Unhappy Life





Target1.母親

 「で、何かな君は?」
 「・・・・・・何? この体勢」
 ベッドに座り、脚の上にそれを座らせ撫でくり回しながら尋ねる。
 「まあ気にするな。周ちゃんにそっくりだったりするとついついこんな事がしたくなるだけだ」
 「ていうかその呼び方止めてくれない? 僕『シューゴ』って言うんだけど」
 「そうかやっぱ周ちゃんか―――ってこれだとややこしい!?」
 「気づけよさっさと・・・・・・」
 「まあそれはともかく、じゃあそのまま『シューゴ』でいこうか。で、シューゴ・・・」
 「ん?」
 つぶらな瞳を見つめる。シューゴもじっとこちらを見上げてきて・・・
 「可愛いなあやっぱvvvvvvvvvvvv」
 ばきっ!!
 「いい加減にしてよどこまで話題ずらしたら気が済むワケ!?」
 「・・・・・・・・・・・・。
  は〜。周ちゃんとそっくりだったから下手に出てあげれば付け上がる。そんなところも可愛いぞvv」
 「・・・お願い誰か助けて」
 感極まって泣き出すシューゴを飽きもせず弄くる。シューゴもようやっと大人しくなってくれた。
 「で、話を戻してそのオプションって取り外し不可なのか?」
 「ヘンタイ発言に戻すなああああ!!!!!!」
 「だって確かに如何にも悪魔ちっくなのも可愛いけど!! どうせやるんだったらやっぱそのテディベアのはらわたくり貫いて被せてやりたいってそう思うのが人としての正しい道ってモンだろ!?」
 「人として十二分に間違ってる!! 大体正体見抜いてんだったらさっさと話題進めろ!!」
 吠えるシューゴに、佐伯が受けたのは衝撃だった。
 「つ、つまりお前は―――」
 「ふふっ。やっと驚いたね人間」
 「――――――テディベア被りたかった俺と同じ人として最低的ヘンタイ思考の持ち主だったんだな!?」
 「開き直るなヘンタイとか認めるないつそんな話を僕がした!!
  だから!!」
 シューゴがこちらの手の中から脱出―――しようとしたので拘束する。1分ほどなおも頑張るので仕方無しに放してやった。
 空中に飛び上がりばっ!とカッコよく羽根を広げ、
 「僕は上級悪魔のシューゴだ!! お前を不幸にしに来たんだ!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ぽん。
 「・・・・・・ってだからなんでダンボールに詰める!?」
 「いやだって、それならそうと早く言ってくれれば真斗のトコに送ってやったっていうのに」
 「真斗って誰?」
 「俺の双子の姉貴だ。お前は絶対そっちと間違えたんだ。大丈夫だ。それがバレる前にちゃんと送り返してやるからな俺が責任持って」
 「『は』? 『を』じゃなくって?」
 「送料はもちろんお前持ちだ。あるいは着払いか。何せ間違ったのはお前であり間違われたのは向こう。俺はそれを正してやるだけなんだから」
 「僕は間違ってない!!」
 「どこがだ? この品行方性八方美人見た目だけは爽やか好青年でいっているこの俺に悪魔が付け入るスキなんて―――」
 「ありすぎだ!! ・・・・・・どこをどう聞いたってお前に憑けって言われてるようなものじゃないか」
 「ほお。そう思うか。ちなみに最初にそう言ったの誰だ?」
 「それはその―――・・・
  ――――――言えるワケないだろ!?」
 「ちっ、残念」
 つまりは自分にコレを送りつけた―――しいては自分を不幸にしたがっている人間がいるのであり、よって間違って来たのではないらしい。
 心の中で確認し、ぐるぐる巻きに縛った縄をほどく。全体的に疲れ果てた感じのシューゴに、佐伯はこう尋ねた。
 「で、具体的に何やるんだ?」
 『自分を不幸にする』。ああ口で言うのは簡単だ。さて実行するとなると何をするんだろう?
 素朴な疑問を抱えた佐伯。調子を取り戻したシューゴがにっと笑い、
 「そうだねえ。じゃあ、
  ―――まずはこんなものでどうかな?」
 バシバシバシィ―――ッ!!
 シューゴの体が放電した。高圧電流が壁を伝い家中を這い回る。
 「どーだ!! これでお前の家の電気は一切使えなくなった!!」
 暗い部屋の中で高笑いするシューゴ。佐伯も暫し呆然と見て、
 「電気・・・・・・使ってたっけ?」
 「どこの原始時代の家だここは!? 使ってるだろ!? だから今こんなに暗いんだろ!?」
 「いやこれは普通にブレーカー切ってあるだけだし。ホラ、田舎は月明かりが綺麗だぞ〜?」
 「―――きゃあああああああああ!!!!!!!!」
 佐伯の不思議な言い分を遮り、階下から女性の悲鳴が聞こえてきた。
 「母さん!?」
 「ほーらさっそく不幸が!!」
 「そんな!! 母さんが叫ぶのなんて不動産屋に散々クレームつけて本来の半額でこの家買った時以来・・・!!」
 「どーいう家だよここ・・・・・・」
 げんなりとシューゴが呟いた。更に暫くお互い目的を忘れ・・・・・・
 「―――そう! だから早く助けてあげないと、お母さん感電死しちゃうよ」
 「ははっ。そんな馬鹿な。母さんが感電程度喰らうワケないし仮に喰らったとしてもその程度で死ぬヤワな心臓の持ち主じゃないって」
 「だからさあ・・・・・・」
 「だって母さんっていったら以前スタンガン持った変質者に狙われて、避ければいいだけなのにソイツに水ぶっかけて逆に感電させた挙句迷惑料とかいって金抜き取って見てた人にも口止め料渡してから警察に売り渡して誉められた人だからなあ」
 「もーヤだよこの家・・・・・・・・・・・・」
 「何にしてもアレは感電じゃないだろ。タイミングが遅すぎる」
 「・・・・・・ああ、そういう理由だったのか」
 微妙に安心したっぽい悪魔の口ぶり。まさかこの自分が本気で感電したかもしれない人をほっぽっといて優雅に会話に打ち興じるとでも思っていたのだろうか?
 のんびりと階段を下り、台所に行く。シューゴは後ろをぱたぱた飛んでついてきた。さすが悪魔。夜目はしっかり利くらしい。
 台所へ入り、
 「母さん?」
 「あ、虎次郎。丁度いいところへ!」
 常にはない感じで興奮する母親。先程の悲鳴と合わせ一体彼女の身に何が―――
 「さっきいきなり電気がショートしたでしょ? 弾みで冷蔵庫が直ったわ!」
 「よかったじゃん母さん!!」
 ―――起こったかよくわかったので、佐伯もまた興奮してみた。
 「・・・・・・冷蔵庫ぉ?」
 あからさまに訝しげな声を上げるシューゴに解説してやる。
 「そろそろ寿命の冷蔵庫な。家電リサイクル法が出来たおかげで今更買い換えようにも処分費がかかるし、騙し騙し使ってたはいいが今朝壊れて以来うんともすんとも言わなくなって、それで母さんがずっとかかりきりになって見てたんだけど―――」
 「もしかして・・・『母さんの手伝い』って・・・・・・、
  ―――ソレ?」
 「ああ」
 「やっぱり長年愛情持って接してると物にも魂が篭るのかしら? 生命の神秘ねえ」
 「冷蔵庫の恩返しか・・・。感動秘話だったな」
 「・・・・・・どこが?」
 「ああそうそう。そんなワケで夕飯ね。今日は豪華よ。何せ冷凍食品がみんな解凍されたから。それとそっちの子はミルクでいい?」
 「何であっさり受け入れられてるの僕!?」
 「シューゴ、それでいいか? ちなみにミルクは
200mlにつき120円な」
 「・・・・・・・・・・・・。まあ、もう何でもいいよ」
 大人しくなったシューゴをイスに座らせ、(回復した電気で)調理をし月明かりを頼りにいざ夕食。
 「シューゴ、だっけ? 可愛いわねえその子vv」
 「だろ? ホント周ちゃんそっくりでさ〜vv」
 この子にしてこの母あり。何も説明していないのにナチュラルに同席してしまった。
 もう全体的にどうでもよくなってくぴくぴミルクを飲む周吾。ちっちゃい手を両方使ってマグカップを持つ様はもー可愛いとしか言い様がない位!!
 そんな周吾をほのぼの見つめ、
 「ああシューゴ」
 「ん?」
 「その牛乳、今朝から室温放置だから腐ってるかも」
 ぶはっ!!!



―――Target2.六角一同








 ―――強いぞ佐伯母。感電そのものはごく普通に回避しすぎて話題にすらなりません。なおそんな彼女の名及び設定は『〜〜〜』に出ています。いえ隠す理由全くないですが気分の問題で(爆)。
 余談として、ラストに牛乳の指摘したのは佐伯ではなく母です。しっかり飲み終わってから言いました。「在庫処分係が増えてくれてよかったわ」という心の声と共に。

2005.4.2930