2.情報収集 −千石−


 佐伯はともかく跡部は一応王様につき、今回の旅は極秘である。単独(2人だが)のため危険が大きいというのと、王のいない間国そのものが狙われやすいという2つの理由により。
 さて適当に大きな街で普通の旅装束を購入した跡部。待ち合わせ場所の酒場に入ると、佐伯は適当な男らと談笑をしていた。
 邪魔するのもなんだろう。肩を竦めカウンターに向かう。と、こちらに気付いた佐伯は男らに「それじゃ」と手を上げ戻ってきた。
 「何やってんだ?」
 「ああ景吾。お帰り。服似合ってんじゃん」
 『跡部』の名(姓だが)を出せば変装の意味0。なので様付けもされず名前で呼ばれ親しげに微笑まれ。
 跡部の白い目元が僅かに赤く色づいた。
 振り払うようにそっぽを向き、
 「何話してたんだ?」
 「いい情報収集家はいないかなと思ってね。俺やお前がこうやって聞き込んでもいいけど、やっぱ慣れてるヤツがやった方がいいだろ? 俺らじゃ聞けない情報も手に入れてくれるし、人脈があると何かと便利だ」
 「なるほどなあ。
  んで? いたか?」
 「今まだ実験中」
 「『実験』?」
 探し途中ならまだしも実験?
 首を傾げる跡部に、佐伯は楽しそうに笑った。話していた人たちを肩越しに小さく指し、
 「ちょっとした情報ばら撒いてな、早く駆け込んできたヤツほど優秀、と」
 「必ずしもそうとも言えねえだろ?」
 「それでも、選ぶ上での指標にはなるだろ? 情報は新鮮さが命だ。いくら慎重だろうが仁義に満ち溢れてようが、持ってきたものが役に立たなければ意味がない」
 「まあ・・・なあ・・・・・・」
 納得しきれないながらも間違ってはいない。最初に話を持ちかけてきたときとは打って変わった冷たい言い振りに僅かな嫌悪感を憶えつつ、それでも跡部は頷くしかなかった。
 それ以上は特に話す事もなく、酒場でそのまま夕食を摂り―――
 ばたん!!
 「いたああああああああ!!!!!!!!!!!」
 扉が開くや否や、駆け込んできた・・・少年? まあ自分たちと同い年くらいのオレンジ頭の男が、ダッシュでこちらに駆け寄り―――
 ―――跡部の手をがしっと掴んだ。
 「ねえねえ君だよね古代王国の王族末裔のお姫様って!! うわ〜!! 確かにすっげー美人さん! お付きの人ともども激俺の好みvv
  君にだったら喜んでどこまでもついてっちゃうよ!!」
 「ちょ、ちょっと待て!! 何なんだよてめぇは!!」
 「あ俺? そうそ自己紹介してなかったねー。俺は千石清純。一応情報屋? あ、だいじょぶだいじょぶ。戦闘もけっこー得意だからボディーガードにもぴったりvv
  これからよろしくねvv」
 ぎゅーっと握られぶんぶん振られ。むやみに喜ぶ千石とやらを見、跡部もようやく事態を呑み込めてきた。
 横でにこにこ笑う主犯に半眼を向け、
 「オイ佐伯、てめぇ一体どういう『情報』ばら撒きやがった?」
 「いや別に? 大したモンじゃないぞ? ただ、
  ≪かつて滅びた王国の末裔である薄幸の美少女が、自分たち一族を滅ぼした相手を倒すため旅をしている最中だ。相手に見つかれば殺されてしまうため、少女は男装をしている。誰か助けてくれる人はいないだろうか≫といった感じで」
 「そーそーv そんなワケで俺が自ら立候補〜♪ ちょ〜っと探し出すのに苦労しちゃったけど君のために頑張ったよv」
 ・・・目の前が暗くなった。暗いまま、呟く。
 「とりあえず、コイツは落とせ」
 「え〜〜〜〜〜〜!? 何で〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
 「ったりめーだろーが!! いくら迅速だろーが情報の真偽は確かめろ!! まだ紛らわしかったり相手が隠してたりすんならともかくあからさまな嘘八百じゃねーか!! ンなモンに騙されてのこのこ来た時点で情報屋としちゃ完璧失格だろーが!!」
 「そんな事ないもん!! 俺がこの目でしっかり確認したさ!!
  君は文句なしに美少女だ!!」
 「そこか確認すんのは!? つーかそこも全然違げーよ!!」
 「ええ!? まさか!!」
 「よし。よーやくまともに頭働くようになってきたか」
 「まさか君は―――
  ―――もー処女を捧げた後!?」
 「何の話だ!?」
 「まさかそのお付きの人と!?
  そんなー!! 酷いよー!! 約束と違うじゃん!!」
 「『約束』・・・・・・?」
 再び目の前が暗くなる。嫌な予感を抱えたまま再び佐伯を見ると、
 「≪もし助けてくれるお方が現れたなら、大したお礼は出来ませんがその代わりに私自身を捧げます。
そういう経験まだないから優しくしてねvv≫というのもオプションに入れておいたぞ」
 「『
優しくしてねvv』じゃねえええええええ!!!!!!」
 「さー部屋はしっかり取ってきたよ!! もちろんこの街で一番綺麗な宿屋のね!!」
 「まさか苦労して探し出したものって宿の事か!?」
 「さっそく今すぐ
Go!!」
 「佐伯の馬鹿野郎〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」





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 こうして、千石もまた味方についてくれた。なお『少女』でない事は脱いだ瞬間もちろんバレたが、「君くらいの美人さんならどっちでもオッケー!」という事で軽く流された。佐伯もぜひ一緒に3人でと誘われたが、彼は丁重に断った。抱かれるのは趣味ではない。





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 「ふむふむ。なるほどねえ」
 頭にしこたまたんこぶをこさえた千石が、同じ状態の佐伯に『真実』を聞かされ納得していた。
 痛い部位を撫でながら、佐伯は笑顔で結論付ける。
 「で、もちろん協力してくれるよな? なにせコイツの純潔奪ったワケだし」
 「え? でも突っ込んだのは君の方が先―――」
 どごすごすっ!!
 「さっさと話題進めろ」
 たんこぶの数をさらに増やし、千石が首を傾げた。
 「で、集めたのが金持ちと―――」
 「あ待て千石。そういう平たい言い方を―――」
 「―――ほおおおおおお。
  佐伯、てめぇ俺に話持ちかけてきた理由はそれだってか。ああ?」
 注意は明らかに遅かった。ばきぼきと指を鳴らす跡部に、佐伯はむしろ向かっていった。
 真正面で立て膝となり、跡部の両手を握ってうるうるお目目を見せ、
 「だって周ちゃん―――あ、姫な―――が危ないんだから!! 助けるためだったらなりふりなんて構ってられないだろ!? 俺は何としてでも周ちゃんを助けたいんだ!!」
 男泣きでもしそうな佐伯。対して跡部は・・・
 「・・・・・・・・・・・・。
  ―――くそっ」
 眉間に皺を寄せ佐伯からは目を逸らし、何か言いたげに口を開きかけ―――結局舌打ちして手を振り払った。『渋々納得』の合図らしい。
 改めて、千石が首を傾げる。
 「で、繰り返すけど集めたのが王様と―――」
 「? 何で知ってる?」
 きょとんとする跡部。これでは自白したも同じだが、完全に確定した千石の言い振りでは否定したところで無駄だろう。
 実際千石はため息をつき、
 「あのねえ。俺これでも『情報屋』だよ? あんま舐めないでくんないかなあ?
  あの大国“氷帝帝国”の王様となったら超有名どころじゃん。知らない方がモグリだって」
 「―――!
  じゃあもう―――」
 焦る跡部を他所に、千石は横目で佐伯を見た。明後日の方向を向きぺろっと舌を出す『主犯』を。
 「サエくん・・・。全部わかった上でやってるっしょ?」
 「氷帝の王様はイコール男
  ―――お前があれだけ散々騒いでくれたおかげで、コイツはすっかり女性として定着したよ。ありがとな」
 「いやいやそれほどでも」
 「確かにお前は優秀な情報屋だよ。集めるだけじゃなくて作り出すのも上手い」
 「君ほどじゃないけどね」
 さらっと言った一言。指したのは今回の事についてだけなのかそれとも・・・・・・。
 千石が小さく肩を竦める。この会話は終わりらしい。終わりにしてくれたらしい。
 「んで、それに俺っていうかつまりは情報源?」
 「そうだな」
 「それでモノホンのお姫様助けに行くの? 魔王から?」
 「そうだな」
 「肝心のトコ足んなくない?」
 「つまり?」
 「ズバリ――――――戦闘要員」



―――3.リョーガ