったリョーマだった。
 イスに座ったまま肘を突き、半眼で問う。
 「何やってんのアンタ? 凝ったコスプレ?」
 「コスプレといったら凝るのが普通だろ? 凝り具合=情熱度合いだ」
 「おい!」
 いきなり地の声でしゃべり出す佐伯に跡部が突っ込んだ。決してその内容にではない。
 「何だ景吾?」
 「何だ、って・・・・・・」
 指摘しかけ、止まる。今更誤魔化しなど通用するワケがない。
 言葉をため息に変え黙り込む跡部へ、佐伯が笑って説明を加えた。
 「今回出したベリータルト。隠し味が使われてただろ?」
 「ああ。オレンジだったな」
 「さっすが景吾。よく気付いたな。
  由美子さんならレモンを使う。オレンジは俺のオリジナルだ」
 「ああ? だとするとあいつの両親も気付いたんじゃねえのか?」
 「問題ない。ハーフ
&ハーフでお前ら2人と俺の分だけオレンジだからな」
 「何でンな凝った作りにしてんだ・・・?」
 「凝り具合=情熱度合いだからな」
 「何のだよ・・・・・・?」
 「それはともかく、それでお前も気付いたんだろ? 越前」
 「まあね。最初周助のイタズラかと思ったけど、周助なら俺に食いモンは出さないし」
 「まあ・・・、周ちゃんの料理を『マズい』って言い切った勇者はお前1人だからな」
 うんうんと頷く佐伯。心底感心する彼とは対照的に、跡部は首を横に傾げた。
 「何だ景吾? ・・・ああ、お前も『マズい』と言い切った派だと? 大丈夫だわかってる。そんな自己アピールしなくとも。
  お前のそんな意見はちゃんと俺の心の中にしっかり刻み込んでおいたぞ?」
 「つまり何か!? 散っ々! 言ってんのに全っ然!! 懲りずに手料理が出てくんのはてめぇが俺の意見全部揉み消してたからだってか!?」
 「揉み消すだなんてそんな! 俺はちゃんと『景吾もとても喜んでたよ』と伝えておいたぞ?」
 「尚更悪りいよ!! 何驚愕の表情浮かべて肯定以上の事やってやがる!?
  じゃなくてだ!!」
 どばんと机を叩き(ちなみにこれだけ騒いでいたらルドルフ陣にバレバレだと思うが、今ここには由美子の立体映像拡大版がかけられている。外から見る限り、片づけをする由美子と跡部。そしてタルトを食べ続けるリョーマといった構図しか見えないし聞き取れない)、跡部がリョーマを指差した。
 「ってことはてめぇ、最初っから由美子[コレ]が立体映像だったって事には気付いてたってか?」
 「当たり前でしょ? 何言ってんの?」
 「当たり前、って・・・・・・」
 もちろん普通は気付かないものだし、誰も彼もに気付かれていたのではかける意味がない。
 珍しく眉を顰め混乱の表情を浮かべる跡部に、やはり笑って佐伯が解説を加えた。
 「コイツは『プレリースト』でな」
 「プレリースト? 神官[プリースト]なら知ってるけどよ」
 「ああ景吾惜しい。神官の前段階[プレ]で『プレリースト』。つまりは神官見習いだな。
  ご両親が神殿[シュレイン]の人でな。凄いぞ〜? 幼い頃から天才少年なんて呼ばれてる。周ちゃんとは魔法使い仲間だな。ずっと入り浸ってるんだ。
  ま、家族ぐるみの付き合いだからな。だから国王夫妻とも仲がいい」
 「ほお」
 神殿とは、名前どおり神のおわします御殿―――神を奉る場だ。適度に神を信仰する青学ではメジャーな施設である。ちなみに神を全面的に肯定する六角では、むしろあえて奉るこのような場は存在しない。神はどこにでもいるのだから。
 さらに神を信仰しない氷帝にもないのだが、跡部が知っているのは各国を調べ上げたのにプラスして佐伯に聞いたからである。やたらと詳しいと思ったら・・・・・・そういう知り合いがいるからなようだ。まあ王家に仕えれば必然的に祭事にも精通するだろうが。
 そして神官とは神殿に属す者だ。言われて見てみれば、リョーマの着ている服は動きやすく改造されているものの、確かに青学の神官が着用しているローブだった。ぞろりとしたそれを、上は肩でカットし半袖のアンダーウェアを付け、下はベルトで固定した先を左右両側で切り込み2枚の布としている。生地から変えたのか相当薄っぺらいようだ。通りで飛び込んで来た際ふわふわ風に舞うと思ったら。なおそれで問題ないように、ちゃんと膝までのハーフパンツを履いている。
 ところどころにあしらわれている一見模様は、古代文字だとか何だとか。ファッション以外で使うのは、それの解読に成功した神官程度だろう。
 (なるほどなあ。そりゃ、神に仕えるんなら当然神の力を借りて魔法も使えるか)
 魔法を『科学技術で証明出来ない物の総称』と名義付けるなら、最も証明出来ないのは神についてだ。
 一通り説明を受け、
 「・・・で、そいつ味方にするってか? ヘタに多くし過ぎてもどっから洩れっかわかんねえぞ?」
 「大丈夫だ。なにせコイツは人の事に興味はないからな。別に青学がルドルフに乗っ取られようが気にしないだろ」
 「・・・・・・。むしろ駄目じゃねえかそれ」
 「へえ。そんな騒ぎあんだ。じゃ、頑張ってね」
 「ホラ」
 「いや、だからな越前。そう言われたら嘘でもいいからちょっとは気にしてるよう振舞えねえのか?」
 「俺嘘嫌いだから」
 「ぜってーその理由はおまけだろ」
 「・・・・・・・・・・・・。
  で、周助は?」
 「今裕太君が反抗期でな。ショックを受けて部屋に篭ってる。誰にも会いたくないそうだ」
 「うわあ・・・」
 佐伯の事だから自分をからかうため嘘をつくかもしれないが不二なら充分そんな話も有り得る。
 今更裕太が反抗期? 何か遅すぎる気もするがまあ全体的にスローペースの不二家。まだ
18なら一応許容範囲か。
 弟大好きっ子の不二ならそれで落ち込むのも仕方なかろう。弟ばっか見ているのもムカつくが、生まれて(正しくは1歳弱になって)この方治る見込みもないから性分だろう。っていうかアンタがいい加減自立しろ。
 ・・・などなど、気持ちの全てをたった一言で代弁させたリョーマ。させ切れなかった部分―――決意を言葉にする。
 「んじゃ会ってこよ」
 「ああ。いってらっしゃい」
 「・・・・・・いいんだ」
 「俺が怒られなければよし」
 「・・・・・・・・・・・・。行ってくるよ?」
 「頑張れv」
 「はあ?」





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 ちなみにこの後、不二の部屋にて本物の由美子から詳細を聞いたリョーマは、
 「じゃあ、周助はこの家のどっかにいるって事?」
 「そうよ? 頑張って探してねv」
 「・・・・・・そういう事なワケね」
 不足だらけだった佐伯の言葉の全文を聞き、がっくりと項垂れた。
 それでも頑張って壁の隙間や天井裏などいろいろ探してみて・・・
 ・・・・・・当然のように見つける事は出来なかった。どころか出方すらわからなくなった。





 「だからこの家無駄に広すぎって言ってんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」



だらだら続く承 でに