6.捨て駒2 −橘−


 旅をする道中、通りがかった国での事。
 「あ、ねえみんな。もう1人増やす? 『仲間』」
 千石の案に、
 全員頷いたのは言うまでもないだろう。
 「んでソイツ、どんなヤツなんだ?」
 「えっと・・・。
  ≪橘桔平くん。フリーの剣士。『武将』の2つ名で呼ばれ実力は高し。男気溢れ頼れる兄貴分。面倒見が良く情に厚い≫」
 (ん・・・・・・?)
 説明内の1フレーズ。前半はともかく後半は誰かを彷彿とさせるような・・・・・・。
 「・・・・・・んだよ佐伯?」
 「いや別に」
 小さく首を傾げ、佐伯はすっと跡部から視線を逸らした。
 説明しながらそんな様子を見ていた―――そしてやり取りの意味を正確に理解した千石は、
 「じゃあ橘くん勧誘は、サエくんよろしく」
 「は? 俺?」





¤     ¤     ¤     ¤     ¤






 「我が姫が魔王にさらわれたんです! お願いです旅の方! 手を貸してください!」
 「よしわかった」
 ダイジェストで示せばこんなものか。快諾してくれる被害者7号。
 仕入れた後宿屋にてこのやりとりを聞かされた跡部は、眉を顰め呟いた。
 「それってよお・・・・・・俺に話持ちかけてきた時とぴったり同じじゃねえ?」
 「違うだろ? 『姫は絶世の美女』と『魔王を倒せば英雄決定』が出なかった。橘の方が人としてはわりと真っ当、って事だな」
 「悪かったな自分の得になんなけりゃ動かねえヤツで!!
  しかもそれはそれでケビンに言ってやがるじゃねえか!!」
 「・・・・・・つまり?」
 真正面から訊き返す。まさかそう来るとは思わなかったか、今まで唾を飛ばす勢いで話し掛けていた跡部がいきなりぶっつりと止まった。
 「つまり・・・・・・、その、だからよお・・・・・・」
 ぶちぶち口篭もる跡部。俯き座っていた絨毯を毟る彼に、佐伯はふ・・・と笑った。
 明後日の方向を向き、言う。何気ない声音で。
 「例えば初対面時。挨拶は大抵似たり寄ったりだ。『初めまして。自分は誰々。これからよろしくな』。
  ―――大事なのはその後じゃないか?」
 「『後』・・・・・・?」
 跡部が不信げな目を上げた。その後あった事といえばあんな事やそんな事・・・・・・。
 悩む跡部をぽふっと抱き締め、
 「ま、そう難しく考えんなよ。早く寝ないと明日疲れるぞ」
 「ンな・・・子ども扱いすんなよな」
 「はいはい」
 佐伯は、包み込んだ彼をぽんぽんとリズミカルに叩いた。
 さほど待つまでもなく、跡部の体から力が抜けた。そっと覗き込むと、“帝王”だとはとても思えないあどけない寝顔を見せていた。
 起きそうにないのを確認し、
 「このまま寝かせると明日全身筋肉痛か」
 くすりと笑い、佐伯は跡部を抱き上げた。お姫様抱っこで。
 ベッドへ寝かせたところで、隣の部屋に泊まっていた千石とリョーガ(1部屋で泊まれるのは2人。合流した順番に、佐伯と跡部、千石とリョーガ、リョーマとケビン、英二と橘が同室となった)が静かに扉を開け入ってきた。
 こちらの光景を見て、まずはリョーガが下卑た笑みを浮かべた。
 「薬で眠らせてヤっちまうってか? いいね〜同室者は」
 「ははっ。残念外れ。普通に寝ただけだよ」
 軽口でのやりとり。千石も参加するかと思いきや。
 「ねえサエくん」
 「ん?」





 「――――――君と『お姫様』って、どんな関係?」





 千石を見る。いつもと違いは見られない。ただ、真偽を見極める『情報屋』の目でじっと見てくるだけだ。
 それには合わさず、佐伯は寝ている跡部を見下ろした。顔にかかった髪をどけてやり、
 「姫と従者さ。それだけだ」
 「それだけ?」
 「後は・・・・・・『大切な存在』、と」
 「ふ〜ん」
 どうとも取れる頷きを上げ、千石はリョーガを促し部屋を出て行った。
 「じゃーねサエくん。また明日」
 「ああ。お休み」
 ぱたりと閉じたドアを見送り、
 佐伯は跡部の隣に寝転んだ。
 腕の上に頭を乗せさせ、肩を抱き寄せ優しく微笑む。
 「お休み景吾」



―――7.切原