3.斬り込み隊長 −リョーガ−


 再び酒場に戻り。
 「アレがそう」
 「アレが?」
 「何だよ。まだガキじゃねえか」
 「・・・同い年で王様になっちゃった人に比べれば驚きはまだ少ないんじゃない?」
 丸テーブルを囲み、3人はぼそぼそとしゃべっていた。もちろん声は潜めつつも、だからといって怪しい雰囲気を出したりはしていない。彼らを見ても、陽気に盛り上がる客その1〜3で片付けられるだろう。
 さてそんな彼らが見てたのは・・・
 「つーワケで、アイツは俺が倒してやったんだよ」
 「え〜? ウソ〜!」
 「ウソじゃねーって。何なら見せてやろーか? 俺の華麗な剣捌き」
 「全然そー見えないー」
 「見せるのベッドの上でだったり?」
 「お、いーなそりゃ。3人いっぺんに相手してやるぜ?」
 きゃははと広がる馬鹿声。派手な女3人をはべらせぐびぐび酒を煽る男―――自分ら基準で少年か―――に、跡部は痛む頭を押さえた。
 「アイツ入れんの止めよーぜ」
 「お前注文多いぞ景吾」
 「だってよお、アイツ入れてみろよ。ぜってー俺らお笑い大道芸人の集団に見られんぜ」
 「・・・・・・やっぱ止めるか」
 「あのねえ! サエくんまで同意しない!」
 「って言ってもなあ。既にお前がいるし」
 「ほらやっぱここはもー諦めてリョーガくん入れよーよ」
 佐伯の皮肉を流し、千石はかの男―――リョーガの方をちらりと見た。視線を細める。
 「≪越前リョーガくん。傭兵業から賞金稼ぎまでこなすフリーの剣士。年齢に似合わず歴は長く、見た目・実力合わせその筋じゃかなりの有名人≫、ってね」
 「『その筋』ってどの筋だ? まさか酒場の女どもじゃねえだろーな」
 「半分正解。彼のタラシ振りは有名だよ〜? 酒場の女性はもちろん貴族から町娘、挙句男と親しくしちゃいけない巫女さんまで。行く街行く街、適当に若くてよさげな子は完全制覇だね」
 「げー・・・・・・」
 跡部が、普段は絶対やらないであろう心底嫌そうな呻きを上げた。まあ仲間になったタラシ(ともう一名)に散々なメに遭わされた者としては当然の抗議かもしれない。
 一方・・・
 「なるほどなあ。お前がアイツ選んだ理由がよくわかるよ」
 「あ、わかってくれる?」
 「もちろん。類は友を呼んだんだな?」
 「呼んでない!」
 「わかってるって冗談だ」
 「・・・・・・ホントに?」
 「ああ」
 頷き、佐伯もまた目を細めた。面白そうに。
 同じ結論に辿り着きむ〜とむくれる跡部の頭を撫で、
 「景吾も嫌そうだし、今回は俺が行くよ。代わりにお前ら準備しててくれ」





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 作戦通り、女装してリョーガに近付いた佐伯。元々の美貌に何者にも侵されない気高さを兼ね備えた彼がリョーガのハートを射抜くのに、さして時間はかからなかった。
 何とか自分のものにしようと必死に貢ぐリョーガ。最初のうちこそ何とかなっていたが、金が足りなくなるのもまたさして時間はかからなかった。
 割が良くって早く終わって金もすぐもらえる仕事はないか、と親しい情報屋(もちろん千石)に頼んだところ、なんとどこぞの金持ちぼっちゃんが自分を買いたいと言う。ボディーガードかそれとも闘技選手にか。どっちでもいいから前払い+借金で金をもらった・・・・・・ところ肝心の女が消えた。
 ヤケクソで貰った金で飲み食い遊び放題しまくるリョーガの元へ、ついにその金持ち坊ちゃんが来た。仲介者の千石と―――
 ―――そして『執事』という名目で佐伯が。
 「な―――!!!」
 見た瞬間全てのカラクリは解けた。が時既に遅し。貰った金は使ってしまった。しかも佐伯に貢いだのでない以上返しようはない。
 「つーワケで、てめぇは今日から俺様のものだ」
 「しっかり働いてしっかり返すんだぞリョーガvv あ、もちろん賃金は全部前金で渡したからな。今後一切お前に金は払わないぞvv」
 「・・・・・・・・・・・・嵌められた」
 「ま、リョーガくんふぁ〜いとっ♪」



―――4.リョーマとケビン