「いろいろよくもやってくれたわね佐伯君・・・!!
見てらっしゃい・・・!! この仕返しは絶対やってやるんだから〜・・・!!!」





Priceless Pride
          〜プライドの価格〜





またまたおまけ編。


 佐伯がバイトする―――もとい駄賃つきでお手伝いする海の家で。
 「佐伯ー。こっち来てくれ。今日新人入ったからよ」
 「はーい」
 店長に呼ばれ、佐伯はとてとてとそちらに向かった。
 「こちらが、今日からバイトしてくれる折原君だ。折原君、こっちがウチ1番のヤツで佐伯だ。年はまだガキだが働きぶりは大したモンだ。それに教えもいいって大評判だ特に女子にな。しっかり教わってくれよ?」
 「はい。よろしくおねがいします佐伯さんv」
 「ああ。こっちこそよろしく。折原さん」
 にこにこ笑う、佐伯と・・・・・・折原香奈江嬢。ばちばち火花が飛ぶが、幸い店長はそれに気付かなかった。
 「じゃ、後は任せたぜ佐伯」
 「わかりましたー」





 2人っきりになり、
 「よろしくね、佐伯君」
 「こっちこそよろしくな。折原」
 ふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・・と2人はどす黒く微笑み合った。







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 復讐に燃える者というのは、ヘタな目標を掲げた者より上達が早いものだ。元々頭はそう悪くはないからでもあるだろう。早くも仕事を覚えた折原嬢は、見込みのあるバイトとして店長や他のバイト員に慕われていった。狙いどおりに。
 (ふふふふふふ・・・。覚悟するのね佐伯君。今の地位から引きずり落としてあげるわ。もちろん景吾君の恋人の地位からもね・・・・・・)
 そして、ついにそのチャンスはやってきた。







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 2人の出勤日が重ならなかったある日。共にほとんど毎日出ているため重ならない日は珍しい。
 店をまだ開いていない朝、折原嬢が攻撃を仕掛けた。刺激的な肩出しキャミで化粧もしっかりし、こちらは色気0(彼女視点)のTシャツハーパンエプロン姿で準備に取り掛かる佐伯に近付いく。
 「佐伯君・・・」
 「どうした折原? お前今日バイト休みだろ? 忘れ物か?」
 「今・・・いいかしら?」
 「ん〜・・・? 話くらいだったらいいけど〜・・・?」
 すぱたたたたたたたたたたたん!!!
 のんびりした口調と裏腹に、手早く料理の仕込みをしていく佐伯。慣れた手さばきで材料を切り分けていく彼の背後に立ち、
 「佐伯君!」
 すかっ!
 べしゃ。
 「・・・・・・昔きゅうりパックはいいなんて流行ったけど、肌から直接ビタミンCの補給はムリだと思うぞ。しかもキャベツとなればなおさらな」
 「・・・・・・・・・・・・。私もそう思うわ」
 抱き締め失敗避けられキャベツに埋もれた顔を起こし、折原嬢は改めて話題を切り出した。
 「あのね佐伯君、驚かずに聞いてほしいの」
 「いやムリ。お前の存在全体にびっくりだからな」
 「どういう意味よ!?」
 再び改めて。
 「あのね佐伯君。私―――あなたがすきなの!!」
 「『隙』? 隙だらけはお前だって」
 「そうじゃなくって!!」
 「ああ『数奇』か。七転八倒人生はやっぱお前だろ」
 「だから!!
  ―――私あなたを愛してるの佐伯君」
 「可哀想に。ついに頭までイカれたか」
 「なんで心底同情するのよ!? ちょっとは喜びなさいよあなたに告白したのよ!?」
 「告白なら裁判所でじっくり聞くぞ?」
 「・・・お願い冗談にならないから止めてそのネタは」
 「本気だからな」
 「もうイヤこの人・・・・・・」
 「告白7秒で別れか。おめでとう。最短記録だな」
 「じゃなくって!!」
 もう何度目になるのか改めて。落ち込みたくてたまらない気分を無理やり上昇させ、折原嬢はどんな男もイチコロの上目遣いで佐伯に体を摺り寄せた。今度は大丈夫だ。狭い厨房でもう避けるスペースはない。
 佐伯もそれを悟ったのだろう。ようやっと真面目な様子で話を先に進めてくれた。
 「それで? 告白って? お前景吾に迫ってたんじゃないのか?」
 「確かに私は以前景吾君に取り入ろうとしてたわ。そのためにあなたにも散々ケンカを売った」
 「今回もその延長、と」
 「(無視)でも気付いたの! 私はあなたがずっと好きだったのよ! だからあなたが景吾君ばっかり見ていたのに焼きもちやいて、引き離してやろうって景吾君に近付いてたの!」
 「前半部と後半部で綺麗に矛盾してるけど、そこは突っ込まない方がいいか?」
 これまた無視し、折原嬢は佐伯の手を両手で握って持ち上げた。
 「愛してるわ佐伯君。あなたのために、私身も心も全てを捧げるわ!」
 男にとっては心をくすぐられる言葉。これで墜ちない男はいない!
 彼女の企みは、読んでわかるとおりかつて跡部にというか佐伯にというか仕掛けたものと同じだった。『エセ彼女になって別れさせよう大作戦☆』。考える事がワンパターンなのは・・・まあ所詮その程度の頭の持ち主だというだけの話なのだが、
 ―――実はこれを佐伯に仕掛けるのは、跡部へとはまた違う意味を持っている。
 (ふふっ。そろそろ他のバイトの子も来るわね。さあこっ酷く振りなさい。時代は常に女性の、そして振られた側の味方よ!!)
 勝利を確信した折原嬢。ではあったが・・・・・・
 「は〜ん・・・」
 聞こえた何かを、佐伯は小指で耳をほじりながら
10割聞き流した。厨房でやるには汚い行為だが、その前に顔面から食材に突っ込んだ馬鹿がいるおかげで特に影響はなかった。今後食材に触れる時はしっかり手を洗うし、材料もまた洗うから大丈夫だろう。
 見下ろす。握られ胸の谷間に押し付けられ―――かけた手。包丁を握りっ放しだったおかげで回避できた。
 もう少し見上げる。包丁を・・・もとい彼女を。どうしてもそこに焦点が合い、うるうるお目目の彼女はぼんやりとしか見えなかった。
 彼女の企みなどお見通しだ。背中を向ける彼女は気付いていないだろうが、確かに店には他のバイト員が来ていた。修羅場と見て取り何も声をかけず同情的に見やるだけだが。
 心の中で、にや〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと笑った。どうやって遊んであげようかと思考を張り巡らせていたが、わざわざ彼女の方がその舞台を用意してくれるとは。
 確認を取る・・・・・・振りをしてそのバイト員に事情説明。
 「俺を愛してる? 俺のためなら全て捧げる?」
 「ええ、そうよ」
 はっきり頷く彼女。後ろではバイト員が十字を切っていた。彼はキリスト教徒ではなかったはずだが、まあ気分だろう。
 「そうか。じゃあ―――





  ――――――明日のバイト代わってくれ」





 「え・・・・・・?」
 「明日景吾が1日ヒマなんだよな〜♪ 会いに行こうかと思ったけど終わってからじゃ夜だけになるし、誰か代わってくれる人探してたんだよな〜♪
  ありがとうな折原v お前いいヤツだなvv」
 「あ、あの・・・」
 「んじゃさっそく、シフト書き換えておくなvv」
 「待ってよ!! なんで代わってあげなきゃいけないのよ!! 私だって休みたいわよ!!」
 「は? 何で? 全て捧げるんだろ俺のために? 休み捧げろよ俺のために」
 「それは! あくまで身とか心とかその辺りの事よ!!」
 「だから。『身』として労働力捧げてくれ」
 「イヤよ!!」
 「そうか。けど折原、明日は来たほうがいいぞ?」
 「は!? 誰が!!」
 「お前はまだ新人で知らないだろうが、俺は去年バイト始めて売上数倍に増やしたご褒美に『準店長』の位貰ってたりするんだよな。シフトの書き換えは自由に許されてる。
  というワケで、明日はちゃんと来いよ? 来ないと無断欠勤扱いだ。新人がいきなりそれはマズいよなあ。クビの対象だよなあ」
 「そ、そんな・・・!」
 「あ、それともう1つ。電車賃貸してくれ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「全部捧げるんだよな? 金ももちろんその中に含まれてるよな?」
 「あの・・・私もないんだけど、お金・・・・・・」
 「大丈夫だ。その位なら1日フルで働けば取り戻せるv バイト料から差っ引いておくなv そんじゃ。
  ―――ああ、お前ヒマならついでに仕込みやっといてくれ。のんびり話してるおかげで準備遅れてるしな」
 「ちょっと待ってよ佐伯く〜〜〜ん!!!」
 手を伸ばしても既に遅し。どこからどう抜け出たか、佐伯は折原嬢に包丁を握らせそのまま厨房を出て行ってしまった。途中ですれ違ったバイト員に軽く挨拶などしながら。
 「オーッス折原。朝から何か大変だったな」
 入ってきたバイト員に、さっそく食いかかる。
 「ねえちょっと今の酷いと思わない!?」
 口調ほど怒ってはいない。ああせいぜい持たされた包丁を振り回したい程度だ。
 ポイントはここからだった。来たこのバイト員は今の光景をしっかり見ていた。泣きつけば彼はこちらに同情してくれる。そのまま話を広げていけば、ゆくゆくは従業員全員が佐伯の敵となるワケだ。疎外される辛さを思い知るがいい!!
 が、
 そのバイト員は、なぜか随分消極的だった。警戒するように手を伸ばして間隔を取り、半端な笑みを浮かべている。
 「まあ・・・・・・。アイツのこの程度の言動なら普通だから。犬に噛まれたとでも思って諦めた方がいいぜ? な?」
 「はあ!!??」







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 その後、他のバイト員や客も似たような反応だった。どころか・・・
 「あら振られたの? おめでとうv」
 「サエ君にそう易々近付かないでくれない?」
 「次そんな真似したら―――どうなるか、もちろんわかってるよなあ? ああ?」
 この店1番の佐伯。1番なのは実力でもあり人気でもあり。店長が惚れ込みがっちり掴み取るため準店長などという位まで与えたほどの彼に、たかが『ちょっと上達の早い可愛い子』程度の彼女が太刀打ち出来るはずもない。
 逆に悪者扱いされ総攻撃を受ける彼女を今回も陰から見守り・・・・・・





 「俺っていいヤツだよな・・・」
 「は? どこがだ?」
 「彼女が苛められないようにちゃんと振ってやったぞ。本来なら中途半端に優しくしてやって集団リンチに追い込んでやるところなのに」
 「・・・・・・・・・・・・。ああ、確かにそうするな。お前なら」(←
注:皮肉です)
 「だろ? なのにやらなかった。そこに俺の人としての優しさとか見て取れるだろ?」(←
しっかり流されたようですが)
 「どーせコレも利用してさらに苛めるんだろ?」
 「当たり前だろ?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。コイツが人気なワケがわかんねえよ」
 満足げに口笛を吹く佐伯に、否バイト員―――こちらも駄賃つき手伝いの黒羽は、本当に不思議そうに首を傾げていた。







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 次の日。早朝からいそいそと仕度し出かけようとした佐伯の携帯へ、店長から連絡が入った。携帯といえば少し前に壁にぶつけ壊していたが、アレはかなり初期の物件。かろうじてメールは使えるが送受信できる文字数は2桁。カメラなど当然のようになく、写メールは一度
Webページに保存されたものを見るのが精一杯だ。それも白黒。絵文字ももちろんなく、着メロは和音不可。機能そのものにさして不満はなかったが、充電池がそろそろ古くなっているらしく10日に1度から8日に1度になってきていた。その辺りを跡部に説いたところ、「買い換えろ今すぐ」と即座に言われたため今回彼の私用のものとお揃いにしてみた。跡部が別に最新型に拘らないため、1昔前の新品を0円で購入できた。跡部には携帯の代わりに壁のへこみを埋めるコンクリを買ってもらった。これで次は彼女でも埋めるか・・・などという短絡的な事は考えていない。
 「はいもしもし」
 『佐伯か? 悪りいが今日バイト来てくれねーか?』
 「ええ〜? また何で」
 『あの新入り、ちったあ見込みあるかと思ったらさっそく無断欠勤なんぞしてきやがった』
 「ああ折原ですか? やっぱ見る目ないですよ店長」
 自分がそう仕組んだクセしてしれっと言い切る佐伯。どうやら彼の演技力は、死ぬ時のみならず嘘をつく時全般にあるようだ。
 『ああほんっと〜にそう思うぜ。アイツクビ決定だな』
 実のところ、佐伯はシフト表を一切書き換えていなかった。当たり前だ。ほとんど毎日出るヤツに2日連打で休みがあるワケがない。夏しかやらない短期バイトとなれば尚更。
 折原嬢はむしろ佐伯と交換していれば2日連打で休みだったのだ。ところがああいう話の持っていき方をしたおかげで、明日も自分は休みだと思い込んだ。まだ本当に書き換えられその上で休んだならば『代わった』佐伯にも責任は行っただろう。彼女もその辺りを狙ったのだろうが・・・・・・。
 (甘い甘い。人の話は鵜呑みにするなよ)
 所詮は小さな個人経営の店。店長のご機嫌が取れるか否かでクビは決まる。しかもこの辺りの地域は住民同士の仲がいい。海の家の従業員らもまた同じ。噂が広がれば、彼女はこの一帯では働けなくなるだろう。村八分状態。金もないため移動は出来ない。
 あくまで佐伯が苛めさせなかった理由。それだと彼女が被害者になる。そうすると彼女に同情しようなどという稀有な輩が現れるからだ。
 今回に関しては、彼女は完全に加害者。騙されたと言うかもしれないが証拠は一切ない。黒羽は聞いてはいたが、自分は決して嘘は言わなかった。どころか明日はちゃんと来いと再三忠告してやった。無視した彼女の責任だ。
 (完璧だな・・・)
 ほくそ笑む佐伯に、何も知らない店長の言葉が続いた。
 『な? だからそういう事で頼むよ佐伯v』
 「ダメですよ。俺久しぶりの休みなんですから」
 『あー愛しの恋人んトコ通うんだろ? そりゃよ〜くわかってる。
  けどよ、な? 俺とお前の仲じゃねえか』
 「ならむしろ休みにして下さいよ」
 『冷てーなあお前。泣くぞ?』
 「泣いてくださいぜひともv」
 『さ〜え〜き〜〜〜〜〜〜〜!!!!!』
 「・・・わかりました。ちゃんと行きますから」
 『ホントか!?』
 「ええ。代わりに今日の分は時給に
100円プラスしておいてくださいねv」
 『お前がめつ・・・』
 「さって東京行ってこよ〜かな〜」
 『わかった!! 呑む!! それに残った材料お前にやるから!!』
 「ホントですか!?」
 『・・・・・・はあ。何か今日赤字決定だな』
 「じゃ、今から行きますので」
 『は〜や〜く〜し〜て〜く〜れ〜〜〜!!!』
 ぷちりと切り、携帯を見下ろす。
 今度はメールを送った。もちろん跡部へと。





 ≪悪い。今日行けなくなった。





  だからお前が来てくれ≫





 と・・・・・・。







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 「んで、今日もバイトだと」
 「いい感じの取引だった。ありがとう新入り。お前の屍は大事に踏みつけてやるから安心して眠れ」
 「新入りは大切にしてやれよ? 仮にも仲間じゃねえのか?」
 「ちゃんとやるヤツならもちろん大事にするぞ? 俺の教育はいいって評判なんだからな? それについて来れない向こうが悪い」
 「・・・いーけどな。まあ」
 客席にてボヤく跡部。その前に注文した焼きそばが置かれた――――――やたらと少ない。
 「おい佐伯、盛り方間違ってねえか?」
 「それで大丈夫だ」
 「あん? どこがだよ。この量でその値段じゃぼったくりじゃねえか」
 「何せ俺が持って帰るためにはなるべく余らせないとな」
 「ほお・・・・・・」
 つまり自分は佐伯の幸せへの踏み台2号となった、と。
 口端を引きつらせて頷き、跡部はさっそく1口食べた。食べ、
 「オイ」
 「何?」
 ―――そのまま佐伯にキスをした。周りからやんややんやとはやし立てられる。
 きょとんとする佐伯を前に、にやりと笑った。
 「俺の分を今てめぇが食った。つまりてめぇの分を俺が食っても良し、っつー事だな? さっさと用意しやがれ」
 最初はわからなかった佐伯も、それを聞きやれやれと苦笑する。
 「やられたね。じゃ、俺も一休みしよっかな」
 言うだけ言って厨房に戻る佐伯。出て来た時、持っていた皿には特盛りの焼きそばが乗っていた。
 跡部がそこから極少しか盛られていない自分の皿へと移―――さず、逆に自分の皿からそちらへと移した。こっちの方が簡単だからそうしただけなのだが、同じ皿からずるずる口元へ麺を持っていく2人はさしずめ1つのグラスにストローを2本差して飲み合うバカップルv 実際やると片方損するハメになりそうなのだが、見る分にはいろいろ掻き立てられて面白いものだ。
 2人の仲はバイト(こっちは本物)、客らに公認である。去年売上を数倍に伸ばしたという佐伯。彼は自分と跡部を客寄せパンダとして利用した。何せどこの店でも似た値段で似たようなものしか出ない海の家。となれば後はその他のオプション勝負だろう。最初はごく普通に店員として働く、女性狙いのサービスだったのだが、相手が声をかけられべたべた触られたりする度焼きもちを焼きそれ相応の対応を取っていたところ、なぜか違う理由で男女共にウケるようになったのだ。
 今回ももちろんみんな見た。食事そっちのけで、自分が多く食べれるよう早食い対決をする2人を。折原嬢は今日休んでよかったかもしれない。こんな2人を見せられたらさぞかしショックだろう。
 「おー跡部。久しぶりじゃねーか」
 「ああ店長、お久しぶりです。佐伯がお世話になってます」
 「ああ本当だよ」
 ・・・ありきたりな常套句でこう返されるヤツも珍しいだろう。2人でうんうん頷いている間にも、当事者佐伯はもちろん焼きそばをずるずるすすり続けていた。
 と―――
 「景吾君vvv」
 声と共に、跡部の後ろで風が巻き起こった・・・・・・ので跡部はイスを引き脇に避けた。今度はべしゃりと焼きそばに顔を埋める女を見下ろし、
 「・・・・・・焼きそばは食って体内で活用すんならともかく顔にかけてもパックにゃなんねえだろ」
 「違うわよ!!」
 がばりと身を起こした彼女。それはもちろん―――
 「―――誰だ?」
 「忘れないで景吾君お願いだから!!」
 「いやその焼きそばまみれで判断しろって言われてもなあ」
 「あ、そ、そう・・・?」
 こしこしと顔の汚れを拭き落とす彼女。化粧も落ち、だんだん素顔が露わになり―――。
 「・・・・・・余計に誰だ?」
 「ちゃんと見たでしょ素顔も!?」
 「あー!! テメー新入り!! 何勝手にサボってるかと思えばお客様の邪魔した上に散らかしやがって!! テメーはクビだ!!」
 「あああああああ!!! そんな〜!! 店長〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
  ていうか景吾く〜ん!! なんで私に対する認知度が店長以下!?」
 「・・・・・・・・・・・・。ああよーやっとわかった。てめぇアレか。けたたましかった女」
 「聞いて驚け景吾。何とコイツここでバイトしてたんだよな。でもってさっきっから話に出てた『自分勝手で使えない馬鹿新人』がコイツ」
 「なるほどな。どっかの誰かを彷彿させるたあ思ってたが、やっぱ性格に問題ありか」
 「そんなあ・・・」
 「ちなみにお前さ、確か昨日俺にコクってなかったっけ?」
 「あ、そ、それは・・・・・・」
 「ああ? 佐伯にコクった? しかも俺と二股ってか? ざけんな。俺はそういう付き合いは嫌いだ」
 「ああ・・・・・・」
 「いや〜残念だったなあ折原。つまみ食いはダメだぞ☆
  ―――だからこの焼きそばの代金もよろしく」
 「は・・・?」
 「食っただろ? 今。しっかりと」
 「横に捨てた分も入れろよ? 買って落としたから代金返せなんつークレームは即行拒否だろ?」
 「あああああああああ・・・・・・・・・・・・」
 「ちょっとあんたサエ君に続いて跡部君までアプローチかけたワケ!?」
 「信じらんなーい!!」
 「許せない!!」
 「やっちまおーぜ!!」
 「ああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 その後、折原嬢は集団リンチを喰らった上バイトはクビになり地域全体からはじき出された。
 それでも―――
 「うふふふふふふふふ!!!!!! 次こそ絶対思い知らせてあげるわよ!! 覚悟しなさい!!!!!!」
 そんな誓いが立てられる時点で、意外と彼女は元気だったようだ。



―――しつこくおまけ編











 やっべ。何か書いてて楽しくなってきたわ折原嬢。この全く報われなさ振りが・・・・・・。
 そういえば話に出てきた携帯。私のものと父のものを足して2で割った辺りです。最近流行りの『使いやすい携帯』ではなく単純にそんな技術がなかったからメール機能のないしかも単音な父の携帯・・・。いったいいつの物件なんだろう・・・? とりあえずそれよりは新しくメール機能はついている私のはそろそろ5年目ですね。機種変しようよお互い・・・。なお
14歳のサエがなんでそんな古い携帯を持っているのか。どうやら小5で引っ越した時購入したようですね。なにせそうしないと幼馴染とも連絡が・・・・・・。

2005.5.15