4.岩山にて―――『コウ』



 紆余曲折を経て、ついに目的地に辿り着いた!!
 岩場の陰からこっそり窺い見る。入り口を大岩で塞がれた洞窟(らしきもの)があり、その脇にはフードとマントで全身を覆った人(だろう)が座り込んでいた。
 情報どおり。あれがサエの言っていた『見張り』だろう。しかも、
 (マジで相当強ええな・・・)
 砂埃や直射日光防止の衣装。そう考えればさしておかしな服装ではないが、
 ―――さらに何かしらの術を施している。その上くつろいでいるようで常に周りの気配を読んでいる。それも極めて自然に。並の相手なら、自分が警戒されている事にすら気付けないだろう。
 気配を隠し接近を試みてはいるが・・・
 (これ以上は無理だろうな)
 あるいは実は既に気付かれているかもしれない。気付いていない振りをしているだけで。
 開き直り、跡部は堂々と身を表した。さすがにそいつもこちらに顔を向けた―――と思われる。フードが少し揺れた。
 マント野郎の前に立つ。見上げられ、おかげで口元が少し露わになった。性別はまだ不明だが、皺がなく滑らかなところからするとまだ若いだろう。
 「中にいるヤツを引き取りに来た」
 無言のまま、そいつが立ち上がった。身長は自分と同じ程度。マントで覆われる体に目立った特徴はなし。強いて挙げれば―――
 立てかけていた長い杖を手に取る。マント同様細かい細工を施されたそれ。細工であり―――術であり。
 (杖、か・・・。また厄介なモンを・・・・・・)
 一般的に杖は術の補助に使うものだ。
 一般的ではないものに、杖は殴るための武器として使う方法がある。杖そのものを術で補強するか、あるいは術者が宝玉生成などに用いる一部の硬石で杖を作った場合、ヘタな盾を打ち砕き剣を斬り飛ばすほどのものと化す事がある。しかも杖で重要なのは大抵上下につけられた飾り部分で、それでありながら強度や持ちやすさの都合上そこそこの太さとなっている。そんな杖の性質を利用し、中を空洞にし刃物を仕込んでいたりする凶悪な輩も時にはいるのだ。いわゆる仕込み杖。
 では目の前のそいつはどうなのか。
 (
1010、何かあると思った方が良さそうだな)
 表に表さないよう警戒する跡部の前で、そいつがフードを取った。
 「っ・・・!」
 さすがに驚きは隠せなかった。
 「てめぇ、何モンだ・・・・・・?」
 問い掛ける跡部。金髪の少年は、端正な顔にふ・・・と不思議な笑みを浮かべ問い返してきた。
 「誰に会った?」
 「佐伯・サエ・虎次郎・・・・・・」
 「なら話は早いな。俺はサエの双子の弟だよ」
 「何の説明にもなってねえだろ? 大体サエは―――」
 「体を作り変えた? 同じように俺も作り変えてたとしたら?」
 「まさかてめぇの肉体提供者[ドナー]って・・・」
 「虎次郎だな。だからそれに合わせて俺はコウになった」
 全てを別々に考えると出来すぎた偶然だが、佐伯何某と虎次郎、サエとコウをそれぞれきょうだいだと考えればありえなくもない事だ。2人が同じ事故で一緒に肉体を失ったところで2人が通りがかった。
 肉体蘇生に元はどれだけ必要かは術者の腕によりきりとしても、1人から2人分貰うよりは1人につき1人分にするのが普通だろう。
 「ここで会ったのも何かの縁だな。よろしく」
 軽く差し出された手を一応握りながら観察する。確かに男女差がない分よりそっくりだ。ただしサエのようにハイテンションではなく、虎次郎のような会って即座にぶん殴りたくなるようなふてぶてしさもなく。誰似かというと一番佐伯に似ているのだろう。爽やかさと微妙な熱血漢とそれを完全に打ち消すボケっぷりをなくし、全体的に平坦にした感じ。4人の中で付き合うなら1番マシと思われる。
 「で、買い手だっけ」
 「ああ」
 「暗号は?」
 「ちょっと待て」
 ごそごそと懐を探り―――
 「あああったあった。え〜っと・・・
  『昔々あるところに―――』」
 「カンペ不可」
 「ああ!?」
 取り出した紙をあっさり取り上げられ、跡部はブーイングを上げた。
 「何でだよ!?」
 「それ見たら誰だって言えるだろ? それじゃ暗号の意味ないじゃん」
 「だったらどーしろっつーんだよ!?」
 「ちゃんと憶えろよ」
 「出来るかよンな長い上意味不明な文章!!」
 「頑張れv」
 「てめぇ・・・・・・!!」
 前言撤回。コイツは友達にしたくないタイプナンバー1だった。
 はらわたが煮え繰り返る思いで、半ば八つ当たり気味に不平を洩らす。
 「大体ここで憶えて言ったって同じじゃねーか」
 「違うだろ?」
 「ああ? どこがだよ?」
 眉を寄せる跡部に、
 コウはにっこり笑って指を立てた。
 「わざわざそんなモン頑張って憶えるご苦労なヤツへ俺がひとかどの敬意を払える」
 「いんねーよてめぇの敬意なんぞ!!
  おらそこどきやがれ!! その岩ぶっ壊してやる!!」
 結局跡部は穏便な方法を諦めた。
 コウを脇へどかし剣を抜くと、おもむろに紡言を唱え始める。
 「汝その身に赫き渦巻く灼熱の炎よ」
 「へえ。爆発させて岩取り除く?」
 「我、汝と取引を交わす」
 「別に構わないけど」
 「我が力を代価に道を塞ぎしものを焼き―――」
 「ここら辺、地盤脆いから気をつけろよ? 崩れて生き埋めになるかもな、人質」
 「ストップストップストーップ!! 取引を中止する!!」
 ばたばたばたと剣を振り、跡部は集まりつつあった炎を煽ぎ消した。
 ぜーはー冷や汗を拭う跡部をコウはくっと笑い、
 「頑張れv」
 「てめぇ・・・・・・人に『そんな人だとは思わなかった!』とかよく言われんだろ?」
 「特に言われた事はないぞ? 人に紹介される際、『「見た目に騙されるな」の見本品だ』って注釈加えられる程度で」
 「同じだ!」
 「つまり俺は人生の厳しさを教えてやってるワケだな。これで騙されるヤツが減る。いい警告だ。
  そのためにわざわざ憎まれ役をやる。俺っていいヤツだなあ。うんうん」
 「自分で言ってる時点で最低だなてめぇ」
 「そんな! 俺はこんなに良心の呵責に苦しんでるんだぞ!?」
 「心の底から楽しんでるようにしか見えねーがな・・・・・・」
 「そこはそう見せる事でより相手を苦しめるための苦肉の策だ! そんな俺だからこそ俺が誉めてやらずに誰が誉める!?」
 「誰も誉めねーよ!!」
 「まあそれはそれとして暗号」
 「流すな!!」
 「なら続けるか? けど困ったな。そろそろ中の空気も足りなくなる頃じゃないかと」
 「空気穴位つけてやれよ!!」
 「それで崩れたら本末転倒だろ?」
 「なんでンな場所選んだ!?」
 「気分の問題で」
 「あのなあ!!」
 「ぴぴっと来たんだ。『汝ここに穴を開けよ。さすれば汝の望むものが見つかるだろう』、と」
 「誰のお告げだ!?」
 「なのに開けたら何もなかった。ムカついたから人質中に押し込んで塞いだところで気が付いた。確かに『人質を閉じ込める場所』っていうのが見つかった。
  やっぱあれは天のお告げだったんだな」
 「それこそ本末転倒だろーが!!」
 「ところがここに腰を落ち着けてから再び気付いた。ここには何も食べ物がなかった」
 「入った時点で気付け!! 岩山で何が食えるってんだよ!?」
 「そんなワケでめちゃくちゃに空腹だ。暗記時間やるからその間何か食わせてくれ」
 「ちょっと待て!! てめぇがその様子って、中の人質はどーなってんだよ!?」
 「既に餓死してるかもな。
  ―――ああ、中のヤツ食うって手もあったのか。じゃあさっそく開けて―――」
 「うーがー!!!」
 無性に叫びたくなった。ついでにどたばた暴れたくなった。ここが脆くなかったら所構わず術をぶっ放していただろう。
 所構い遠くの山をいくつか変形させ、さらにぜーはー息を切らせたところで、コウがぽんと肩に手を置いてきた。
 何かと思い顔を上げると、
 「どうどう」
 「うあマジでてめぇ殺してえ・・・・・・」
 全身震わせる跡部。頭の中にサエの言葉が蘇った。
 ―――『相当強いわよ、総合的にね』
 一番強いのは精神面らしい。
 結局ここで言い争う事に対する意味を見出せず(訳:疲れるだけで話が前に進まないため)、跡部は建設的に物を考える事にした。
 「んじゃコレ携帯食料な。『マズい』とか一言でも洩らしやがったら即行取り上げるからな」
 「つまり補充したはいいけど食える代物じゃなくてどうしようか悩んでたからこれを機に全部押し付けようと?」
 「いらねえんだな?」
 「ああいりますいりますvv わ〜いわ〜いvv お兄ちゃんありがと〜vv」
 「誰がてめぇの兄貴だ!!」
 とりあえずコウがもぐもぐ食べている間に跡部はカンペを手にぶつぶつ呟きだした。時折心底マズい部分にぶち当たるのか「うっ!」と呻き声が聞こえるが気にせず続ける。食べ終わった頃合を見計らってそちらを見れば、コウはえぐえぐ泣きながらそれでもほぼ完食していた。
 「・・・・・・泣くくれえなら残せよ」
 「だってお腹空いた・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・。マジで中のヤツ死んでねえか?」
 呆れ返る跡部を他所にラスト1口を食べ―――その1口が一番マズかったらしい。白目を剥いて1分ほど気絶した後―――コウはばっ!と立ち上がり、
 「じゃあ結果発表〜!!」
 ぱちぱちぱちぱち!!!
 「よし!!」
 拍手を受け気合一発。カンペを渡し域を整え、跡部は覚えたとおり口にした。
 「『昔々―――



  (長いので中略)



  ―――ちゃんちゃん♪』
  どうだ!?」
 「おお凄い!! 完璧だ!! しかも棒読みじゃない!! ちゃんと聞いてて面白かったぞ!!」
 「は〜っはっはっは!!! ざっとこんなモンよ!! 俺様に不可能はねえ!!」
 惜しみない拍手を送るコウにふんぞり返る跡部。大体お互い何をやろうとしていたのか忘れた辺りで、もう一度カンペを見下ろしふとコウが尋ねた。
 「んで、その続きは?」
 「・・・・・・・・・・・・あん?」
 「続き。まだ終わってないだろ?」
 「終わっただろ? 『ちゃんちゃん♪』で」
 「まだメモ続いてるじゃん」
 「その先はただのメッセージだろ?」
 「でも頭に ≪人質救出暗号講座! 〜
全部言えて一人前☆〜≫ って書いてあるぞ?
  ・・・ああ。そういえばお前ここ言い忘れてたな」
 「タイトルだろそりゃ!? 普通読まねーだろーが!!」
 「じゃあその言い分は聞くとする。けど『全部言えて』と書いてある以上、その下に書いてあるものは全部言うべきだ。違うか?」
 「ぐ・・・・・・」
 そう言われれば言わないワケにはいかない紛らわしい言い方だが。
 必死こいて思い出す。暗記の範疇にはないからと1回軽く流し読みした程度のところを。
 思い出し―――
 「言えるか!!」
 「何でだよ!?」
 「だってそこに書いてある事っつったら―――!!」





 ≪以上! これが言えればあなたは満点☆ 凄いぞ頑張れファイオーファイオー!!
  それでは、サエお姉さまによる暗号講座はここでお終いっ! ばっはは〜い(ちゃんと手は振るように!!)♪≫





 「『ちゃんちゃん♪』だの『よかったねおじいさん』だのでいっぱいいっぱいだったんだぞ!? これ以上なんで進んで恥掻かなけりゃなんねーんだよ!?」
 「もちろんそこまで進んで恥掻いたからだ。そこまでイっちまったらもうとどまる理由はない! さあゴー!!」
 「断る!!」
 「いーじゃんそこまで馬鹿やったんだから!!」
 「なおさら断る!!」
 「何でだよ!?」
 「何でもだ!! 俺の存在全てをかけて断固として拒否する!!」
 「そうか・・・・・・・・・・・・」
 しんみり呟くコウ。岩に手を置き、
 「じゃあ中の人間には悪いけど衰弱死か餓死か窒息死かどれかを待ってもらうという事で。
  恨むなら人命より己のプライドを取ったこの男―――そういやお前名前何ていうんだ?」
 「サエから聞いてねえのか?」
 「サエが俺に何か教えるワケないだろ?」
 「だからてめぇも何も教えねえってか?」
 「極めて納得しやすい理屈だな」
 「ガキのケンカか・・・?」
 「大人もこんなモンだって」
 「そういう方向に悟り開くなよな・・・。親哀しむぞ?」
 「『現実的でいい』って誉められたぞ?」
 「・・・・・・。持ちたくねえなンな子ども」
 「ほう。子どもを作る予定あり? その前に奥さん誰だ? サエは止めとけよ?」
 「ンな//!? ンな事考えてねーよ!!」
 「そうか。それはよかった」
 「・・・・・・何でそこまで安心すんだよ?」
 「そりゃもちろん、馬鹿の遺伝子受け継ぐ子どもが可哀想だ」
 「・・・双子ならお前と同じだろ?」
 「はっ! そうか!!」
 驚くコウに、むしろ跡部の方が慄いた。双子なら遺伝子は同じ。これは誤りである。正確には、『一卵性双生児なら遺伝子は同じ』。そして―――
 ―――男女の双子はその時点で二卵性だ。まず性染色体が全く違う。
 (なのに同じ・・・? 待てよ・・・? コイツら2人とも肉体作り変えたんだよな・・・・・・?
  ・・・・・・まさかサエって実は・・・・・・・・・・・・)
 非常にイヤな可能性。その後虎次郎にも抱かれたのだし別にどっちだろうと構いはしない・・・・・・のだろうが。
 (つまり何か? 俺は今だに女とヤった経験0か?
  あ〜こんな事なら故郷出る前に適当にヤってくりゃよかったぜ・・・・・・)
 絶望に立たされ跡部の思考回路が少しおかしくなっていく。
 そのおかしさのまま、彼は『暗号』のラストを飾った。
 「『以上! これが言えればあなたは満点☆ 凄いぞ頑張れファイオーファイオー!!
  それでは、サエお姉さまによる暗号講座はここでお終いっ! ばっはは〜い(ちゃんと手は振るように!!)♪』
  ―――これでいいってか!? あ゙あ゙!?」
 「あははははははははは〜っはははははああははははは〜〜〜〜はっはっはははっはははははは!!!!!!!!!!!!!
  可笑しい!! 面白すぎるぞお前!!」
 「うっせえ////!!!」
 「満点だ!! 完璧だ!! 抱腹ランプも全部ついた!! 扉が開くぞ!!」
 「おい待て!! なんなんだよその『抱腹ランプ』って!! こりゃただの人物識別用の暗号だろ!?」
 「これが全部ついた相手だけに扉を開く権利があるという物件だ」
 そんなコウの言葉どおり、岩の上につけられていたランプがぴこんぴこん光りあたかも灯台の灯の如くぐりんぐりん回り出した。
 「何なんだよこの誘拐犯とか一同・・・・・・」
 怒りを通り越してしまえば最早泣くしかない。涙を噛み締めもーどーにでもしてくれ・・・と9割9分現実放棄モードに入った跡部の前で、門こと大岩が―――
 ――――――開かなかった。
 「あれ? 壊れた」
 「おい!!」
 「おっかしーなあ。ランプが光ると扉が開くってマニュアルに―――」
 手元の薄っぺらい本をそれでもぱらぱらめくるコウ。あるところでぴたりと止まり、
 「―――二重構造だった」
 「・・・・・・。つまり?」
 「中の扉は開いたらしい」
 「ちなみに中の扉ってどんなんだったんだ?」
 「障子」
 「開くだろーよそりゃごく普通に!!
  つーかてめぇが作ったんじゃねーのかこの仕掛け!!」
 「抱腹ランプは通りすがりの商人から買ったんだ。現金払いサービスで設置までしてくれた。
  せっかくのサービスだし任せてみたんだけど、そういえば二重になってる事言い忘れてた」
 「・・・・・・その通りすがりの商人ってある意味すげーな。これ見りゃ普通大岩が扉だとしか考えねえだろ。ソイツは一体何に繋げるつもりだったんだ?」
 おかげで冷静になれた。冷静になった頭で考える。
 恥ずかしい暗号を必死こいて覚え大笑いされ挙句何も起こらなかった。
 跡部は、にっこりと笑った。
 晴れやかな笑顔で、言う。
 「何もかも無視してこの岩爆裂破砕させていいか?」
 「・・・。悪かった。俺が悪かった。ちゃんと開けるから」
 両手を上げ降参ポーズをするコウ。なぜかただでさえ色白の顔を真っ青にしがくがく震えつつの返事に、跡部は頷きながら彼の肩に軽く乗せておいた抜き身の剣を引っ込めた。
 コウが杖を持たないほうの手を岩に当てる。目を閉じ、力を集中させ―――
 「我、汝に懇願する
  閉ざされし門を開き我らを奥へと導きたまえ
  礼価は・・・・・・
  ・・・・・・ありがとな」
 「―――っ」
 ごごご・・・と振動し出す大岩に、跡部は言葉も出ず息を呑んだ。
 無生物相手の最上位契約紡言。意思のない相手に『命令』ではなく『頼み』。しかも返すものは言葉だけ。
 相手と交わす契約の中で、一番簡単なのは脅迫だ。跡部が森で木相手にしたのもそれ。特にサエの術を破る意味でもより強力に行う必要があったからだが。
 脅されて何かする事。得があり何かする事。頼まれて何かする事。難易度はこの順で上がっていく。契約という特殊ケースでなく日常生活でもこんなものだろう。頼まれただけで何かやろうとすれば、お互いの間に相当の信頼関係が必要だ。
 (これだけ出来るヤツが―――
  ・・・・・・なんでこんなしけた犯罪に荷担してんだ?)
 コイツの性格からして依頼は選り好みするだろう。特にこれだけの実力があればどこででも引っ張りだこの筈だ。それでありながらなぜ・・・・・・。
 ありえるとすれば、余程条件がいいか、あるいは中にいる人質が相当の重要もしくは危険人物か。
 (条件の良さ〜は却下か。ンなトコで餓死寸前になってる時点で労働条件は最悪だろ。
  人質が・・・・・・)
 そちらの方が可能性は高そうだ。人質がどんな相手か、跡部は何も聞いていない。連絡ミスかそれとも言えない相手―――お偉いさんか有名人か―――なのか。もしくはこんなところに閉じ込めコウほどの使い手を見張りにつけなければならないほど強いのか。
 「ほら、開いたぞ」
 「てめぇは中入んねえのか?」
 「俺は外で待ってるよ」
 「・・・何でだよ」
 「ほら。・・・・・・・・・・・・崩れそうな場合に備えて補助の術かけとくからさ」
 「何だよいかにも考えて思いつきました的今の間は」
 「まあ気にするな。とにかくゴー!」
 どんっ!
 後ろから突き飛ばされ、跡部は『人質』にも注意を払おうと心に誓った。



5.人質救出―――××