4.一般的男子中学生の会話? 前編




 さて何も問題ないまま―――訂正。問題だらけのまま家の中に戻った3人。以降一切中から物音や悲鳴などの類は聞こえてこない。そして・・・・・・そのため中の様子は一切わからない。
 ビデオ撮影は非協力的な人質ら(
By裕太)によって失敗。外に放置されたままのビデオカメラが無意味に庭の芝生などを映し出している。
 そんなわけで・・・・・・
 「とりあえずまあ大体の予想はつくけど・・・・・・兄貴たち、中で何やってんだろうなあ・・・・・・」
 ため息混じりに裕太が独りごちた。ため息の理由は言葉の通り。
 独り言だったのだが―――
 「リビングのテレビで3人でゲームしてるわよ。あの―――なんだったかしら? この間周助が買って来た、
PSゲームの・・・珍しくテニスの・・・・・・」
 なぜかあっさり答えが返って来た。自分の隣で、口元に手を当て悩む由美子を見やり、裕太も短く整えられた眉を中央に寄せた。
 「ああ、あのゲームか。兄貴が『面白いよ』とか言ってた。
  ―――けど姉貴、なんでンな事わかんだ?」
 姉の姿を見る限り出かけるスタイルだ。車もなかったし、仕事か私用かわからないが、とにかく今外にいる以上出かけていたのだろう。
 (出かける前からやってた、って事か? けど姉貴、現在形で言ってたよなあ・・・・・・?)
 それもはっきり確信を持って。
 裕太の疑問がわかったらしい。ん? と横を向いてきた由美子が、微笑みながら自分の耳元を指した。そこには黒いイヤホンが収まっている。
 (何か聴いてんのか? 姉貴、外で聴く事ってあんまなかったような・・・・・・)
 ますますわけがわからず眉間に皺を寄せていく裕太に、今度は家の方を指差す。
 にっこりと笑って、言った。
 「盗聴器、家に仕掛けられてるの」
 「はあ!? 盗聴器仕掛けたぁ!!!?」
 『盗聴器』などという物騒な、そして専門分野な言葉を聞き、警官全員が目を見開いて叫んだ裕太を注目した。ついでにその面白そうな単語と大声に、ギャラリー全員の視線も裕太に集まったが。
 そんな中、裕太以外に唯一人に見られている人物―――つまりは裕太の目の前で、由美子が綺麗な顔を僅かにしかめた。
 「『仕掛けた』なんて誤解を招く言い方しないでよ。別に私がやったわけじゃないわ」
 そして、再び疑問げな表情に戻る。
 「そういえば裕太、知らなかったかしら? 前周助のファンだって言う娘がどういうツテを辿ったのか『知り合い』に頼んで家のリビング・ダイニングキッチン・お風呂・それに周助とあんたの部屋に盗聴器仕掛けさせたそうよ。
  まあ受信機はすぐ周助が回収して、その娘も2度とやらないって堅く誓ったらしいけど」
 「なんていうかすっげー突っ込み所多い話だったな。てかマジで初聞きだし。
  それはともかくなんで俺の部屋にまで仕掛けられてたんだよ? 兄貴のファンだろ?」
 「その娘はともかく、『知り合い』はどこが周助の部屋かわからなくって、とりあえず『中学生男子の部屋』っぽい所に仕掛けたんだって」
 「・・・・・・なんでンな詳しーんだ?」
 「さあ。私も周助から聞いただけだけど?
  それで問題は解決したけど、『面白いからつけたままにしておこう』って。
  ―――ああ、あんたたち2人の部屋の分は取っておいたわよ。プライバシー保護のため。あとお風呂もね」
 「風呂・・・・・・。ンなトコにまで仕掛けられてたのかよ?」
 「防水加工までされてて親切な品だったわ。さっそく試してみたけど。この間あんたが帰って来たとき周助と2人で」
 「ちょっと待て!! まさかそれって・・・・・・!!!」
 「最近裕太一緒にお風呂入ってくれなくなったから周助も私も寂しくって」
 「当り前だろ!!? 俺はもう
13だ!!!」
 「けど今でもお風呂で歌歌ってるのね。微笑ましくって周助とくすくす笑っちゃったわ」
 「き・・・聞いてんじゃねえ////!!!」
 「けどあれは失敗だったわね。裕太可愛すぎるから。私も周助も卒倒しそうになって最後まで聞けなかったわ・・・」
 「あああああ!!!!! この姉兄はあああああ!!!!!」
 何を思い出したか視線を斜め
45度の角度に下げ頬を薄紅色に染める由美子に、真っ赤な顔で裕太が地団太を踏んだ。見ず知らずのストーカーにされるのも十二分に嫌だろうが、身内となると余計にタチが悪い。
 今の由美子の問題発言―――ある意味この強盗犯立てこもりなどよりも遥かに問題のありそうな発言に、不二家姉弟を中心に半径5メートルほど人がほとんどいなくなった。
 そんな中、一歩も身を引かず、どころか笑顔も一切崩さず淑子があらあらとのんびり呟いた。
 「由美子。年頃の女の子がそんなはしたない事言っちゃダメよ?」
 「はしたなかったかしら?」
 「それに、裕太の可愛さならわざわざ言わなくてもみんなわかってるから」
 「それもそうね。けどもちろん裕太は私たちのものだけど」
 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!! この家族はあああああああああ!!!!!!!!」
 微笑ましげに会話する母と姉に、頭を抱えて裕太が絶叫した。
 (頼む父さん・・・。帰ってきてくれ・・・・・・!!!)
 この家にて唯一まともな人間は、今海の向こうの遥か遠く。いくら裕太が切実に願おうがそれが叶うわけもなく。
 親まで公認の犯罪行為に、さらに5メートル人垣が後ずさる。これで3人の周りからは合計
10メートル人がいなくなったわけだ。
 が、いつまでもこうしてる訳にもいかず。そもそもの議題を覚えており、さらに勇気のあるなかなか偉そうな警察官が1名、3人のほうに歩み寄ってきた。
 「すみません。盗聴器、というのは・・・」
 「ええ。家のですけど」
 「今の話からしますと、人質らのいるところにそれが仕掛けられている、と?」
 「犯人はわかりませんけど、3人ならリビングにいるようですからよく聞こえますよ」
 「それ、お借りできませんか? 1つでも多く中の情報が知りたいもので」
 下手に出る警察官。誰が見ても、むしろなんで今まで提供[か]してくれなかったんだ、という思いがみえみえだが、特に気にする事もなく由美子はイヤホンを耳から外し、バッグの中の小型受信機と共に差し出した。
 「ええ。いいですよ」
 「ご協力、感謝いたします」
 慇懃に例を言い、慌ただしく走り去っていく警察官を見送り―――由美子が残りの台詞を呟いた。
 「―――まあ聞こえ方には個人差があるけど」
 「個人差?」
 呟きを聞き取った裕太が口出しをする。
 「ほら、菊丸君はよくしゃべるけど周助も越前君もあんまりしゃべってくれないみたいで。しかも今丁度菊丸君がゲームやってるみたいだから」
 「なるほど」
 そうそうよく会うわけでもないが、リョーマの事を思い出してみる。確かにあの生意気なルーキーはよくしゃべる方ではない。というかあの生意気口調でよくしゃべる日にはケンカが絶えないだろう。
 その間にも警察官らはそれをスピーカーに繋いだらしい。急遽設置された本部から、ザザザッ―――というノイズの後、中の声が聞こえてきた。
 第一声。それは―――
 『に゙ゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!





・     ・     ・     ・     ・






 「に゙ゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!! 負けたあああああああああああ!!!!!!」
 悲鳴と同時に、英二がコントローラーを投げ捨てカーペットに後ろ向きに倒れこんだ。
 後ろのソファに座っていた2人が、そんな彼を見下ろしため息をつく。
 「だから言ったじゃないっスか。『必殺技は体力使うから使いすぎると体力なくなる』って」
 「英二は体力ないからね。最低限の1なんて、あと張り合えるのは竜崎さんくらいだよ」
 「地味
sのどっちかもそうじゃなかったっスか? あと脇役その辺」
 「越前君よく知ってるね」
 「桃先輩に少しやらせてもらったんで。フリー対戦だけっスけど」
 「ああなるほど」
 ソファで和やかに会話する2人の前で、起き上がりこぼしの如く倒れこんだ勢いそのままに英二が起き上がった。
 「だから! なんでアクロバティックが必殺技に入るんだよ!! いつもやってんじゃん!!!」
 「う〜ん。けど英二っていったらアクロバティックだからじゃない?」
 「それにそれ入れないと英二先輩必殺技ないじゃないっスか」
 「あんじゃん!! 『菊丸ビーム』とか!!」
  「「とか?」」
 「とか・・・その・・・・・・」
 2人に突っ込まれ、黙り込む。確かに都大会までしか入ってない以上ムーンボレーは使えない。
 暫く考え込み―――英二は怒りの矛先を別の場所、今まで対戦していたルドルフの赤澤・金田組へと向けた。
 「てゆーか! ブレ球!! にゃんで1球喰らっただけで体力1/4も落ちんだよ!?」
 「そうだったじゃないっスか」
 「確かに集中力なくなってきたけど! だからってソコまで1球で取られたワケないだろ!? 1ゲームで体力なくなっちゃったじゃん!!!」
 「ホントすごかったね〜。ほとんどずっと体力ゲージ真っ赤だったよね、英二」
 「大石先輩がいかに毎回苦労してるかよくわかる結果だったっスね」
 「ホラ。大石の神経性胃炎の原因、やっぱ半分以上は英二1人にあると思うよ」
 「部員全員の責任だろ大石のは!!?」
 後ろを向いて怒鳴る英二。それを軽く聞き流し、不二は笑みのまま眉を寄せ言った。
 「けど英二、だったら大石に主導権渡して充電してれば良かったのに。大石なら体力MAXの3なんだからそうそうなくならないし」
 「『必殺 死んだふり攻撃』っスね」
 「だ〜って勝手にボール取っちゃうんだもん!! どうやって大石に主導権渡すのさ!!?」
 「だから、普通は後衛が取りに行くようになってるけど、自分側がボール打ってから相手側に行くまでの間に
Lボタン押せばフォーメーションチェンジって出て好きなほうが優先的に打てるようになる・・・って説明書に書いてあったでしょ?
  前衛後衛関わらず大石にずっと優先権あげておいて、その間に体力回復させるんだよ」
 「ゔゔゔ〜〜〜。だって〜〜〜!! 説明書ンな片っ端から全部読んでない〜〜〜!!! それにいきなり全部なんて覚えらんないじゃん!!!」
 「けど今まで何試合もやってたじゃないっスか。ダブルスだって。その内に覚えとけばよかったのに」
 「うんうん。僕は何回も使ったのに」
 「やっぱ英二先輩のせいっスね」
 「『まだまだだね』。英二」
 「・・・・・・不二先輩、それ俺の・・・」
 呟いて、リョーマは丁度自分の足元に転がってきていたコントローラーを拾い上げた。今やっているのは都大会準々決勝の青学対聖ルドルフ戦。次は
S3のリョーマの出番だった。
 「けど良かったね英二。たとえ君たちが負けてたとしても、桃と海堂が自動で勝っててくれてるから。これでまさしく『シナリオ通り』」
 「あり? んじゃ桃と海堂ペアってプレイできにゃいの?」
 「そっちを選べばできるよ。代わりに君たちのができなくなるだけで。ダブルスは同時進行だったからね。どっちかしか出来ないんだよ」
 「じゃあもし桃と海堂の方選んで負けてたら?」
 「ダブルス2敗でシングルス戦。1敗でもしたら終わりだね」
 「ふ〜ん」
 英二が頷いている間に、リョーマは
S3戦始め、裕太とのちょっとした会話(挑発)をさっさと終わらせて試合を始めていた。
 「俺ってただ勝てばいいんスよね」
 「あ、ダメだよ越前君。せっかくのそんなオイシイ対戦、簡単に素通りしちゃv」
 「おいしい・・・・・・?」
 わけのわからない不二の言い分に、英二に代わってカーペットに位置を移動したリョーマが疑わしげな目で後ろを振り返った。その先で、本当に嬉しそうに微笑む不二。
 「うんv このゲームの最大イベントだよvv なにせ越前君対裕太だものvvv じっくり鑑賞しなきゃvvv」
 「・・・・・・・・・・・・」
 リョーマの眉間に青学部長並の深い皺が刻み込まれる。何も言わない彼に代わって、改めてソファに座った英二が半眼で呟いた。
 「出たよ不二の『裕太バカ』」
 「いつものことなんスか、これ・・・・・・」
 なおも花を飛び散らせて話し続ける不二は意識の外へ出して、リョーマは疑わしげな目つきのまま英二に尋ねた。
 「不二に裕太の事しゃべらせると長いよ〜。元からそん時はどっかの回線切れてるっぽかったけど、裕太が出てってからは完全に壊れたし。まあヘタに訊き返すと変な世界に連れ込まれるから、そのまんま無視して進めた方がいいよ。
S2になったら嫌でも戻って来るっしょ」
 「そーっスか? 観月戦でしょ? もっと壊れません?」
 「壊れたら壊れたで放っとこうよ」
 「そーっスね」
 そう頷き、不二の言葉を無視してさっさと終わらせようとするリョーマ。が、
 「ああ、それに―――」
 「うわ!?」
 「ふ、不二!? 今回戻って来んの早かったね」
 「英二・・・、キミ何越前君に変な知識植え付けてるのかな・・・・・・? 別にどっか別世界に旅立ってたわけじゃないけど? 僕・・・・・・」
 「ぜってー旅立ってるって!! てゆーか不二!! お前裕太いんだからいいじゃんそれで!! おチビまで取ろうとすんなよな!?」
 「裕太は可愛い『弟』v 越前君は可愛い『恋人』v どっちもいるに決まってるでしょ?」
 「それ以前にいつ俺が先輩の恋人になったんスか・・・・・・?」
 さすがに変な方向に飛びつつある会話を聞きとがめ、ゲームをストップさせてリョーマも会話に加わる。
 だがそれを無視して進む会話。
 「それに、そういった事だったら英二こそ大石がいるんだからいいじゃない」
 「大石は一緒にダブルスやってるだけだし。俺が好きなのはおチビちゃん1人だよんvv 不二みたいに浮気はしないよvvv」
 「そうかなあ? 英二の方が遥かにしそうだけど?」
 「俺が? どこが?」
 「『年上キラー』な辺りが」
 「だからいつ俺が『年上キラー』になったんだよ!!」
 「けど英二、年上の女性の扱い上手いでしょ? 気に入られやすいし」
 「それいうならお前だろ? しかもオールマイティーだし」
 「う〜ん。けど僕は特に積極的に動いてるわけじゃないし」
 つまりは遊び慣れている、と暗に含めて言う不二。それに英二がちっちっちと指を振った。
 「遊んでる『だけ』。そういう誘いかけてくるコには興味ないしね。これでも俺童貞だよv やっぱやるなら好きなコと、でしょ」
 「だけ? 何やってるんスか? 英二先輩」
 「逆ナンされたらお茶飲んで食事して、カラオケいったり映画いったり。んでハイさよなら」
 「確かにそうやって遊ぶだけなら中学生くらいじゃとてもムリだろうね。英二の相手は」
 「それで金もせびるんスか? 普通その後がつくでしょ?」
 「せびらなきゃつかないよんv 金だったら兄ちゃんとか姉ちゃんとかにもらえるし」
 「気前いいっスね」
 「今ウチ、トトカルチョが流行ってんだよね」
 「トトカルチョ?」
 「賭け事のことだよ。正確にはくじを用いた、ね」
 「んで、大体の場合が俺に関してだから。1日街歩いて何人に声かけられるか、とか」
 「ああ、それで英二は協力料って事でお金もらうのか」
 「そそ。俺はまだ小遣いしか収入ないからあんま参加はできないしね。それにコレだと俺は絶対損しないしねv
  あとは兄ちゃん姉ちゃんの恋の掛け橋、とかで稼いでるし」
 「あれ? 英二のお姉さんもお兄さんもそんなに消極的だったりするわけじゃないでしょ?」
 「う〜ん。けど好きな人には別なんじゃん? とりあえず俺がいると和むみたいだけど」
 「マスコットっスね」
 「確かに英二ってそれっぽいよね」
 「あ、そういえばこの間千石とたまたま会ってナンパ対決しちゃったよ。俺が勝ったけどねv」
 おかげでお昼代浮いちった〜v と笑う英二。確かにこれだけの事をやっていれば『年上キラー』と呼ばれたところで不思議はなかろう。
 「けど僕も別に浮気してるわけじゃないけど? 僕が好きなのは越前君だけだし」
 「今までの台詞でどこをどう信じればいいわけ?」
 「やだなあ。僕は単純に『せっかく越前君の活躍場面なんだからちゃんとゆっくりその活躍を見なきゃv それに相手が裕太なら見る方も「相手にとって不足はない!」しねvvv』って意味で言っただけだけだよ。
  だってルドルフ戦なんて他のどこに見所やりどころがあるのさ? ・・・・・・まああとついで以下に、観月を如何にいたぶるか、っていうのもあるけど」
 「先輩・・・・・・、肝心の試合の方、やってるんスか?」
 ふと思ってリョーマが訊いてみた。あくまでテニスゲームだ。普通なら試合をやる事がメインだろうに・・・。
 「ん? もちろんやってるよ? てきとーに。どうせ進めばいいんだし、わざわざ興味ないところまで頑張る必要はないでしょ?」
 「はあ・・・・・・そうっスか・・・・・・」
 どうせそんな事だろうと思っていたため、『てきとーに』返事する。
 「ってか・・・このゲーム買った意味あんの・・・・・・?」
 英二もまた尋ねた。『てきとーに』やるだけのゲームをわざわざ買うなど、年中金欠で喘いでいる自分としてはとても理解出来ない行為だった。
 が、なぜか不二は自信満々に答えた。
 「あるよv まず青学ランキング戦では越前君の強さをじっくり堪能して、不動峰戦では怪我しても頑張る健気な越前君に感動して、ルドルフ戦では越前君と裕太なんていう見た目良過ぎる2人を心行くまで鑑賞して―――ああ、あと観月か。まあどうでもいいけど―――、で、山吹戦では越前君の目覚めたサムライ魂を力強く応援して、それで越前君を傷つけた亜久津を嘲う。ほら、完璧じゃない。あとフリー対戦では今回削られた僕対越前君戦に、僕と裕太の対戦とかvvv」
 「なんていうか・・・・・・本っっっっ気で! おチビと裕太しか見てないね」
 「当り前でしょ?」
 「さいですか・・・・・・」
 最早何も言う事はなくなった英二。黙りこんだ彼から視線を外し、不二は先程言いそびれた言葉を続けた。
 「越前君。それに、ちゃんと進めないとドライブ
B使えないよ」
 「うげ・・・。それって・・・・・・」
 「試合初めてすぐ裕太の超ライジングがくるよ。ツイストサーブもちゃんと返すし。で、途中まで互角に進めてたらツイストスピンショット使ってくるから。そしたら越前君も超ライジングが使えるようになって、何球か使ったらやっとドライブ
B
 「それまでじっくりやるんスか・・・・・・?」
 「多分全対戦中1番難しいんじゃないかな? 越前君でもそこまで体力持たせるの難しいよ。それに最初に裕太がばんばん超ライジング使ってくるからね。途中からは2人とも地道に攻撃して体力回復させないと辛いんじゃないかな?」
 「めんどくさ・・・・・・・・・・・・」
 「だから必然的に『じっくり鑑賞』する事になるんだけどね」
 「・・・・・・・・・・・・別に1試合くらい使えなくても―――」
 「ラストの亜久津戦、このままのデータで引き継ぐからここで使えるようにならないと使えないよ。ドライブ
Bも、超ライジングも」
 「・・・・・・・・・・・・。なんでンなめんどくさい設定になってるわけ?」
 「まあファンとしてはその方が面白いからじゃない? 現に僕はおかげですごく面白かったよvv」
 無邪気に喜ぶ不二にため息をつき、リョーマは停止画面を解除した。途端に決められる超ライジング。なんだかやたらとムカつく。
 頬を引きつらせて、リョーマが不二に半ば八つ当たりのように言った。
 「先輩! 俺おなかすいた!」
 テレビ画面から目も離さず言うリョーマ。不二にそんな態度を取れるのはこの1年ルーキーくらいだろう。尚且つそれを本人が容認するというのは。
 「そうだねえ・・・。もうお昼だし」
 リビングの壁にかけられていた時計を見、そしてその視線を下ろす。
 「というわけでパシリ1号。お昼作っておいてね」
 「ほいほ〜いvv」
 不二の言葉に、犯人―――ではなく英二が笑顔でソファから立ち上がった。先程戻ってくるなり英二により行なわれた『説得』―――殴る蹴るの嵐に遭って、犯人は現在自らの意思で『パシリ2号』へと降格していたりする。
 「あれ? 英二先輩あっさりいきましたね」
 再びゲームを一時停止させて、リョーマが鼻歌混じりにダイニングキッチンへ向かう英二を見やった。てっきり猛反対してまたうるさい言い争いをするのかと思ったら・・・。
 「ん〜? 元々お昼作らさせてもらうつもりだったからねv 材料も持ってきたよんvv」
 と、英二は大きな鞄から保冷バッグを取り出し、中身をテーブルにぶちまけた。
 「じゃじゃ〜ん!! 本日のメインはおチビの大好物の茶碗蒸し〜!!!」
 「ホントっスか!?」
 興味なさ気に聞いていたリョーマが身を乗り出す。
 「ホントホントv 松茸―――はさすがに季節外れだからないけど、かまぼこでしょ、銀杏でしょ、ササミでしょ、あとタケノコに三つ葉。それに焼き魚に、味噌汁、野菜の煮物。ご飯にはもちろん納豆とのり付ねvv」
 「凄いっス英二先輩!!」
 「でしょ!? にゃはは!! おチビの好物は完全に押さえたよんvvv 楽しみに待っててねvvv」
 純和風のお昼に目を輝かせて感動するリョーマ。が、しかし・・・・・・
 数秒もすると、その顔が徐々に曇り始めた。
 「英二先輩・・・・・・」
 「どしたん? おチビ」
 それに気付ききょとんとする英二にリョーマは尋ねた。最も重要な事を。
 「英二先輩、不二先輩と親友なんですよね・・・?」
 「まあ一応。今はライバルっぽいけど」
 「乾先輩とも、仲いいっスよね・・・・・・?」
 「? そりゃ同じ学年だし・・・」
 リョーマの質問の意図がわからない。とりあえずされた質問に答えていく英二に―――ラストに凄まじい質問が飛んできた。
 「味・・・・・・・・・・・・大丈夫なんスか・・・・・・・・・・・・?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 真っ青な顔で聞いてくるリョーマ。悪気はなさそうだ。だが・・・・・・
 「大丈夫に決まってんだろ!? その変人2人と同列に並べんな!!!」
 さすがにどばん! とテーブルを叩いて抗議した。まあこの2人と並べられた者としては最もな抗議とも言えるが。
 なおもうろんな様子で見つめるリョーマに、笑いながら不二が補足をした。
 「英二は当番制で家族全員の料理を作ってるからね。上手だし、美味しいよ。それに卵料理は英二の十八番だしね」
 「不〜〜〜二〜〜〜vvv」
 
10秒前にボロクソに言った相手のフォローに英二が感激する。
 「そうなん・・・っスか・・・・・・」
 不二の保証というと1%も信用できないような気もするが、家族の分まで作っているのなら大丈夫だろう。さすがに家族全員味覚がおかしい、などという事は・・・・・・ない、と、思う。
 「んじゃおチビも納得したところで、不二、冷蔵庫ん中、使っていいっしょ?」
 「ああ、いいよ」
 英二は犯人と違って(当り前)事前に予め話をつけてある。とりあえず冷蔵庫の中を弄りまわし、食べたところで窃盗罪や強盗罪には当たらない(笑)。
 おチビに喜んでもらえるv と嬉々として冷蔵庫をあける英二。と―――
 「ええええええ!!? 冷蔵庫空っぽじゃん!!! 卵ないよ!!? それに牛乳もないじゃん!! てゆーか野菜全滅!!?」
 ばん! と冷蔵庫を閉め、不二を指差す。
 「不二! お前ん家実はビンボー!!?」
 「・・・なワケないでしょ? 本当にそうだったら私立の中学なんて行ってないよ」
 「けど不二だったら奨学金なんていくらでもとれるでしょ? とりあえず見かけの素行と成績はいいんだし」
 「何かな? その言い方」
 にっこり笑う不二を無視して、だが視線と指は逸らして英二が続ける。
 「あ、そっか。問題は裕太か!」
 「その発言は裕太にもの凄く失礼だよ。それに、むしろ裕太より僕の方がお金はかかってると思うよ」
 「ん? にゃんで? 聖ルドルフって、けっこー学費高くなかったっけ? それに寮にまで入ってるっしょ?」
 「ああ、けど裕太は『スポーツ特待生』として入ったから。学費及びその他諸々、必要な分は全部学校持ちだよ。里帰りの費用もね。だから負担するのは持ち物と食事分だけ。この位のメリットはなきゃ、家くらいのわりと近場ならともかく地方からは出て来ないでしょ。ね?」
 「そっかそっか。あ〜よかった。こんな家住んでいかにも金持ち[バブリー]っぽい不二が実はビンボーだったなんて言ったらどうしようかって思ったよ」
 本当に安心したようで、ほ〜っとため息をつく英二。それを不二は笑って見やり、
 「さっき言ったじゃない。『母さんは買いものに行ってる』って」
 「けどここまでなくしてから行く? 普通もっと前に行かない?」
 「ここまで・・・っていうより、もともとあんまりたくさん買わないから。
  ―――よく食べる人が今いないからね」
 「あ、そっか・・・。裕太も小父さんもいないもんね・・・」
 「それに姉さんは外で食べる事多いからね。一応お昼はお弁当持って行ってるけど」
 「うちと丁度逆だから気付かなかった・・・。ごめん、不二・・・・・・」
 「別にいいよ。裕太はともかく父さんはずっと単身赴任だからね」
 しょんぼりする英二に、不二が軽く手を振る。なんとなく暗い雰囲気が漂う中、それを見事無視したマイペース王子が口を開いた。
 「不二先輩あんまり食べないんスか? 部活の後とか腹減りません?」
 「それはもちろん空くけど・・・あんまり食べない方かなあ? これでもウチを基準にすると食べる方なんだけど・・・」
 「食べないっしょ不二は! 絶対少ないって!! しかもおやつとか食べるわけでも無いし!」
 「逆に英二はよく食べるよね。朝練の後とか、授業の間とか」
 「だって、腹減るっしょ〜。ねえ、おチビ?」
 「俺は授業中ほとんど寝てるんで別に」
 「それはそれでどうかって思うけど・・・」
 「2人の話を組み合わせると、まるで越前君は栄養失調みたいだね。空腹で眠くて」
 「おチビーーー!!! 大丈夫かああああ!!!?」
 「・・・・・・勝手に組み合わせないで下さい」
 「何となく組み合わせたら面白そうだなって思って」
 「別に腹減って眠いわけじゃありません」
 「にゃ〜良かった〜vv
  ―――って、問題はそこじゃなくて。どーすんのさ。これじゃ茶碗蒸しつくれないじゃん」
 ようやく本題を思い出し、英二が某アヒルのように口を尖らせた。まさか卵までないとは思わなかった。そのくらいはもちろんあることを前提に、常彌してはいなさそうな材料のみ持って来たのだ。
 やはり珍しく心配そうに不二を見上げるリョーマ。対応策を見つけられなければせっかくの茶碗蒸しが・・・・・・!!!
 ―――が、その2人の視線を前に、不二はいつも通り落ち着いて笑い返すだけだった。
 「大丈夫だよ。母さんもう帰って来てたしね。外行って材料もらってくればいいんだよ」
 「けどこの騒ぎで急いで戻ってきたんじゃないっスか? だったらまだ買ってないかも」
 「母さんはしっかりしてるから。たとえそれであろうと用事は全部済ませてきたと思うよ」
 「しっかり・・・か? それはそれでマズいっしょ・・・・・・」
 こめかみにぐりぐりと指を当て、英二が悩みこんだ。そこに突き刺さる、不二の声。
 「というわけだから、英二、行ってらっしゃい」
 「なんで俺!!?」
 「食事当番は英二でしょ?」
 「不二のお母さんじゃん!? だったら不二が行くのが普通だろ!?」
 「けど僕はこれから越前君と裕太の試合を見るのに忙しいから」
 「俺だって見たいに決まってんじゃん!!!」
 「英二・・・・・・」
 テーブル越しに怒鳴ってくる英二を見つめ、不二ははーっと長くため息を付いた。
 そして・・・徐々に目を開いていく。
 「僕に逆らうつもり?」
 「ぐ・・・・・・!」
 「ちゃんと言っておいたよね? 東京湾のヘドロにでも沈みたい?」
 「脅しじゃねーか!!」
 「やだなあ。アドバイスだよ。言い方を変えると未来予告かな?」
 「予言じゃなくて予告? やる事決定?」
 「さあ、どうだろう? 未来は変えられるからね。そして予告が100%実施される保証はどこにもない。
  つまりは『現在』の英二の態度次第だね」
 「へえ・・・。んじゃ断ったらやるワケ?」
 「だろうねえ。僕は言った事は守るよ。基本的に」
 「ふ〜ん・・・。けどやられる前にやっちまえば問題ねえよなあ?」
 丁度取り出していた包丁の柄の感触を確認するように何度も握り、英二がにやりと笑った。
 「それで勝てるつもり?」
 「さーな。けど直接対決なら俺の方が有利だろ?」
 「確かにね。君の動きに僕はついていけないと思うよ」
 「珍しいじゃん。負け認めるわけ?」
 「いいや。負けを認めるのは君のほうだよ」
 「この状況で? 俺が? 認める気は起こらねーな」
 「認めざるを得ないんじゃないかな?
  ―――最終警告だよ? 素直に外に取りに行く気は?」
 「ねえな」
 はっきり言い切る英二。その答えを確認して―――不二はにっこり笑うと手を振った。
 「じゃあね英二。ばいばいv」
 「はあ!?」
 「今君は誰のおかげでここにいられると思ってんのさ。『逆らったら即退場』ってしっかり言ったよ?」
 「しまったああああああああ!!!!!!」
 「英二、じゃあまたあし―――」
 「取り消す! 取り消します!! 今すぐ取りに行きますですハイ!!!」
 180度方向転換する英二の態度。それに不二は満足げに頷き、画面に目を戻した。
 その後ろからぼそりとかかる声。
 「・・・・・・てめー不二。後で覚えてろよ」
 「後? 後と言わず今すぐでも構わないけど? 僕は」
 「行ってきま〜すvv」
 くるりと振り向き、微笑む不二に、英二もまた笑顔で答える。
 リビングの扉を開けようとして―――
 「ああ・・・」
 ぽんと手を叩いてくるぶしを返した。
 ぼけっと突っ立ったままの犯人の前まで歩き、ぽんと肩に手を乗せる。
 「こんな時のためにお前がいんじゃん。というわけでよろしく」
 「え・・・えと・・・・・・」
 「不二のお母さんなら最前列にいるから。呼んだらわかるよ」
 「あの・・・・・・」
 「じゃ、よろしくなv」
 「はい・・・・・・」
 親友と同じ笑顔を向ける英二に、かくかくと頷く犯人。他に対応の仕様はない。
 銃も持たずに出て行く犯人を―――やはり見送る事すらせず、3−6メイツ2人は安心してリョーマの『活躍』を鑑賞した。





・     ・     ・     ・     ・






 「あら。周助もいいお友達が出来たのね」
 今や中でのやり取りはスピーカー越しに全て筒抜けである。それを聞きながら微笑ましげに淑子が頷いた。
 それに首を傾げる周り。
 「いい、か・・・? 今の言い合いが」
 代表して裕太が呟いた。ちなみに今でも会話は続いている。
 こんな感じで。
 『けど先輩、東京湾に沈めたらただの行方不明っスよ? 一面トップは難しいんじゃないっスか?』
 『ああやっぱ越前君も聞こえてたのか』
 『そりゃ聞こえるでしょ。あれだけ近くで話してたんだから』
 『それもそうか。
  大丈夫。沈めるのは半分くらいだから』
 『半分? またなんで?』
 『残り半分くらいはいろんなところにばら撒いておかなきゃ。そしたらバラバラ殺人でしょ? 身元わかるもの一緒にしておけばさらに盛り上がり易いしね』
 『けど不二、バラバラにすんのってけっこー難しいんじゃなかったっけ?』
 『う〜ん。だろうね。けど関節とかで分ければ少しは楽じゃないかな? あと骨と肉に分けるとか』
 などなど。
 (仲いい・・・のか・・・・・・?)
 いかにも全員笑みを浮かべて話していそうな雰囲気を考慮すれば、確かに仲はいいのかもしれない。内容さえ無視すれば。
 「周助がこんなに楽しそうなのなんて裕太が出て行って以来久し振りじゃない」
 皮肉ではない。嫌味でも。この母は決してそのような事は言わない。
 「お・・・おう・・・・・・」
 なので裕太もそれには深く突っ込まずに、曖昧に返事した。
 そこへ、犯人が出てきた。






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というわけで出てきました『テニスの王子様 
for PlayStation』。ただし進め方は私のやり方そのままでいきましたので、もっといいやり方は十分にあると思います、というかあります。現に実際ルドルフ戦W1では菊ちゃんと同じ理由で1−6で惨敗しましたから。私は(大笑い)。