5.捨て駒1 −英二−


 「魔王倒しに行くのはいーけどよ、その魔王ってどんなヤツなんだ?」
 6人で集まる中、そう問い掛けたのはケビンだった。
 全員の視線が佐伯―――最初にこの話を持ち出してきたヤツに向けられる。そんな話があるとすればけっこー食らいつく者は多いと思うのだが、彼に聞くまで誰も知らなかった。
 視線に胡散臭さが篭る。向けられ佐伯は、
 「さあ?」
 とあっさり首を傾げてくれた。
 「さってあんま家空け過ぎんのも悪りいし」
 「あ、そーいや向こうの街の踊り子さんが可愛いって言うし〜」
 「お、なら俺も行くか」
 「さっさと帰って練習しようぜリョーマ」
 「そーだね」
 がたがたがたと席を立つ5人。出口へ向かう彼らに・・・
 すたたたた
 軽い音が響・・・きもしなかった。戸板に食事用のナイフが突き刺さっている。誰にも掠らなかった代わりに、戸板に出来た架空の人物の頭と両手足を貫き。
 全員の動きが止まった。青褪めた顔で、じわじわ振り向く。急激な動きは攻撃の対象になりやすい。
 振り向いた先―――ナイフが飛んできた方向には佐伯がいた。にこにこ笑いながら、1人1本換算でラスト1本を弄んでいる。
 「そういや、俺らの事は調べときながらてめぇの事は何も知らねえよな・・・」
 「資金源・情報収集・切り込み隊長に隊員2名。
  ―――君の役割は何なんだろうねえ・・・・・・」
 「『従者』っつーのもおかしいよなあ・・・。姫救出なら兵士がまず動くべきだろーよ・・・」
 乾いた口を何とか動かし尋ねる。にこにこ笑ったまま、佐伯はただ一言こう言った。
 「トリックスター」
 『――――――!!!???』
 トリックスター。“暗器携帯者”という意味で用いられるこの言葉。もちろん中身はその名の通り、目に見えない形で武器を持ち不意打ちを得意とする者を指し―――ていた。かつては。
 今ではさらに違う意味で使われる事が多い。『卑怯者』と。
 戦術全般で手段を選ばない者を示す軽蔑の言葉。そして―――
 ―――あえて自らこう名乗る場合、それは
10割脅しである。佐伯の今までの言動を振り返れば、彼の『実力』に疑いどころはどこにもない。
 「つまり・・・」
 「そのお姫様ってヤツ助けるのが、俺たちが生き残る条件ってワケね・・・・・・」
 そんな確認を取られ、
 「話が早くて助かるよ。
  ま、せっかく料理店なんだし立ち話もなんだろ? 戻って来いよ。食いながら話そうぜ」
 佐伯は全く否定もせず明るく迎え入れてくれた。逃げ道0。
 完全に血が引き、青さを通り越し白くなった顔で全員が戻ってくる。丁度タイミングよく出された食事。これらに毒が入っているかもしれない。解毒剤が欲しければ2度と逆らうななど言われるかもしれない。いや実は既にされていたのかもしれない。食事といわず、渡された飲み水なども含め・・・・・・。
 どんよりと暗くなる中、
 「こーなったら方法は1つ」
 ぼそりとリョーマが呟いた。『何!?』と顔を寄せてくる周りを無視し、いきなりがたりとイスを引き、入り口に向かって手を振った。
 「英二せんぱ〜い! お昼一緒にどうっスか〜?」
 「おーおチビー! いいの!?」
 「そりゃもちろんっスよ! 奢りますから」
 「太っ腹じゃん!」
 入ってきた少年英二は、もちろん何も知らないままその席へとつけられた。座ったら2度と引き返す事の出来ないその席へ・・・・・・。
 増えた被害者を哀れみながら、跡部がぼそぼそと囁いた。
 「おいリョーマ・・・。こりゃ何の解決にもなってなくねえか・・・?」
 「『解決策』なんて言ってないし」
 「・・・・・・なるほどな」
 良く出来ないなら嫌なメに遭う人を増やそう。自分たちだけが負けてたまるか。
 兄が兄なら弟も弟らしい。素晴らしい切り捨て案に、誰もが小さく拍手を送ったのだった。



―――6.