5.一般的男子中学生の会話? 後編
さて外に出た犯人。だがこれはチャンスだ。
(そうだ! 今の内に警察に出頭すれば、ここから出られる!!!)
―――当初とはかなり違った考え方だが・・・・・・理由は言わなくてもわかるだろう。
(殺される・・・! このまま中にいたら間違いなく殺される・・・・・・!!)
最初に見えた制服姿の男へ縋りよった。
「け、警察の方ですね・・・・・・!?」
「え、あ、は、はい・・・・・・」
「お願いです! 逮捕してください!! 今すぐ!! 何でも言います!! お金も返します!! ですから1秒でも早く!!!」
このような犯人の行動は珍しいであろうが、今までの事は警察も聞いていた。それから考えると当然な犯人の行動に、縋りつかれた警官は、後ろを振り向き指示を仰いだ。
先程由美子から盗聴器を借りた警察官も同情的に犯人を見やり、重々しく頷く。
(やった・・・! これで・・・・・・!!!)
希望溢れる明日(つまりは刑務所生活)を描いて、心底安心した様子で両手を差し出す犯人。が・・・
人質はそんなに甘くはなかった。
再びスピーカーから流れ出す声。
『―――あ、けどそういえば外出してよかったんスか? 警察逃げ込まれるかもしれませんよ?』
『ああ、そーいえばあのパシリって何か警察に追われてたんだっけ?』
『銀行強盗ね。全然そうは見えなかったけど、あんなんでもとりあえずその位はできるみたいで』
『ンなに簡単なのかにゃ? 銀行強盗って』
『やろうとさえ思えば方法なんていろいろあるでしょ。武器まで都合よくあったわけだし。まあそんなどうでもよさそうな事はいいとして。
―――こんなのでどう?』
『こんなん?』
『もし言いつけどおりちゃんと母さんから荷物を預かるんなら1分はかからないでしょ? だから今から数えて1分しても戻ってこなかったら逃亡したという事で攻撃スタート』
『それだけあったらとっくに警察に捕まってるんじゃないっスか?』
『捕まるにしても、僅か1分でパトカーに乗せて連れ去るっていうのは難しいと思うよ。メットをしたままの以上もしかしたら人質が代わりを務めさせられてるのかもしれない。犯人の目くらましと時間稼ぎにね。それに他の可能性も十二分にある。出頭してきたからって安易に連れて行っちゃ問題だよ。ただでさえ警察は何かと最近問題になってるからね』
『ふんふん。な〜るほど。けど攻撃って? 何やるん?』
『間の抜けた事に犯人はライフルを置いて行った。
―――試し撃ち、したくない?』
『したいしたい!!』
『けどいいんスか? 日本で撃ったら犯罪でしょ?』
『大丈夫。なにせこれを持ってるのは僕たちじゃないしね。それに僕たちは「人質」。それは全国の人が知ってるよ。
もし仮に僕たちがこの銃で犯人を撃ったとしても、それは「正当防衛」。人質が「抵抗」するのは十分ありえる事だし、犯人に抵抗しているうちに「事故」で犯人を撃つことも可能性として0じゃない』
『おお〜』
『さっすが不二! 屁理屈捏ねさせたら天下一品!!』
『誉められてるのかな・・・それ・・・?
で、話を戻すと1分したらまず1発。それ以降は10秒ごとに1発、順番に撃っていく。何発目で戻ってくるかな?』
『けどンなに弾あるんスか? それ単発式でしょ?』
『多分ないだろうね。あの犯人が余計に持ってるとは考え難い』
『んじゃダメじゃん』
『そんな事もないよ。そもそもこの銃の弾を使う気はないからね』
『んにゃ?』
『人のものを勝手に使ったらそれこそ犯罪だよ。しかも銃そのものはともかく弾は1回使い捨てだからね。弁償を要求されかねない』
『けど他に弾なんて―――』
『あるよ。幸いな事にこの銃の型、家のと同じだからね。弾のストックなら僕の部屋に1ダース・姉さんの部屋に1ダース。あと書斎に1ダース。姉さんの部屋は勝手に入ると怒られるから僕の部屋と書斎の分で合計2ダース、24発。単純に数えて1人8発は撃てるよ』
『なんでンなの持ってるわけ?』
『それこそ日本じゃ違法でしょ?』
『あれ? 越前君はともかく英二知らなかったっけ?』
『何を?』
『僕は―――というか父さんと姉さん、それに僕は銃のライセンス持ってるから。母さんや裕太ならともかく僕たちは別に弾持ってたところで合法だよ?』
『えええええ!!? 銃のライセンス!? すっげー!!!』
『相変わらずワケわかんないっスね、先輩って』
『う〜ん、そうかなあ? これはただの父さんの趣味だけど?』
『あり? けど不二、なんで裕太入ってないわけ?』
『裕太ならなんでも先輩のマネしそうですけどね』
『ああ、銃を始めたとき、僕が6歳、裕太が5歳だったんだけどね。
最初は裕太も一緒にやってたんだけど、僕がすぐ後ろに裕太がいる時撃っちゃったから。大きな音にビックリして気絶しちゃって。それ以来恐がっちゃって一緒にやってくれなくなったんだよね』
『そりゃ・・・やんないっしょ、もう・・・・・・』
『相変わらず裕太って気の毒っスね』
『残念だなあ。一緒に撃ちに行くのとか楽しみにしてたのに』
『こう言っちゃ何ですけど・・・・・・ヤな楽しみっスね』
『てか実はわざとやったっしょ、それ』
『そんな事ないよ。たまたま。偶然』
『説得力0・・・・・・』
『ちなみにじゃあもしかしてあそこに飾ってあるのって本物だったり?』
『少なくともモデルガンじゃないよ。姉さんと僕で毎日整備してるから、弾を込めればちゃんと撃てるよ』
『抜いてあるんスか? だったらいざって時使いにくくないスか?』
『「いざって時」はあんまりないからね。むしろ誰かが間違って撃っちゃったりとかした方が大変でしょ? 裕太とか裕太とか裕太とか―――』
『と、とりあえずそれはわかったから! んじゃそれでいくの?』
『いいんじゃないっスか?』
『・・・・・・・・・・・・。
じゃあそれで決定ね。ああ、最初僕撃っていい?』
『ええ〜!!! じゃんけんで決めようぜ!? 俺も早く撃ちたい!!』
『俺も最初がいいっス。ライフル撃った事ないし』
『「ライフルは」? もしかしておチビ他のならあんの?』
『拳銃くらいなら。アメリカで自衛用にって持たされてましたし。で、持ってんならちゃんと使いこなせるようにって練習させられましたし』
『い〜にゃ〜! い〜にゃ〜!! で!? 使い心地は!!?』
『別にテニスと同じっスよ。狙った方向に当たるようにするだけで』
『ふふ。越前君なら上手そうだよね』
『至近距離なら大体は当てられますよ』
『うん。けど、ライフルじゃどうかはわからないでしょ?』
『当てられますよ・・・!』
『まあそれは実験してみるとして。もし1発目で外して逃げられたらまずいでしょ? だから1発目で確実に移動不能にしなきゃ』
『つまり確実に当てよう、って事?』
『けどいきなり当たったらつまんなくないっスか?』
『1発目で膝頭打ち抜くくらいにしたら、まだ転がったリ手をばたばたさせたりとかはできるだろうからね。それを狙うんならいいでしょ? それなら適度に簡単で難しいよ』
『う〜ん・・・・・・』
『まあ・・・それならいいんじゃないっスか?』
『お〜っしおチビがそう言うんだったらそれで決定!』
『じゃあ僕は準備してるね』
『んじゃ俺達はカウントダウンでもしてよっか』
『そーっスね』
ごっじゅきゅっ・ごっじゅはっち・ごっじゅなっな・・・・・・・・・・・・
手拍子と共にお気楽に進んでいくカウントダウン。がくがくと震える犯人の前で、裕太と由美子が同時に頷いた。
「やるな」
「やるわね。周助なら確実に」
「菊丸さんも越前もぜってー本気だ」
びくうっ! と痙攣する犯人。それは気にせず裕太が呟いた。
「けど兄貴ってンな上手いのか? こんな所で撃って、外したらシャレにもなんねーだろ?」
「上手いわよ。周助が的外したところ私見た事ないもの。止まってるのも、動いてるのも」
「やっぱ天才か。テニスも銃も」
「どっちもあっさり父さん抜いたものね」
「うわあああああああ!!!!!」
2人の会話に、全力疾走で―――というか最早転がりつつ家の中に戻る犯人。それでも淑子から買い物袋を受け取る事を忘れなかった事は賞賛に値すると思う。
「・・・・・・また事件解決は失敗だな」
「いつになったら終わるのかしら?」
特に誰かに責任を求めている訳ではない。というか実のところ早期解決を期待しているわけですらない。
そんな、のんびりとした裕太と由美子の発言の後ろで、
警察の責任者たちはお互い責任を擦り付け合っていた・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
汗だくで(顔はわからないがそんな雰囲気で)戻ってきた犯人を見て、人質3人がつまらなさそうにため息をついた。
「な〜んだ、戻ってきちまったの? つまんね〜」
「惜しいね。あと18秒だったのに」
「そのくらいふんばってくれればいいのに」
「けど・・・・・・なんでわかったんだろうね?」
不満は他所にして英二が首を傾げた。この反応、どう考えても今までの話を聞かれたからと考えるのが普通だろう。でなければこんなに急いで戻ってくる理由もないわけで。
「ああ、多分由美子姉さんが警察に協力してるからじゃないかな? 珍しく」
そう言って笑った不二が、ライフルから自分の弾を抜き出す手を止め、リモコンを拾い上げた。
テレビの画面が切り替わり、ニュースが流れる。タイミングがいいようだが、大抵どのチャンネルでも緊急生放送をしているのだからさして不思議でもない。
「こんなん見てどうするんスか?」
そう呟いたリョーマの声が―――
やまびこのようにテレビから返って来る。
「え? え? え? どーいう事?」
テレビにかじりつく英二の声もまた、同じくテレビのスピーカーを通して返って来た。
不二が再びチャンネルを回した。ややこしいのでゲーム画面に戻し、解説する。
「英二には確か言ったよね? 家に盗聴器が仕掛けられてるって」
「うん。聞いた。じゃ、それが?」
「受信機は僕と姉さんが持ってるからね。警察に提出したみたいだね」
「盗聴器・・・?」
その単語の意味がわからなかったわけではないが、リョーマが不二に聞き返した。ついでにその後ろで犯人もあたふたする。先程は考えなかったが、よくよく考えたら中の会話が完全に筒抜けになっているではないか!
そんな犯人の都合などどうでもいいので、不二はにっこり笑ってリョーマに説明した。
「以前僕のファンだって言う子がどういうツテを辿ったのか『知り合い』に頼んで家のリビング・ダイニングキッチン・お風呂・それに僕と裕太の部屋に盗聴器仕掛けさせたらしくてね。
まあ受信機はすぐ回収したし、その子も2度とやらないって堅く誓ったから警察には突き出さなかったんだけど」
―――ちなみに余談だが、その受信機が現在なぜ2個あるのか。回収した時は1個だった。その少女が使っていただけなのだから当然だが。
答えは、それを誰が持つかで不二と由美子の奪い合いになったからだった。決着がつかず、仕方がないので同じ物をもう1つ作ったのだ。現在はその2つで、2人は思う存分楽しんでいる。
「また物好きにファンになられましたね、先輩」
「けどおかげでいろいろ役に立たせてるし。今とか含めて」
「役に? 何で?」
「あー訊くなおチビ!」
首を傾げるリョーマの口を後ろから塞ごうとする英二。が、既に遅かった。
不二の顔がだらしなくでれ〜っと溶ける―――英二に言わせると。
不二はにっこりと本当に嬉しそうに笑って、それこそ世の女性男性問わずほぼ全員を魅了する笑みで両方の指を絡ませた。
「あのねv それで姉さんと、その後帰って来た裕太の行動を逐一観察してみたのvv すっごく面白かったvv 特にお風呂場とかvvv」
「は・・・はあ・・・、そうっスか・・・・・・」
「だから言ったじゃん・・・・・・」
またもトリップ状態に入る不二に、リョーマが口だけで頷き英二が頭を抱えた。身内でもそれは立派なストーカー行為のようだが、それに関しては最早突っ込みも入れない。入れてもこの馬鹿兄が聞くわけはないだろう、と結論づけて。
「―――そういやさあ、なんでそれわかったわけ?」
英二が尋ねた。以前この話をしたときは、先程同様不二が途中で妄想状態に入り込んでしまい、うやむやのまま話が終わってしまったのだが。
「盗聴器が? それとも犯人が?」
「両方」
「盗聴器の方は簡単だよ。逆算すると仕掛けられた次の日だったけど、ちょうどその週末に父さんが久し振りに帰って来るっていうから、家族総出で大掃除したんだ。それでお風呂の見つけて」
「てことはけっこー簡単なトコだったの?」
「あるって思って探してみるとわりと。電話機の中とか、コンセント解体したらとか、ぬいぐるみのおなかの中とか」
「何処が簡単だったわけ? ていうか解体したわけ?」
「父さんがね。手先器用だから」
「・・・・・・。本気で何者? 不二のお父さんって」
「テニスと射撃が趣味で、いろいろ物を大切にする普通のお父さんだよ」
「・・・・・・・・・・・・いいけどさ」
「さすが不二先輩の身内だけありますね」
「確かに。
で? 犯人の方は?」
「発見した1週間後に自首してきた。どうしたんだろうね?」
首を傾げる不二。大体の予想がついて、英二とリョーマがそろってため息をついた。
「どうせ不二の事だから発見するだけして外さないで、その前でヘンなこと言ってたんでしょ。『可愛い裕太を今すぐたべたいな〜vv』とか」
からかいと呆れを足して2で割ったような口調でいう英二。リョーマもうんうんと頷く。
それに不二が苦笑した。
「そういう直接的な台詞は言ってないよ。ただ近親相姦の話になって、身内でsexする場合それは好奇心と愛情どちらが優るのか、って話を姉さんとしただけで」
「セックス・・・って、お前の方がよっぽどモロ単じゃん。ちなみに盛り上がらなかったでしょ、その話題」
「そうだね。『愛情』であっさり決着がついたよ。けどよくわかったね?」
「そりゃまあ大体・・・・・・」
「先輩の話聞いてれば・・・・・・」
「そういや前から疑問に思ってたんだけどさあ、不二って裕太抱いた事あんの? 逆でもいいけど」
英二が今までと全くテンションを変えずに訊いた。中学生と言えば嬉し恥ずかし思春期なワケで、そう言ったことにも興味がある―――から訊いたわけではない。
「ヤってんじゃないっスか? 先輩行動派だし」
「けどさあ、裕太溺愛でしょ? だったらヤってないんじゃないかな? 裕太純情そーだし。不二、裕太の嫌がることなら絶対やんないっしょ」
単純に疑問なのだ。不二なら今すぐやったところで不思議ではない。だがその割には言ってる台詞(というか感動ポイント)が異様にガキっぽい。
そんな英二の疑問を見抜いたか、苦笑して不二が答える。
「実はまだないんだよね。姉さんと狙ってたんだけど、おかげで物心ついた頃には警戒されてて」
「さすが不二家の人間。勘いいなあ」
「て言うか幾つから狙ってたんスか?」
「う〜ん、いつだろう? けど、こんな事になるなら物心つく前にやっとけば良かったか・・・」
「ムリだろそれは。2次性徴ってンなに早くないっしょ?」
「ああそうか」
笑顔で不二が頷いた。そのままほのぼのと会話が終わりかけ―――
「先輩、質問」
「何かな? 越前君」
「先輩のお姉さんってどういう人なんスか?」
「・・・・・・? なんでまた?」
「さっき『デート』って言ってたじゃないっスか。けどなんか話聞いてると先輩と同じで裕太溺愛みたいだし、しかも変態発言連発するし」
「変態・・・発言・・・・・・?」
「・・・・・・。今の発言する勇気あるの越前君くらいだと思うよ」
「そうっスか? 裕太がそう言ってたんスけど」
「うっわ〜。裕太も何気に命知らず?」
「まあ裕太の場合はそれが許されてるからね。そこらへんのヤツにでもされた日には姉さん本気で殺すだろうね。
―――ちなみに姉さんは『子ども好き』だよ。だから裕太が入るんだけどね。多分越前君も入ったんじゃないかな? その中に」
「ああ、何か気に入られたみたいっスね」
「へ〜年下好きなんだ〜。不二のお姉さん」
「年下、っていうとちょっと違うかな? 僕はその中に入ってないし。あ、英二はもちろん入ってるよ」
「うにゃ? ありがと〜v」
どこかにあるらしい盗聴器越しに由美子に伝える英二。
「けどじゃあそのラインってどこなんスか?」
「見てて可愛いかどうか、って感じじゃないかな? 実際姉さんが付き合うのは年上の人だし。
多分愛玩動物と同列なんだって思うよ。実際好きっていうより『や〜んv かわい〜v』って感じで」
「・・・・・・・・・・・・」
今まで与えられた情報を頭の中で整理する。ちなみにこの沈黙は別にいきなり口調をぶりぶりに変えてきた不二に対する拒絶反応だけではない強調しておくが。
「やっぱ謎っスね、不二先輩ん家って」
沈黙の後、リョーマはそう結論づけた。
「そうかなあ? けど上って下の子可愛がらない?」
「俺は一人っ子なんで」
「あれ? けど越前君の家って、従姉の方同居してるんじゃなかったっけ?」
「菜々姉はそんな変態っぽくはありませんよ。むしろクソ親父のセクハラの方が近いっスよ」
「あはは。やっぱり上が下に接する時って自然とそうなっちゃうんだね」
「・・・・・・。そうっスか?」
「そうかにゃ〜?」
英二もまた、リョーマに同意する。
「俺ん家はそんな事ないけど?」
「多分捕らえ方次第じゃないかな? 英二の抱きつきグセ、あれいつもお姉さんとかお兄さんとかにされてて自然についたんじゃない?」
「あ〜。言われてみればそーかも」
「でしょ?」
「まあ・・・・・・」
「確かに・・・・・・」
あっさり言いくるめられる2名。こうして2人のどこか間違ったような気がしないでもない常識がまた増えていく・・・・・・。
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銃のライセンス―――不二先輩なら持ってそーだ。なんて思って出来たネタ。しかし不二家・・・。本気で謎になってきたなあ・・・・・・。