A'.続・核心への迫り方が犯罪。
「ただいま〜」
「おかえり」
夕食時になり、千石が戻ってきた。背中から大きな袋を提げ、片手で盗賊っぽさげな男を引きずり。
「何か成果あったか?」
この状況を見てなぜあえて確認する必要があるのか不思議だが、問う佐伯に千石は笑い、
「この人が盗賊の首領っていうか裏方代表さんっぽいよ? 街で店出してたからとりあえずしばいてみた。
でもってこっちが今までの盗品。全部はムリっぽかったから、特に大事そうなのだけ証拠品に押収してきたよ」
「よーしよーしでかした千石!!」
高価なものだけパクってきた、と悪びれもせず言い切る千石。佐伯もノリノリな時点でこの2人はもう止められない。
「・・・まあ既に一度盗られたものですから諦めはしますが」
佐伯に食事を出しにきた(昼から一歩も外に出ていないクセしてまだ食うらしい)少女が、軽く首を傾げた。
「なんでいきなり倒してるんですか?」
「え? 楽〜に仕事してオッケーじゃなかったっけ?
何ならもう一回返してきてやり直す?」
「いえシチュエーションに不満があるなんて言ってませんけど。
―――なんで商人が盗賊首領なんて倒せるんですか?」
「格安で仕入れるために?」
「盗品売買!? しかも買取りすらしないんですか!?」
「だってみんなホラ、安値で売れ〜って言うから」
「・・・・・・・・・・・・私たちも犯罪加担ですか」
「そv」
・・・・・・話す事はなくなった。
無言になった間に解説を加えておくと、この世の中もちろん『商人の戦闘能力は低くなければいけない』などというルールはない。そして千石は並のどころか一流の戦士すら鼻歌混じりにぶちのめすスーパー商人である。
だからこそ佐伯も千石相手に無駄に逆らいはしないのだ。悪魔とはいえ―――いや悪魔だからこそリスクの高い事はしない。・・・話が合うからというのも理由ではあるが。
「だって、強いなんて一言も・・・・・・」
エプロンを弄りながら尚も頑張る少女に、千石が笑顔を向ける。食わせ者たるその笑みを。
「『弱い』とも一言も言ってないよ? 俺ってば謙虚だからね」
―――『君のためなら火の中水の中敵の中。どんなヤツが相手だったって立ち向かうよ』
実はこの辺りの台詞は別にカッコつけではないのだ。火の中水の中はまだしも敵の中なら充分可能。
彼の言動をよく吟味すれば怪しい点は満載だったのだが、どうやら少女は一般論に騙されたらしい。尤も・・・
・・・常に混乱を招く紛らわしい言動を取る千石から真実を読み取る者などいないに等しいが。
「はあ・・・・・・」
しずしず下がる敗者を見送り、
改めて、佐伯は持っていた杯を掲げた。
「これで事件解決か〜。楽な仕事だったなあ」
「・・・マジで君にとっては楽な仕事だったね」
「良い事だ」
「良くないから。てゆーか事件解決してないから」
「何!? これは世に言う『小人さん童話の法則』じゃないのか!?」
「寝てる間に事件は解決しない!! そもそもそれは普段真面目に働いてる人用!!」
「俺はこんなに普段真面目なんだぞ!?」
「何に!? 非建設的な事には小人さん来ないからね!!」
「何だよ小人もかったいなあ・・・」
「そこまで柔軟性溢れる小人さんはいっそ来なくてオッケーです。
じゃなくてね、こっから先はサエくんの協力が必要なんだよ」
「俺の?」
佐伯が自分を指差しぱちくり瞬きする。千石がわざわざ自分の協力を仰ぎたいなどと言うと・・・・・・
「ホラ、やっぱ英雄っていうかモテモテの人って、こう爽やか優しくかつスマートに、っしょ?
これからこの人拷問してアジト吐かせようと思うんだけど、あんまエグい方法じゃみんな引いちゃうじゃん。
なんっか、好感度アップで何でも吐き出させる方法ってないかな?」
「なるほど。それで俺に助言を、か・・・」
「そv」
頷く千石に、佐伯も了解したと頷き、
「んじゃこんな感じでどうだ?」
ぷしゅ〜。ジュ〜・・・・・・
「―――という事で、いろいろ答えてくれたらそのありがたみに応じて好きなもの食わせてやるからな」
「・・・・・・・・・・・・」
目の前には鉄板に直接盛られたステーキ。その他テーブル中にメニューがたっぷり。
イスに手足体がんじがらめに縛られて、盗賊首領はよだれを垂らしてそれらを見ていた。それらと・・・・・・「食わせてやる」と言いながら遠慮なく自分が食べている佐伯を。
「んじゃまず〜・・・・・・
―――おお!? コレうっまい!! レアなのに中までしっかり火が通って生臭さも全くないし!!」
「テメーが食うな!! さも美味そーに解説すんな!!」
「いや実際マジで美味いし」
「さっさと質問しろよ!!」
「まあちょっと待て落ち着けよ。
うんうん。こっちの鳥のスープもいいなあ。身も心もあったまるよ」
「だああああ!!! 質問しねーんなら俺から言う!!
まずメンバーは俺入れて14人だ!!」
「よしよしよく言った。俺はお前から言ってくれる日を今か今かと待っていた」
「会ったのは5分前だ!!」
「んじゃこれをまずご褒美に」
「むぐ」
口に突っ込まれたのは―――上に乗っていたパセリ。
「―――それだけか!?」
「もちろんそうだ。
さあどんどん先を言え。肉は美味いぞ?」
「ああそーみてーだな・・・(泣)!!」
さらにステーキ2口目を食う佐伯。ちなみに全部で10口程度だ。
「俺たちは元は街の外にいた弱小野盗程度だったんだがな・・・」
「むぐむぐ」
「いやまあ俺ら自身はけっこー強いって思ってたんだぜ? けど1週間くらい前か? 遭遇したヤツらが強いの何の。相当意味不明のパーティだったんだが戦闘能力は桁外れに高くてよ。鬼のように徹底的に攻撃され、俺らはほぼ壊滅状態になった。結局なんでか途中で攻撃止めたおかげで助かったがな」
「いろいろ大変なんだな。だが本題に関係なかったからご褒美はなしな」
「ぐ・・・。
そんで山移動して1から立て直してるワケだ今。
でな―――」
「ずずず・・・」
「数日前、襲ったヤツらの中に魔法士がいてな」
「んぐ」
「そいつが命乞いをしてきた。出来る事は何でもするから助けてくれと」
「随分生きる事に必死な人なんだなあ。共感持つよ・・・・・・脂身はやっぱラストだよなあ。んじゃ避けといて、はく」
「だから俺たちはそいつを仲間にする事にした。やっぱ魔法士ってのはいると便利だしなあ」
「んむんむ」
「んで今の騒動ってのは、その魔法士が魔物呼び出してやってるってワケだ」
「むみゅ〜?」
「ああ、契約してるらしくってな。まあ、俺らは魔法士じゃねえからそれがどんだけ凄いのかとか、魔物の強さとかはよくわかんねーんだけど」
「ふぐふぐ」
「けど見た感じじゃすっげー強そうだったなあ。アレ出されてたら俺らが返り討ちあってただろーな」
「むんむん」
「・・・って頷くなよ。そーいやなんで出さなかったんだか」
「ん」
「まあンな話はいーわな。
んで、そーいうので街のヤツらがビビってる間にいろいろ盗む、と。
人は別にいんねーんだが、ま、箔付けって感じでか? いろいろやった方が迫力あるっぽいだろ?」
「むみー」
「んでアジトだったか。街の南に山があるだろ? そこの中腹にある洞窟だ。
―――俺の話はこの位かな?」
「そっかそっか。いい話だった。丁度いいBGMになった。
んじゃ、ごちそーさん」
「ちょっと待て!! お前何やりに来たんだよ!!」
「え・・・・・・?」
佐伯が、止まった。きょとんと、呆ける。
「マジで忘れたのか!?」
じっと、見つめる。テーブルを。そこに乗った、様々な皿を。
ぽんと手を叩き、
「ああもちろん覚えてるぞ? 飯食いに来たんだ」
「忘れてんじゃねーか綺麗さっぱり!!」
「そんな事ないって。覚えてるからこうして料金もリョーガの金で先払いしといたんだぞ?」
「・・・何か不幸だなリョーガとやら」
「んじゃ、俺はもう満腹だから後はお前好きに食っていいぞ」
「だからこの縄は!?」
ガタガタ椅子ごと暴れられ、ようやく佐伯は真の目的(だったか?)を思い出した。
視線を、男からそばで見ていた千石へと動かし。
「で、何やってたっけ俺ら?」
「目的『がある事』は覚えてたんだね? 凄い成長だと思うよ」
「何だよ馬鹿にすんなよ!! 目的内容だってちゃんと覚えてるぞ!? 『いかに爽やかにコイツを苛めるか』だろ!?」
「違うだろ!?」
実はこれはこれで正解なのだが、相談中気絶していた男には言わない方がいいだろう。
「ほ〜らだから優しく苛めてみたぞ? 飯まで出してやるっていう気の使いっぷり。完璧だ!」
「話は!?」
「話?」
再び佐伯が悩み出す。
千石を見て、
「ああ、山の中腹にアジトがあるから山ごと吹っ飛ばしてくれっていう話だそうだよ?」
「えええ!?」
「なるほど万事解決。んじゃそれは明日にするとして、俺寝るからおやすみ〜」
「あれ? 食後すぐ寝ると太るよ?」
「大丈夫大丈夫。運動するから」
「あ、サエくんってばやっらし〜vv」
「だからリョーガのヤツが来たら、『ぶっ飛ばす準備はちゃんと出来てるからいつでも来い』って言っといてくれ」
「そう言ってホントにぶっ飛ばすのって、多分君くらいだろうね」
「でもってそこ、追加注文すんなら以降自腹でな」
注文なんて誰がするか!!
言いかけ、
盗賊首領はふとテーブルに視線を戻した。メインディッシュたるステーキ―――の乗っていたはずの鉄板を。付け合せしか残っていないステーキ皿を。
付け合せが吸った分除き、ソースまでなくなっていた。
「・・・・・・・・・・・・。
すみませ〜ん! ステーキ一皿追加で下さい」
「ああすみませんお客さん。お肉今ので切れちゃって。野菜炒めとか野菜スープとか温野菜のサラダとかなら用意出来るんですけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
―――B.一般市民に牙を剥く。