5.閑談 −跡部と佐伯・千石と不二の場合−





 今日は4人でアウトレットに遊びに来た。
 遊びに来て―――
 「あ、次あそこ! あそこ行こ!!」
 「行きたい行きたい!!」
 「ちょっと待てお前ら。さすがにあちこち行き過ぎじゃねえ?」
 「2人とも元気だよな本気で・・・」
 「何? 跡部くんもサエくんも疲れた?」
 「ああ、じゃあ2人はここで待っててよ。僕たちいろいろ見てくるからさ」
 「・・・・・・・・・・・・。そうさせてもらうぜ」
 「2人ともちゃんと帰って来いよ」
  「「は〜い♪」」




















 「『ちゃんと帰って来い』って・・・、先生かてめぇは?」
 「いや何となくあの2人、念押しておかないと本当に夜まで帰って来なさそうだし。
  にしてもお前よく今の反論しなかったな」
 「反論して『じゃあ来い』って言われてもな・・・・・・」
 「ははっ・・・・・・」
 疲れたため息と笑いがその場に留まった・・・・・・。





 何もせずぼーっとしているのも悪いので、適当にそこらの店で飲み物を買い、その『場所代』で腰を落ち着ける。周りからの(特に女子の)視線は無視してストローに口をつけ、
 「不二とは随分上手くやってんじゃねえか」
 先に離した口を開いたのは跡部だった。
 「お前らの夫婦漫才には負けるけどな」
 茶化し、冗談を言う佐伯。冗談を言い―――
 「―――見かけ上は」
 そう、付け足した。
 「―――!?」
 目を見開く跡部。話題を先読みされての驚きか、それともバレていないと思っていたのか。
 どちらにせよ、それだけの過剰反応をしてしまった事にバツの悪さを覚えたのだろう。再びストローを口に含み数口飲み、
 「全くだな・・・・・・」
 視線を逸らし、小さく呟いた。
 それきり黙りこくる。気まずい沈黙―――少なくとも跡部にとっては。
 むしろ佐伯にとっては心地の良い沈黙だった。あの跡部がたった一人に振り回され悩んでいる。それは見ていて面白くてたまらない・・・・・・などという腐った理由ではなく。
 沈黙の気まずさはそれだけ跡部が千石の事を想っている何よりもの証拠だ。気にしていないならばそもそも話題にすら乗らない。なのに今、全てを支配する跡部が自分の周りの空気すらロクに制御出来ないほどに千石のみをただ想っている。
 思わずこぼれかけた笑みをストローの中に隠し、
 「お前が何で悩んでるかなんて知らないけどさ、
  ―――『目に見える』ものだけが愛情・・・だけじゃないと思うよ、俺は」
 「・・・・・・何いきなり言ってやがる」
 「さあな。思ったから言っただけさ」
 「ワケわかんねえ・・・・・・」




















 「う〜ん。絶対今の言い方だと跡部くんついてくるって思ったんだけどなあ」
 「まあ、それだけ疲れてたんじゃない?」
 「じゃあ、早く帰ってあげよー! おー!」
 「だからそれこそ嫌がらせだって・・・・・・」
 威勢のいい掛け声と苦笑がその場から離れていった・・・・・・。





 目をつけていた店に入り目についた物を手に取る。適当に離れたりそばに寄ったりしながら、
 「サエくんとはどう? 上手くやってる?」
 「何さいきなり?」
 「いや別に? ちょっと今後の参考?」
 こちらをじっと見、にっこり笑う千石を不二もまた見やり、
 「上手くやってると思うよ。君たちよりは」
 千石の笑みは崩れない。不二は肩を竦め、手に取っていた物を棚に戻した。
 離れようとし・・・・・・後ろから声がかかる。
 「よく知ってるね」
 振り向く。先に千石の笑顔はなかった。
 同じく陳列棚に物を戻す千石。口元が造るは『笑み』。では髪に隠れて見えない目元が造るのはなんなのだろう?
 少し、意外な思いでそれを見た。自分が千石と知り合ってもう
11年位か。自分と同時に跡部もまた知り合ったのだから正確には比較のし様がないが、それでもわかる。
 ―――千石は跡部が絡まない限りこんな顔はしない、と。
 どんな場面でも決して揺らぐ事のなかった『笑顔』。彼には感情がないという話を以前佐伯に聞いた事がある。真偽の程は定かではないし、本人も周りもそれで困った事は1度足りともなさそうだから気にしたことはなかったが。
 だからこそ逆に揺らぐ事はないのだと、そう思っていた。感情によりすぐ左右される自分の『笑み』とは違う。それこそ、理想そのものだった。
 それが、揺らいでいる・・・・・・。
 新しい物を物色しながら、不二は口の中でぼそりと呟いた。謝罪の呟きを。
 「ごめんね」
 「何が?」
 きょとんと訊いて来る。本当にわからないわけではないだろうに。
 とりあえず元に戻った笑みを横目でちらりと見るだけ見て、やはり物色する手は止めずに呟きを―――謝罪を続ける。
 「跡部は他人には聡くても自分には疎いからね。自分に向けられた気持ちに心が開けない。明確な形で、証明されないと。
  ・・・・・・明確な形で裏切られたからね。明確な形で―――僕とサエが裏切ったから・・・・・・」
 「それが、不二くんの―――君たちの謝罪?」
 優しく問い掛ける千石に、不二は俯き首を振った。
 「いや。これは僕だけの謝罪さ。サエには聞いた事がない。なんで跡部じゃなくて僕を選んだのかなんて」
 「そういえばなんでだろう? 俺も聞いた事なかったな」
 何となく、予想はつくけどね・・・・・・。
 心の中だけで続ける。
 小さく首を傾げる不二。そんな仕草もそっくりだ
 恐らく佐伯も、たとえ記憶はなくとも感情が覚えていたのだろう。自分からは失われた感情で。
 思い―――
 結局千石は『笑った』。
 「別にいいって。跡部くんの難易度の高さは最初っからわかってたしね。それに―――」
 「それに?」
 きょとんとする不二に、笑みを向ける。心を無くした自分にとって、これが本当の笑みなのかもしれないなどと思いつつ。
 「それに―――
  ―――むしろ君たちには感謝するよ。おかげで跡部くんと契約が結べた・・・・・・」




















 「お待たせ〜」
 「おっせーぞてめぇら!」
 「あっはっは。メンゴメンゴ。ね? 跡部くん。コレあげるから機嫌直してv」
 「ンなモンで機嫌が直るか!!!」
 「というわけで、そんな跡部の機嫌を直すためにも何か食べにでも行こっか?」
 「ああ!? 俺は子どもか!!」
  「「さんせー!!」」










―――6.想い秘めて









ζ     ζ     ζ     ζ     ζ

 はい。ちょっぴりインターミッション的な話を入れ、そしていよいよ話の中心をせんべへと持っていったりしてみました。『インサイトで見破ったぜ 俺の事好きだろ』とか言っちゃう某俺様が自分に疎いのか? などと突っ込みが来そうですが、基本的にウチのサイトでは跡部はアイドルです。そしてその事に全く気付かないまま1人のみ(手塚か不二か)を追い続けるのが毎度のパターン。というわけで疎いです(理論成り立ってません)。
 では次、いよいよ物語は急転直下の佳境編? 結局今回インターミッションで話した事は一体どれだけ役に立つのでしょう? そして余談。千石は跡部に何をあげたんだろう・・・(って自分でも考えてなかったんかい・・・)?

2004.7.5