Happy Endじゃ終わらせない!
Priceless Pride
〜プライドの価格〜
おまけ編。
「―――結局、アイツの親父は麻薬密輸その他諸々で逮捕されたそうだ。あれだけ証拠残ってたらな。あの別荘の設計から手がけたっつー時点で言い逃れしようがねえし。
逮捕の煽り受けて、隠れ蓑で作ってた普通の会社が揃って大打撃喰らったそうだ。そっちの損害と合わせて財産は完全没収だとよ。
娘が俺に近付いたのはただの偶然だが、知った母親は俺っつーかウチまで巻き込もうとしてたらしい。ずっと俺ん家いたからいいが、アイツん家行ったらロクな目にゃ遭わなかっただろーな。俺にクスリやらせてそれネタにして家脅迫するつもりだったんだろ」
「へー」
再びパーティーにて。『いろいろお疲れ様パーティー』などと名目付けられ招待状を押し付けられ、跡部と佐伯は今回もまたバイキング(誤)にいそしんでいた。
キャビアの乗った小さなクラッカーを一口で食べ解説する跡部に、ローストビーフを頬張りながら佐伯はおざなりな返事をしていた。後で聞けばいい話よりは年1回、正月にしか食べられないローストビーフに夢中になるのは無理もない事だ。
特に気にするでもなく(どちらかというとフォークを咥えたまま涙でも流しそうなほどに感激している佐伯の方が気になる)、跡部は隣にあったマカロニサラダを取った。今は食事初め。オードブルから攻める正統派と、とにかく食いたいものから食おうとする欲望追求派の差が良く出る食べ方である。
と―――
「そおかあ。それは大変だったなあ。きっと今でも大変なんだろおなあ」
佐伯がモロ棒読みで返してきた。うんうんうんうん大きく頷く彼。そして、
「うるさいわね! あなたには関係ないでしょ!?」
そばを通りかかった正装姿―――ただし召使いとしての―――の女性がいきなり叫んでくる。目を吊り上げこちらを見てくる女はもちろん、
「ああてめぇか」
「景吾君お久しぶり〜vv」
こけっ☆
どべしゃっ!!
「何やってんですかそこ使用人。料理ぶちまけて邪魔なんですけどー」
「あなたよくもやってくれたわね・・・・・・!!」
にやにや佐伯に見下ろされ、現れた折原香奈江嬢は忌々しげに歯軋りをしていた。
「さあ。何の事だか」
「しらばっくれないでよ! 大体あなた何でまだ生きてるのよ!! さっさと死になさいよくたばり損ないが!!」
「それはお前の事だろ? かつてのお嬢様が今では他人に仕えておこぼれもらって。哀れなモンだな。
ああ、こんな言っちゃ可哀想か。貧乏はお前のせいじゃないもんな。
おーよしよし。かわいそーになあ。びんぼーはつらいなあ。でもだいじょーぶだ。がんばってればいつかひかりはさしてくるんだよ。さああしたにむかってはしるんだー!!」
「アホな慰めいらないわよ!! 笑いたいんだったら指差して笑いなさいよ!!」
ぺしぺしと撫でていた佐伯の手を払いどけ啖呵を切る彼女。佐伯は払われた手を暫し見つめ、
言われたとおりにした。
「は〜っはっはっはっはっはっはっは!!!!!!
貧乏になってやんの!! 人に使われてやんの!! 人に媚びてやんの!! カッコ悪ー!! バカみてー!! ざまーみろっての!!!」
「うるさああああああああい!!!!!!! アンタなんか大っ嫌いよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
それだけ残し、彼女は走り去っていった。即座に誰かにぶつかり謝り走ってまたぶつかり謝り上司っぽい別の人に怒られぺこぺこ頭を下げて・・・といつまでも小さくならない後姿を即見飽き、跡部は横を向いた。なぜかクラシックでも聴き惚れているかのように目を閉じうっとりとする佐伯を。
30秒ほどして、キンキン声にやられた耳もようやく回復してきたところで佐伯が閉じていた目を開けた。
恍惚とした表情で、言う。
「やっぱいいなあ・・・。負け犬の遠吠えって・・・・・・」
「・・・・・・あーそーかよ。これでてめぇの復讐も終わった、ってか」
「まさか。これで1割半ってトコか」
「・・・・・・・・・・・・何やるつもりだよ残り8割5分」
即答され、げんなり呟く跡部。対する佐伯はいたずらっ子のような魅惑的な笑みを浮かべていた。
「同情はしないんだろ?」
「しねえな。だが―――」
跡部もまた、にやりと笑い。
佐伯の腰を抱き寄せた。
囁く。
「俺以外のヤツいつまでも考えてんのは気に食わねえ」
「俺がいつお前以外のヤツ考えた?」
にっこりと返され、跡部の方がたじろいだ。
ふっ・・・と目元の力を抜き、
「言ってくれんじゃねーの」
「お前と付き合うんだったらこのくらいはな」
「減らず口を」
「じゃあ減らしてくれよ」
人も大勢いる中で堂々と誘われ――――――もちろん跡部が引くわけはなかった。
熱いキスを交わし、
「ひゅーひゅー♪ 兄ちゃんたちやるねえ」
「あ、お久しぶりですコックさん」
何の因果だか今日もまた料理を担当していたかのコック。今日は前回よりもパーティーの規模が小さく、そのためか料理を取る台が1箇所に固まっていた。中で1人が盛り上がれば当然他の者も注目するワケで。
はやし立てるスタッフら一同の中で、コックのおっちゃんは豪快に笑っていた。
「いや〜若いってのはいいねー! いいモン見せてもらったよ。今日も残り持って帰んだろ? 今日は俺のサービスだ! 持ってけドロボー!!」
「わ〜いありがとうございますvv
―――あ、そうそう。さっきここいた子も持って帰るんですか?」
「あ〜・・・。まあソイツが欲しいって言えばな。残りモンなんて嫌だなんつーヤツも多いーからな、特に今時の若モンは。
んで? それがどーしたんだ?」
「出来ればでいいんですけど・・・分けてあげられませんかね。彼女、今身寄りもお金もなくって大変みたいなんですよ。それで慣れないバイトとか頑張っちゃって。元がお嬢様でなかなか人に頭下げるとか出来ない子なんですけど、それでも頑張ってますし・・・」
上辺だけを掬い取った美談に、感激屋らしいおっちゃんは早くもうるうるしていて、
「おっし任せろ! 俺は女房とガキで手一杯だがそん位は手ぇ貸してやるぜ。困った時はお互い様だ!」
「ありがとうございます! 彼女も喜ぶと思います」
「いや〜何々。軽いモンだっての。けどやっぱ兄ちゃんもいいヤツだなあ。ちゃあんと他の子にも気ぃ使ってやって。若モンもまだまだ捨てたモンじゃねえなあ」
「そんな事ないですよ。じゃあ、俺が後で彼女の分も渡しておきますよ」
「おう! 頼むな!」
「じゃあ、ご馳走様でした〜」
「毎度〜」
爽やかな笑みで離れていく佐伯。後からついていき、跡部は世にも怪訝そうな顔をした。
「・・・・・・どーしたよお前」
「ん?」
爽やかなまま佐伯が振り向く。胸元に差し入れた手を取り出した時、その笑みは完全に逆のものと化していた。
細長い、香水のような綺麗なビンを取り出し、
「不二家自家製のタレ。周ちゃんにもらったんだ。さって仕返し次の1割と行こうか。もちろんお前も協力してくれるよなv」
「・・・・・・やっぱそういう理由か」
予想通りの事態にため息をつく跡部。ちなみに『不二家自家製のタレ』は・・・・・・・・・・・・まあそういうものである。
そこで、丁度流れる曲が変わった。前回の再現をするように、ワルツへと。
佐伯が(タレは懐に戻し)手を差し伸べてきた。
「踊ろうぜ」
「誰が?」
「俺とお前が」
「おかしいだろ?」
「大丈夫だって。お前が踊っても男装の麗人に見えるから」
「俺はしっかり男だ!!」
大事なところはしっかり突っ込んでから、
跡部も差し出された手を取った。
∞ ∞ ∞ ∞ ∞
とっても綺麗にワルツを踊り上げた2人。このような場とはいえ実際ワルツを踊れる者は少ない。それもこんなに完璧には。
1曲踊り終わった頃には、会場中が2人に注目していた。
拍手喝采を浴び、次はぜひ自分と一曲という人が群がり・・・・・・
「あの、すみません。私と1曲踊っていただけませんか?」
「私とお願いします」
「いやいや君のような人にはぜひ私のような紳士と―――」
「私こそがお嬢さんに相応しい―――」
「俺は男だ!!!」
・・・・・・跡部は声が枯れるまでそう主張し続けるハメとなった。なお佐伯はもちろん、
「よっ! カッコいいですぞお嬢さんv 次もぜひ俺といかがです?」
「てめぇは俺に嫌がらせしてえのかああああああ!!!!!!!!!」
∞ ∞ ∞ ∞ ∞
なお・・・
「は〜・・・。日雇いなのにクビになるってどういう事かしら・・・。お客様に暴言吐いた、って私のせい? どう見てもあの男が煽ったんじゃないの・・・?
お給料も出なかったし、お腹空いた〜・・・・・・」
ホテル裏口からとぼとぼ出てくる折原嬢。俯いて歩く彼女の前に、誰かが立ち塞がった。
「よお」
「景吾君?」
「さっきは言いそびれちまったが、いろいろ大変そうだな。どうしてるか心配だったんだが、ちゃんとやってるみてえだな。
残りモンだけどよ、これでも食ってまた頑張れよ」
差し出された紙袋。中からはほんわりぷわ〜んと美味しそうな匂いが漂ってきて、
「じゃあな」
「あ・・・ありがとう景吾君!!」
それだけ言い残し去っていく跡部。嬉しさに胸を詰まらせつつ、彼女は頭を深く下げた。
頭を戻す。その目には、うっすら涙が浮かんでいた・・・。
∞ ∞ ∞ ∞ ∞
「―――これでいいのか佐伯」
「よーしよーしナイス芝居だ景吾。見ろ、完全に信じきってるぞ」
ちょっと離れた物陰にて。握り拳で今にも鼻歌でも歌いだしそうな程に機嫌のいい佐伯を、跡部は特に咎める事もなかった。ヘタに反論するとこちらまで敵と見なされる。
仕返し魔と化した佐伯ほど敵に回したくないものはない。ありとあらゆる手段で相手を不幸にする彼から逃れるのは至難の業。それに―――
(どーせアイツなら切り捨てても問題ねえだろ)
今後も付き合っていく人物なら考慮もするが、もう2度と関わりを持たないだろう相手を庇ってこちらまで不幸にさせられるのではたまったものではない。
「お♪ さっそく食う準備してるぞ。空腹はやっぱ強いなあ♪」
台詞の端々に音符が見える。とっても気分はノリノリだ。
跡部も(佐伯の上にのしかかり)一緒にこっそり見て、
「ぐっ・・・・・・!!」
「倒れたな」
「よし! 救急車発動!!」
「ああ? わざわざ呼ぶのか?」
「当ったり前だろ!?」
「・・・・・・どこがだ?」
「だって今連れて行かれたら3日は入院確実!! 気絶しっ放しな時点で拒否権はなし!! なのにアイツは金がないんだぞ!? しかも保険証もないんじゃないか?
病院で請求されて金が払えないこの寂しさ!! ただの店なら買わなきゃいいだけだろーがしっかり入院済み! しかも病院は『助けた』立場! 恩を仇で返されて病院側もさぞかし怒り狂うだろ〜なあ♪ あ〜楽しみだ〜♪
―――という事で、通報よろしく」
「俺が? 何でだ?」
「俺携帯壊した。お前の恋人が他の女とうつつ抜かしてるが大丈夫か、って心配メールが山ほど届いてな」
平然と言い切る佐伯。だがその耳は僅かに赤い。随分可愛らしい焼きもちだ。
のしかかったまま、跡部がぐりぐりと佐伯の頭を撫で繰り回した。
「わっ!!」
「可愛いじゃねえの佐伯よお」
慌て、佐伯が前に身を乗り出す。向こうからバレバレとなったが、その向こうは現在気絶中。計画続行には何の支障もなかった。
前に出た。おかげで物陰から飛び出て周りがよく見えるようになった。
・・・・・・真横にあった公衆電話まで。
「・・・・・・・・・・・・オイ」
「あー! こーしゅーでんわだー! びっくりー! こ〜んなところにあったんだ〜」
ごすっ!!
「てめぇがかけて来い!!」
「ちえっ」
殴られた頭を擦りながら、公衆電話に入っていく佐伯。見送り、跡部はふと首を傾げた。
「110番と119番って・・・・・・タダじゃねえのか?」
・・・・・・・・・・・・どうやら佐伯はそれすらも知らないほど、電話は使っていないらしかった。
∞ ∞ ∞ ∞ ∞
『不二家自家製のタレ』の威力は想像以上だった。特に、初体験の人にはとっても強く作用するらしかった。
5日の昏睡と5日の治療、合計10日の入院を終え折原嬢ついに退院!! ・・・・・・の場面で。
「はあ? お金持ってないい?」
「あ、あの・・・。本当に申し訳ありません・・・。こんなお世話になって何なんですけど、今何もない状態で・・・・・・」
「・・・・・・まあ、いきなり運ばれてくる人の中にはそういうケースもあるからね」
「本当にすみません。ちゃんと稼いで払いますのでどうか・・・!!」
「まあまあ。あなたもいろいろ大変なのよね。そんな頭下げないで。出来た時でいいわよ」
「ありがとうございます!!」
「素直な子ねえ。
じゃあ、名前わかるものあるかしら? 保険証なんか―――もちろんコピーでもいいわよ」
「すみません・・・。保険証、なくって・・・・・・」
「ああ。家にあるのね。なら取ってきてもらえれば―――」
「いえそうじゃなくって・・・・・・。お金払ってなくって取り消されちゃって・・・・・・」
「はあ!? そのくらい国民の義務でしょ!? しっかり払いなさいよ!!」
「本っ当ーに申し訳ありません!!」
∞ ∞ ∞ ∞ ∞
「はははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!! ウケる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
「そんなに笑っちゃよくないよ佐伯。病院の方は誠心誠意で患者に尽くしてんだから」
「てめぇの慰め方も相変わらずわかんねーなあ幸村」
「ありがとう」
「誉めてねえ」
現場から3mほど離れた座席にて。同病院に入院している幸村へのお見舞い―――を名目に毎日張っていた2人。ついに拝めた待望の場面に、佐伯は背もたれに顔を埋めて大爆笑していた。
「けど、見ものとしては面白いものだったな」
「ありがとうな幸村、協力してくれて」
「いや? ずっと入院も退屈だからね。こんなレクリエーションがあった方がずっといい」
「じゃあこれからもぜひ」
「何やらせるつもりだよてめぇは・・・・・・」
―――またまたおまけ編へ
まずはおまけその1。モロにHappy Endから続いていますのでBadから直で来られた方はわかりにくいかもしれませんが、跡部がしょっぱな数行で説明してくれたとおりの事が起こりました。
サエが最低人間ですねー。書いてる分にはスカッとして気持ちいいですが。やっぱ本編での折原嬢の邪魔ぶりを考えたらこの程度はしないと・・・・・・。
こんな感じでまだ続きま〜す。次は折原嬢の逆襲―――か?
2005.5.15