1.強盗犯侵入!




 だばだばと口から垂れるお茶は気にせず、裕太はニュースの内容を反復させた。
 (●●銀行東京支店付近・・・・・・高級住宅街・・・・・・『不二』・・・・・・・・・・・・)
 3つ合わせればほぼ間違いなくうちである。
 「お、おい裕太、今のまさか・・・・・・!」
 向かいに座っていた赤澤がお茶の餌食となりつつも健気に訊いてくる。それでもやはりその先は言い難かった。
 「裕太の家だね」
 ・・・・・・筈。
 あっさり訊いてくる木更津。むしろ断定に近かったが、裕太の反応を見れば当然かもしれなかった。
 とりあえずその質問は保留にしておいてテレビを見る。画面に映った高級そうな落ち着いた家。ガレージに目立つ車はなかったが間違いなくそこは自分の家だった。
 「な・・・なんでまた・・・・・・」
 ふと思う。嫌な予感。車は一台もなかった――じゃあ『人質』は誰だ?
 さらに考える。昨日の兄貴との電話。やけに嬉しそうな兄貴の声と、「明日は久し振りに部活ないんだv」の一言。
 (まさか・・・・・・・・・・・・)
 どれだけ本人は嫌がったりしようが(まあ今ではそこまでは嫌でもないが)裕太も不二家の人間、予感はよく当たった。ただし―――
 <たまたま戻った家族の話によりますと、現在家にいるのは長男で
14歳の不二周助君。また本日同じ中学にて部活仲間の菊丸英二14歳、越前リョーマ12歳もこの家に遊びに来ており、この2人もまた人質に取られたものと思われます。
  犯人はライフル1丁で武装しており、人質の安否が気遣われます。
  現在犯人は警察と交渉中で―――>
 とまだまだ続きそうな話は放って置くとして、予想以上の悪い結果に裕太はただただ呆然とするだけだった。
 「不二、周助君・・・?」
 「それに菊丸・越前とくれば・・・・・・」
 「裕太の家に間違いないだ〜ね」
 観月・赤澤・柳沢が画面を見たまま呟く。ちなみに野村と金田は言葉も出てこないようだ。
 (最悪・・・・・・・・・・・・)
 ただでさえ兄貴一人でも厄介なのだ。この3人が揃って平穏無事で済む訳がない!!
 イスから崩れ落ちながら、裕太は最早犯人の安否を――というか生存を気遣うしかなかった。





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 さてそんな不二家では。
 「最悪ー! なんでこんなことになったのさ!!」
 「そうだよ英二がそんな所にコードひいたのが悪いんじゃない!!」
 「なんだよ俺のせいかよ!! 仕方ないだろ延長コード見つかんなかったんだから!!」
 「え、え〜っとあの・・・・・・」
 ライダーメットを被りライフルを持ったまま立ち尽くす『犯人』の前で、リョーマ・不二・英二の3人は誰のせいでクリア寸前だったシューティングゲームのコードが抜けたのかその責任をなすり付けあっていた。
 ―――ちなみにこれだけではわからないであろうので時間を少し戻す。




 そもそもの始まりがいつだったのかというとこれは様々な説があるが、とりあえず今回関係あるものとしては昨日の部活終了後、手塚が「明日の部活は休み」と言い出したところだろう。全国大会を控え毎日過酷な練習をしていた中で突如ぽっかり空いた1日。これを無駄にしてなるものかと意気込んだ不二と英二。さっそくリョーマにデートの申し込みをしたが、それに対するリョーマの答えは「
O.K.」。しかも両方に。
 というわけで3人でデートすることになった。しかしやはりライバルと一緒というのはムカつく。何とか出し抜けないか、と、まず動いたのは英二。リョーマが以前からやりたがっていた
PSソフトをちらつかせ「一緒にやろう」と言う。(非常に珍しい)笑顔で頷くリョーマに対して不二は「なら僕の家でやらない? ファンタ用意しておくから」とポイントを稼いだ。
 そして今ここに3人でいる。しかしやるゲームは
RPG専門の不二は見てても正直つまらなかった。しかも既にクリアしているためリョーマに適切なアドバイスをする英二にリョーマは完全になついており、殊更つまらなかった。そこに鳴り響くチャイム。監視カメラで見ればあからさまに怪しいメット姿。しかしこれは使える。
 ―――何も知らずに(フリ)ドアをあける不二。彼を押しのけ中へ入る怪しい奴。押しのけられよろけつつ(わざとらしく)不二が騒いだ。
 と、そこで事件が起こった。
 リビングに走りこんだ犯人の足が
PSのコードにひっかかったのだ。倒れる犯人。抜けるコード。こっそりガッツポーズする不二。そして話は冒頭に至る。ちなみに真剣に怒っているのはリョーマのみ。不二はこの機会に英二を責めて(むしろ攻めて)ポイントを下げさせ、英二はなんとかリョーマの怒りが自分に行かないように抗議していたりする。




 「だからってこんなにコード張る必要ないじゃない! もう少し機体ずらして余裕作るとか方法はいくらでもあったでしょ!?」
 「だったらてめーがそうすればよかったんだろ!! イチイチ俺に責任なすりつけるなよ!!」
 「はあ!? これは単純に君のミスじゃない! なんで僕まで巻き添えにしようとするのさ!?」
 「―――っておい!! 俺の話聞けよ!?」
 『ああ!!?』
 「ひ、ひい・・・!?」
 硬直状態から脱した犯人。しかし3人の睨みとドスのある声に再び震え上がった。
 と、そこで不二が目的を思い出した。
 にっこりと笑って告げる。
 「あ、そうそう。この人強盗犯みたい。なんか家に入って僕達の事人質に取るらしいよ?」
 ―――なんで今会ったばかりの不二がここまで知っているのか。実は暇だった間にゲームを見ながらポータブルラジオを聞いていたためだったりする。そこでかかった緊急ニュース、犯人の特徴と事件現場を考えればこの男がその逃走犯であることはほぼ間違いないだろう。
 「へえ、強盗犯、ね・・・・・・」
 最早役に立たなくなったコントローラーをぽいと放り出し、リョーマが座ったまま『強盗犯』を見上げた。
 「で、何やったんスか? 具体的に」
 「ああ、ここから5分くらいのところにある銀行に押し入って現金で
2300万取ったらしいよ? で、現在逃走中」
 その言葉を証明するかのように家の外が騒がしくなってきた。パトカーの音、人の騒ぎ声、そして―――
 『犯人に告ぐ! 今すぐ大人しく人質を解放して出てきなさい!!』
 スピーカー越しの機械声に英二が首を傾げた。
 「人質―――っていや不二、お姉さんと小母さんは?」
 「姉さんは今日デート。母さんは買いものに行ってただけだからそろそろ帰ってくるんじゃないかなあ?」
 「ふーん・・・・・・。
  ―――先輩、なかなかに面白いゲーム用意しましたね」
 「そ? ありがとv」
 薄く笑みを浮かべるリョーマに不二も普段では見せないほどの笑みを浮かべた。先程まで言い争っていた英二もまた趣旨を理解しにや〜っと笑っている。
 (なんなんだ、コイツら・・・・・・)
 ヘルメットの中で犯人は額から汗を流した。入る家を間違ったか? と思ったこの人の予感はおおむね正しいものである。―――既に手後れではあるが。






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今回のコンセプトはヤン菊。というわけで英二は基本的にガラ悪く。ただしリョーマの前でのみネコ被りと言った感じです。