A.核心への迫り方が犯罪。
同じ食堂兼宿屋で話を聞いたところによると、かの少女はここの次女で実に良く働くいい子らしい。さらに今は仕事が忙しくて、恋人など作っている余裕はないそうだ。長女が既に結婚しここを継ぐ事にしているため、彼女は自由に相手を選べるらしい。
「ほ〜らぴったりv そんな君にはぜひ癒し系のこの俺を―――」
「え? あの・・・」
「違うだろ」
ごげっ!!
改めて長老らに話を聞くと、盗賊連中は数日前から昼夜問わず現れ、店や人を襲い金品を奪ったり適当な年齢の人を攫ったりと悪逆の限りを尽くしているらしい。騎士団も立ち向かってはいるようだが、どうもその一団、人ではないようで。おぞましい見た目に理解不能の中身。ロクな対抗策すら編み出せず、ただただしてやられっ放しだそうだ。
「人以外?」
怪訝な顔で悪魔が問う。
「どーしたの? 君が苛め倒すのに何か不都合があるようには聞こえないけど?」
「失礼な事言うなよ。誰がそんな事を心配したんだ?
俺が心配したのは、種属が違うと価値観もまた違う事だ」
「つまり?」
「ロクでもないモン収集されてたらどうする? 思わずムカついてこの街廃墟にしちまっても仕方ないよなあ?」
どこがどう失礼だったのか、こちらも失礼な台詞を吐き苦笑する佐伯に引く周り。なぜか千石も苦笑し、
「いやいやそーいう八つ当たりはどう? 責任とってもらって、当事者たちに死よりも勝る苦痛を与えるっていうのでどう?」
「なるほどそっちの方が良心も痛まない」
彼の一体どこに良心があるのか疑問だが、本人が言うからにはあるのだろう。
そしてこちらは良心の固まりらしい千石。そうそうと頷き、
「だってこの街ってさりげに金持ちだよ? 金属細工で有名だもん。
全部壊してタダ働きよりは、散々に恩売って金目のモン巻き上げた方がずっといいっしょ」
「何だこの街ショボいクセして金持ちだったのか?」
「観光都市じゃないから見た目はショボいけどね、各国のお偉いさんが顧客だよ?」
「おっしおっしオッケー!! 俄然やる気が出てきたぞ!!」
「・・・ホントに『俄然』だね」
毎度の事ながらこの変わり身の速さに、千石は心底感心して呟いた。
呟き、立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「ま、ここじゃこれ以上目ぼしい話は聞けそうにないしね。正体不明の相手に無策で突っ込むのもただの馬鹿っしょ。情報集めてくるよ」
「そんなの遠くからわかったところで跡形なく吹っ飛ばせばいいだけじゃないのか?」
身もフタもない発言をする佐伯。実のところ、(話になるか否かという点は他所に置いて)これが一番安全かつ効率的ではあるのだが。
立ち上がった千石は、ちちちと指を振った。
「甘いよサエくん。そんなあっさりさっくり倒しちゃってどーすんのさ。盛り上がりに欠けるじゃないか」
「俺はそれでオッケー」
即答する佐伯をびしりと指差し、
「甘い!! 甘すぎる!!
こうやって地道なところからスタートして、倒す時はもちろん一度負けてるっぽく演出! 苦労の末倒したっていう既成事実作んなくてどーすんのさ!!」
「やだなあ俺そういうの。格下相手に見下されんのはちょっと・・・・・・」
「何言ってんのさサエくん!!
『苦労の末』だから感謝が大きくなんだよ!? 即ち依頼料が!!」
「――――――っ!!」
「それを前に君はあえてプライドを優先させるの!? プライドなんてそこらの道端捨てといてオッケーっしょ!?」
「そーだな!! 高額依頼料に比べればプライドなんて安過ぎるもんだしな!!」
「そーだよサエくん!! プライドで飯は食えないんだよ!? ビバ依頼料万歳依頼料!! この世は全て金で動くんだよ!?」
「なるほど!! そして俺たちはアホな芝居でボロ儲け!!
クレームがついても『プライドを売った金だ』と言えば万事解決!! やっぱお前と組んで良かったよ千石!! お前最高だ!!」
「んじゃさっそく下準備に行ってくるね!!」
「よし行ってこい!!」
大声でなされる悪質犯罪計画。同じ席にはまだ長老たちもいるのだが、底抜けに腐り切った煩悩パワーを前に太刀打ちする事は不可能だった。多分コレに歯向かえるほどの度胸があれば、正体不明の盗賊集団など屁でもないだろう。
ぷるぷる震える長老らに代わり、先程からの接触で少しは慣れた(あるいは毒された)らしい報酬その1―――少女が、2人の裾を掴んで止めた。
「ちょっと待ってくださいよ!! そんな事を考えている人たちに仕事を任せられるワケないじゃないですか!!」
「じゃあ止める」
「後は君達で頑張ってvv」
「・・・・・・すみません。前言は撤回します。依頼料もちゃんと満足出来る額払います。
なのでそんな苦労せず楽〜に仕事なさって結構ですよ?」
「そうか? んじゃお言葉に甘えて手抜き方針で」
「いや〜親切に悪いねえ」
「いえ全く」
もうどうでもいいかもしれない。目的を果たしてさえくれるのならば。
「けどまあ、何にせよ情報は必要っしょ。行ってくるよ」
「そうか?」
「・・・君に全面任せるとね、多分被害額が多くなりすぎて依頼料入らないと思うから」
「なるほどなあ」
「やるつもりだったんだね? 見つけた途端即行爆破。
止めてね? 最悪俺らテロリスト集団になっちゃうよ?」
「別にいいじゃん」
「良くないです。依頼料」
「なるほど良くないな」
「そうそう」
少女の合いの手で佐伯の意見が変わる。どうやら少女も佐伯の扱い方を覚えてきたらしい。
「んじゃ」
暫く佐伯は任せて大丈夫なようだ。確認し、今度こそ去ろうとする千石・・・・・・を見て。
「あのすみません」
「ん?」
「情報収集って・・・、それなら専門家に任せた方がよくありません?」
そう、少女が問いかけた。
情報収集。一口に言っても難しいものだ。相手と余程信頼関係を築くか、口八丁手八丁で探り出すか、それとも金を出すか。
いずれにせよ(いや口八丁手八丁は別か?)よそ者の素人さんがそうそう出来るものではない。やるとすれば、街の情報屋にでも聞くか。
問う。が、
千石は笑ってぱたぱた手を振った。
「大丈夫大丈夫。俺専門家だから」
「専門家?」
じいっと見つめる。鎧は身に着けていないものの、いかにも威力の高そうな魔法剣を腰から下げる姿はどう見ても戦士―――
「ああ、俺職業商人だから」
「ちょっと待ってくださいよ!! 戦士じゃないんですか!? だから話持ちかけたのに!!」
「誰もそんな事言ってないじゃん。ダメだよ? 人見かけで判断しちゃ」
「してませんよ!! 明らかに弱そうだけど、実はそういう人に限って強いという世のお約束に則り声かけたんですよ!?」
「世の中そんな甘いワケないでしょ?」
「だったら!! 何でそんな紛らわしい剣下げてるんですか!? だから強いのかと思っちゃったじゃないですか!!」
「この剣?」
指差し、
千石は言った。はっきりと。
「売り物」
「身に付けるなああああ!!!」
この街細工モノとか多い分あんま値張らなくってさ。次の街で売ろうかと思って。高価なものだから、肌身離さず持ってよっかな〜って。
―――などとホザき出す戦士改め商人。相談する先をとことん間違えた事に少女は崩れ落ち・・・
「あ、でもこれだけ何か強・・・そうな・・・、悪魔と契約しているって事は、魔法士としては強―――!!」
「ああ、サエくんっていうかこの悪魔、俺のじゃないから」
「――――――へ?」
「契約してんのは別。その人が今ちょっと動けない状態だから、俺が一時的に預かってんの。
じゃなかったらもっとちゃんと従順にさせてるに決まってるっしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」
もう駄目だ。この人は本当にただの商人だと判明した。
商人に倒せるんだったらとっくにこの街の者が倒している。騎士ですら手も足も出ないのに商人なんかが太刀打ち出来るワケがない。しかも頼りの悪魔は街ごと敵を葬り去ろうとしている。一応何とか考えは改めさせたが、制御者がいない以上土壇場で何をやられるかわかったものではない。
「んじゃ行ってくるね〜♪」
「行ってらっしゃい」
こうなったら情報だけ集めてもらって、攻めるのは別の人にしよう。
決意し、少女は佐伯と共に千石を見送った。
―――A'.続・核心への迫り方が犯罪。