2.いんたーみっしょん(犯人下僕へ成り下がり中)




 「さ、て。まずは警察側からの一手目。オーソドックスに訴えてきたけどどうする?」
 数分後、その間に何があったか『大人しくなった』犯人をよそに、ソファに優雅な物腰で腰掛け不二が尋ねた。もちろん犯人に対してではない。
 カーペットの上にべったりと座ってこちらを見上げてくる英二とリョーマに順に人差し指を向ける。
 「そーっスね・・・・・・」
 「やっぱ最初は様子見じゃん?」
 「じゃあ・・・・・・
  適当に逃走経路の確保、でいいかな?」
 「トーソーケーロ?」
 「『逃げ道』の事だよ。ここの地形だと車が妥当かな?」
 「・・・まあ、最初って言ったらそんなもんか」
 「楽しくなるのはこれからだしね。まずはお互いの事を探り合わなきゃ」
 「じゃあそれでいいんじゃないっスか?」
 「おっしそれで決定!」
 なにせこの場にて全ての権限を持っているのはリョーマである。彼が少しでも気に入ればそれを拒否する理由がその他2人にあるワケがない。
 「じゃあそれでよろしく」
 「え、え、え、えぇぇ!!?」
 何故かこちらを完全に無視して人質3人で勝手に決められる今後の対応(そかも世間一般の常識とは明らかに違うそれ)に、ひたすらにうろたえる犯人。だが、
 「じゃあそれでよろしくねv
 この上なく綺麗な笑みを向けてきた少年―――不二の底知れぬ、というか今まで味わった事のない迫力に気圧されカクカクと首を振った。
 「あ、そこの窓から玄関見えるから、そこから叫んでね」
 「あ、は、はい・・・・・・」
 すっかり従順になった犯人が言われたとおり窓から顔を出し、(とりあえず外には威勢良く)怒鳴る。それに対する警察の反応。
 そして―――冷静に批評を下す人質(らしき)3人。
 「普通、っスね」
 「テレビそのまんまって感じ?」
 「もうちょっとお互い工夫すればいいのに。これじゃ事態硬直させるだけじゃない」
 「まあ・・・その分ヤりがいがありますね」
 いつもの生意気な笑みを浮かべるルーキーに、
 「そーこなくっちゃ」
 「じゃ、次の手考えなきゃね」
 こちらも笑みを浮かべる3-6メイツ。まだ外に向かって無駄な問答をしていた犯人はそれには気付かなかったようだが・・・・・・その方が犯人にとっては幸せである、といえた。





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 「ふう・・・・・・」
 (人質3人曰く『無駄な』)問答を終え、一息ついた犯人の見たものは―――再びゲームに熱中する3人の姿であった。
 「おっし勝った!!!」
 「じゃあ次は・・・・・・誰にしよっか?」
 「不二先輩じゃないっスか? その次俺ですし」
 「え〜っと・・・・・・」
 指示を仰ごうとしたのだが、3人はテレビ画面を見たまま全く動く気配がない。
 と―――
 「―――ああ、終わったん? パシリ」
 「ぱ、パシリ・・・・・・?」
 「パシリでしょ? 君」
 いきなりそう呼ばれ、しかも何のためらいもなく頷かれる。それにどう対応すればいいのかわからず、黙り込む犯人。下手に逆らえば問答無用で命はない(と思う)!
 「不二先輩、俺のど渇いた」
 「あ、越前君。じゃあファンタでも飲む?
  ―――というわけだからパシリ、冷蔵庫からファンタとってコップに入れておいて」
 「グレープ味ね」
 「他のものには触らないでね。容疑に『窃盗』加えるから」
 「は・・・・・・はい」
 ばたばたとキッチンに駆け込んでいく犯人を見送―――ることもせず、3人の視線は再びテレビに戻った。
 先ほどまでのシューティングゲームとは違う、今度は(珍しく)不二の持っていたテニスゲーム。その『ストーリーモード』を3人でクリアしていっているところである。
 さてそんな呑気な3人を他所に、外ではちょっとした変化が起こっていた。





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 「―――母さん!」
 買い物袋片手に警察を除いては最前列で家の様子を見ていた不二家の母・淑子は、後ろからかかった声にきょとんと振り向いた。わりと派手めな服。だがそれでも貧相に見えないのは美人の特権だろう。そう親の贔屓目抜きで思わせる女性―――娘の由美子に尋ねる。
 「あらあら由美子、どうしたの? 今日はデートじゃなかったかしら?」
 「デートだったけどね。家が強盗犯に占拠されてるなんて聞いて呑気にデートなんてしてるわけにもいかないでしょ。
  それで? 中の様子は?」
 「それがよくわからないのよ。警察の方も頑張っては下さるんだけど、さっきから要領を得なくて」
 おとなしい物腰でもさすが不二の母。その毒舌ぶりはどうやら遺伝らしい。
 由美子ははあ、とため息をつき、
 「どうせまあそんな事だろうと思ったから帰って来たんだけどね」
 コードレスのイヤホンを耳につけた。
 「それは?」
 「ああ、コレは前の―――」
 耳打ちする由美子に、淑子が笑顔で頷いた。
 「ああそういえばそんな事もあったわね」
 「で・・・・・・とりあえず中は一応安全みたいね。犯人を除いては
 「あらそう」
 かなりおかしい発言をあっさりする娘に、これまたあっさり納得する母。なんだかツッコミどころ満載だが、不二家ではこれが普通らしかった・・・・・・。






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3人がやってる『テニスゲーム』は、『テニスの王子様 
for PlayStation』です(笑)。4で割と出てくるかと。
ちなみに3人が話してる部分は地区予選決勝。青学対不動峰の
W1〜S2にかけて、です。なので順番は英二→海堂に代わって不二→リョーマ、という事で。