3.過去の話 〜千石独り語り〜
それはまだ、俺たちが普通に『魔族』って呼ばれてた頃の事。
俺と、サエくんと、そして彼女はいつも一緒だった。
彼女。そう・・・人間の彼女が。
一緒にいて、それが普通なくらいまだ人間と魔族が共存してた頃の話。
2人は隠してるつもりだったかもしれないけど、
俺にはバレバレだった2人の想い。
サエくんは彼女が好きで、
彼女もサエくんが好きで。
俺は2人の親友として、その事でからかってはサエくんに蹴り入れられてたそんな平和な頃の話。
暴走したのは魔族だっていうけど、
本当に暴走していたのは人間の方だったと思う。
俺たちの力を怖がった、人間の方。
今は共存してるけど、
争ったりしたらその力で滅ぼされるから。
そんなつもり、誰にもなかったのに。
・・・・・・なんて、『俺たち』が言ったところでムダだろうけどね。
種族の違いによる生まれつきの―――生まれる前からの差はどうしようもない。
俺たちだって今更硬い殻に体覆わせて脚6本生やせなんて言われたら笑い飛ばすしかないし。
だから―――
人間の研究者の考えたことは、
魔族の意識を乗っ取り、自分たちの自由に操る事だった。
でもって――――――
――――――その『実験』に選ばれたのは、サエくんだった。
「う・・・あ、あ・・・・・・」
それは一体幸運だったのかそれとも不幸だったのか、
サエくんは俺たち高位魔族の中でも、とりわけ自我が強かった。
「かはっ・・・! うあ・・・・・・」
自分の身に何が起こってるか、その時のサエくんにはわからなかっただろう。
ただ、誰しもが持っているであろう生存本能が彼を護り続けた。
そう簡単に意識は乗っ取らせてくれなくて、
それが―――
――――――――――――サイアクの事態を招いた。
「あ・・・、頼、む・・・。
俺から・・・・・・逃げ、て・・・・・・」
「いやあああああ!!! 何があったのよ虎次郎君!!」
「早、く・・・・・・。
――――――君の事、殺したく・・・な、い・・・・・・」
人間たちの取った、最高に卑怯な手段。
サエくんの自我を完全に壊すために、
サエくんに、彼女を殺させた・・・・・・。
「あ・・・や・・・・・・」
「う・・・・・・あ・・・・・・」
「止め、て・・・。虎次郎・・・く・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・」
自由の利かない手を彼女の首に絡めたまま、
恐怖の目でサエくんを見つめ、そのまま動かなくなった彼女を前に、
――――――サエくんは、完全に壊れた。
「う、あ、あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
研究者たちの望む通りにサエくんは自我を失い、
研究者たちの望まない通り、全く制御が利かなくなった。
壊れたサエくんは研究者たちを跡形もなく滅ぼし、
それでも決して晴れる事のない恨みを、怒りを、絶望を。
―――全て全て、周りにぶつけた。
<暴走した高位魔族は森を荒野に、山を平原に、街を廃墟に変え、
人々を、魔族達を、破滅させていった>
――――――それは、全て本当。
壊れる世界を、壊れたサエくんを前に、俺は何もしてやる事は出来なくて。
ただ、悲しみに染まった体を抱き締め、
祈るしかなかった。
「俺の心なんていらないから、だから・・・サエくんを元に戻してください・・・・・・!!!」
その後何が起こったのか、実のところそれは俺にもよくわからない。
ただ、気が付けば暴走は終わっていて。
サエくんは記憶と暴走した力を、
そして俺は心を、
失っていた。
「俺は・・・いったい・・・・・・?」
目覚め、きょとんとするサエくんに、
俺はにっこりと笑顔を『造った』。
「おはよう、サエくん」
「サエ・・・・・・?」
「そう。君は佐伯虎次郎くん。んで俺は千石清純。
よろしくね。これからずっと」
「? ああ」
<世界崩壊の危機は、その魔族を封印する事でかろうじて免れた>
これで誰もが納得するのは、サエくんに直に接した中での生き残りが俺1人だから。
研究者も、彼女も。
全て死んで、残ったのは俺1人。
サエくん自身も記憶を無くしたのならばこれを信じるしかない。
かくて―――
封印したのは力と記憶、あと真実となった。
暫くは魔族として過ごしていたけど、
やっぱりその中に俺達の居場所はなくって。
それに・・・
やっぱりサエくんは記憶がなくても『彼女』の存在そのものは忘れてないみたいで。
そして俺たちは、
――――――人間を求め、『悪魔』になった。
ζ ζ ζ ζ ζ
はい。予告通りタイトル通りの過去の話です。そしてこのシリーズの主役はサエだ!
と力説したかった回です。当初はそのはずでした。話が進むと明らかに焦点が千石&跡部ペアに移りますが。
さてOPで語られた『暴走した高位魔族』がサエ、でもって千石の『俺には心がないからね』は冗談でもものの例えでもなく実際の事。ここまで来れば不二がどういった存在かはバレバレでしょう。なので前もって言っておきます。違います、と。もしもただそれだけだったら跡部がひっじょ〜に出る意味のない存在になってしまう。念のためこれも言っておきますが、跡部は別に数合わせではありません。千石と跡部に焦点が合う時点で、実はこっちの方が重要だったり。
・・・・・・とおっと、危うくネタばらしをするところだった。というわけで次は再び現在に戻って4人の視点。しかしせんべにこだわりすぎたせいで肝心のサエ不二がないがしろにされそうなよ・か・んv(ってダメだからそれじゃ・・・)
2004.7.3