線上にての価値 〜You want to Bet?〜
2―――
「・・・で?」
不機嫌絶好調でリョーガが尋ねた。散々担がれ千葉から東京まで連れてこられたのだ。怒って当然だろう。
「そう怒んなよ」
反対に、くっくっくと笑う『主』・・・・・・もう面倒なので『跡部』と断言していいだろうか?
「怒るに決まってんだろーが!! いいか!? アイツん家は9時になると完全にカギかけられちまうんだぞ!? そーしたらどう入ろうが見つかった上不法侵入扱い喰らうんだぞ!?」
不法侵入。―――だからといって警察に突き出されるのではない。それならどんなにいい事か。
あの一家は情け無用が流儀らしい。反省を促しもう2度とそんな事はやらせないという意味を込め、優し〜く九分殺しのメに遭う。
「その辺りはよ〜〜〜〜〜〜く知ってるからいい。今日は家に泊めてやる。何にしても今からじゃヘリでも飛ばさない限り間に合わねえよ」
「飛ばしてくれ」
「アホか」
「きゃ〜〜〜〜〜〜!!! ゆーかい〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「ここで叫ぶとな、
―――声が届くのは不二家と佐伯家実家だ」
「・・・・・・すいません静かにします今夜一晩かくまってください」
「多分それが一番マシだろーな」
重々しく頷く跡部。人生に疲れた者同士のシンパシーが生まれた。
「・・・で?」
話は最初に戻る。
「まさか君がこんな犯罪に走るとはねえ、跡部クン」
「別に犯罪じゃねえだろ? ただ誘っただけだ」
「んじゃさっきの俺らのやり取り、警察に届けてもオッケー、と?」
絨毯にあぐらを掻き(余談だが跡部家は洋風の造りをしているクセに住居人が日本人だからか、入り口で靴を脱ぐシステムになっている。こうしていても別に汚くはない)リョーガが鞄からがさごそ出したのはポータブルMD。録音機能もマイクもしっかりついている。
それを一瞥し、
跡部はわざとらしく視線を横にやった。こちらはソファにちょこんと腰をかけた佐伯の父親、圭助へと。
居合わせた相手として意見を求められ、圭助は相変わらずの笑みで答えを下した。
「残念ながらそれは証拠品としては使えないな。俺はただお前に来てくれって頼んだだけだ。来るって選んだのはお前だろ?」
「途中で物騒なやり取りがあったけどな」
「惜しい。せめて掠ってれば傷害罪で訴えられたのに」
「・・・・・・ところであの芸当ってやっぱ・・・」
「香那に教わったんだ」
「やっぱそれでか・・・」
告げられたのは―――予想通り彼の妻、即ち佐伯の母だった。
左腕を見下ろす。直接傷こそつかなかったが、こうして明かりにさらしてみると着ていた服がボロボロに引き裂かれていた。避けたつもりだったが、やはり夜目に高速で動くピアノ線は完全には見切れなかった(逆に圭助は夜道のグラサンでなぜここまで正確に狙えたのか不思議でたまらないが)。
(でもって伝授したヤツがヤツだしな・・・・・・)
よくよく考えよう。ピアノ線での攻撃。やるとしたら普通絞めるものだ(もちろん引っ掛けてコケさせるトラップとしても有効)。
―――どちらにせよ高速で振り回して触れたものを切り裂くなどという使用法はしない。というか出来ない。
「ついでにお前は知らないだろうけど、仕事人の他に俺たちの世代だとスケ●ン刑事も流行った」
「イヤあれも攻撃はヨーヨー部分でやるモンであって紐はやっぱ絞めるためにあんだろ」
「つーかてめぇも詳しいな・・・」
「こっちも知ってるモンでさ。でもそういう指摘が来るって事は、やっぱ君も知ってんだ・・・・・・」
「ヤだなこういう共通点っつーのも・・・・・・・・・・・・」
後ろ向きな話題終了。
「コレがあながち嘘じゃねえ・・・となったら?」
「エセ誘拐騒動が?」
跡部の纏う雰囲気が変わった。茶化すこちらにも乗らず、はっきり言う。
「てめぇと佐伯の事がバレてる。探しに乗り出してるヤツがいる」
予想してない・・・事ではなかった。桜吹雪とは組んで7・8年。自分の存在は裏では結構有名だ。桜吹雪逮捕の一件は、国内国外関わらず少し調べればわかるはずだ。―――組んでいた筈の『少年』は捕まってはいない事も。あの事故で死んだか・・・・・・あるいはのうのうとどこかで生活しているか。
船にいた客ら。大抵は日本で拾った新規のヤツだが、一部は旧知の仲だ。もちろん直接仲良くはしていないが。
賭けテニスフリークの彼ら。何人かは参加するだけではなく自ら主催もする側だろう。
自分が桜吹雪の元から離れた。次誰に付くかは興味溢れるところだろう。あわよくば自分が手に入れられないかと。
さらに佐伯までいたのなら完璧だ。桜吹雪のような『馬鹿者』でない限り気付いた筈だ。佐伯が自分のアキレス腱だと。
ただし1つ、佐伯について調べるのは難しい。自分ですら偶然当たっただけだ。それを意図していたワケではないが、佐伯を普通に探そうとしても『平凡なプレイヤーその1』でふるい落とされてしまう。そもそも彼を(自分もだが)見て、即座に中学生だと思えた人は少ないだろう。一緒にいたダブルスメンバーが高校生なおかげで多分そちらが張られる。
今このままでいれば、今回彼らが仕組んだような―――もとい仕組んだのは跡部1人だったか―――事を思いつく輩も出てくる。
(さってそれを避けるならば〜・・・・・・)
「出てくか」
結論はあっさり下された。見つかるとしたら自分が先。そしてイモヅル式に佐伯も見つかる。
(あんま、アイツ巻き込みたくねえしな・・・・・・)
連れて来られる前、圭助に向け言った台詞に嘘偽りはない。自分はただ慣れた世界に戻るだけだ。やってけない事もないだろう。だが佐伯なら? あんな世界に連れて行かれ、彼はどうなってしまうのだろう。獣としての本能が目覚めるかもしれない。ただ壊れて終わるだけかもしれない。どちらにせよ―――
(もうアイツの笑顔は見らんねえだろーな・・・・・・・・・・・・)
自分が消えれば、佐伯への手がかりは失われる。時間稼ぎかもしれないが、それでも暫くは平穏となるだろう。
(何だったら、それこそ俺が行くっつー手もあるしな)
戻りたいとは思わない。それでも・・・
・・・・・・佐伯のためならそれも構わない。
(アイツだって、やっと幸せになれた―――幸せだってわかったんだろ・・・・・・?)
元の暮らしに戻る。いい事じゃないか。
きっと自分はウイルスのような存在なのだろう。勝手に入り込み、宿主を病へと追い込む厄介者。追い出してしまえばまた元通り。
「出てくのか? 家から」
尋ねてきたのは圭助だった。
「まあな。アイツ巻き込んじまったら悪りいだろ? それに―――
―――アンタだって自分の息子は大事だろ?」
だからこそこんな茶番に協力したのだろうに。家に行き紹介された時「息子がもう一人出来たみたいで嬉しいよ」とは言っていたが、それでも本物に比べれば扱いは下がるだろう。その上原因がこちらにあるとなれば、『親』の判断としては実に正しいものだ。
小さく笑う。別に恨んでいたりなどはしない。佐伯がこういう温かい家で育ってよかった、ただそれだけを思う。
そんなリョーガに、圭助もまた小さく笑った。詭弁返しをした時と同じ笑みで。
「大事だな。とても大事だと思う。だからお前もとても大事だ。―――こう言うと越前さんに悪いかもしれないけど」
「え・・・?」
「言っただろ? 『息子がもう一人出来たみたいで嬉しいよ』って。
虎次郎から聞いたかもしれないけど、俺たちにはもう1人娘がいる」
「ああ、佐伯の双子の姉貴だとか何とか」
「そう。その娘はずっと遠くにいる。5歳の時からだから、もうかれこれ10年か。会うのは親戚に会うのと同じ程度の頻度だ。それでも俺たちは真斗を―――娘を家族の一員だと思ってる」
「そりゃ血だって繋がってんだしな。家族だろ」
断言して―――ふいに思う。ではウチではどうなのだろう、と。
実際離れたのはここ数ヶ月。リョーマの中学入学と母の仕事の都合で日本に帰って以来だ。だが心の上で別れたのはいつだろう。ふらっといなくなって、やはりふらっと帰ってきても、心配どころか「どこ行ってたの」の一言もなかった。ただ普通に送り出され迎え入れられそれだけ。少しは心配されたかったから、あんな世界に入ったのかもしれない。
ぼーっとそんな事を考えている間にも、圭助の話が続いた。
「離れて暮らす血縁者が『家族』なら、共に暮らす赤の他人が『家族』でも別にいいじゃないか。血が繋がってるなんていうけど、輸血中でもない限り直接は繋がらないんだから」
ぷっと噴き出す。さすが佐伯の父親。屁理屈詭弁は大得意だ。
(まあ確かに・・・いいのかもな)
「んで?」
「ん?」
笑いながら首を傾げる圭助に、リョーガもにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「俺も大事なんだろ? んじゃ佐伯同様守ってくれ。『お父さん』」
リョーガお得意の―――見下しおねだり。非常に相手を侮辱する行為のため、特殊思考というか嗜好の持ち主でない限り大抵誰でも引く。引かないのはそのテの相手かあるいは・・・
圭助がソファから立ち上がった。リョーガの肩に手を置き、
「頑張れv」
「・・・・・・・・・・・・まあこの辺りのノリは佐伯で散々ならされたからいいけどよ」
「それは冗談として」
「ほんっと〜〜〜〜〜〜に、冗談なのか?」
「もちろん。決まってるだろ?」
「うお・・・・・・。信用できる要素が1コも見つかんねえ・・・・・・」
そんなリョーガの呟きは、当然の如く無視された。
「お前と虎次郎の事は景吾君から聞いたよ。しかも彼は打開策まで考えてくれたという」
「なるほどなあ。だから『主』か」
実はさりげに謎だった。なぜこの2人で跡部の方が『上』になるのか。
佐伯の父というと非常にプライドが高そうだが、どちらかというとヘタレ万歳である。誰にでもという事でもないが、自分が他者の下になる事にさして抵抗は持たない。
不思議なのは跡部の方だった。会って即座に判明したがこの男はとことんプライドが高い。絶対他者の下にはならない―――と思いきや実は違う。上下関係とは別に、単純に年上をたてる。初対面時、同い年だとわかるまで敬語で話しかけられたほどだ。
幼馴染の父親。金や役職での接点がない以上常識的にこちらをたてるべきだろうに・・・・・・。
―――答えがそれだったようだ。息子2人を助けてくれるのならばそちらが必然的に『上』だろう。
「というワケで、俺の役目は終わったから後は頑張れ。それじゃ」
「ちょちょちょっと待ってくれ!! これで終わりって、俺連れてきただけか!?」
「それとお前の意志確認、と。他人の前でならともかく、まさか『親』に出任せは言わないだろ? だとしたら虎次郎はやれないな」
にっこりと―――ああ本当に息子とそっくりに笑われ、リョーガが赤い顔でくしゃりと髪を掻き上げた。最初に声をかけられた時、見も知らない他人だと割り切ってとんでもない事を言ったような気がする。
「そういう『家族』か・・・・・・」
「だからお前もためらいなく『お義父さん』って呼んでいいからなv 真斗がダメダメなおかげで半ば諦めてたんだけど、まさかあの恋愛にとことん淡白だった虎次郎がお相手を見つけるとは」
「アンタいい性格してるぜホント・・・・・・」
呆れ返る。普段は妻と息子(自分除く)のキャラクターの強さに押されかなり平凡にしか見えないこの男。しかしながら、彼も立派に佐伯家の一員だったようだ。
(離れた双子の姉貴って・・・・・・まさか生存競争に負けたのか?)
生まれる、ちょっとした希望。だとしたらぜひとも仲良くなりたいものだ。佐伯家基準の『ダメダメ』ならさぞかし一般基準に則しているのだろう。
「じゃあ後は任せるよ、景吾君」
「ええ。じゃあ今後コイツは見ず知らずの他人、って事で」
「・・・は?」
「出てくんだろ?」
間の抜けたリョーガへと、跡部がさらりと言う。
「安心しろ。偽造パスポートもビザも請け負ってやる。何でか俺にはそういう知り合いが多いからな」
「・・・マジで何でそういうルート普通に持ってんだか訊きてえんだけどその前に、
―――俺は普通に日本に入国した!! パスポートもしっかりあるしビザも普通に取れんだよ!!」
「・・・・・・。そうだったのか?」
「だから何で佐伯にしろ君にしろ俺密入国者にしてえワケ? 一度その辺りじっくり話し合わねえ?」
「ちなみにそういう知り合いが多いのは俺を誘拐するヤツの一員にそういうのがいたからだが」
「・・・・・・念のため言っとくけど、俺は別に桜吹雪のおっさんに誘拐されてたんじゃねえからな?」
「なるほどな。越前家にまず誘拐された、と」
「実の親子だ!!」
突っ込むだけ突っ込み―――リョーガが首を傾げた。
圭助の方を見て、
「『それじゃ』って、帰んのか? 家に?」
「他にどこへ行けと?」
「だって今帰ったら9時過ぎんだろ? 入れねえだろ? 家の前で一晩明かすってか?」
「まさか。俺が帰るとちゃんと入れてくれるさ」
「俺も一緒に連れてってくれ」
「断る。絶対入れてくれなくなるから」
「は〜あ。何だこの扱いの差・・・」
ため息をつくリョーガに圭助が楽しそうに笑う。明後日の方など向き、目を細めつつ。
「たとえどんなに遅くなろうと、お土産を買い門前で呼びかけると入れてくれる。ごく普通に。遅くなった理由すら訊かれない。よっぽど信頼されてるのかそれとも見放されてるのか。顔さえ見れば全てバレる位俺は嘘がヘタなのか浮気するほど根性があるとは思われてないのか。つくづく疑問だよ。
お前はどう思う? リョーガ」
(どう思うも何も・・・)
とっくに答えはわかっているのだろうに。リョーガは苦笑いした。自分が越前家ではなく佐伯家に転がり込んだ理由は詳しくは言っていない。だが、
(親心は同じ親がわかる、ってか・・・・・・。俺もまだまだだぜ)
苦笑いしたまま言う。間違いなく当たってはいる答えを。
「そりゃ土産が目当てだからだろ」
「ははっ。じゃあ今日は奮発してケーキでも買うか」
「・・・・・・いつも何買ってんだ?」
「1本50円の串カツとか焼き鳥とか、半額になったお惣菜とかパンとか」
「・・・・・・・・・・・・すげー奮発振りだな」
「その日のうちに売り切らないとマズいだろ? きっと安くなってる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たまには普通のモン買おうぜ?」
「それじゃ怪しまれるだろ?」
はははははと笑いながら去っていく佐伯家家長。扉が閉まるまで首を捻って見送り、
跡部とリョーガは同時に呟いた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。確かにな』
意思疎通が図られたところで、
跡部が話題を戻した。
「んで?」
「何が?」
「出てくんだろ? どこへだ?」
「・・・・・・出てく事前提?」
「てめぇが出てくっつったんじゃねえか。それとも口先だけだってか? ああ?
んな半端な覚悟じゃ先は見えてんな」
「君は手を貸さない、と」
「ったりめーだ」
頷く跡部に、リョーガはにやにや笑った。彼は『半端な覚悟』ではないという事か。
自分に危険が降り注ぐなら、自分に手を貸す跡部にも同じものが降りかかる恐れは常にある。いやそれ以上か。本人は努めて意識しないようにしているようだが、彼が世界に名高い跡部財閥の総帥息子である事実は変えられない。僅かな挙動の変化も周りは見逃してはくれない―――ように頑張っている。今のところ跡部親子の圧勝のようだが。おかげでこんな誘拐まがいで犯罪者スレスレをかくまっても誰にも気付かれない。
ちらりと後ろに視線を送る。圭助と入れ違いに入ってきた人物。跡部に似ているがさらに精神的に成熟した印象と、こんな会話中に遠慮なく堂々と入ってくる様からすると・・・・・・などと推測するまでもなく、閉め切る寸前の扉向こうで佐伯父との間になされた挨拶からすると、彼が跡部父というか総帥本人だろう。
(息子のワガママは容認。ただし直接は動かねえってか。そういや桜吹雪ン時も親経由で圧力かけてたんだっけな)
自分の中に天秤を描く。跡部の手を、借りるか借りないか。自分はどちらと判断するのが正解か。
(手を借りる。借りれんのは金と人脈。ある程度金はあるから良し。人脈があんのは―――同時に情報が洩れやすい)
誰が自分を狙うかわからない。マフィアのボスだのそういった、いかにも怪しいヤツばかりではない。むしろそれらは少ないか。なにせ・・・
(『金持ちの道楽』だからな。賭けテニスっつーのは)
金持ちならば、必然的に金持ちの知り合いが多くなる。その中にいるかもしれない。自分を欲しがるヤツは。
天秤が動いた。≪手を借りない≫の方に。
クッと笑う。単純な理由でだ。人は信用するものではない―――そう、桜吹雪のところで散々に教え込まれた。
跡部は現在一番の危険人物だ。自分の事も佐伯の事もよく知っている。周りからの信頼も十分にある。金持ちに知り合いが多く、故にディーラーとして勝負を持ち掛けやすい。
―――エセ誘拐騒動を、一番『本当』にしやすい人物だ。
肩を竦め、リョーガは笑った。
「とりあえずアメリカ行くか。あっちの方がまだ情報入って来やすいだろ? 後はそれ次第ってトコか」
「無計画極まりねえな」
「生憎と。元から風来坊でね、俺は」
「佐伯のために、か」
「そう押し付けがましい言い方すんなよな。アイツプライド高いんだからよ。
んじゃ、まあ世話になった・・・のか?」
よくわからない挨拶をして出て行こうとするリョーガ。目の前で、扉がばたんと閉まった。
「・・・で?」
ここに来て3度目の呟き。今度は扉をばたんと閉めた跡部父・狂介へと向けられた。
「今から出て行くのは危険だよ? セキュリティーが作動してしまった」
「止めろよさっさと!!」
「残念ながら朝まで止まらないんだ。止めるスイッチをこの間景吾君と虎次郎君が壊してしまった」
「またアイツかよ!!」
「つーか壊したのは佐伯だけだろ!?」
「君を追い出すために壊したのなら君も立派に共犯だよ」
「どーいう理屈だ!!」
「そんなワケで、悪いけど今晩は泊まってくれないかい? もちろん最上のもてなしを約束するよ。代わりに出て行くなら弓の的になる事位は覚悟しておいてくれ。琴美も景吾君も最近弓道が好きでね」
「手動!? セキュリティーじゃねえよその時点で!!」
「クッ。まあせいぜい逃げ惑えよリョーガ。ちなみに不二家に逃げ込むと由美子の謎の呪術が待ってる。佐伯家に逃げると〜・・・まあ解説の必要はねえだろ?」
「何だよこの危険地帯は!?」
「まあ頑張って生き残ってくれ」
「日常からサバイバルかよ!?」
・ ・ ・ ・ ・
そんなワケで、強制的に『手を貸される』事になった。もうヤケクソ気味に晩飯を食い風呂に入り世話になりまくり、再びあの書斎っぽい謎の部屋へと向かい・・・
「千石クン、不二クン。それに・・・チビ助まで?」
「やっ、リョーガくん」
「久しぶりだね」
「アンタこんなトコで何やってんの?」
「そりゃむしろお前に聞きてえよ・・・」
めいめいソファに座りくつろぐ3人に、リョーガは呆然と呟いた。
後ろから、跡部が入ってくる。
「後腐れなく問題を解決するため一芝居打つ事にした。だが俺が動くと目立つ。跡部財閥が関わってんのかと思われると何かと不便だ。
そこでコイツらに手伝わせる事にした」
「『手伝ってもらう』じゃなくてあくまで『手伝わせる』なんだ」
「嫌なら下りていいぜ?」
茶化す千石に、意外とあっさり跡部は引いた。妙なものだ。そういう事を言うと、他の2人はともかくリョーマは本当に下りてしまう。
(まさか、ンな事もわかんねーで恋人なんてやってるワケじゃねえだろーし)
そんなリョーガの心配は、
あっさりと無駄になった。次の跡部の一言で。
跡部がにやりと笑った。わざとらしく一拍溜めを作り、
「佐伯のヤツに一泡吹かせてやりてえと思わねえ?」
『乗った』
見事なまでの三部合唱。言っちゃ悪いが・・・
(人望ねえなあ佐伯・・・・・・)
そういえばあの船でも言っていたか。「俺を味方だと思ってるヤツなんてあの中に1人もいないぜ?」と。とっても納得できる光景だった。
「んじゃ説明するな」
跡部の説明が始まり・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
次の日。「ただいま〜」とドアを開けるとそこに佐伯がいた。
「リョー・・・ガ・・・・・・」
ずっとここで待っていたらしい。それも起きて。
規則正しい生活を送っているからこそたった一晩の徹夜で出来るクマに、リョーガは改めて愛しさを憶えた。圭助の言葉を逆に辿るなら、信頼されていないからこそたった一晩無断外泊しただけでここまで心配されるのだろう。
わかっていて。だからこそ。
―――守ってやりたい、大切にしてやりたいと思った。
今すぐは無理でも、いつの日か、本当の信頼を得られるように。
そのために―――
(切り離す)
「ああ佐伯、さっそくだけどよ、
――――――今日で出てくわ、俺」
「え・・・・・・?」
さらっと言った言葉に、佐伯は赤緑の目(こう書くと不気味だ)をぱちくりと瞬きさせた。
「だから、今日限りで俺はここを出てく。そんなワケで荷物取りに来た」
「何で、また・・・?
何か不満な点でもあったか?」
「・・・・・・この家での生活に不満持たねえ方が珍しいだろーよ」
ついつい本音がぽろりと出た。夜電気がつかない。朝の洗顔と歯磨きは近くの公園でやれ。生活全般が命がけ。
・・・・・・これで馴染める人の方がむしろ知りたい。
「つー事だから」
立ち尽くす佐伯の脇を通り抜け、リョーガは中へと入っていった。元々少ない荷物をテニスバッグの中に詰めていく。
後ろからついてきていた佐伯は、表面だけに笑顔を貼り付け普段より高いトーンでまくし立てていた。
「で、でもさ、ホラちゃんと家だし。雨風しのげるし、あったかい手料理とかも食べられるし。
ああ、もうちょっと豪勢な生活がしてみたい? ならバイト費巻上げは8割から7割に落としていいからさ。
だから、な? 考え直せよリョーガ」
などなど言う佐伯を完全に無視し、玄関へと戻ってくる。
最後にくるりと振り向き。
「今まで世話になったな、佐伯。ありがとな」
「リョー、ガ・・・・・・」
「じゃあな」
「リョーガ!」
立ち去る背中へ手が伸ばされる。
結局その手は、空を切って終わった・・・・・・。
―――3前へ
・ ・ ・ ・ ・
凄まじくくだらないこだわりとして佐伯父こと圭助の一人称。敬語のときは『私』。妻含め他人、同等の立場と話す時は『僕』。息子と話す時は『俺』。これに合わせて口調もフランクになったり。
・・・妻相手に『俺』と言えない圭助氏。確かに『ヘタレ万歳』だ・・・・・・。なお『俺』で話す時が、佐伯(爽やか時)と同じ口調そうだなあ。
そしていよいよ別れました2人! さあ! これから2人はどうなるのか!? そして跡部の立てた作戦とは!?
2005.5.9〜6.11